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似ている……

遅くなってすいませんです;

 秋音とのやり取りは、意外と大事になってしまった。


 あの場に駆け付けて来た冒険者たちは、陣内組、伊吹組、三雲組、小山組だったのだ。


 秋音が偽装していた殺気は凄まじかったらしく、【索敵】持ちの視点からだと、とんでもない数の暗殺者がいると察知してしまったらしい。

 ラティ曰く、殺気の森に入り込んだような感覚だったとか。


 本当は誤解なのだが、錬度の高い集団と褒めるべきなのか、既に報告へと走った者もおり、俺が暗殺者に襲われたとの情報が流れてしまったのだ。


 あれはただの手合わせだったのだと、そう誤解を解こうとしたのだが、流れてしまった誤報を全て止められる訳もなく、なんとギームルが確認にやってきた。


 一応、誤報だということは聞いていたそうだが、それでも確認という事でやって来たらしい。


 そしてその後ギームルは、現在の政治の情勢を語り始めた。

 ギームルが伝えにきた内容は、駄目な方の強面(バウマン)の処遇。それは解りやすく言うと、酷い尻尾切りだった。


 ただ切り捨てるのではなく、様々な不手際を押し付けられての尻尾切り。

 あの強面(バウマン)は、鼠顔の男(宰相)のやらかした不手際までも押し付けられて、全てを背負わされ一人更迭されたのだという。


 もう既にエウロス()へと帰されており、このアルトガル(中央)にはいないそうだ。


 同情などするつもりはないが、なかなかの悲惨さだ。

 ただ、ギームルの掴んだ情報によると、強面は素直にそれを受け入れたそうなので、途中の森で不幸な事故に遭う事はないだろうとのこと。

 

 もし抗議でもしていれば、帰り道の途中の不幸に見舞われていただろうとギームルは言っていた。


 その後の後任は、出来る方の強面(ガーイル)が再任したそうだ。

 

 将軍という任を解かれた後も、民のため、国のために一人で戦った男。

 その後、恐怖のあまり気絶してしまったバウマンに代わり、魔王との戦いで指揮を執ったことが評価されたのだという。


 ギームルの見解によるとこれは、一度は更迭された者だが、その働きを正当に評価して再び将軍の地位に戻した私(宰相)は、『懐が凄い広い』というアピールだろうとのこと。


 こういった美談は受けが良いので、それなりに効果があるのだとか。


 結局鼠顔の男は、魔王との戦いでの失態の部分は全てバウマンに押し付け、そしてヤツを切り捨てたのだった。


 嫌な話だが、上に居座り続けるには、こういった強かさが必要なのだろう。

 本当に反吐の出る話だが。


 もしかするとギームルは、今日これを伝える為に、元から来るつもりだったのかもしれない。


 それと、手合わせした相手が、勇者秋音ハルだったというのは伏せたままにしておいた。

 勇者の一人が暗殺者など、どんな余波があるか分からないので……。





          ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 ギームルが帰り、夕食を終えた後はそのまま部屋に戻った。

 結局ユニコーンを見つける事は出来なかった。

 浄化作業している葉月の方にも姿を現しておらず、この広い城下町から、なんの情報も無しに人を探すというのはやはり困難なのかもしれない。


 それなのに――。


「秋音とは会ったんだよな……」

「……ッ」


 正確にはあちらから接触して来たのだが、俺はレアな勇者と出会った。

 正直、勇者と呼べるような感じではなかったが、戦闘センスはずば抜けており、センスだけで言うならばトップかもしれない。


 探り合いの手合わせをした、秋音にはまだ先があるだろう。少なくとも、ラティが自分に匹敵すると言ってた【天翔】は使っていなかった。

 虚を突く鋭い動き、そこに空中まで足場として使うのであれば脅威だ。横の動きに慣れさせて、急に縦へと動かれたら見失うだろう。


 そして俺よりも先を行った【加速】の使用方法。

 攻撃に勢いをつけるや速く動くだけではない、速さを利用した体重の乗せ方。

 踏み込みの踏み足を【加速】する事で、瞬発的に凄まじい体重を乗せていた。

 

――あの鉄山はヤバかったな、

 女の子の体当たりであそこまで吹き飛ぶとか冗談じゃねえぞ、

 軽自動車に匹敵するんじゃねえのか? ちょっとしたWS(ウエポンスキル)並みだったよな、


 

 ほとんど一方的に押された手合わせ。だが、得るモノはあった。

 秋音は【加速】の【固有能力】だと明言はしていなかったが、たぶんアレは【加速】だろう。だから俺にもそれが出来るはずだ。


 速さだけではない、それに重さを乗せた一閃を。

 勢いをつけるだけではない、もっと上を目指した穿ちを。

 

 自己流の俺には、あれは貴重な手本だった。


 それと――、秋音の真意。

 これがどうにも謎だった。

 一番の目的は、俺に後藤修二のことを訊ねる事。


 状況から察するに、秋音は間違いなく城に潜入していたのだろう。

 そしてあの偽装の能力があれば、どこでも入り込めただろうし、誰からでも情報を聞き出せたはずだ。


 だから後藤の死を知って、その裏取りとして俺の元に来たのだろう。

 あの時だけは、秋音からはその想いが強く感じれた気がした。

 

 それ故に、俺からの質問に対し素直に答えてくれていたと思う。が、その後がおかしかった。秋音らしくないと言った感じだった。


 あの時の短いやり取り。元の世界の時の学生時代。

 秋音は熱くなるタイプとは思えなかった。もっとクールなタイプ。

 喩えるならば、ラティのようなタイプだという印象だったのだが――。


「なんかムキになっていたな……何でだろ?」


 ( 全く心当たりがないって訳じゃないけど…… )

 

「あの、わたしには少し解ります」

「へ? わかるのかラティ?」


 俺の膝に頭を乗せ、耳の根元辺りをコリコリとされて、その心地良さから目を細めていたラティが、俺の心を読み、そう声を掛けてきた。

 

 細めていた目に思慮の色を宿し、俺の疑問に彼女が答える。


「多分ですが、きっと孤独だったのでしょうあの方は。わたしと同じで……」


 まず語られたのは抽象的な答え。

 俺は目だけで相槌を打ち、無言で続きを促す。

 

「あの時は殺気に気を取られていて気付けませんでしたが、今なら解る気がします。あの方は全てを独りで抱えていたのだと思います……」


――独りで抱えている?

 ああ、確かにどこにも所属していない感じだったな、

 していたとしても仮って感じだろうし、北よりって感じじゃなかったな、



「よく分かりませんが”帰る”? 方法とやらを探していたのですよねぇ?」

「そうらしいな」


「状況や立場などは違いますが、あの方とわたしは似ていると感じました」


 ラティは俺の膝上に頭を預けたままで、何処か遠い目をした。

 今ではなく、昔を思い出しているような瞳。


「誰かに寄り添うことを諦め独りで、ただただ独りで……この先ずっと独りだけだと。――でもわたしは救われました。絶対にそんな時は訪れないと思っていたのに……救われました」


 膝に頭を預け、俺の脚にしなだれかかっているラティの腕に少し力が入る。

 

「でも、あの方は……居ないのでしょう。会話の流れからだけですが、あのゴトウという方があの方にとってかけがえのない人だったのでしょうねぇ」

「…………」


 ラティが何を伝えたかったのかは、漠然とだがわかった気がした。

 俺もそれには薄っすらとだが気が付いていた。


「それなのに、それ(・・)が目の前に居たのですから……嫉妬ではないでしょうねぇ、もっと別の葛藤? とは違いますねぇ……孤独への裏切りでもない。すみませんご主人様、何と言ったら良いのか、あまり適切な言葉が浮かばず」

「いや、いいよラティ。何となくだけど判ったから」


 ( 視点を置き換えれば…… )


 秋音は一人だけで動いている。

 俺たちは魔王を倒すことが目的。それが達成出来れば全てが解決する。

 だが秋音は、目的への道のりが勇者たちとは違う。


 もしかすると秋音は、最初から王女の言う事を信用していないのかもしれない。

 しかしそれを否定し切れる程の証拠はないはず。3年後に発生すると言われている魔王を倒さない限りは、目的である帰還のゲートが出現するかどうかを確かめる術がないのだから。


 しかし帰る方法を探している過程で、”貴族の真意”という何かを知って、その後に後藤の顛末も知った。


 ただの孤独とは違う、もっと深い孤独へと変わったはず。

 そんな心境の秋音に、今の俺がどう映ったのか。

 

 ( イラっときたのかな…… )


 俺は秋音の視点に立つ事で、解るはずのない仮説を立てた。

 合っている気もするが、まだ足りない。もっと何かが必要で、まだ――。


――あ~、西に行ってみるか、

 西のもっと奥の隠れ里か、そこに行けば……あっ!

 そうだ、ついでに世界樹の切り株に寄ればいいな、それなら……



「あ、あの、ご主人様」

「うん? どうしたラティ?」


 思考に耽っていたが、それを遮るようにラティが話し掛けてきた。

 瞳をこちらに向け、彼女は躊躇い気味に口を開く。


「あの、先程はあの方がわたしに似ていると申しましたが、少し違いました」

「へ?」


「あの方は全てを偽り、全てを隠そうとしています。ですがわたしは全てをさらけ出し、全てを知って欲しいと思っております」 

「ああ……なるほど」


 誰に? などとは訊かない。

 誰に知って欲しくて、誰にさらけ出しているのかなどは知っている。


 秋音は姿を偽っている。

 そして感情さえも偽装している。


 ラティは違う。彼女は全てを俺に見せている。

 今なんて、彼女自身の目の届かない場所まで知っているし見てもいる。

 そして心の中は常に流れ込んで来ている。しかも――。


「あっ」


 しかも、俺の心の中もラティへと流れている。

 だから今、俺の考えていた事が彼女へと伝わり、ラティは恥ずかしそうに俺の膝へと顔を伏せてしまった。


 俺はラティのその仕草に何とも堪えられなくなり、彼女の髪をわしゃわしゃと乱しては、手櫛で梳いて整えたりを繰り返したのだった。




 ただその後、何故か葉月がやって来てしまったので、夜のずいずいずっころばしは無しとなった。 

 



         閑話休題(早くノトスに帰りたい)




 次の日。

 俺たちは再びユニコーン狩りへと向かった。

 そしてその過程で、ある場所に辿り着いた。


 その辿り着いた場所とは――


「久しぶりに来たな……もう二年ぐらい前か」

「ええ、そうですねぇ……」


 俺たちがやって来たのは、城下町にある【冒険者ギルド】であった。

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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[気になる点] ~ そして過程で、ある場所の目の前に辿り着いた。 その過程で、 かな? [一言] 秋なのか春なのかはっきりしない勇者 だから名前みたいに紛らわしい能力を持っているのか
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