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イセカイの常識(陣内視点)

新章の開始です。

新章『我は求め訴えん。今こそ復讐の時だ、応じよラーシル!』

君は、乙女の散りゆく涙を目撃する……。

 目の前にいる男が、堂々と罠を張っていると言っている。

 正確に言うならば、あの袴野郎かその親なのだが、彼等は俺を罠に嵌めようとしているのが判った。


 この異世界(イセカイ)では、呼び出しイコール罠である。 

 中には、違うという人もいるかもしれないがそんな事ない。つい最近、自分の組の連中や他の組の奴らに呼び出しを受けた。

 もし迂闊にも呼び出しに応じていたのならば、間違いなく何かしらの制裁が待っていただろう。そういう顔をヤツらはしていた。


 あんな嫉妬交じりな顔を見せて、素直に来ると思ったのだろうか……。


 そして、嫉妬組の制裁には加減というモノがない。

 少し前も、三雲組のラムザが、【盛土の刑】という酷いモノを執行されていた。

 

 犬や猫の糞でも埋まっていそうな地面に埋められ、弱体魔法をこれでもかと掛けられて無力化され、その後約二時間ほど放置されるという恐ろしい刑。砂浜に埋められるのとは訳が違う。


 しかも、己の罪を認めぬ場合は、更に二時間の延長という残虐さ。

 隣にもう一人分の穴が掘ってあったので、もしあの時油断でもしていようものならば、俺も埋められていた可能性がある。奴らは常に俺の背後を取ろうと動いていたのだ。 


 そう、この異世界(イセカイ)では、呼び出しイコール卑劣な罠が待っているのだ。だから俺は――。


「アホかっ! 何でわざわざ罠にハマりに行かねえといけねえんだよ。大体、謝罪がしてえってんなら、そっちが来いってんだ」

「え……?」


「『え?』じゃねぇよ。謝罪してえってんなら、そっちが来いって言ってんだ。ちょっと誰か塩を持ってこい。あ、サリオ、塩の代わりにちょっと火を撒いてくれ」

「ぎゃぼお!! ジンナイ様が滅茶苦茶っているですよです!」

「ひぃ!? で、では、そのように伝えて来ますっ! では」


 サリオに火でも撒かせようかと思ったのだが、それよりも早く、使いの者は逃げ去って行った。

 去り際に伝えると言っていた気がしたが、どうせ来ないだろう。

 いま俺たちが泊まっている宿は、俺たち陣内組が貸切っている。相手から見ればアウェー(敵地)なのだから、まず来ることは無いだろう。


 今この宿に来る者がいるとすれば、それは知り合いだけだと、そう思っていると。 


「伝える事がある」

「ギームル……」


 やって来たのは知り合いではあるが、俺にとって微妙な相手だった。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ラティや、【索敵】持ちに警戒させた中でその話は語られた。

 ギームルが伝えにきた内容は、北への、フユイシ伯爵家の討伐と、ボレアス公爵家の奪還だった。


 フユイシ伯爵家は、勇者保護法違反として。

 そしてボレアス公爵家は、ドライゼン・ボレアスの要請により。


 大義名分はこちらにあり、北側以外は全てこちら側。


 本来であれば、余所の領地への干渉は原則的に禁止。 

 元の世界で喩えるならば、他所の国に何か文句をつけるようなモノらしい。

 もし干渉するのであれば、それ相応の覚悟と正義、そして大義名分(建て前)が必要なのだと。


 だが今回はそれらが揃っている。だから――。


「良いな? 出発は今夜じゃ。 必要な荷の用意などはもう出来ておる……勇者様のお力を借りる事になるのだがな」

「へ? それってどういう事だ?」


「全く……、一から説明せんとならんのか――」


 再び行われるギームルからの説明。

 要は、大人数での移動などにはそれ相応の荷物が必要となる。

 食料などといったモノや、大人数で移動する場合には他にも色々と必要な物があるらしい。

 

 そしてそれらが、移動速度の足枷になるのだと。

 今回、大人数で中央にやってきた時に、俺もそれは実感していた。

 だがその負担を、勇者たちの持つ【宝箱】を使うことで解消するというのだ。

 

 勇者を荷物持ち扱いにするという、並みの貴族では選べない方法。

 しかし、今回の件は勇者赤城から持ち掛けられた事なので、荷物持ちの件は、その赤城に任せたのだという。


 赤城は他の勇者たちにも声を掛け、何人かの協力をすでに得ているのだと。

 ここ最近、勇者同盟レギオンのメンバーがやたらと動いていたのは、彼等が独自で物資を掻き集めていたからだという。


 だから今夜出発出来るのだとギームルは言った。


 本来であれば、物資を揃えるのには、それなりの日数が掛かるらしい。

 そして、中央や他の貴族ではなく、赤城が物資を集めることには違和感が無いので、北側の連中に怪しまれないのだと。


 もしこれが中央や、他の大貴族が移動用の物資を過剰に買い漁っていれば、北側の連中は警戒しただろうとのこと。

 

 勇者保護法違反で、北に侵略してくるかもしれないと、そう警戒心を抱かせただろうと話した。

 

 だが祝勝会では勇者が来なかった件を咎めておらず、移動用の物資を買い漁るなどの動きを見せていないので、北の連中は警戒していないだろうというのだ。


 少数精鋭で秘密裏に中央(アルトガル)を出立し、三日以内にボレアスの街に辿り着けば、完全に相手の虚を突けるだろうとのこと。


 吹っ掛ける戦とは、どう勝つかが大事らしい。

 ただ勝てば良いというモノではなく、被害を最小限に抑え、そして戦果は最大にすること。


 しかも抑える被害とは、自軍だけでなく、相手の側の被害も抑えないといけないのだという。

 馬鹿みたいな殲滅などはもっての外、仕掛ける場合の戦は、しっかりとした利益をあげるモノなのだと教えられた。それ以外の戦などはするべきではないと。


 細かい事は後で話すと言い、ギームルは忙しそうに宿を後にしようとしたが。


「ちょっと待ってくれ……ギームル、追加の情報がある」

「ほう? 聞かせて貰おうかジンナイ」


 俺はギームルに、勇者早乙女が拘束されている可能性の事を話した。

 情報源も明かし、その可能性の高さも説明した。するとそれを聞いたギームルが――。


「よくぞ話したジンナイ。これならばタチバナ様の協力も得られる。これでより楽になったぞ」

「うげ、橘か……」

「え? 風夏ちゃん断っていたの? なんで……」


「夜にまた来る。それまでに準備を済ませておけ」


 ギームルはそう言い、足早に宿を去って行った。

 詳しい理由は言わなかったが、今の情報のおかげで勇者が追加されるらしい。

 個人的には橘は勘弁して欲しいところだが、ヤツの【宝箱】は、【固有能力】【拡張】の強化のおかげで、他の勇者たちよりも圧倒的な収納力を得ている。

 

 ヤツが参加するのであれば、積み荷の問題は完全に解決するだろう。

 個人的には非常に嫌だが……。



 そしてギームルが去ったあと俺たちは、時間が来るまでやるべき事をやることにした。

 葉月と言葉(ことのは)は、用事があると出て行った。

 言葉(ことのは)は三雲組が泊まっている宿に戻ったのだろう。葉月の方は、橘にでも会いに行ったのかもしれない。


 陣内組のメンツも、今のうちに出来る事をと動いた。

 二日酔いの酒が抜けぬ者は、水を飲みまくって睡眠を。

 装備を修復に出していた者は、預けた装備を取りに 

 滾るモノを抑えられぬ者は、パーティを編成して階段へと冒険に。


 そして俺は、サリオを奴隷から開放する為に、奴隷商の元へと向かった。


 久しぶりに会ったオーレさんは変わらずで、警戒心を抱かせない笑顔で出迎え、昔と変わらない対応をしてくれた。

 いま思うと、この人には最初から本当にお世話になっている。


 しばしの談笑の後、俺は奴隷契約解除を依頼した。


 身元をしっかりとさせる為の奴隷契約。

 ハーフエルフは、奴隷という立場を取っていないと街に入ることすら難しかったが、昨日のやり取りでそれが解消されたことと、何よりアムさんの妹を奴隷にしておくのは流石に拙いと考えたのだ。


 アムさんとも話し合い、今後のことはともかく、奴隷という立場だけは解消した方が良いとなった。


 元ノトス公爵が何か言ってはいたが、サリオの方がそれを酷く嫌がった。

 親からの視点としては、娘と一緒に居たいと願っているのかもしれないが、娘からの視点では、冗談ではないだったのだ。


 生まれてすぐに捨てられ、両親の顔を知らずに育ったサリオ()

 捨てた理由も、苦心の末にやむを得ずなどではなく、単に自分の都合でエルフの村にサリオを捨てたのだ。

 今さら親心を出されても、困るどころか迷惑なのだと。

 『スキヤキが喰い放題』という甘言にも、好きな人、一緒にいて楽しい人と食べるから美味しいのだと返していた。


 アムさんもこれには同意してくれて、サリオの意思を尊重するとなった。



 開放の手続きに金貨一枚を支払い、サリオは奴隷ではなくなった。

 個人的には、是非、出来れば、本当に本当に切実な願いにより、ラティも奴隷から解放したかったのだが、何故かラティはそれを拒んだ。


 俺はラティの意思を尊重し、赤い首輪はそのままだった。



 その後も、俺たちは街を回った。

 雑貨屋のイーレさんのところにも顔を出した。

 そして、魔王戦での差し入れのお礼を言った。


 この人にもお世話になっていた、この人が居なければ、俺は金が無くなり干上がっていたかもしれない。


 薬品ポーションをついでに買い、ここでも談笑をする。

 オーレさんの所でもそうだったのだが、サリオに”アカリ”を作り出して欲しいとお願いされた。

 どうやらあの時の超巨大アカリは、この中央では一番の話題らしい。

 作り出された”アカリ”を見て、揺らぎのない光量に驚きの声を上げていた。『これはとても価値のある”アカリ”ですね』と。


 あまり長居をしても迷惑なので、俺たちは雑貨屋を後にする。


 そして一通り回った後は、俺たちはアムさんとららんさんと合流し、一緒にスキヤキを食べることにした。


 その食事の席は、何ともムズ痒い空気になると思ったのだが、全くそんな事はなく、サリオはいつも通りだった。

 卵を大量に使い、いつも変わらない『ぎゃぼう』なサリオだった。


 食事を終え、宿へと向かったのだが、宿が近づくとラティが――。


「ご主人様。宿に誰か来ています……」

「……分かった」


 ラティからのアイコンタクト(サイン)は、『敵がいる』だった。 

 どんな敵がいるのかは不明だが、少なくとも敵意を持った存在がいると。

 

 俺たちは警戒しつつ宿屋に入る。

 即座に結界を展開出来るように身構え、敵がいる方に目を向けるとそこには。


「遅いっ! やっと戻って来たのか」

「へ? お前は確か……」

「あうっ」


 サリオが俺の脚にしがみ付く。

 

「呼び出しに応じないとはどういう事だ。折角私が謝罪しようというのに」


 宿にいた敵とは、袴を穿いていない袴野郎だった。 

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なども教えて頂けましたら……。

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