蘇生の条件
後藤のイラストはツイッターにあります。
https://twitter.com/2nbZJdWhppmPoy3
宿屋の一階に降りると、そこにはラティの言う通り、テイシとリーシャがいた。
そしてその二人の様子から、何か深刻な事態が起きた訳ではないと感じ、俺はそっと胸を撫で下ろす。
――ふう、そりゃそうだよな、
もし何か遭ったのなら、それをラティが二人から感じ取っているはずだよな、
あれ? でも何で二人が戻って来たんだ?
「テイシ、リーシャ、言葉に付いていたんじゃ? もしかして何かあったのか?」
「ジンナイ、着替えの追加を取りに来たのよ。一応用意してくれたんだけど、流石にお城のは……その……」
「ジンナイ、アレは品が良すぎてワタシには合わない」
「あ~~~、あ、はい……」
何となく察した。
何があったのかは詳しくは判らないが、多分、着替えの問題のようだった。
「あとね、一応報告もしといた方が良いかと思って」
「報告?」
「うん、実はね――」
リーシャは、城に泊まっている間の出来事を俺に教えてくれた。
まず、俺が心配していた事が起こっていたそうだ。あの鼠顔の男が、言葉に面会したいと言って来たらしい。
本来であれば、言葉が寝ている寝室の隣、通路と繋がっている客間には侍女達がいた。
だがそれは、既に排除済みであった為、鼠顔の来訪を対応したのは、派遣されたテイシと勇者三雲だった。
当然、言葉は寝ていると面会を突っぱね、その後のアプローチも全て断ったらしい。
「テイシさん凄かったんですよ。もう一歩も退かない、進ませないって感じで」
「奴からは、下心しか見えなかった」
「ホントそんな感じだったなぁ……しかも、なかなか諦めないし」
もしミクモ様だけだったら、ミクモ様を何かの呼び出しなどで席を外させ、息のかかった侍女の手引きによって、言葉と鼠顔が二人っきりにさせられていたかもしれないと、リーシャは息巻くようにそう語った。
リーシャの言っている事は憶測だが、俺はそれが当たっている気がした。
あのメイド達は、事前に排除しておいて本当に良かった。
当然次は、鼠顔がムキになって何か仕掛けてくるかもしれないと警戒していたそうだが、王女アイリスが未然に防いでくれたらしい。
葉月に対し警告したことがあるように、女性勇者に群がる貴族を良しとしない彼女は、宰相の動きを見張っていたようで、その宰相をキチンと諫めてくれたのだという。
さすがに王女に言われれば、鼠顔も強引には事を進められず、その結果、政治的な部分は王女によって、武力的な部分はテイシによって遮断されたそうだ。
王女アイリスには、一番最初の時もそうだが本当に助けられている。
「そうだったのか……ああ、二人もありがとうな――って、何で二人がここに!?」
「それがね……えっと」
「ジンナイ、城に不審者が侵入した」
「へ?」
( 不審者が居たじゃなくて、侵入した? )
リーシャとテイシの話はまだ続いた。
しかも今度は、少々ぶっ飛んだ内容だった。それは――
「ジンナイ。アルトガルから正式に依頼が来た。死亡している勇者を蘇生して欲しいとの依頼がコトノハ様にきた」
「――なっ!? おい! 死亡している勇者ってまさか北原のことかっ!! なんでそんな馬鹿な真似を。勿論言葉は断ったんだろうな?」
――あり得ない、あり得ないっ!
あの馬鹿を蘇生させる? いや、不可能なはずだ、あれだけ引き裂いたんだぞ?
それにアイツは…………魔王の中に、
「ジンナイ落ち着け。……ワタシも詳しい事は判らないが、勇者がもう一人居たらしい。そしてそれを蘇生出来ないかと依頼がきた」
「もう……ひとり? ――あ!?」
アルトガルが依頼してきたのは、北原が発動させた、不完全な勇者召喚で召喚された後藤修二の蘇生だったらしい。
後藤の遺体は氷漬けにして保存され、そのまま城の中で保管していたそうだ。
そして今回の魔王との戦いで、言葉が蘇生の魔法を使用したことが広まり、減った分の勇者を補充出来ないかとの案が上がったのだという。
無いとは思うのだが、もしかすると、北原の遺体も秘密裏に保管されている可能性がある。
そして、その氷漬けの後藤が保管されている部屋に向かったそうだ。
当然、言葉を引っ張り出す為の罠かもしれないと警戒はしたそうだ。だが、その依頼には王女も関わっている様なので、言葉も無下には出来ず、今すぐの蘇生は無理でも、蘇生が可能かどうかを見るだけという約束で、その保管されている部屋に入ろうとしたのだと。
しかしその時、厳重に守られているその部屋から人影が飛び出し、その場にいた全員を振り切って逃走したのだという。
それは、言葉の護衛に付いていたテイシすらも振り切ったのだと。
「正直、アレは無理。ワタシでも捉え切れない相手だった」
「へ? テイシでも捉え切れない? そんなに凄いヤツだったのか?」
「ああ、あんな不思議なヤツは初めてだ。そして同族だった……」
テイシが言うには、その飛び出して来た人影は猫人だったらしい。
顔はしっかりと確認出来なかったそうだが、腰まである銀色の髪、その頭には猫人の耳が付いていたのだという。
それと変装の為か、その猫人はメイド姿だったそうだ。
「しかし、テイシでも捉え切れないってのは……」
( それってラティクラスの動きってことか? )
俺は敵のスペックを想像してみた。
テイシの証言から考察するに、その動きは瞬迅レベル。
「あ、その猫人、一人なのに、何故か大勢の気配した。だからそれにも惑わされた」
「はい? 大勢の気配?」
「そうだ。一人なのに大勢」
少々話が脱線したが、要はその猫人の侵入者が現れて、現在城内は厳戒態勢中。
そして言葉を守るという大義名分で、三雲組全員が張り込んだらしく、今なら一時的に戻れるという事で、その報告も兼ねて戻って来たのだとテイシは言った。
「――で、三雲組のメンツは、あの廊下に陣取っていると?」
「うん、普通なら無理だけど、今は許可が下りたみたいだって」
( なるほど、今なら部屋に入れなくても問題ないって訳か…… )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リーシャとテイシは、俺たちにそれを報告した後、荷物を持って戻って行った。
侵入者が現れたのだから、俺も城に行くべきなのかもしれない。
だが間違いなく鼠顔に妨害されるだろう。そしてそのゴタゴタの隙をつかれて、謎の侵入者が暗躍するかもしれないので、俺は城に向かうのを控えた。
少なくとも、三雲組が全員で護っているのであれば、余程の事がない限りは平気だ。
それと後藤の蘇生の件は、その侵入者のお陰でうやむやになったらしい。
そして――。
「ふう、また状況確認のし直しかな……」
「あの、そうですねぇ……それに――」
――まぁ日課をまたこなしながらやるか、
あれはあれで至福の時だしな……
よし、ラティを誘って、
俺は、先程こなした日課を再び行うことにした。
考えなくてはならない事は二つ。
ひとつは侵入者の件。
もう一つは、肉塊となっている勇者後藤の蘇生の件。
だが考えたからといって、これがどうにかなる問題ではない。しかし考察する必要はあると思い、二階の部屋へと戻ろうとした時。
「――それに、もう一件追加があるかもですねぇ……」
「うん? 追加って何が?」
ラティは俺にそう言って、スッと視線を宿の入り口へと向けた。
俺はそれに釣られ、入り口の方に目を向けると――。
「陽一君、大変! 大変! 大変だよ~」
「へ? 葉月?」
息を切らしながら飛び込んで来たのは、外で浄化作業をしているはずの葉月だった。
その葉月は、俺を見つけると、すぐに俺の前までやって来て。
「陽一君、ちょっと不味いかも。浄化作業に参加していた教会の人が教えてくれたんだけどね」
「ああ、そっか、教会の連中も居たんだな。それで?」
「えっとね、エルネさんが脱走したって。魔王が来た時にどさくさに紛れて居なくなったって……」
「ふざけっ! しっかり監禁しとけよ!」
こうして、ラティと話し合う内容がもう一件追加されたのだった。
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