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駆け付けて来た二人

 呆気ないほど簡単に辿り着いた。

 負傷者は何人かいるが、死者は無しという快挙で、俺たちはボレアス家の敷地まで辿り着いた。


 目の前に広がるボレアス家の敷地は、アムさんのノトス家とは比較にならない程広く、そして豪奢なモノであった。


 正門以外の場所は深い堀で囲われており、その幅は5メートル以上。

 当然、塀も高く、監視と迎撃用の櫓も数多く設置されており、攻め落とすのは容易ではなかっただろう。


 相手が降伏していなければ。




「どうかお願いしますアカギ様、お嬢様を……ミレイ様をお救いください。そしてドライゼン様、どうか、どうか我らと後方に……」

 

 市民の誘導や、その他の雑用を任されていたはずのアゼルが、いつの間にか合流していた。

 任された仕事は部下に任せた様子で、黒髪の野郎と一緒に俺たちのいる前線にやって来たのだ。

 あれから兵士たちと連絡を取り合い、住民たちが起きて無用な混乱を起こさないように指示をしてきたと言った。


 どちらかというと邪魔だから排除したのだが、二人がやって来たお陰で、ボレアス家の正門を無血開門することが出来た。


 アゼルは、勇者赤城とボレアス公爵となったドライゼンを紹介することで、正門を守っている兵士をこちら側に寝返らせる事に成功したのだ。


 アゼルを有能とまでは言わないが、こういった場面では使えるヤツだった。

 多少なりとも信用があるのか、思いの外すんなりといったのだ。


 しかし彼女は、この功績で気を良くしたのか、ドヤ顔気味で赤城組にちゃっかりと合流を果たした。

 そして今度は、ボレアス公爵となったドライゼンに、安全な後方へと下がって欲しいと進言し出したのだ。


 確かに彼女からしてみれば、ドライゼンは絶対に守らなくてならない最重要人物なのかもしれない。だがこれは……。


「アゼルさん。ここで後ろに下がってどうしろと? 後は勇者様に全てを任せて、私だけ後ろでふんぞり返っていろと言うのですか? そんな領主に誰がついて来ると言うのです」

「い、いえ、そういうつもりではっ」


「私は冒険者として世界を回って来ました。だから分かるのです、ここで後ろに退いては絶対に駄目だと。今だけついて来る者は居たとしても、この後をついて来る者がいなくなると。だから前に出て示さねば()らないのですっ」


 アゼルに向かってそう言い放つドライゼン。


「暗殺された父……元ボレアス公爵のようになるつもりはありません。奴は地位に胡坐をかいていたからこうなったのです。――だから私は戦います」


 ドライゼンのその姿は、燃えるような赤い髪をなびかせ、思いの外凛々しく見えた。しかしよく観察してみると、少し残念な所もあった。


 頑張って抑えてはいるようだが、『どうよ、今のおれ?』的なモノが漏れており、チラリ程度だが霧島の方を意識していたのだ。


 ( コイツ……、劇場化を狙ってんな? )


 今回の件は間違いなく大事である。

 大貴族の奪われた領地を、その息子が奪い返すという出来事(物語)


 これが劇などで演じられたりすれば、ボレアスでは間違いなく盛り上がる。

 それはボレアス公爵(ドライゼン)の評価に繋がり、少なくとも、今後の領地運営には良い影響となるだろう。


 そしてその物語を、売り出し中の脚本家が書いたとなれば、より高い評価となる。情報集めを得意としていたドライゼンらしい判断だと思えた。


 このドライゼンとアゼルのやり取りに、気付く者は気付き、気付かない者は気が付かないでいた。赤城は、したり顔でそれを眺めている。

 

 俺の方はそれを、『いかにもアイツ等らしい』と眺めていたが――。


「素晴らしいっ! 貴族連中は信用ならないと思っていたが、どうやら貴方は違うようだね。僕は心が打たれた、是非協力をさせてくれ」

「オラも手伝う! 奪われた土地を取り戻す……男のロマンだ。盾役としてオラが先陣を切るだ」


 ドライゼンの宣言に、『心を打たれました』と熱血馬鹿の二人が前へと出た。

 八十神と小山は、進軍の打ち合わせがまだ済んでいないにも関わらず、盾を構えて前へと歩み出した。


 その二人の姿は、自分たちが戦線を切り開くとばかりに雄々しく征き、そして――轟音と共に高々と空へと吹き飛んだ。


「へ?」

「え……」

「ほへ?」


 凄まじい轟音と共に火柱が上がっていた。


 小山は数十メートルほどのロフテッド軌道を描き、煙を纏いながら塀を超えて堀へと落下して逝く。


「雪子っ、小山を受け止める、道をくれっ!!」

「はいっ」


 即座に対応したのは蒼月だった。

 柊に魔王戦で見せた氷の道を作らせ、それを駆け上がり小山を捕球しに行く。

  

「おう! 亮二ナイスキャッチ!」

「良かった……、待ってっ、八十神君は何処!?」


 元野球部らしい掛け声をする上杉。

 小山が落下する前に助けられたことに安堵するも、もう一人を心配する葉月。

 だが、上に打ち上げられたのは小山だけで、八十神の姿はなかった。が――。


「――ごほっ、ごほ、葉月さん心配しないで、僕ならここにいる」

「え? 八十神君……飛ばされていない?」


「ああ、僕は鎧のお陰でなんともないよ。ごめんね、心配させてしまって……でも嬉しいよ、僕のことを心配してくれて。ありがとう葉月っ」


 まだ土煙が立ち昇る爆心地で、白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべる八十神。

 

「あ、う、うん。平気そうなら良かった。私、小山君の方を見て来るね」

「え? あ……葉月……さん」


 寂しそうに手を伸ばす八十神。

 しかし葉月は、それに気付かぬまま、吹き飛んだ小山の方へと行ってしまった。

 色々と多少は気になる点があったが、今はもっと大事な点を確認する。


「おいっアゼル! これはどういう事だ? アンタひょっとしてスパイかなんかじゃないのか?」

「え、スパ……イ? 私は……」

「陣内君、ちょっと待ってやってくれ。多分だが……その可能性はない。もし仮にスパイだとしたら不自然過ぎる。さっきも後方に下がって欲しいと進言していたし」


――あ、そっか……

 もしこの地雷みたいな物を知っていたなら、まずドライゼンに踏ませたか、

 ……だとしたらこれは一体?



「アゼルさん、これはどういう事でしょうか? それにあの者たちの事も知りたいのですが」

「あの者……? ああっ!? あれはフユイシ伯爵が連れて来た者たちです。大規模防衛戦で湧く黒い巨人を独占してレベルを上げた、フユイシ家の精鋭部隊です」

「あれが噂の奴らか……」


 赤城の示す先には、黒色の統一された装備で身を固めた集団がいた。

 距離にして、約百メートルほど離れた場所に布陣しており、あちらからは攻めてくる様子はなく、こちらの出方を(うかが)っていた。


「はああああ!? 待ったっ、ってことは……まさか……」

「なるほど。ボレアスの兵士、雇われ冒険者、そして第三の戦力がまだあったということですか」


 冷静に分析し、それを口にする赤城。

 それを聞いたアゼルは、慌てながら弁解し始めた。


「すいません、この事をお伝えするのを忘れておりました……。それと先程の爆発のですが、多分あれは、欠陥品として破棄された魔石兵器かもしれません」


 この女騎士は、するべき報告を忘れていたようだった。

 だが、もしかすると……。


 ( やっぱコイツ、スパイじゃねえのか? )


 と、思わざるを得なかったのだった。


読んで頂きありがとうございます。

まだ返信を止めていますが、宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

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