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薙ぐ木刀

遅れました~

 とある中二病を拗らせた偉人が言った。

 『深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ』と。


 今の俺の状況は、きっとそんなような感じなのだろう。

 決して、因果応報や言い出しっぺのなんたら的な、そのような『ざまぁ』的なモノではないはずだ。


 

「頼みやすぜえ、英雄のダンナ」

「支援魔法を重ね掛けしておくから安心してくれ陣内君」

「陣内先輩、魅せてくださいね。ボッチの凄さをっ! ――ぶふっ!」


「霧島てめえ、吹き出してんじゃねえよ!」


 色々(わっちゃわっちゃ)とあったが、俺が魔石地雷を撤去することとなった。

 確かにガレオスさん達の言うように、この地雷撤去役として俺は適任かもしれない。正確に言うならば『木刀』が、だが。

 

――くそっ、

 まさか俺に回ってくるとは……でも、普通にやれる気がすんだよな、

 この木刀となら……



 予感ではなく、確信めいたものがあった。


 この世界樹の木刀は、この前の魔王との戦いで力を示した。

 誰も払うことが出来なかった黒い靄のようなモノを、取り除くかのように払っていったのだ。


 この木刀は、ああいったモノには滅法強い。

 堅い物を切り裂けるような物理的な鋭さはないが、形を持たないモノを切り裂き、そして消し去ることが出来る。


 それは霊体タイプの魔物であったり。

 それは迫りくる強力な攻撃魔法であったり。

 それは行く手を遮る強固な結界であったり。

 

 世界樹の木刀は、それらの全てを穿ち消し去ってきた。

 そして今回も――。


「「「「おおおおお!?」」」」

「…………」


 芝を刈るように横へと木刀を薙いだ。

 特に勢いをつけた訳でなく、肩の力を抜いたリラックスしたスイングで。 

 

「凄いな、僕の解除魔法とかもう必要ないだろ……」


 木刀が薙いだ範囲はせいぜい1メートル半程度。

 だが、立ち昇った黒い霧の範囲は4メートルを超えていた。

 それはまるで、目に見えない力場でもあるかのように、木刀から距離のある魔石地雷が消えていった。


 たった一振りで、直径4メートルを超える範囲の、魔石地雷が霧散して消えていったのだ。


 ( 木刀が俺の意志に従っているようだな…… )


「よし、行こう陣内君。僕が聖剣の結界で君を守るよ」

「……」


「すまない……、確かに今までの事を思うと、信用してもらえないかもしれない。けど、それでも信じて欲しい」


 無言で訝しむ俺の視線に、椎名は爽やかな苦笑いを浮かべそう言ってきた。

 その椎名の表情は、俺が女だったらちょっとキュンとしてしまう甘いモノ。

 だが俺は野郎なので当然通用しない。


 ( ラティからの合図は無しか…… )


 俺はこっそりとラティを見ていた。

 もし椎名の言葉に(害意)があるならば、彼女がそれを教えてくれるはず。

 

「……わかった、一応信用するぜ椎名」

「ありがとう陣内君。じゃあ行こうか。――咲き誇れ! 守護聖剣ディフェンダー”ファランクス改!”」


 舞い散る花吹雪のように、六角形の結界が無数に展開する。

 俺はそれに護られながら、地雷撤去作業へと向かった。





        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

  

 


「……そろそろ来るかな?」

「だろうな」


 俺は椎名と短い会話を交わす。

 視線を上げた先には、杖を構えた後衛らしき者が並んでいるのが見えた。

 黒獣隊との距離はまだ80メートル以上。

 

 サリオ曰く、攻撃魔法は意外と射程が短いらしいとのこと。

 イカっ腹(サリオ)が得意としている”炎の斧”も、射程は50メートルぐらいが限界らしく、それ以上離れた場所に放つというのは、指先だけで重い斧を振るような感覚らしい。

 

 種類によっては遠くまで届くらしいのだが、その遠くまで届くタイプとは、基本的に降り注ぐ系のモノばかり。火の雨や、放物線の軌道を描く系。


 そして今、それらが地雷原の対岸から放たれた。

 黒炎を纏った塊を飛ばす炎系魔法”闇飛び弾”が、一斉に俺へと殺到する。

 仮に狙いが多少逸れたとしても、地雷原にそれが着弾すれば、俺たちはその誘爆に巻き込まれるだろう。


 俺は木刀を構え、やってくる”闇飛び弾”に備えたのだが。


「させないよ、いけ! 結界たち!!」


 椎名の声に従い、六角形の結界が動き出した。

 砲丸投げの鉄球のように飛来してきた”闇飛び弾”が、椎名の結界によって全て阻まれ弾かれた。


 離れた場所で火柱などが上がる。

 黒獣隊は即座に次弾を放ったが、その次弾も全て椎名は弾く。


――ああ、そうか、

 椎名は【予眼】があるから、こんな攻撃はなんてことないのか、



 放物線を描いてくる攻撃魔法は、【予眼】持ちの椎名には全く通用しなかった。

 結界を動かし先回りし、放たれた攻撃魔法を全て迎撃する。

 しかし相手も馬鹿ではない、すぐに放つモノを切り替えてきた。


 橘が好んで使うWS、弓系範囲WSスターレインが放たれたのだ。

 ”闇飛び弾”よりも高い軌道で放たれるそれは、一度弾けてしまえば、雨のように降り注ぐWS。


 威力が高い訳ではないが、地雷に囲まれた状態ではとても危険なWSだ。

 相手は間違いなくこれを狙っていたはず。だが――。


「――甘いっ!!」


 なんと椎名は、己の結界を足場にして空へと駆け上がった。

 結界だけではWS(スターレイン)を防ぎ切れないと思ったのか、弾ける前のスターレインを――。


「片手剣WS”グラットン”!」


 漆黒の斬撃が、スターレインを消し去るように飲み込んだ。

 そして椎名は、そのまま空に浮かぶ六角形の結界へと降り立った、

  

 これには敵側どころか味方からも声があがる。

 

「陣内君、守りは僕に任せてくれ。だから……」

「ああ、んじゃ任せたぜ」


 俺は頭上の椎名にそう返し、地雷撤去に集中する。


 ひたすら薙ぎ進み、地雷原の対岸まで後20メートル程までに迫った。

 しかしこの距離になると、相手の妨害も激しくなった。

 ただ直進型の放出系WSは、手前の魔石地雷に反応してしまう為か黒獣隊はそれを使わずに、降り注ぐ系のモノや、ナブラなどの出現系のWSを使用してきた。


 さすがに勇者である椎名を狙うような攻撃は少なかったが、俺に対しては猛烈にそれらが襲ってきた。


 その猛攻に、聖剣の結界だけでは限界となってきた。自分だけではなく俺も守り続ける椎名。

 さすがに手数が追い付かなくなってきたが――。


「げ!? 下がれ下がれ!」

「おいっ、押すなよ!」

「なんで誰も見てなかったんだよ!?」

「クソッ! ヤツら姿を隠してやがったんだよ」


 俺を追い返そうと集まっていた黒獣隊に、魔法で姿を隠して接近していた三雲と橘が、同時にWS(スターレイン)を放ったのだ。


 咄嗟にその攻撃範囲外へと退こうとする黒獣隊。

 一方的に攻撃する状況から、突然襲われたことにより、隊の陣形が崩れた。

 

「援護頼む!!」


 俺はラストスパートを駆ける。

 そして残り20メートルの地雷原を排除し、車が二台並んで通れそうな道を作りあげた。


「攪乱を頼む!」

「了解してラジャ!」

「任せろッス」

「行くがぜよ!」

「先行します!」


 ここで一気に、【天翔】持ちの迅盾組が飛び出した。

 ラティやオッド達が敵陣へと切り込み、その速度を生かして攪乱していく。

  

「続け続けぇえ!」

「盾持ちも前に! 何人かは後衛の守りに」


 俺たちは一気に地雷原の対岸へと雪崩込んだ。

 実は俺たちは、アゼルや兵士たち、それとこちらに寝返った冒険者たちを囮に使っていた。


 アゼル達を使い、こちらは地雷原の前で待機しているように見せ、突入組は魔法で姿を隠し、俺と椎名から少し離れた後方についていたのだ。


 椎名の聖剣による結界は、俺だけでなく、その隠れている者たちも庇っていた。

 そして防ぎ切るのが厳しい距離となったら、範囲系WSで薙ぎ払い、一気に雪崩れ込む作戦だったのだ。


 俺たちは相手にそれを悟られる事なく、それを成功させたのだった。

 この奇襲には、高レベルと言えど完全に虚を突かれた形となり、一気にこちらが押す流れとなった。


 迅盾の動きに慣れている訳もなく、完全に翻弄され浮足立つ黒獣隊。そもそも、迅盾と対峙することなど無いのだから仕方のない事だろう。


 そしてここで更に追い打ちを掛ける。


「プランB!!」


 レプソルさんの合図と共に、迅盾組が一気に退く。

 相手にしてみれば、ちょこまかと動いている者が退いたので、陣形をなんとか立て直そうとしたが――。


「うぉ!?」

「なんだ!? いきなり真っ暗に!?」

「違うっ! あのデカいアカリが消えたんだ!」

「くそっ! 邪魔だどけ!」


 サリオはレプソルさんの合図で、自身の作り出した超巨大”アカリ”を消したのだ。


 事前にそれを知っていたこちらとは違い、それを全く予想していなかった黒獣隊は再び虚を突かれ、暗闇の中で混乱した。


 当然この機を逃さず、赤城は超広範囲拘束系魔法”奇跡だけの完全結晶(アザレアガーデン)を唱える。

 半数以上の者が、光る白い花に絡め捕らわれていく。


 そして残りの者も、今度は柊の奇跡だけの完全結晶(アザレアガーデン)に捕らわれていく。


 辛うじて難を逃れたのは10名程度。

 勘が良いのか、それとも運が良かっただけなのか、その残った者を捕らえるか倒すかしようとした――その時。


「――んあ!?」

「うほ!? 何だ? 何があった?」


 凄まじい轟音が鳴り響いた。

 誰もがその轟音のする方へと視線を向け、そして固まった。

 

「あ……あれは魔物?」


 誰かがそう呟いた。

 そして再び響く激しい轟音。


 体の崩れかかっている人型の魔物が倒れ、その倒れた魔物に反応して地雷が起爆したのだ。

 その爆炎のようなモノが立ち昇る中、巨大な人型が湧き出す(・・・・)ように姿を現した。


「お、おい、まさかアレって……」

「マジかよ……ここは地上だぞ? 地下迷宮ダンジョンじゃねえんだぞ?」


 次々と湧き出す巨大な魔物たち。

 その光景は、ある現象に非常によく似ていた。それは――。


「おい、ふざけんなっ! なんで魔石魔物が地上に湧いてんだよ!」


 悲鳴染みた声が上がる。

 そう魔石魔物が、魔石地雷を核にして次々と湧いていくのであった。

  

読んで頂きありがとうございます。

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