小山死んだ!? この――
「あ~~ホントにホッとした。魔物じゃなくて人と戦わないとって聞いてたから」
「ああ、確かにそうだな。伊吹の大剣じゃ加減とか出来そう……あれ? 剣が何か変わった? 結構良さそうな物に見えるし、装備もかなり変わって」
伊吹は、前の装備から大きく変わっていた。
「あ、うん。祝勝会の時にね、是非支援させて欲しいって貴族の人が沢山いて。でもね、ただ貰うってのは嫌だったから売って貰ったの」
「そんで、現在イブキ様の懐はスッカラカン。だからこの北討伐は渡りに船でさぁ」
ガレオスさんに懐具合を暴露され、少し恥ずかしそうにしている伊吹。
パタパタと手を振って、なんとか誤魔化そうとしている伊吹の格好は、何処かで見た事がある姫騎士のような装備に変わっていた。
今までの伊吹は、モンスターをハントする狩りゲーに出て来る初期装備のような感じだったが、今は踝まである長さのスカートを穿いた、どこぞの騎士王のような格好だった。色までも、全体的に青色が基調となっていた。
「なんか、凄く動き難そうだな……」
「あ、これ? 実はコレね――」
俺は目線でスカートの部分のことを指した。
踝まである長さなのだから、足元に纏わりついたりして、動きの邪魔になるのではないかと思っていたのだが、その辺りは工夫されていると伊吹は話した。
スカートの中、要は足元に、スカートの部分を磁石にように反発させるモノを装備しており、それによって足に、スカートの裾が纏わりつかないようになっているのだという。
そしてスカート自体には、【見えそうで見えないEX】効果がついており、色々と万全な装備だそうだ。
「凄いよね~コレ。えっとなんかね、歴代勇者の人が心血を注いで作った装備らしいの。それでもの凄い貴重な物だから、普通のお店では売ってないんだって」
「やっぱ歴代どもの仕業か……」
これを見た瞬間、そんな気がしていた。
デザインセンスが、いかにもと思えたのだ。
胸元のしっかりとしたプレート、ちょっと大きめの小手、スカートの部分にも金属板を張り付けてあり、本当に趣味全開な装備だった。
一応控え目だが、びっしりと付いているフリルには、衝撃緩和の付加効果が込められているらしい。
そしてふと気になるのが……。
――中ってどうなってんだろ……?
スカートを反発させるモノを装備? いや穿いているんだよな?
スパッツか? それともドロワーズっぽいモノ? いやズボン系?
何となくだが気になった。中はどうなっているのだろうと。
だが当然、捲ってそれを確かめる訳にはいかない。仮にそんな事をするヤツがいるとすれば、そいつはきっと馬鹿か大馬鹿のどちらかだろう。
「おいいい! 大変だ! コヤマ様が倒れているぞぉお!」
「――な!? これは酷い、顔が凹んでいるぞ!」
「べっこり凹んでんぞ! べっこりと!」
「何があったんだ!? まさか奇襲か?」
「一体何が? まるで足のつま先で顔を蹴られたみたいに……」
「鉄壁の勇者さまを? 一体どんな攻撃をしたら……」
「すいませんッス。これには山よりも深い訳があるッス」
少し離れた場所が異様に騒がしかった。
騒いでいる冒険者たちに、小山組の奴らが必死になって何か言っている。
気にしないで下さい的なことを言って、何とか鎮静化しようと試みていた。
何となくピンと来て、俺は伊吹に訊ねた。
「なあ伊吹、あれってもしかして――」
「さあ~何があったんだろうね~」
あさってどころか、しあさっての方向を向こうとする勢いで目線を逸らし、露骨に誤魔化してきた。
俺はその様子を見て、何となく理解する。
( あの馬鹿、無茶しやがって…… )
閑話休題
かなり脱線したが、伊吹の装備には様々な意味が込められていた。
まず、単純に良い装備が必要だったから。
今までの装備では物足りなくなってきたようで、先の魔王との戦いでも、前の装備ではほとんど役に立っていなかったのだという。
しかし、八十神が装備している【ウルドの鎧】クラスとまではいかなくとも、それに近いクラスの高性能な装備は店では売っておらず、かなり前から良い装備を探していたらしい。
そして祝勝会の時に、やっと良い装備を入手出来たのだという。
貴族側としては、伊吹を迎え入れたいとの狙いがあったのだろうが、伊吹はそれを拒否する為に買い取ったそうだ。
そして――。
「どうですダンナ? この装備なら目立つでしょう?」
「ああ、かなり目立つけど……それが?」
「ですから、今回はそれの方が都合がイイんでさ。これなら遠目から見ても目立ちますし、それに何とも言えない説得力があるでしょう?」
「あ、ああ……なるほど」
「ええ、そうです。これなら無用な戦闘も減りますぜ」
要点は口にしていないが、何を言いたいのか理解出来た。
この装備ならば目立つ。きっとこの異世界の認識では、この装備には深い意味も込められているのだろう。
この装備は、勇者限定などの意味が。
そしてこの装備を目にすれば、誰もが伊吹の存在に気付き、それが相手にはプレッシャーとなるだろう。
「ですからダンナ。先頭はイブキ様が務めますぜ。あとダンナがいると……たぶんですが、相手の戦意に火が点きそうな気がするんで……」
「へ?」
ガレオスさんは俺に、『なのでダンナ。ダンナは見えない所に居てください』と、目を逸らしながら続きを言い放った。
言いたい事は分かる。たぶん俺は、北側では賞金首扱いかもしれない。
そしてそんな俺が北の連中の前に出れば、相手は獲物が来たと殺気立つ危険性がある。当然それは、あまりよろしくない流れだ。
「……理解した。後ろの方で大人しくしておく」
「すいませんねダンナ。それじゃあ、その手筈で行くとして、後は――」
俺たちはこの休憩時間を使って、北へ辿り着いた後の予定を話し合った。
辿り着くまでにやることは色々とあるが、今は着いた後の事を決めた。
まず伊吹を先頭に、赤城とドライゼンが行く事となった。
相手に開門を要求をするのだから、余計な刺激をしないようにと、人数も3人だけに絞った。
伊吹の役目は、勇者であることのアピール。見た目で言うならば、葉月や言葉も適任ではあるのだが、相手が確認もせずに攻撃を仕掛けてくる危険性もあるので、自衛の出来る伊吹となった。
伊吹の持っている【瞬閃】ならば、どんな攻撃も捌けるとの判断だ。
そして、東や北側をメインに活動していたという赤城が、ドライゼンを正統なボレアス公爵だと宣言する予定。
ボレアスの街の門を守るのは、雇われの冒険者などではなく、街に所属している兵士たちである。
冒険者のように、単純な損得では動かない彼等だが、損得以外の要素があれば、十分に狙えるとの判断だった。
ボレアス領地の正統な後継者がこちら側に居て、そしてそれを勇者が認め宣言する。少し楽観的な部分もあるが、これならば血を見ずに開門出来るだろう。
因みにそれを聞いた上杉は、『おう、九割九分上手く行く』との太鼓判。
そしてそれに釣られ小山は、『オラたちが残りの一分を埋めるぜ』との発言。
それを聞いた他の勇者たちは微妙な顔をしていたが、異世界側の冒険者たちは瞳を輝かせ、『名言だっ!』という顔をしていた。
俺はそれを眺めながら思う。
こうやって勇者たちの負の遺産が積み重なっていったのかと。
こうして今後の予定を決めた俺たちは、休憩を終えて北へと向かったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
ちょっと進行が遅くてすいませんです;
宜しければ。感想やご指摘など貰えたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども……