表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

333/690

決戦、城の中庭前半戦終了

すいません、おくれましたー;

 俺は考え事をしながら、華やかパーティーと賑やかな縁日が交ざったような、そんなカオスな会場を眺めていた。

 浴衣姿の女性でもいれば縁日寄り、だが、いるのはしっかりとした正装やドレス姿の貴婦人たち。


 そしてそんな中に、普通に防具などを装備した冒険者がチラホラと。

 元の世界でやっていた、人気のオンラインゲームなどで見た事があるような光景が広がっていた。


「飼い殺しか……」


 俺は呟きつつ、ギームルから聞かされた話を頭の中で反芻していた。

 ”正しい傀儡政権”、ギームルはそれを行うと言っていた。しかも堂々と。


 俺のもっている印象では、傀儡政権などは駄目なモノという考えだが、ギームルは、『正しい傀儡ならば問題無い』と言ったのだ。

 むしろ、そちらの方がスムーズに物事が進むのだと。

 

 要は、目的を間違えなければ良いらしい。

 駄目な例の傀儡政権とは、それを行い個人の利益のみを上げようとする事。

 逆に良い例は、外部から俯瞰してその国を監視や管理し、その国の為に導く事。


 政権を運営する側はどうしても、利益や必要の無いしがらみなどに絡め取られてしまうモノらしい。

 それを外部から俯瞰した視点で監視し、必要ならば排除して、徹頭徹尾正しい運営に導くのだと。


 ただ、長期間それを行っていると、傀儡する側にも欲などが入り込んで来るので、最終的には破綻してしまうらしい。

 だが短期間であれば、その効果は絶大だとギームルは語っていた。


 そしてその短期間のうちに……。


「北を潰す……か」


 続いてギームルは、北を潰すとも言っていた。

 そしてそれが終われば、あの鼠顔の男も用無しだとも。

 最終的にあの駄目宰相がどうなるのかはしらないが、あまり良い末路ではないだろう。同情などは一切しないが。


――しかし、どうやって北を潰すんだ?

 北から勇者が派遣されなかったから、それを突っ込むのか?

 一応、勇者保護法違反にはなるのか? どうすんだジジイは?



 俺は考えを巡らせたが、思い浮かぶ案はそれだけだった。

 勇者保護法を盾に、北をどうにかするのだろうと。だが――。

  

「わからん……」

 

 視線の先には、宰相と談笑している太めの貴族の男がいた。

 ギスギスした雰囲気などはなく、お互いが気楽に話し合ってはいるが、あの貴族はボレアス()側の代表だと言っていた。


 詳しい説明はしていなかったが、訳があって今回の魔王戦に間に合わなかったのだと、勲章の授与式の後に、あの男はそう謝罪していた。


 半数の者からは非難染みた視線を貰っていたが、宰相や将軍などの要職からは、それならば仕方ないと許されていたのだ。

 

 全く掴み切れない状況。

 

「鼠はともかく、ガーイルさんまで……」


 思考が行き詰まる嫌な感覚が降ってくる、俺はそれを晴らす為、気晴らしに余所へと目を向けた。 


 その視界の先には、勇者たちに群がる貴族や権力者らしき人達が映る。

 葉月、言葉(ことのは)もそうだが、伊吹にも多くの貴族たちが殺到していた。

 ただ、伊吹に話し掛けても、少しすると伊吹組のメンツによって排除されており、どこぞの握手会のような状態になっていた。


 今も貴族の男が、『はい、時間です』っと、いった感じで横に逸らされた。

 

「あそこはガレオスさんがしっかりしてんなぁ……ってか、伊吹の所に行ってんのってエウロス側の奴らか?」


 一目で判るほど、エウロス()側の貴族には特徴があった。

 和風テイストというべきか、きちっとした洋服姿なのに、所々に和風なモノがあるのだ。


 スカーフの柄が、服装に合わない唐草模様や青海波模様だったり、何故それを下に穿くのかと思う袴。

 中には、派手な柄の羽織りを肩に掛けている者までいた。

 

「そういや東って、なんか下手くそな和風って感じだったな……あ、あれ?」


 視線を少し横に逸らすと、陣内組のメンツに、貴族たちが集まっているのが見えた。


 レプソルさんやスペシオールさん、当然テイシとミズチさんも囲まれていた。

 

「何でウチのメンツに貴族が?」

「ふふ、気になるかい陣内君?」


「へ? ハーティさん?」


 勇者ではなく、冒険者たちにも貴族たちが集まっており、それを不思議に思っていたら、隣にハーティがやって来ていた。


「えっと、気になるってか、何でだろうなって。勇者たちに集まるんなら解るんですけど……」

「うん、彼等はね、優秀な冒険者をスカウトしているんだよ」

「へ? スカウト? 戦力として?」


「そりゃそうさ。特に東側の方は魔物がやたらと湧いているからね。領地持ちの貴族たちは強い戦力が欲しいんだよ。それにね――」


 ハーティは俺に説明してくれた。

 東側は現在魔物が多く、しかも魔王が発生した事でそれなりに混乱しているそうだ。

 そして、治安や安全、様々な理由で戦力が必要であり、今の彼等にとって、レベル80超えの冒険者というのは、とても魅力的なのだと。

 しかも、超高レベルの冒険者がいれば、それに釣られてやって来る冒険者も増えるそうだ。


 冒険者たちにとって大事なモノとは、報酬などもそうだが、勝ち馬に乗れるということが大事らしい。

 戦力の薄い場所では戦闘自体がキツくなり、それによって逃げ出す者が多くなるのだとか。だが逆に、有利な場所や楽な所には人が集まるのだという。

 

 そして、名のある冒険者や強い冒険者連隊(アライアンス)という存在は、居るだけで人を集めるのだと。だから――。


「――魔王との戦いでね、犠牲者を一人も出していない陣内組は今や注目の的らしいよ? 特に東側の連中には」

「はぁ、なるほど……確かにそうかもしれないか」    

 

――そうか、そうだよな、

 少人数でも魔石魔物級を倒す事が出来るし、

 それに、人も集まり易くなるのか……あ! ってことは、



 俺はもっと周りを見渡した。

 すると、陣内組だけではなく、三雲組や伊吹組にも声を掛けている者たちがいた。

 もしかするとこの場、スカウトなどをする場の意味合いも含まれているのかもしれない。


 そう考えると、正装でなくても良いから冒険者たちに出席して欲しいという配慮が納得出来た。


「ただ楽しむだけの場じゃないんだなぁ……ん? アイツだけは別か」

「はは、そうみたいだね。ある意味一番注目されているのに。何とも彼女らしいというか、呑気過ぎると言うべきか……」


 俺とハーティの視線の先には、サリオとラティがいた。

 サリオは必死に料理を頬張っており、何だかハムスターのようになっている。

 一方ラティの方は、背の届かないサリオの為に料理を取り分けていた。


「アレが一番の注目か……」


 ハーティの言う、『一番注目されている』とはサリオの事だろう。今も何人もの貴族たちが、遠巻きにサリオを見つめている。

 しかし、誰も話し掛けにいかないところを見るに、多分だが、こういった場でハーフエルフに話し掛けに行くというのは、面子を気にする貴族にとっては躊躇うモノなのだろう。


 単純な戦力としても、そして頭上で輝いている”アカリ”の有効性からも、貴族たちはサリオを欲しいはずなのに。


 そしてサリオを気にしていない者たちは、サリオの有効性を知らないか、もしくはまだ把握していない者たちなのだと感じた。

 『何でココに子供が?』といった表情で、ハムスター化したサリオを見ている。


「ぎゃぼー! これ凄い美味しいですよですラティちゃん」

「あの、サリオさん。もっと取り分けますか?」

 

「はい、お替り欲しいです!」


 ( ホント、何やってんだか…… )


 サリオはそんな熱視線に気付いていないのか、全く気にした様子はなく、ラティから、料理の盛り付けられたお皿を受け取っている。


「はは、何だかあの子は大物だね。あれだけの視線を気にしていないんだから――おっと、そろそろ戻らないとだな。僕の方にも熱い視線が来ているよ」

「へ? あ、ああ……なるほど」


 ハーティが目線で示す先には、咎めるような目でこちらを見ている三雲がいた。

 言葉(ことのは)に殺到する人が増えたのか、やって来る人の対応で一杯一杯な様子だ。


「じゃあ僕は戻るよ。取り敢えずガレオスさんの真似をして、アイドルの握手会みたいなことをやってくるかな。じゃあまた後で陣内君」

「はい、頑張って捌いて来てください」


 『まぁ握手はさせないけどね』と言い残し、ハーティは三雲の元へと向かった。


 俺は一人になり、再び見回してみれば、どの勇者も囲まれたまま。

 上杉の方などは――。


「おう、背中の傷は勇者の恥だからな。俺は真っ向からあのデカいヤツと向き合ってよう。こうやってガっといって、んでガッキーンって感じで相手にしてやってよう。マジでガガガって感じだったんだよ」

    

 身振り手振りで、某有名なミスターなような事を言っている上杉。

 俺の記憶が正しければ、確か上杉は背中をガッツリと抉られていたはず。

 

――アイツ、素で忘れてんのかな?

 結構深そうな傷だったはずだけ――ッ!? だと思ったよ、

 ……やっぱ来てたか、秋音ハル、



 何食わぬ顔で、メイド服を着た秋音ハルがこちらに歩いて来ていた。

 周囲の奴らにどう映っているのかは分からないが、誰一人気にした様子はなく、誰にも呼び止められることもなく俺の前までやって来た。


「すげえな、マジで誰も気付いてねぇよ」

「だが陣内陽一。やはり、お前だけにはわたしと判るようだな」


 勇者であり暗殺者の、秋音ハルが再び俺の前にやって来たのだった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字などのご指摘も頂けましたら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ