舞台の裏で暗躍する者たち
裏で暗躍する者たちです。
すいません、閑話を挟んでしまって;
ガヤガヤ喧騒轟々わっちゃわっちゃしている店内。
食事と酒を提供しているその店は、唐突に訪れた特需によって賑わっていた。
身なりの良い者やそれに従う者、それに小さな男女のカップル。
そして、何処にでもいる冒険者のようでありながら、それらとは明らかに違う空気を纏った者たちがわっちゃわっちゃしていた。
一人の冒険者が不穏な発言する。
「アイツは呼び出しなんかに応じるようなヌルい奴じゃねえぞ? どうやってアイツを呼び出すんだよ。いくら待っても屋上に来なかったし」
その不穏な発言に、隣の冒険者が返答する。
「おれも裏で待っていたが来なかったな。だが今度は策がある、しかも鉄板のヤツがな」
その発言にまた別の冒険者が続く。
「あの策なら間違いないぜ」
さらに別の冒険者が続く。
どこか道化染みた風貌の冒険者がそれを答える。
「ああ、階段に行こうと誘えばヤツは堕ちるっしょ」
「「「「天才かよ!!」」」」
「しかしよぉバルバス。それだとヤツを天国に連れて行くだけにならないか? どうやってアイツに地獄を見せるんだ? 流石に階段で暴れるとレプソルの二の舞になるぞ?」
否定的な発言に、細身で鋭さを感じさせる冒険者が答える。
「そこは抜かりないぜ。…………”瞬迅”にそれをリークする」
「――ッ鬼かよ! なんて恐ろしい事を思い付くんだよサイフアは」
「ふっ……、オレ様なんてまだ甘い方さ、ドルドレーのヤツはもっとエグい事を考えているぜ」
水を向けられた大柄の男が、巌のような雰囲気を醸し出しながら口を開く。
「ああ、おれはコトノハ様にもリークする」
「悪魔かよ! いや!? そうすればコトノハ様も目を覚ますかもしれないか? 確かに悪くないな……よし、それなら俺はモモちゃんにリークするぜ!」
「ふざけんな! 人としてやって良い事と悪い事があんだろうがっ! あんな無垢なる存在を穢すつもりか? そんな事を教えんな!!」
「グリスボーツ、お前には人としての心が無いのか? あの天使を巻き込むとか貴様は悪魔か? すぐコケるくせに」
「この人でなし~」
唐突に責められた男は慌てふためき――。
「すまん、今の自分の失言だった……わりぃ、ちょっと調子に乗った」
「ほう、なら誠意を見せて貰おうか」
「ああ、見せて貰うぜ」
「まぁまぁみんな、ここは階段を奢って貰うでいいっしょ?」
「「「「「賛成~!!」」」」
「は!? お、おい、この人数を一人で奢れってか? いくら掛かると――」
「馬鹿野郎! 魔王との戦いで散っていた奴らはもう冒険に行けねぇんだぞ。だからよう、オレ達はアイツ等の分まで冒険に行ってやらないとだろ? 冒険によう……」
「そっすよ、あいつ等の分まで行ってやりましょうっしょ」
「ああ……そうだな。ヤツを罠に嵌める階段の下見ってことで行くか」
「いきやしょう階段に。可愛い猫人とか犬人がいる階段に」
「は? ちょっと待てバルバス。オレ様は綺麗なお姉さんがいる階段がいいんだが? 大体よう、今どき可愛い系とか猫人とかないわ。趣味が悪くねえかオマエ?」
険悪な雰囲気を放ち合う二人。
そこに割って入るように――。
「おいおい、お前達。なにを訳の分からん事を言っておるのだ? まずはデカさだろ? 1にデカさ、2にデカさ、34が無くても5にデカさだろ?」
「おいドルドレー。オマエ正気か? 見た目を重視しないとか」
一触即発の間合い。
チリチリと空間そのモノに火でも付きかねない空気が場を支配する。
だがその時――。
「おいおいおいおい、お前たちは大事なモノを忘れているがぜよ」
「む!? オマエはコヤマ組のアファ!」
「アンタ何をしに来たっしょ!」
「うん? だから大事なモノを思い出させに来たんだぜよ」
「あぁん? 大事なモノだぁ?」
「そうだぜよ。まずバランスだ。別に一つのモノが優れているのを否定するつもりはない。だがな、それだけでは駄目だぜよ。絶対にバランスが必要になるぜよ。例えば、どんなに素晴らしいモノを持っていたとしても、それを台無しにするモノを同時に持っていた場合は全てが駄目になるんがぜよ。おっきい事は良い事だ。だが考えて欲しいぜよ、形は? 色は? 張りは? そして好みは? 因みに俺は、クっと上向きが好きだ。そしてもっとも大事なこと……”貴賎なし”だろう?」
「はっ!? ああ、そうだったな……」
「貴賎なし……響いたぜ」
「く、オレとしたことがっ」
「コトノハ様とミクモ様に差はあるが……しっかりとあるよな」
「スマン、俺が間違っていた……」
「気にするなぜよ。それよりも行こうか冒険に……俺たちの冒険によおお!!」
「ああ、とびっきりの所にいこうぜ!」
「よし、ヘヴンフィールに行こう。あの階段ならこの人数でも問題ないはずだ」
「あのアルトガル最大の階段か!? ちと高いがどうせ驕りだ」
「行くぜ野郎ども!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」」」」
何故か店の大半の連中を引き連れノリノリで旅立っていた。
わっちゃわっちゃしていた店内は静まり返り、ある男女の会話が聞こえてくる。
「あや~~、何か騒がしい人達がどっか行っちゃったですよです」
「ん~~、なんか阿呆なこと言っておったのう。好きな人のモノなら何だって気にならないのにな……。あ! さりおちゃん、これそろそろ良いで。はい、お肉」
「あい、ららんちゃん。でもでも……お仕事は良かったのです? ローブはすぐに直しちゃったけどぉ」
「にしし、平気やよ。それよりもさりおちゃん、そろそろ生卵の追加いるやよね? すいませーん! 生卵3個追加~」
「がぉーん! 嬉しいですよです。ジンナイ様と一緒の時は、たまご3個までって言われるからしょんぼりだったです。でも、ららんちゃんは優しいのですよです」
「好きなだけ喰ろうてや。……しかし、じんないさんは何処に行っても愛されておるのう」
「はふはふ、――うん? 何か言ったです?」
「ううん、なぁでもないよ」
「ハテナです?」
この後コイツは、秋音の偽装した殺気に気付き、駆け付けました。