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白亜の壁の前で

すいません~。

遅くなりました;

ごめんなさいです。

 完全に――とまではいかなかったが、概ね予定通りに事は進んだ。

 

 普段気にしていなかったから気付かなかったのだが、大きな街へと続く街道などには、少し離れた場所に監視塔が建っているのだという。

 以前ドミニクさんから、それらしい事を聞いてはいたが朧気程度だった。

 

 その塔の役目とは、周囲の監視。

 魔物の大移動や、不審な集団などがいないかなどの監視。

 そして、他の領地が攻めて来ていないか見張っているのだという。


 もし過剰な戦力などを発見すれば、即座に対応し、狼煙や”アカリ”などを使って連絡し、所属している領地に知らせるのだと。

 

 当然、定時連絡もしているそうで、その連絡が途切れれば警戒態勢に移行。

 これによって、領地は守られているそうだ。

 因みにノトス()は、ギームルが来るまではその辺りがザルで大変だったと、アムさんに聞かされた事がある。


 

「流石に多少は警戒されるか……」


 ガレオスさんが、周りに知らせるようにそう呟いた。

 

「だが、完全ではないようじゃな。数を揃えられているとは思えん」


 ガレオスさんの呟きを、否定するのではなく、少しだけ修正するかのように言葉を紡ぐギームル。


「じゃあ、こっからは私の出番だね!」


 大きなモノを、『むんっ』と元気良く張る勇者伊吹。


 俺はそれに少しだけ目を引かれつつも、現状を頭の中で整理した。

 

 ( ここまでは一応予定通りだな )


 監視塔を少数で襲撃し、監視の任務に就いていた者を拘束し、その後、勇者たちの説明(説得)によってこちら側に引き込み、すぐに、”異常なし”との定時連絡を送って貰った。


 だが、それを受け手側が完全に信じるとまでは楽観視しなかった。

 

 ギームル曰く、北側は警戒しているとの事。

 魔王との戦いに北側は勇者を派遣しなかったのだ。だから、他の領地が連合を組んで攻めてくる可能性を想定しているだろうと。

 そして派遣した使者の連絡も、完全に鵜呑みにはしていないだろうと言った。


 だが一方、攻めて来るかどうか分からない相手の為に、全戦力を集結させているとは思えないとも言った。


 そしてその結果、警戒はしているが、戦力は全て集めていない状態であった。


 もしこちらの進行や規模を掴んでいるのであれば、北側は間違いなく打って出て来ただろう。少なくとも、籠城でもしているかのように籠もらないだろうと。


 数で勝っているのであれば、打って出た方が有利なのだから。しかも、横を突くように伏兵でも配置しておけば、より勝機が上がるのだ。


 しかし、その気配は無かった。

 だからこれは、ガレオスさんやギームルが言ったような状態なのだろう。

 警戒はしているが、完全ではない状態。


「サリオ、用意はいいか?」

「はいです! いつでも”アカリ”いけますですよです」

「お願いね、サリオちゃん。下に(・・)ぱぁ~って感じな奴で」


「了解してラジャです! ぱぁ~ですねイブキさま」

「ん? 下に?」


 現在は深夜1時、これから街中に雪崩込むのだから、街の住人を無用に巻き込まないように、俺たちはこの時間を選んだ。


 しかし暗い中での戦闘では、相手の地の利が大きくなる要素があった。出来ればそれは避けたい事。

 なので俺たちは、サリオの超巨大”アカリ”で、それを埋める予定となったのだ。


 周囲を照らす程度の”アカリ”では、相手からしてみれば良い的であるが、サリオの超巨大”アカリ”ならばその心配はなくなる。

 先の魔王戦に続き、この戦いでも大きく貢献する事になりそうだった。


「生活魔法”アカリ”です!」


 一瞬にして爆発的な光を放つ超巨大な”アカリ”。

 辺りを照らし尽くす程の光量が――今は下だけ(・・・)を照らしていた。


「――――――――!!」


 ダムを連想させるような、直角ではなく少し傾斜のある白い城壁の上から、何人もの驚きの声が聞こえてきた。


 そして次に、壁の上で警備に就いていた者たちが、光に照らし出されている伊吹に注目していた。攻撃の意思などは見せず、誰もが伊吹に惹かれていた。


「うへ、すげえ演出だな。聞いてはいたけど、誰だよこんなの考えたヤツは」

「あの、アカギ様らしいです。何でも、度肝を抜いた方が流れがよくなると仰って。あと、これだけ光を集中させれば、こちらには目がいかないと……」


 よく分からない理論だが、一応狙いがあっての演出らしい。

 強い光が一点だけを照らしている為か、少し離れた場所にいる俺たちは見えていない様子だった。

 

――つか、滅茶苦茶伊吹が映えるな、

 まさかこれを考慮して赤城が演出を考えたのか? あの赤城が?

 おい、だったらこれは……



 素直に”成功”だと思えた。


 正直なところ、ほんの数分前までは、流石に楽観視し過ぎだったと感じていた。

 ダムのような厚みを感じさせる高い壁、登れるような傾斜ではないが、直角ではない傾斜のある壁が、その堅牢さをより物語っていたのだ。


 多少の魔法などでは、少しも崩れそうにない白亜の城壁。

 この城壁の前に、トコトコと前に出て行って、『勇者です』などと言っても通用する気がしなかったのだ。下手をすれば、矢でも射られかねない空気。


 しかも伊吹は、警戒心を抱かせない為に、武器を持たずに行くと言っていた。【宝箱】から瞬時に取り出せるとはいえ、それでも危険には変わらない。


 だから楽観視し過ぎだったかもしれないと、そう思っていたのだが、今はその考えが飛んでいた。北側どころか、こちらの冒険者たちも伊吹に魅入っていた。


「こりゃ驚きだ……。【索敵】で掴める範囲の奴らはみんな、イブキ様に釘付けだぞ。それにこの反応は……」

「はい、みんな敵意は……無いようです」

「こちらも同じ判断だ」

「オレもだ」


 【索敵】持ちの者には、周囲の警戒だけではなく、城壁の奥まで監視をお願いしていた。

 伊吹が前に出た後に、相手の戦意が膨れ上がるようだったら、それを即座に報告してもらい、そして次のプランに移る予定だった。


 ラティやガレオスさんだけでなく、【索敵】持ち全員がその役目を負っていたのだ。そしてその全員が、北側に戦意無しと判断を下した。――だがラティは。


「あの、何人か敵意とまでは言いませんが、違う動きの者が……」

「マジか!? ん? ああ、言われてみるとなんか違う感じのヤツがいるな。相変わらずラティ嬢ちゃんの【索敵】はスゲェな」


 俺にとって今の会話は、別次元の会話に聞こえた。

 どの様に見えているのか分からないが、【索敵】持ちの連中には、城壁の奥で何か起きているのが分かっている様子だった。


 そして俺たちの目の前では、伊吹が自分は勇者であると名乗りを上げていた。

 伊吹は仰々しい言葉を使わず、元気で明るいままに、いかにも伊吹らしい言葉で、白亜の城壁に向かって語り掛けていた。


 伊吹が言葉を発する度に、相手の感情が惹かれてきていると、ラティが小声で俺に報告してくる。

 そして頃合いを計ったかのように、勇者赤城と冒険者ドライゼンも前へと出た。

 

「僕は勇者赤城俊介という者だ! 是非貴方たちに紹介したい人がいる。どうか紹介させてくれないだろうか?」


 伊吹とは対照的に、少し仰々しい言葉で語り掛ける勇者赤城。

 一応下手に出ているような言葉使いだが、口調はどちらかというと強気。しかも赤城は相手の対応を待たずに、身を半歩引いてドライゼンに前を譲った。

 

 前を譲られたドライゼンは、顔を上げて堂々と前に踏み出す。

 そのドライゼンの格好は、普段の冒険者姿ではなく、少々場違いにも感じる、貴族のような赤いジュストコール姿(正装)だった。

 

 そしてそのドライゼンは、両脇を勇者に守られながら、高々と宣言した。 

 

「ボレアスよぉおお! 私は帰って来たっ! この街を、この領地を、このボレアスの全てを簒奪者から取り戻す為に――私、ドライゼン・ボレアスは帰ってきた! 開門を願う!」 


 この宣言には、全ての者が息を呑んだ。

 俺たちは上手く事が運ぶかとハラハラし、白亜の城壁の上にいる者は、ただただ狼狽えていた。誰も声を発せずにドライゼンを凝視していた。


 時間にして30秒ほどの沈黙。

 こちらが静観する中、ようやくといった感じで相手が動きをみせた。

 その動きとは、ドライゼンを調べる【鑑定】だった。


 誰もが指で四角い窓を作り、光に照らされているドライゼンを覗き込む。

 そして――。


「――――――!!」


 距離があるのでハッキリと声が聞こえる訳では無いが、誰もが『本物』と言っていた。

 城壁の上から、ドライゼンを確認してくる者の数が増えていた。

 本来の配置から離れた者もいるだろう。


 最早これは、【索敵】や【心感】などが無くても判る。彼等は間違いなく動揺し、そして大きく揺らいで傾ていると。


 それは誰がどう見ても切り込むべき隙、物理的なモノではなく精神的な隙。

 当然、それをヤツが見逃すはずもなく――。


「僕は彼を支持をする。勿論ここにいる彼女もだ。そして……他にも来てくれている勇者たちも彼を支持している。聖女の勇者葉月さんや女神の勇者言葉(ことのは)さん――」


 ( あ!? この野郎、またやりやがった! )


 俺は心の中で赤城をそう罵った。


 ヤツは前にも似たような事をしたことがある。 

 勇者同盟レギオンを立ち上げる時、ラティと葉月の名前を無断で使っていた。

 もしかすると今回は、前回とは違い、事前に何かしらの根回しをしているのかもしれないが、赤城はこの場にいる勇者だけでなく、中央(アルトガル)で留守番をしている下元の名前も出していた。


 少し離れた場所にいる葉月の表情を見るに、一応話は通している様子だった。

 他の勇者にも目を向けて見たが、皆同様であり、しかも上杉などは。


「おう、俺も支持するぜ!」


 上杉は前に出て、赤城の横へと歩いて行った。

 そして――。


「サリオさん、光を広げてもらえるかな?」

「あ、はいです!」


 赤城に言われたサリオは、新たに超巨大”アカリ”を作り出し、今度は一部だけでなく全体を照らした。


 闇に隠れる形になっていた俺たちが、その光で一斉に照らし出される。

 それはもう、本当に良く出来た演出だった。


 そう、演出。 


「――あ!?」


 俺は咄嗟に気付き、あるヤツを探す。

 俺のその動作に気付き、そして察したそいつは、なんとも嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「これを考えたのは霧島か……」


 『どうです? これ凄いでしょう?』といった表情を見せる霧島。

 最近脚本などに手を出している、いかにもヤツらしいモノであった。

 

 ( 赤城にしては上手すぎると思ったんだよな…… ) 


 何となく一杯食わされた気分に、俺は深い息を吐いた。

 そしてこれはきっと上手く行くだろうと思えた。勇者を異常な程に崇拝する異世界(イセカイ)人を相手に、これだけの勇者を使った演出なのだから。

 

 そして俺の予想が当たったかのように、白亜の城壁の正門が開いた。


 代表の者なのだろうか、一人だけが、正門から姿を現しこちらにやって来た。

 

 酷く汚れてはいるが、元は派手な色であったであろう鎧を着た――。


「へ? 女? って!? おい、まさか……」

「あ、あの方は確か……」

「ほへ? どっかで見た事があるような……です」


 不自然な程にみすぼらしい恰好をした女性が、顔をグシャグシャに歪めながら、吐き出すように言葉を発した。


「ほ、本当に……本当に取り返して頂けるのですか? ボレアスを、このボレアスをあの簒奪者共から、奪い返して頂けるのでしょうかっ!」


 姿を見せた女騎士は、あの時、あの町で俺たちを裏切った女団長のアゼルであった。 


 

読んで頂きありがとう御座います。

ちょっとご報告を、次話か、その次話辺りから、感想欄への感想返しを一時中断します。

誤字やご指摘などにはお返ししますが、それ以外は控える予定です。

本当は閉じるのもありなのでしょうけど、それだとアレなので……

この章が終わったら、感想返しを再開する予定です。

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