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対人勇者

コミケ行きたかった……

「貴族の真意?」


 唐突に言い放たれた言葉に、俺は漠然と聞き返す。


「そうだ貴族の真意だ。陣内陽一、お前はそれを知らないから、貴族に言われるがままに戦っていられるのだ」  


「はあ? ”俺が”貴族に言われて戦っている?」


――アホか!

 俺が戦っているのは仲間の為だ、

 俺は守りたいヤツの為に身体を張ってんだってのっ、



 これは胸を張って言える事だ。

 確かに依頼を受けて戦う事はある。だがそれは、金の為だったり誰かの為だ。

 間違っても貴族の命令などで戦っている訳ではない。それだけは無いと断言出来る。


 確かに、公爵(貴族)であるアムさんに言われて動く事はあるかもしれないが、しかしそれだって、貴族としてのアムさんの為にではなく、仲間であり、恩人でもあるアムさんの為に動くのだ。


 俺の行動の根源は、ラティや身内の為。

 あとあるとすれば、それは恩人である王女さまの為に動くぐらい。だから――。


「おい秋音。お前が何を知っているのかは知らねえけど、俺は貴族の為に戦ったりなんてしてねえよ! ったくアホか。そりゃ結果的にそんな風になる事もあるかもしれねえけど」

「ふん、そんな詭弁を吐きおって」


――ん? なんだ?

 急にイラつき出したなコイツ?

 いや、急というより後藤の話をしてからか……



「おい、秋音――」 


――いや、駄目だ、

 だからってそれ(・・)を指摘するのは間違ってんな、 

 ここは、



「――秋音、その貴族の真意とやらを言ってみろよ。何だよその真意って」

「ふむ、それを語ってやりたいところだが……わたしから語ることは出来ないな」


「はあああああ? 何だよそれ。……てめぇ秋音、お前は俺をおちょくってんのか? 明かすモノも明かさないで、一体何を言ってんだよ」


 思わず呆れて脱力してしまう。

 含みのあることを言い、その内容は明かさないのだから。

 正直、秋音はそういう事をするタイプには見えなかったのだから尚更だ。


「勘違いをするな陣内陽一。わたしからそれを明かす事が出来ないだけだ。だから、それを訊くことが出来る場所は教えよう」

「うん? 場所?」


「そうだ。西の最奥にある隠れ里だ。冗談のように巨大な木々が生い茂る森よりももっと西だ」

「冗談のように巨大なって……まさかあの森か!?」

「あの、それって……シャの町の先の先にある森では?」


「ふむ? 知っているのか。それなら話が早い――」


 俺は秋音から、”貴族の真意”とやらが聞ける場所を教えてもらった。

 そこは、以前行った事がある世界樹の切り株がある森よりも、更にもっと西へと行った場所だった。


 最西にある隠れ里、【サイセイの里】に住んでいるメギトラと言う名のエルフから話を聞けると秋音は言ったのだ。

 そのエルフから、魔王と貴族の事が聞けるというのだが――。


「あの、少し待って下さい。確かエルフの方は、昔の出来事を話すことが出来ないはずでは? 以前お会いしたことがある、タルンタと言うエルフの方がそうおっしゃっていたはずです」

「あぁ、そういやそんな事を言ってたな」

 

「いや、行けば判る。そして己で確かめて来るが良い陣内陽一」


 ラティの言うことをきっぱりと否定する秋音ハル。

 だが、タルンタは確かに話せないと言っていたはず。俺は再度確認をする。


「そうはいっても秋音。エルフは話せないって言ってたぞ?」

「ふむ、確かに簡単には口を割らなかったな。だがメギトラなら何も(・・)しなくても協力的だったぞ? だから問題ない」


「へ? おい、それって……」


――おい、コイツまさか……

 何か(・・)をして聞き出したって事か!?

 そういや、俺にもそうやって聞き出そうとしていたな、

 

 

 秋音ハルは俺にそう言い放ってから、何故か灰色のローブを脱ぎ始めた。


 ローブを脱ぎ、クラシックなメイド服姿になった彼女は、灰色のローブを【宝箱】に収納し、代わりに銀色の小手を取り出してきた。


「ん? 今度は何をやって?」

「ああ、最後の用事を済まそうと思って――なっ!!」


 突然右手を横に振り払う秋音ハル。

 俺は予備動作から察知する事が出来たが、隣のラティは完全に虚を突かれたのか、棒立ちのまま、放たれた魔法らしきモノを浴びてしまった。


「ラティ!?」

「くっ!?」


 ラティの頭だけを覆うように発生した黒い靄。

 普段のラティならば、その程度は避けることが出来るはずだが、感情が全く読めない相手の為か、それを察知することが出来なかったのかもしれない。


 しかしラティには弱体魔法などを防ぐ付加魔法品(首飾り)がある、次の瞬間には、その黒い靄のようなモノは、弾かれるようにして霧散した。 

   

「ふむ、わたしの魔法が弾かれた? これはなかなかの付加魔法品アクセサリーを装備しているという事か」

「テメェ……」


「少々邪魔をされたくなかったのでな。しかし困ったなこれは」

「秋音っ! お前は何が目的だ」


 俺は秋音を射貫くように睨み付けた。

 だが彼女は、俺の視線などは意に介さず、取り出した銀色の小手を自身の手に装着させていた。


 魔法を掛けられたラティの方は、すぐにでも飛び掛かるかと思っていたのだが、背後からの奇襲でも恐れているかのように、辺りを見回しながら身構えていた。


「くっ、これは……囲まれている?」

「いや違うな……これは多分……」


( 秋音がなんかやってやがんな )


 ラティには程遠いが俺も多少は気配を探れる。

 そして今、囲まれている気配は全く感じない。

 

 何を仕掛けて来たのかは予想がつく、秋音は気配でも偽装し、周囲に多数の伏兵がいるように見せているのだろう。

 これは、鋭すぎる(・・・・)ラティだからこそ引っ掛かる罠。

 

「陣内陽一、わたしと戦って貰うぞ」

「っは、そういう事かよ。――ラティ、手出しは無用だ。コイツが相手だと逆に……アレ(・・)だ。だから俺一人でやる」 


 秋音ハルという人物の事はほとんど知らない。

 元の世界でも接点はあまりなかった。あるのは同じ学年程度だ。だが、今の短いやりとりで解った事がある。コイツは目的を淡々とこなすタイプなのだと。


 必要だと思ったことは迷わずに実行するヤツ。

 だからこれは――。


――俺を見極めようとしてんな?

 まぁ丁度いい、俺もコイツを知りたかったところだし、



 秋音が俺を殺す理由は、今は無いはず。

 秋音が言ったように、俺を殺すことで発生するデメリットが存在する。

 彼女の目的を考えるに、それ(暗殺)を選択するとは思えない。


 だがそれ(暗殺)を選択する可能性はゼロではない。これは勘だが、その時の為に、俺の実力を計ろうとしているのだろうと感じた。

 逆に言えば、俺が秋音の力が見れる機会なので、俺はそれに応じた。


「ふむ、お前はこういう事には察しが良いのだな。少し評価を修正しよう」

「どんな評価だよ」


 こうして俺と秋音ハルの手合わせが始まった。

 俺は木刀を構え、秋音は無手で構えた。

 

「おい、武器は使わないのか? それともそれがそうなのか?」

「わざわざ言う必要があるのか陣内陽一。自分の武器はコレですと」


 柔術家のような半身の構えをする秋音。

 仰々しい銀色の小手を装備した右手をそっと前に構え、素人目にも堂に入っていると感じた。

 そして足首まである長いスカートは、彼女の脚の動きを隠している。

  

 ( やり難い…… )


 何故か間合いが計れなかった。

 相手は無手なのだから、木刀を持っている俺の方が有利なはずなのに、迂闊に踏み込めない雰囲気だった。


 特に銀色の小手が露骨に怪しかった。

 肘まで覆っている銀色の小手。少し馬鹿馬鹿しい予測だが、ロケットパンチなどのギミックがありそうな物々しさ。


 木刀の分リーチがあるのだから、様子見も兼ねて俺から攻めるべきかと考えたが。

  

「――っちい」

 

 一瞬にして間合いを詰められた。

 長いスカートで脚が覆われている為、秋音の予備動作が全く見えず、3メートル程の距離を一気に詰められてしまった。


 空手というよりも、中国拳法のような突きと掌底を連打してくる秋音。

 その猛攻は木刀だけでは捌き切れず、小手と小手が激しくぶつかり合う。

 そして――。


「シッ!」

「ぐうっ!」


 射貫くような蹴りが俺の腹部へと突き刺さる。

 予備動作はほぼ見えず、突きによる連打に気を取られていた俺には避け切れなかった。


「ほう、今のを避けるか」

「喰らったっての」


 当たる直前に身体を捻り、まともに蹴りを喰らいはしなかったが、それでも後ろに下がってしまう程度には喰らっていた。


「今ので終わらせるつもりだったのだが――なっ!」

「――ッ!?」


 再び間合いを詰めてくる秋音。

 それは不自然な程の速さ。まるでそれは――。


「【加速】の【固有能力】か!」

「さあどうだろうな」


 敵に回してみてそれの脅威を知る。【加速】はかなり厄介なモノだった。

 予備動作が掴めない上に【加速】まで乗った動き、突然早送りでも始まったかのような動きは、本当に、本当に脅威であった。

 しかも、武器を振るうのであればその動作は多少は大きくなるのだが、動作が小さい無手による突きや掌底ばかり、WSには一切頼らない様子で、ほとんど隙が無かった。


「くそっ!」

「ご主人様!!」


――コイツ強ぇ、

 マジで強いぞ……



 秋音ハルが最初に言っていた事が理解出来た。

 確かにこれでは、魔王ユグトレントとの戦いでは不利だろう。


 一撃一撃は岩を砕く程では無いので、あのクソ堅かった魔王が相手では有効ではないだろう。だが魔王ではなく、()が相手の場合は全く逆であった。

  

 ( まさかの対人戦特化型勇者かよ! ) 


 防戦一方の流れ。 

 距離を詰められているので、思うように木刀を振る事が出来ない。


「――ッそれなら!」

「む!?」


 俺は多少の被弾を覚悟で、強引に肩をぶつけにいった。

 肩を強引に割り込ませるにして、相手の側面に位置を取る。


 ( このまま横に薙ぐっ! )


 お互いの左肩が接触している状態。

 この位置取りならば、力の入った蹴りや突きは出来ないはず。仮にそれをしてきたとしても、体重の乗っていない攻撃ならば何とか耐えられる。


 俺は武器を持っている利点を生かし、遠心力をつけた横凪ぎを放とうとしたが。


「――ちいいい!!」


 俺は横凪ぎを中断して、木刀を盾にしながら後ろへと飛んだ。

 

「破ッ!!」

「がっ!?」

「ヨーイチ様!!」

 

 何かに轢かれたかのような衝撃。

 俺は気前よく吹き飛んだ。


 ( まさか鉄山靠まで使ってくるとは )


 俺はゲームや漫画などで鉄山靠を知っていた。

 そういった攻撃方法があることを知っていたからこそ、辛うじて先が読めた。

 尚且つ、肩を接触させている状態だったから、何とか予測することが出来たのだろう。


 吹き飛ばされた後は、追撃に備え、俺は強引に身体を起こし身構えた。

 しかし、片膝を着いた状態で顔を上げた視界の先には、意外なことに距離を詰めていない秋音が映った。

 だが、何もしていない訳ではなかった。


「風系魔法”トプゥ”!」


 秋音は、突風を叩き付けてくる魔法で追撃を仕掛けてきた。

 刹那の判断。俺は木刀で魔法を防ごうと動きかけたが、秋音の不自然な手の動きが目に入り、結界の小手による防御へと切り替える。


「ファランクス!」


 一瞬にして魔法陣のような幾何学模様が描かれた障壁が展開される。

 その障壁が、魔法によって作り出された突風と、秋音がそれに交ぜた()かを遮った。


「ふむ、これも防ぐとは……これは更に再評価が必要か」

「……コイツ」


――マジで油断ならねえ!

 そういう機転を利かした攻撃は、狡い主人公とかがするもんだろうが、

 さっきの鉄山もそうだし、手数が多彩過ぎんぞコイツ、



 何が交ぜられたかは不明だが、何か粉のようなモノが突風の魔法に乗せられていた。

 思い付く物は毒薬か痺れ薬。もしかするとただの砂だったかもしれないが、魔法を防ぐだけでは駄目な攻撃だった。  


 だがこれで距離が開き、次は自分の距離を戦おうと身構えたが、何故か秋音は構えを解き。


「さて、邪魔者が来たようだし、これで退かせて貰おう」

「へ?」


 秋音の言う通り、知り合いの冒険者たちがこちらに駆けて来ていた。


 駆け付けて来る冒険者たちには、俺が襲われているように見えたらしく、『今行く』と声を上げながら走っている。

 実際に戦っていた訳なのだから、それは間違いではないだろう。秋音ハルは、それから逃げるようにして去って行った。



 こうして秋音ハルとの手合わせは終了した。

 時間にしてわずか1分程度、もしかすると30秒ぐらいだったかもしれない。


 そして、俺が一方的に押される戦いだった。


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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