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復讐の時いまっ

 実は昨日、ギームルは俺に、もう一つのあることを伝えていた。


 それはギームルによって止められていた、俺のギルドへの登録。


 ラティと出会ってからすぐ、俺たちはギルドへと登録に向かった。

 だがその時は、ギームルの妨害によって冒険者ギルドには登録は出来なかった。しかし昨日、それを解除したとギームルが伝えてきたのだ。


 今さらではあるが、こうして俺は、冒険者ギルドに登録が可能となった。


 そしてこの話をされた時に、ギームルから冒険者ギルドの事を少し聞かされた。

 正直、あまり興味がある話ではないが、知っておいて損をする訳では無いと思ったので、俺はその話を不承不承ながら聞いた。


 冒険者ギルドとは、国が裏で管理する機関だった。


 冒険者たちは正にピンキリである。

 優れた者や適性がない者、志がある者や刹那的な者。

 要は、上位の者は問題がないのだが、その真逆の者は問題があるのだという。


 魔物を倒していたりするので、一般の人よりかは遥かに強く、武器を扱った場合はその差が更に開くのだ。


 真面目に魔物と戦う者なら問題はない。だが、そうで無い者や、魔物との戦いに恐れをなした者たちが、街や村などでそこそこやらかしてしまうそうだ。

 特に金の無い者ほどその傾向が高く、それはある意味、街に入れる魔物のようなモノになってしまうそうだ。


 そんなならず者が増えては困るので、それを管理するのが目的で冒険者ギルドが存在しているのだという。 


 冒険者たちに仕事を斡旋し、悪さをしなくとも生活が出来るようにしているのだと。


 前に、不自然な程の高額な買い取りだと聞いていた【大地の欠片】だが、あれは高く買い取りをする事によって、冒険者たちの魔物を倒す意欲を上げるのが目的だったらしい。


 多少は薬品ポーションなどが値上がりをするが、基本的にそれに頼るのは冒険者側なので、それはそれで仕方なしとしたそうだ。


 内情を知ってみると、意外にも冒険者ギルドには浪漫が無かった。

 むしろ逆なのかもしれない。



「よし、入ってみるかラティ」

「あの、はい……」


 俺は約二年ぶりに、冒険者ギルドの入り口を潜った。

 開けっ放しの扉から中へと入り、以前と同じで、受付のカウンターへと目を向けた。


「あっ」

「――っ!?」


 向けた視線の先には、おぼろげな記憶だが、見た事がある女性が座っていた。

 相手も俺のことを覚えていたのか、明らかに動揺しており、縦長な瞳孔をした目を見開いている。 

 

 俺はその人物が担当しているカウンターへと足を進め、目を合わそうとしない受付の前に座った。


「え~~っと、すいません。ギルドに登録出来るかどうか確認に来たのですが」

「は、はいです……えっと、あのステータスプレートを見せて貰っても宜しいでしょうか? ですにゃ」


 露骨に付け足す語尾。あの時と変わっていない様子。

 顔を伏せ気味にしたままで、こちらを上目遣いで窺っている。

 以前よりも髪が伸びたのか、毛先は肩の辺りまで伸びている猫人の受付。その変化に時の流れを感じる。


「あ~~、今日は確認に来ただけだから、ステプレは見せられないな」

「え……?」


 ( アレは見せたくねぇ! )


「なあ、見せなくても判るよな? もう解除されているんだよな?」

「あ、はぃ……解除との報告を受けております……にゃ」

 

 相手の顔色から、既に連絡が届いている事が判る。

 そして、俺の事も判っているとも判断が出来たので、俺は強引に話を進めた。


「じゃあ登録することが出来るようになったんだよな?」

「はぃ……」


「あ、ちょっと気になったんだけど、登録すると何か縛りってか、義務? 的なモノがあるんだっけか?」

「あ、はい、登録された方のレベルによって変わります。強制という訳ではないのですが、それなりにお願いする依頼などが御座います」


「確か、防衛戦とかの依頼だっけか?」


 この辺りもギームルから聞いていた。

 ギルドに登録した冒険者は、強制的ではないが、半強制的に仕事の依頼が来ると。

 それは纏まった人数が必要な依頼や、人の集まり難い仕事などを、緊急ミッションという名目で依頼されるという話を聞いていた。 

  

 いま思えば、東の広範囲大移動防衛戦はそれだったのかもしれない。

 

「はい、緊急を要する防衛戦などの依頼が来ることが御座います」

「質問、それに参加しない場合は何かしらのペナルティーとかあるの?」


「え、いえ、ペナルティーという程ではないですが……【大地の欠片】の買い取り価格が下がるとか、他の依頼料が少々引かれる程度です……、あっ! でも参加さえして頂けましたら良いのですから」


「うへっ、ダルっ!」


 カウンターに肘をつき、露骨に悪態をつく俺。

 その姿は、ネチネチと難癖を付けてくるクレーマーに見えないこともない。

 だからだろうか、その時、横から声を掛けられた。


「あれ~、どうしたのミアちゃん? ひょっとしてお困りかな~?」


 カウンターから少し横に離れた場所に併設されている、ギルド登録者用の酒場から、男が(テンプレ)そう言ってやって来た。


 その男の登場に、猫人の受付は伏せ気味だった顔を上げ、瞳には期待の色を強く見せている。


「あ、カイザーさん! 実はこの方が……」

「え? なになに~? この黒いヤツに絡まれてんの~? それならおれが――ッ!?」


 流れるようなお約束(テンプレ)が始まったかと思ったが、カイザーと呼ばれた男は、俺の顔を見るなり自身の右脚の付け根を押さえだした。


「あ、っが……足刈り!? 何でお前が此処に? お、おれは思い出した急用! じゃ、じゃあまたねミアちゃん。急用が急がないとだからっ」

「えっ!? カイザーさん? えぇ……」


 カイザーと呼ばれた男は、右足を若干引き摺るようにして去って行った。

 それを呆然と見詰める俺と受付の猫人。何があったのだろうと思っていると、後ろに立っていたラティがそっと耳打ちしてきた。

 

「あの、ご主人様。今の方は確かリーシャ様が居た村で、ご主人様に脚を刺された方かと」

「ああ、そういやそんなのあったな。刺された後に必死になって両手を上げてたヤツかな? あん時は必死過ぎて顔までは覚えてねえや」


 懐かしい事を思い出した。

 あの時の俺は、手加減などが全く出来ない頃だったので、襲ってくる相手を無力化するために、よく脚の付け根に槍を深々と突き刺していた気がする。


 いま思うと、かなり酷い事をしていたものだ。

 いまの俺なら、加減をしてもうちょっと浅く突き刺すことが出来るだろう。


「あ、あの、あのスミマセン、あの時は……にゃ」


 今のやり取りで怯えてしまったのか、顔を青くしている受付の猫人。

 語尾の『にゃ』があったり無かったりと、完全に動揺している。


 ギルドに寄ったのは偶々で、ユニコーン狩りをしていたら偶然前を通りかかっただけのつもり(・・・)


 こうやってクレーマーのように脅すつもりなどはサラサラ無い。

 だが――


「そういやさ、奴隷は登録出来ないんだよな?」

「は、はいですにゃ。奴隷は冒険者ギルドに登録出来ない事になっています、――にゃ」


 奴隷が登録出来ない理由も聞いていた。

 と、言うより理解が出来た。

 奴隷に登録をさせて、登録して得られるメリットだけを得て、デメリットとなる部分を回避するなどの、そういった不正などが出来てしまうからだ。だけど……。


「狼人は登録出来るよな? 冒険者ギルドに登録・デ・キ・ルよな?」

「あっ……いえ、はぃ……できます……」


「なぁアンタ、前に狼人は出来ねえみたいな口ぶりだったよな!!」

「ひぃっ!!」 


 その後はグダグダの酷い展開だった。

 ドスを利かせた声で受付の猫人を問い詰め、俺は受付の猫人を軽く泣かしてしまったのだ。


 すすり泣く彼女を見かねてか、他の職員らしき男がやって来たが、俺の姿を確認するなり、『ひぃ、必殺(フェイタル)!?』と怯え、次に上役っぽい男が姿を現したのだが、『げぇ! 孤高の最前線(ボッチ・ライン)!?』と逃げ出したのだ。


 俺としてはちょっとした復讐つもりだった。

 ギームルや、他のメンツに確認したところ、狼人でも冒険者ギルドに登録出来ることを知ったのだ。

 ただ、狼人を酷く差別する風習から、職員などが勝手に自分の判断で断るケースがあるらしい。

 そう、あの時の対応は正にそれだったのだ。 


 そしてその結果、ラティにとても悲しい表情をさせてしまった。

 当時は、俺の迂闊な行動が招いた結果だと思っていた。だが違っていた、アレは相手の悪意によるモノだったのだ。


 誰も咎める者がいないから起きた暴挙。


 しかし、昔はともかく、今はそこまで酷い差別はない。

 さすがに北や東では、まだ狼人を差別する風習が根強く残っているらしいが、南と西ではほとんど薄れている。むしろ一部では大人気だ。

 

 そしてその間であるアルトガル(中央)、ここは例の芝居などが流行っているのだから、そんな風習をぶち壊すために動いた。のだが……。



「まぁ、本当はただ単に腹が立っただけだけどな」

「あの、ご主人様?」


 受付の猫人に謝罪をさせた後、俺とラティは外に出た。


 真の目的は凹ましてやりたかっただけ。

 昨日、この話を聞いてかなり腹が立ったので、俺は冒険者ギルドを訪れたのだ。

 

 受付の猫人が居なければ帰るつもりだった。

 そして居たものだから、ついつい厄介なクレーマーと化してしまった。


「さてと、ちょっと寄り道したけどエルネ探しを再開するか」

「はい、ご主人様。…………ありがとう御座います、ご主人様」


「うん?」

「きっとこれで心が晴れてはいけないのでしょうけど。……正直申しまして、スッとしました」


 そういって困ったような笑みを浮かべるラティ。

 何となくその気持ちは解る。俺がやったことは褒められる事ではない、どちらかと言うと間違った事だろう。

 

 だがそれは、感情というモノを無視した場合の話。

  

 感情を込めた場合は、決して間違いでは無いと思う。



「あの、ありがとう御座います、ヨーイチ様」



 その後、俺達はエルネ探しを再開した。

 だが結局ヤツは見つからなかった。


 もうこの城下町にはいないかは不明だが、手掛かりとなるモノは全く見つからずだった。

 しかし、一人の女性が逃走し切れるモノではない。もしかすると、誰か協力者がいるのかもしれない。



 そしてそのまま数日が過ぎ、祝勝会を行う日を迎えたのだった。 


読んで頂きありがとう御座ます。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです!!


あと、誤字脱字なども教えて頂けましたら……

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