魔石地雷
アゼルについて分かった事があった。
アゼルは有能と無能を同時に抱える者であった。
それは勇者下元と似たモノだった。
いま思うと、前に会った時もそうだったのかもしれない。
そして今は、横に居るのがコイツだから拙いのだと分かる、副官のように横に張り付いている黒髪の騎士が原因なのだと……。
打ち上げ小山の後、アゼルを色々と問い詰めようとした時、彼女と同じように薄汚れた鎧を着た兵士たちが多数やって来た。
次々とアゼルに報告をしていく兵士たち、それを聞いたアゼルは次々と指示を飛ばし、それが終わると今度はこちらに報告をしてきた。
その姿は、先程とは違い品性を感じさせる雰囲気を醸し出しており、薄汚れている格好すらも、何故か様になっているように見えた。
本当に面白いと感じさせるモノだった。
周りにいる部下によって、彼女の能力が変わったように感じたのだから。
そして驚くことに、実際に変わっていた。先程のように、みっともなく狼狽えていた様子が一切なくなり、急にテキパキとしだしたのだ。
アゼルは兵士たちを後ろに従わせたまま、現在の状況や、今後の対策など様々なことを語り始めた。
まず黒い兵士たちだが、奴らはここ最近呼び寄せられた者たちで、平均レベルが80を超えた猛者揃い。旧黒獣隊を軸に作られた部隊らしく、完全にフユイシ側の者だそうだ。
そしてその隊の隊長はなんと勇者荒木。
その為、勇者の威光を利用した説得は通用しないだろうとアゼルは言った。
次に、先程の地雷のような物の説明。
あれはフユイシ伯爵の指示により作られた物で、凄まじい数が生産されたのだという。
しかし、出来上がったモノは兵器としては欠陥品だったのだと。
魔石を集めて様々な加工を施し、何百回という実験を行ったそうだが、安定した運用が出来なかったそうだ。
どうやら獲れた魔石には、把握の出来ない違いがあるらしく、全く同じ加工をしたとしても、発生する現象に大きな違いがあったのだという。
それは先程のような、小山を打ち上げた火柱が上がるようなモノもあれば、大量の水が湧き出すモノも、中には周囲の空間を持っていくという危険なモノまであるそうだ。
しかも厄介な事に、発動させるまでどんな効果があるか判らないのだという。
要は、火薬の量と種類が分からない手榴弾のようなモノ。しかも、起爆までの時間が不明という致命的な欠陥品。
実験では恐ろしい事に、何人もの人が亡くなったそうだ。
当然そんな危険なモノは破棄されたはずだが、現在それが目の前の広場に散らばっている危険性があるのだという。
それと別の問題では、少数の者がこのボレアスの街から出たという事。
深夜なのに街から出たことから、まず間違いなく援軍を呼びに行ったのだろうと判断し、その援軍は、最速なら四日後には到着するだろうとアゼルは言った。
もうボレアスの街を押さえたのだから、仮に援軍が到着したとしても、最終的に負けることはない。だがしかし、被害は間違いなく大きくなるだろう。
勇者を盾として使えば、寝返らせる事が可能かもしれないが、そこまで勇者を利用すると、今度はそれが勇者保護法違反となる恐れがある。
今回の遠征も、北のダンジョンの調査という建前と、勇者早乙女が監禁されているかもしれないから動いたのだ。
これ以上の行為は、勇者たちを政治的な問題に利用するに引っ掛かってしまう。
多分、葉月や言葉は快く手伝ってくれるかもしれないが、ボレアス公爵となったドライゼンが非難されてしまうのだ。
だから夜が明ける前に、全て決着をつけたいところだが……。
「こりゃあ参ったな~、芝に隠れて見え難いですが……確かにありやすねぇ」
「がれおすさん、それ以上近づくとドッカンするやの」
「なるほど。欠陥を補う為に、起爆させるモノを別に用意したってことかい?」
「にしし、そういう事やの」
「なんか雷管みたいだな……」
欠陥品である、魔石地雷の使用方法が判明した。
合流したららんさん曰く、人が近づくと起爆する魔石を用意することで、欠陥品である魔石を、対人地雷のように使用出来るのだと話した。
二つをセットで並べる事で、暴発することを減らしたのだと。
そう、減らしたのだ。
ゼロではなく減らした程度。
よく見渡してみると、何ヶ所か暴発したであろう跡が刻まれていた。
正門の警備に就いていた者の証言によれば、館で働いている使用人がウロウロしていたので、きっとその危険な作業は、館で働いている使用人がやらされたのだろうと判断した。
そして兵士たちの何人かが、消えていく瞬間を見た者がいたそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
膠着状態が続いていた。
正門は制圧出来たのだが、そこから先は進めなくなっていた。
正門からボレアス公爵の館までは約200メートルほど、その正門から館までの間には、手入れの行き届いた芝生の生えた庭が広がっている。
馬車の通る道もあるが、当然魔石地雷が仕掛けられているだろう。
そして迂回しようにも、ボレアス公爵の敷地を囲う堀は裏側に回るほど広く深くなっていたのだ。
柊の魔法で、氷の道を使って上を行く事が出来ない訳でも無いが、その際のリスクが高過ぎた。氷の道の強度はそこまで高い訳ではないので、魔法や遠隔攻撃で破壊されると、上を通っている者が落ちてしまうのだ。
仮に何とか辿り着いたとしても、そこが地雷原でない保証はない。
当然、【天翔】持ちによる空からの単独突破も同じ事となる。
「――くそっ、どうしたらいいんだ。魔法で薙ぎ払うってのマズイんだよな?」
「規模がハッキリと分からんからの~。数が多いから連鎖的に誘爆してとんでもない事になる危険性があるのう」
ららんさんの見立てでは、まとめて魔石地雷を爆発させると、この辺り一帯が吹き飛ぶ危険性があるらしい。
相手が全員敵であれば、ボレアス公爵の館ごと吹き飛ばすのもありなのだが、館で働いている者や、保護対象の早乙女やミレイがいる。
当然その余波で、街に被害が出るかもしれない。
どうしたら良いかと、少々行き詰った時――俺は閃いた。
「そうだっ、いい案がある! 八十神を歩かせよう。コイツを使って地雷を撤去すればいいんだ」
何時の世も”閃き”とは、立ち塞がる難題を閃光のように切り裂くモノだ。
俺のこの閃きによって、この停滞した状況が――。
「あ~~じんないさん? それなんやけど多分マズイかもや。置かれている魔石なんやけど、その中に魔力を吸い取るのが混ざってん。だからそのズルイ鎧の効果が消え去るかもしれへんのや」
「へ? 消え去る?」
「えっと、だからのう――」
ららんさんの説明はこうだった。
ばら撒かれた魔石地雷の中には、”持っていく”性質のモノが交ざっているらしく、その持っていくとは、周囲にあるモノを消滅させるよう取り込んでしまう現象だそうだ。
それは空間だったり、物体だったり、そして魔力であったり。
あらゆる衝撃を過去に飛ばす【ウルドの鎧】といえど付加魔法品。
宿っている魔力が無くなればその効果は失われる。
1~2発なら問題はないが、それ以上となってくると危険だそうだ。
「あれか、解除魔法みたいなモンか? ……あれ? ららんさん、何で魔力を吸う魔石地雷があるって分かるの? 確か判別が出来ないとか聞いていたけど……」
「おや? ダンナは知らなかったのですかい?」
「ほへ? ジンナイ様、知らなかったのですのです?」
「へ? 何を? え、サリオも知っているって!?」
「いや、嗤う彫金師ららんは【真鑑】持ちだってことを知らなかったんですかい?
【鑑定】じゃ読み切れないモンでも【鑑定】ことが出来るんですぜ? 解りやすく言うとハーティの【隠蔽】ですら看破しやすぜぇ?」
「えっへんっ! ららんちゃんは凄いのですよです」
「はああああ!? マジかよ!?」
こんな所に主人公がいた。
きっと別の物語だったら、生産職系スローライフとかで無双しているタイプの主人公だ。人より優れたチートでブイブイやる感じだ。
「じんないさん、なんか訳わからんことを考えておらんかのう?」
閑話休題
少々話が脱線したが、俺はさり気なく話を元に戻す。
「そうか……。よし! 鎧やろ――八十神、気を付けて歩けよ」
「ふざけるな陣内っ! 今のを聞いて僕に行けと言うのか! しかも僕のことを鎧野郎って呼ぼうとしたな」
「うるせえ、お前はこういった身を犠牲にする展開とか好きだろ? さっきも似たような事をしたんだし、みんなの為に逝ってこい」
「な!? 葉月さんの為ならやぶさかではないが、お前に言われて行くものかっ!」
「おうおうそうかよ! だったら葉月っ、ちょっとコイツを死地に送ってやってくれ」
「え? え? えぇぇぇええ!?」
「陣内っ! 葉月さんを巻き込むな! しかも呼び捨てにして……」
「じゃあどうするってんだよ? このままじゃフユイシから援軍が来て泥沼になるんだぞ? それじゃあ急いで来た意味がなくなるだろ」
そう、この電撃作戦のような遠征の目的は、被害を最小限に抑えつつ、ボレアスの奪還や勇者早乙女を保護する事だ。
だが、ここで手をこまねいていては、最終的に目的が達成出来たとしても、被害が拡大してしまう。いま必要なのは障害の速やかな排除なのだ。
だから鎧の一人が犠牲になるのも仕方ないと思っていたのだが……。
「う~ん、魔石地雷を僕の解除魔法で無効化して進めないこともないけど……時間が掛かり過ぎるなぁ。レプソルさんじゃないからMPも不足するし、もっと手っ取り早く解除出来る方法があればなぁ~」
唐突にそう言い出し、何故か俺の方を見るハーティ。
そして何故か明らかに棒読み。
「いやぁ~、仮に解除出来たとしても、奴らが黙ってないでしょうねぇ。間違いなく途中で妨害か何かを仕掛けてきやすぜぇ?」
その次は、俺の方をニヤニヤと見ながらガレオスさんが続いた。
そしてそれも棒読み。
「ふむ、と言うことは。相手の攻撃を躱せて、魔石地雷を解除出来る者がいれば問題ないんだね?」
冷静に射貫くような視線で、俺の方を見ながら発言する赤城。
棒読みではなかったが、どこか勘に触る声音。
「よし、ボクもそれを手伝おう。守護聖剣の結界で妨害から君を守るよ」
真っ直ぐな視線で、俺を視界に捉えながら言い切る椎名。
その声音は、とても爽やかなモノ。
「やったっ! とうとう孤高の独り最前線の活躍がこの目で見れるんですね?」
期待の眼差しを俺に向けて、はしゃぎながら不穏なことを言う霧島。
嫌な予感しかしない、そんな邪気のこもった声音。
「頼むジンナイ。俺たちに道を切り開いてくれ、その世界樹の木刀を使って」
情報屋ドライゼンは、そう言って俺に地雷原を示したのだった。
読んで頂きありがとうございます。
感想への返信は一時止めていますが、この章が終わったら再開します。
なので、宜しければ感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字も……