決戦、城の中庭インターバル
インターバルなので短めです。
やって来た秋音ハルは、しれっと俺の横に立った。
彼女は視線を合わせずに、前を向いたままで話し掛けてくる。
「先程の茶番、あれはなかなかのモノだったぞ」
「……あれを見たのかよ」
――茶番か……あれを茶番っていうことは、
事前にあれが行われるって知っていたって事か、
どこまで探ってんだコイツは?
「事前に多少は知っていたからな。それに、元宰相の男が気になってな」
「――ッ! お前まさか、あのジジイを暗殺するつもり……いや、だったら此処に来ないか」
何となくだがそう思えた。
秋音ハルの事を深く知っている訳ではないが、コイツはまどろっこしい事はしないタイプだと思ったのだ。
ラティに似ているというべきか、対象がいたら、即座に首を刎ねに行くタイプ。獲物をいたぶるとか、必要の無い回り道はしないヤツだと感じたのだ。
「ああ、仕事は暫くの間は休むつもりだ。もう十分に稼いでいる」
「…………で、何をしに来たんだよお前は」
『どんな仕事だよ』と、訊ねたいところだったが、嫌な回答しか返ってこなさそうだったのでスルーした。今は、ここに来た理由が気になった。
「ふむ陣内陽一、貴様は馬鹿なのか? たった今、元宰相が気になったと言ったばかりだろう」
「ぐっ、じゃあ何でジジイが気になるんだよ!」
「ふむ、貴様は気にならないのか? あの元宰相の事が」
「気になるって……」
( ムカつきはするけど…… )
「あの男はなかなかの傑物だぞ? 気にならない訳がないだろう。ここ二ヵ月の事だが、ノトスに送り込んだ刺客や密偵が誰も帰って来ていないと訊いている。少なくとも10人以上は消えているんだぞ?」
「へ? 刺客が……?」
「そうだ。宰相の職を下り、彼が野に下ってノトスに行ってからというもの、密偵や刺客が誰も戻って来ていないと訊かされているんだ。これが気にならない訳がないだろう? それに、ボレアスの動きも気になってな」
秋音は、そう言ってボレアスから来たという貴族の方へ視線を飛ばした。
その貴族の男は、周りから色々と話し掛けられている様子。談笑していた鼠顔の男の方は、言葉の方へと行きたそうにしているが、自身の護衛にそれを止められていた。
ひょっとするとあれはただの護衛ではなく、あの鼠顔の見張り役なのかもしれない。そして後ろには、将軍のガーイルまでも張り付いている。
色々と気にはなるが、今はそれよりも――。
「おい、刺客が帰って来てないって……まさかノトスの街にフユイシ家から、北から刺客が送り込まれたって事か!?」
「……陣内陽一、まさかそれを知らなかったのか?」
「うっ」
その可能性はあると思っていた。実際に二回ほど襲われたんだから。
――だけど、だけど……
ギームルがそこまで俺を守っていただと!?
あのジジイが……
「これは憶測だがな、最初は保護法で貴様を捕えようと考えていたのだろうな、フユイシ伯爵は。だが、お前は宰相だったギームルによって救われた。だからその後お前がノトスに戻ったと訊いて、それで何人か送り込んだのだろうな」
『わたしは遠いので依頼を断ったが』と付け足す秋音。
秋音の言う事が本当ならば、俺の知らない所で排除されていたという事だろう。
レプソルさんから、確かにそれらしい事を聞いてはいたが、まさかそこまでやっていたとは思いもよらなかった。
「そこまで守られていたのか……」
「ふむ、何とも情けない。ヤツなら、後藤修二ならきっと気付いていただろうな」
秋音が何かを呟いてはいるが、俺の頭の中には入ってこなかった。
( あのジジイが…… )
正確な意図は計りかねるが、ギームルは本気で俺を守っていた。態度こそは最悪なジジイだが、やるべき事をやっていた。
( くそっ…… )
「ふう、ちょっと話し込み過ぎたな。この異世界での知り合いは貴様だけだったから少々長居しすぎた。流石に勘づいたようだな」
「へ?」
秋音にそう言われ、彼女が示す先に目を向けるとラティがいた。
ラティはサリオのそばにいながらも、無言でこちらを窺っている。
「では失礼する。元宰相の人となりは把握したことだしな」
秋音は去っていった。
そして入れ替わるようにラティがやって来る。
「あの、ご主人様。今の人はまさか……」
「ああ、秋音だよ。……なぁラティ、今のは誰に見えた?」
「はい、御年配の人間の侍女に見えました。にこやかにしており……全く分かりませんでした」
「そうか……」
――やべぇなアイツ、
あの女が本気で誰かを暗殺しようとしたら防げねえぞ、
今はそんな意図がなくても……
「ラティ、ちょっとギームルの位置分かるか? あのジジイに用がある」
「はい、あちらの方です」
ラティは即座にギームルの位置を特定した。
その位置は、会場の中心から少し離れた場所で、喧騒から避難したような場所にギームルがいるとラティは言った。
「ちょっと行って来る」
「あの、お供します」
「あ、ああ、分かった。一緒に来てくれ」
俺はギームルに話すことがあった。
本来ならば、もっと早く伝えておくべき事だった。だが俺は、個人の感情でそれをいまだに伝えていなかった。
今さらそれを伝えに行くのは正直気まずい。
だが、俺はそれでも伝えようと思った。かなり気恥ずかしいがそれでもと。
ラティにそれを見られるのはアレだが、それを隠したところで意味はないので、自分なりの正々堂々として、ラティと一緒にギームルの元へと向かったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字などの報告も頂けましたら幸いです。