決戦、城の中庭
すいません!
遅れましたー;;
城内の一部が開放されて祝勝会が行われていた。
城の中庭というべきか、正門から少し歩いた広場でそれは開催されており、そろそろ日が沈む頃だからか、無数の”アカリ”が光を放っていた。
てっきり室内で行われるものだと思っていたのだが、参加者の人数などを考慮してなのか、会場は屋外だった。
その会場の広さは、野球場のグラウンドよりも少し広いぐらいの広さだった。
そして”アカリ”は手軽に作り出せる為か、かなりの数が空に漂っており、会場が薄暗いという感じは一切無かった。
一番高い位置には、見慣れた光量を放っている巨大な”アカリ”が浮かんでいる。
「なぁ、あれってサリオの”アカリ”だよな……」
「あの、そのようですねぇ」
( サリオはこれで呼ばれたのか? )
俺はその”アカリ”から視線を下ろし、今度は中庭へと目を向ける。
中庭に用意されたテーブルの上には、次々と豪勢な料理が運び込まれて来ていた。
テレビなどで見た事がある、いかにもパーティといったような光景だった。
だが視界を横に逸らすとそこには、元の世界の縁日などで見た事がある、数々の屋台らしき物が並んでいた。
辛うじてパーティっぽい雰囲気だが、もし提灯などが用意されていたのなら、間違いなくお祭りの方に見えていただろう。
「歴代どもの影響かなぁ……」
俺はそう呟きながら辺りを見渡す。
「それにしても広いな……」
「はい、こちらの方に来た事はなかったですからねぇ」
見渡す先は、千人ぐらいは優に収容出来そうな会場。
実際にどれだけの人数が参加するのかは不明だが、かなりの規模である事だけは判った。
最初はあまりピンと来なかったが、人が増えて来るにつれてそう感じた。
だが、まだ知り合いの姿は見えない。
俺はその知り合いの事を考えながら、ここ数日の事を思い出す。
結局ユニコーンは、物語で語られる希少種のように探し出す事は出来なかった。
そして秋音ハルの方もアレから会っていない。
秋音ハルの事は、頭の柔らかそうな連中には話しておいた。
葉月、言葉、三雲、赤城、下元の5人に。上杉と小山は馬鹿そうなので保留した。
霧島は、色んな意味で予想が付かないので保留……。
そして、八十神と橘には嫌な予感しかしないので話すのは止めた。
因みにこの方針には、赤城と三雲も賛成だった。
ただ、秋音ハルが暗殺者をしているというのは伏せておいた。
実際にそれを実行しているところを見た訳ではないので、何となくだが控えたのだ。
しかし、秋音ハルがフォールベルという偽名を使っている事や、姿を偽装出来る事まで伏せておくとマズイので、それは明かしておいた。
半数はピンときていなかったが、葉月と赤城は察していた。
赤城の方からは、『ドライゼンが追い切れなかった理由はこれか……』とこぼしていた。
情報屋の異名を持つドライゼンと言えど、あの秋音ハルは追えなかったようだ。
そして俺は、この事をギームルにはまだ話していない。
同級生である勇者には伝えやすいが、異世界人であるギームルには躊躇いがあった。
これは話しておいた方が良い案件だという事は判っている。
むしろ話しておかねばならないモノだろう。
ギームルならば、秋音ハルがフォールベルだと知れば、彼女が暗殺を行っているということにきっと行き着くだろう。
そしてギームルが、それをどう判断するのかが少し怖かった。
「はぁ、どうすっかなぁ~」
「あの、どうなさいました、ご主人様?」
「いや、ちょっと考え事」
「そう、ですか……」
俺の誤魔化すような返事に、深く追及はしてこないラティ。
その彼女は、俺の背後を守る位置取りをしながら周囲を探っていた。
( そりゃ警戒するよな…… )
俺とラティの今日の服装は、フル装備であった。
流石に武器の持ち込みは出来なかったが、俺は黒鱗装束、ラティは深紅の鎧と深紅色の外套を纏っていた。
今日の祝勝会には、ある意味では主役とも言える冒険者たちが多数参加している。
出来れば正装で参加して欲しいところだろうが、それを持っている者はほとんどいないらしい。一応貸出もしているそうだが、それを嫌がる冒険者が多く、その結果、普段の格好での参加を認めたそうだ。
そのおかげで俺は、今日の祝勝会にフル装備で参加する事が出来た。
この祝勝会には、ボレアスの者が参加すると聞いていたので、この配慮は本当に有難かった。
そしてボレアスが来ると聞いたので、ラティは俺を守る為に参加した。
当初ラティは、自身の【蒼狼】の影響を考えるに、この祝勝会には参加しない方が良いと決めていたそうだが、今はフードを深く被り辺りを警戒している。
フル装備もそうだが、目深くフードを被っているので、何人かが遠目にラティを見詰めている。
俺はそれを見ながらふと思う。もしこのフードを取ったらどうなるのだろうと想像する。
【蒼狼】に内包されている【魅了】と【犯煽】の効果。
猛獣の群れに生肉を放り込むなど生温い、砂鉄の中に強力な磁石を入れるような行為だろう。きっとそれは――
「もっさもさになるだろうな……もっさもさに」
「あの、ご主人様? 今、本当にどうでもよい事を考えておりませんか?」
閑話休題
日が完全に沈み、空に浮かんでいる”アカリ”の主張が強くなった頃、それに合わせるかのように会場が騒がしくなってきていた。
そしてその騒がしさの震源地は、この場にやって来た勇者たちだった。
「おおお! 聖女の勇者様、この度は我が町を浄化して頂き、誠に誠にありがとうございます」
「ハヅキ様に癒して頂いた町として、必ずや復興しますでしょう」
「ええ、全くです。むしろ、浄化して貰った所は逆に神々しさが御座います」
葉月に群がる貴族や商人らしき人々。
一応護衛らしき者が周囲を守っているので、囲まれて動けなくなるといった様子は無さそうで、葉月の方も息苦しそうにはしていなかった。
その葉月は、普段着ている法衣ではなく、白を基調にした、なんたらドレスというモノを着ていた。
両肩が剥き出しのタイプで、グッと握ってズッと下に引っ張ればズルンといきそうなドレスだ。
ただ、腰回りがフィットしているので、さすがにそれはないかもしれないが。
ドレス姿の葉月は、法衣を着ている時の神々しさは無いが、元から飛び抜けた華のある可憐さがある。その彼女がふわっとした格好をしているのだから、本当によく似合っていて素直に綺麗だと思えた。
だからだろうか、その姿を一目見ようと次々と人が群がってゆく。
そして人が群がる事で、より姿が見えなくなり、何やら変な悪循環のようになっていた。
「あの、ハヅキ様の所が、何やら大変なことになっていますねぇ……」
「だな、もうちょっと時間が経たないとどうしよもないか。それにあっちも」
俺は葉月に声を掛ける事を諦め、彼女を見ようとしている人だかりとは別の人だかりの方へと目を向ける。
その別の人だかりは、葉月の作っている人だかりに匹敵しており、その中心はやはり勇者だった。
何やら色々と話し掛けられてはいるが、眉を八の字にしている勇者。
その勇者を守るように、露骨に威嚇している冒険者と、女の子の勇者が一人。
守られている勇者は、女神の勇者である言葉。
そしてそれを守っているのは、まさに彼女を守る絶壁とも言うべき勇者三雲と、三雲組のメンツ。
三雲は淡いクリーム色の簡易ドレスを着ており、胸元の大きなリボンが色々と頑張っている。
言葉の方は、肩や首元は少し大きめに、他の部分は控え目なフリルが付いた、落ち着いた印象を与えるスミレ色のドレスを纏っていた。
左側から胸元に流している黒髪と、上品な色合いをしたスミレ色が何とも言えない色気を出していた。
そしてふと気が付く、少し離れた位置に、まるで隔離されたような集団がいる事に。
その集団だけは、物欲しそうな表情で言葉の方を見詰めているが、その集団の前にだけ、三雲組のメンツが壁を作っていたのだ。
( あ、あれってエウロス側か? )
露骨なとおせんぼをする三雲組。
特にドルドレーは、貴族であろう連中にガンを飛ばしている。
( そうか、三雲組なら警戒をするよな…… )
その後も次々と勇者たちが姿を現してきた。
伊吹は普段の格好で、赤城は元の世界の制服を着こみ、上杉は似合わないタキシード姿でやって来ていた。
しかも上杉は、自身の嫁であるセーラと腕を組んで歩いており、俺は後で祝ってやらねばいけないと、そう心に誓う。
そんな大事なことを心に誓っていると、脚をクイクイと引っ張られた。
ちょっとした違和感。俺とラティがいる場所は隅の方だ、こんな壁の花? 状態の俺の元にやって来る者などいないと思っていたのだが。
「お? サリオか。へぇ~~」
「あの、サリオさん、とても良くお似合いですよ」
「えへへです」
やって来たのはサリオだった。
サリオは、ららんさんとアムさんに連れられて、俺たちとは別でこの会場に向かっていたのだった。
サリオはいつものローブ姿ではなく、お子様が誕生日会などで着そうな感じの、絵本などに出てくるお姫様のようなピンク色のドレス姿だった。
そして頭には、ドレスの色に合わせた桃色の花冠。
誰の指示なのかは判らないが、その花の冠でサリオの尖った耳が覆われており、首元の方も、赤いリボンをすることで、奴隷の首輪を上手く誤魔化していた。
「にしし、どうや、似合っておるやろ?」
「ららんさん」
――あ~~、なるほど、
サリオの衣装はららんさん達が用意したのか、
確かにこれならハーフエルフだってバレ難いな、
奴隷の首輪の方も、本来隠すのは違反のはずだが、首輪を完全に覆っている訳ではないので、きっと大目に見てくれるだろう。
それに、この祝勝会でそれを指摘するというのは野暮というもの。
この気遣いに対し、俺は素直に感謝する。
そして気付くと、アムさんとギームルまでもやって来ていた。
何か言うべきかと、躊躇いながらも口を開こうとしたその時――。
「王女アイリス様のご入場ですっ!」
歓声と共に、王女アイリスが一人の男性にエスコートされて姿を現した。
「――ギリッ」
歯ぎしりの音が聞こえた。
俺はその音が気になり、音の方へ視線を向けるとそこには、気難しいを遥かに超えた顔をしたギームルがいた。
再び視線を前に戻す。
王女アイリスの後ろには、ニヤニヤと得意げな顔をした鼠顔の男。
そして王女アイリスの横には、なんと勇者下元がエスコート役として立っていたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字のご指摘なども。