ユニコーンを探して
先生っ! 絵が上手くなりません;
増えたと思ったらまた増えた。
葉月がやってきた後、今度はギームルまでもやって来た。
ギームルがやって来た理由は、ある事を報告するため。
その報告とは、魔王の件と、貴族側の現在の動きについてだった。
魔王ユグトレントは、魔王ではあるが、3年後に発生する魔王とは別の存在らしく、やはりイレギュラーによって発生したモノだそうだ。
魔王発生時の予兆とされる魔力の渦は、現在も大陸の中央で、逆時計回りの状態で観測されたままだという。
少し変化があるとすれば、北側に乱れが生じたぐらいらしい。
なので、魔王を倒したにも関わらず、帰還のゲートが出現しないのだろうと言った。
北側の乱れは、精神の宿った魔石に何かあったのかもしれないと思っているのだが、それをこのジジイに話すのは心情的に嫌なので、今回は見送った。
その次は、四日後に開かれる祝勝会の事。
これは全ての領地から、領主や嫡男などの貴族がやってくるそうだ。
今日は昼から外には出ず、宿の中に引っ込んでいたから知らなかったのだが、ららんさんのように、先発隊でやってきた従者が多かったそうだ。
そして、祝勝会などがあるので、しばらくの間は滞在するということで、食材や衣料品などが、その従者たちによって買い漁られているのだという。
特に高級品とされる物は、準備に来ている者たちによって、まるで競うように買い占められ、宝石類も飛ぶように売れているらしい。
ギームル曰く、祝勝会の件を市民に伏せているのは、この特需景気を利用されないようにする為だそうだ。
要は、商品の値を不当に釣り上げる輩が出てくるので、それが湧かないようにする為に、この情報を伏せているのだという。
だがその一方で、この情報を懇意にしている者だけに流し、そこから見返りを得ようとしているヤツがいると、吐き捨てるように教えてくれた。
そして他には、この祝勝会は一種のふるいに掛けるようなモノとも言った。
祝勝会の通達が届いてから、約一週間以内に到着しなくてはならないのだ。
俺としては余裕だと思っているのだが、貴族側からしたら、その期間はあまりにも短いらしい。
だからと言って、その祝勝会に行かないという選択はないらしい。勇者たちが一堂に集まるのだ、その機会を逃すという真似はしないと。
もしかすれば、勇者を引き込めるかもしれない。たとえそれが出来なくとも、次に繋がる何かを得られるかもしれないと、そう思いやって来るのだという。
欲望やメンツ、もしかすると、もっと別のモノに惹かれているのかもしれない。
それとその祝勝会では、叙勲式のような事も行うのだという。
今回の魔王との戦いで、誰がどれだけ貢献したかなどを、現在城で役人たちが判定しているそうだ。
そしてそれは、今回の戦いに参加した者の報酬にも影響するらしい。……俺たちには関係無い話だが。
ららんさんの方は、明日には装備品の修復が終わると言っていた。
そして明日からは、アムさんを迎え入れる準備に参加しないといけないと、面倒そうに言っていた。
一応、他にもノトスから一緒に来ている従者もいるそうだが、ららんさんにしか出来ない仕事があるそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギームルが帰った後、俺たちは夕食を取り、その日は解散となった。
ラティは葉月に連れて行かれ、現在俺は部屋に一人ぽつりんこ。
仕方ないので、一人だけで追加された情報を再確認する。
まず、ギームルがおかしい。
ヤツは心底嫌そうな顔を微塵にも崩していないのに、その嫌そうな顔をしたままで色々と話し、そして色々と教えてくれるのだ。
今回の話してくれた内容だって、別に知らさなくても良い事だっただろう。しかも、その背景や理由など、わざわざ教えてくれる必要などはないのに――。
「俺に教えるんだよな……」
俺は誰もいない部屋でそう呟いた。
――つか、何でだ?
何であんな風に色々と教えてくれんだ?
ほっといてもいい事なのに……
ギームルの解せない行動。
ヤツの態度は最悪なのに、やっている事の不自然さ。
それはまるで、ツンから始まり、デレで終わるような――。
「それは無ぇええええ!! アホか俺はっ! ああ、気持ち悪い!! 止めだ止め!」
その日の夜は、これ以上何か考えるのを止めて、すぐに寝る事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、俺は街に出る事にした。
昨日の夜は、考えることを放棄したが、ちょっと考えてみれば、いま出来ることはほとんど無かった。
北に今すぐ行くなど論外。
ほとんど死にに逝くようなモノだ。
逆に、いま俺に出来そうな事といえば、逃げ出したというエルネを探すこと。
これは俺がやるべき仕事という訳ではないが、アレを野放しにしておくと嫌な予感しかしないので、一応探す事にした。こちらに優秀な猟狼がいるのだから。
「ラティ、エルネの気配? いや感情って追えるか?」
「あの、一応可能かと。ただ、範囲外だと流石に無理ですねぇ」
「なら頼んだ。出来れば取っ捕まえて教会に突き出したい」
「はい、ご主人様」
こうして俺たちは、街を回りながらエルネを探し始めた。
歩きながら街の様子を見渡す。
活気に満ちた広い大通り、速度をゆっくりと落とした馬車が駆けて行く。
普段は冒険者としてダンジョンに潜っているので、街の住人が普段は何をやっているのか把握してはいないが、間違いなく平和そうに見えた。
何かに対しての、不安や恐怖といったモノは窺えない。
本当に平和そうにしている。
俺はそれを見て、何となくだが確信した。
誰も魔王を恐れていないと、俺はそう感じたのだ。
正面から対峙した俺たちにとって、あの魔王ユグトレントはシャレにならない相手だった。
貴重な竜核石を大量に使用した、橘の”イートゥ・スラッグ”があったからどうにかなったのだ。
もしあれが無ければ、凄まじい数の犠牲者を出し、仲間の大半を失うような凄惨な戦いになっていたはずだ。
下手をすれば、城壁がもっと破壊されて、大量の魔物が街に雪崩込んでいたかもしれない。
それに、しっかりと把握していないから正確な数は判らないが、魔王以外の魔物を迎え撃った兵士たちにも、少なからず犠牲者などは出ていると思う。
もしかすると、意外と多いのかもしれない。
決して楽な戦いではなかった。
木刀やWS、それにサリオの”アカリ”など、あの戦いに有効なモノが揃っていたから勝てただけ。
運が良かったとも言える。
だが、目の前にいる街の住人にとっては、それを成せる勇者が居るのだから『当たり前』、という風に見えた。
「……いや、ちょっと斜に構え過ぎかな」
「あの、どうなさいました、ご主人様?」
「ん、何でもない、ちょっと考え事をしていただけだ」
――仕方ないよな、
戦場と、そうでない場所じゃあ認識が違うよな、
元の世界でも、よその国で内乱とかあっても、俺も気にしていなかったし……
それからしばらく歩き続けた。
昨日ギームルが言っていたように、高級な食材などを扱っていそうな店などは、確かに忙しそうだった。
店先には複数の馬車が止まっており、次々と荷が積み込まれていく。
俺はそれを、『ふ~ん』という気持ちで眺めていると。
「あ、あの、あれはサリオさんでは?」
「へ? サリオ?」
サリオは宿で留守番のはずであった。
装備品の修復で、俺とラティの装備は修復が終わったのだが、サリオのローブまでは終わらなかったのだ。
だから今日は、サリオだけ留守番となった。
当然、宿には陣内組が居るので、貴族がやって来たとしても下手な事にはならない。
その辺りはレプソルさんにお願いしている。だが――。
「あれ? 今ららんさんも居たような?」
「はい、一緒におりましたねぇ。もしかしたら、ローブの修復が終わり、それで一緒に散歩でもなさっているのかもですねぇ」
「あ、その可能性もあるか」
ふと、サリオたちを追おうと思ったのだが、ラティがこちらに行きましょう、何となくですが彼女の気配を感じますと言うので、俺たちは別の方向へと向かった。
そしてしばらく歩くと。
「あの、申し訳ありません。気のせいだったのかもしれません」
「あ、ああ……」
( ん? なんか違和感を感じるな……? )
向かった先にはエルネは居なかった。
【心感】はとても優秀だが、流石に街全体をフォロー出来る訳では無い。
それに、既にこのアルトガルから抜け出している可能性もある。それに、単に探し出すというだけではキツイのかもしれない。
例えば、誘き出すといった方法なども必要なのかも……。
( ん~誘き出すか…… )
頭に過ったのは例のアレ。
ユニコーン探しといえばアレだ。
そう、餌を用意すれば釣られてやって来るという例のアレ。
餌とは処女、エルネの餌となれそうなのは葉月。
葉月なら処女かもしれない……と、思い浮かべたところでハッとなった。
横に立っているラティから、爆発的に警戒心が膨れ上がったのだ。
咄嗟にラティへと目を向けようとしたが、彼女の警戒心が、俺にはなく、前に向けて放たれている事に気が付き、俺はラティにならい視界を正面に向けた。
「?……なんだアイツは?」
俺たちの前に、灰色のローブを纏った者が立ち塞がっていた。
フードを深く被り顔を隠してはいるが、その細い体形から女性だろうと窺えた。
「あの、ご主人様……。目の前の方はおかしいです……目の前の方からは……」
「ん? ヤツからは?」
珍しく、動揺した声でそう言ってくるラティ。
「気配がありません。――それどころか、感情が視えないのです! こんな事は初めてかもしれません。気配はともかく、感情まで視えないのは……」
目の前にいるヤツは、形が良さそうな顎先で、人気の無さそうな横の道を指す。
( ……横道について来いと? )
どう考えてもこれは罠。
呼び出しイコール罠があるという異世界。ここは無視をするべきかもしれない。が――。
「ラティ、ついて行こう」
「あのっ、ご主人様??」
俺たちは灰色のローブ姿のヤツについて行った。
間違いなく何かある、何か単純な用事があって姿を見せたとは思えない。十中八九罠だろう。
「ラティ、周囲はどうだ?」
「あの、誰か潜んでいるなどの気配はありません……ですが、前の人からは何も感じずのままです……まるで誰もいないような感覚です」
俺は木刀を握り、何か罠があってもいい様に構えた。
昔の俺ならいざ知らず、今の俺ならば、不意を突かれた奇襲でなければどうにかなる。――しかも隣にはラティがいるのだ。
それに――。
「あいつからは敵意を感じないんだ」
「え? あの、それは……?」
ラティは灰色のローブ姿のヤツを警戒しているが、俺にはそこまで感じなかった。
完全に気配が読めるという訳では無いが、悪意などといった、敵意のようなモノは感じなかったのだ。
「ここら辺でいいかな」
歩みを止め、振り返りながら発してきた声は、予想通り女性の声だった。
そして、灰色のローブを纏った女は、深く被っていたフード外し顔を晒した。
「――ッ!?」
その姿を見て、ラティの警戒心が最大値まで跳ね上がった。
即座に重心を低く下げて身構え、彼女は俺に警戒を促してきた。
「銀髪、猫人の耳、彼女です! 彼女が以前お話した暗殺者のフォールベルです!」
「へ? 銀? 猫人? でも……」
武器を抜き放ち、一ミリの隙もなく、そのフォールベルという女と対峙するラティ。
今にも駆け出して、相手の首を刎ねかねない気配を見せている。
だが俺の目には、黒髪で、メイドなどがしているヘッドドレスを頭につけた、俺の知っている女性が映っていたのだ。
そう俺の目の前には、アルトガルに来ていると聞いていたにも関わらず、魔王との戦いには参加せず、結局そのまま姿を見せなかった勇者――。
「……秋音ハル」
女勇者、秋音ハルが目の前に立っていたのだった。
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