三日目からの~
いつも読んで頂きありがとう御座います。
一部の冒険者からは、【悪戯】と畏怖され、また別の者からは、嗤う彫金師とも呼ばれているららんさん。
南のノトスの街で、ノトス公爵であるアムさんの手伝いをしているはずの彼が、中央アルトガルにやってきた。
いきなりの登場に困惑するが、ららんさんは気にした素振りもなく、いつもの口調で話し始めた。
「にしし、ギームルさんからの依頼でやってきたでぇ。それにアムさんも来るから、その用意も兼ねてのう」
「へ? ジジイの依頼? アムさんも来る??」
「ありゃぁ? 何か話が通ってへんの?」
「ちょっと待った、順を追って話してくれ……」
俺はららんさんから、今回中央にやって来た経緯を聞いた。
二日程前に、ギームルから貝と玉を通してノトスに連絡が来たらしい。
その内容は、七日後に祝勝会が開かれるという連絡。
イレギュラー魔王とはいえ、一応魔王を倒したのだから、それを大々的に祝おうという趣旨らしい。
アムさんはノトス公爵として、その祝勝パーティに出席するのだと。
次は、魔王戦により消耗してしまった装備品の補修依頼。
俺は常に木刀を持っていた為、被害は少なかったのだが、他の者は付加魔法装備に歪みが出て、本来よりも効果が下がっていたらしい。
俺はラティに確認してみると、その通りと頷いていた。
ラティとサリオの装備は特注品、並みの職人では直すことは出来ないらしい。
そして最後に、サリオの件がアムさんに報告されたのだという。
「――それで、ららんさんが来たと?」
「そうやのう。アムさんがこっちに滞在するから、その準備もあるしのう……それに」
「あぁ~~、そういや貴族専用の区画があったな」
「そそ、その手配やな。あとは……装備を全部出して貰おうかの、全部締め直しや」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三日目は、そのまま宿で待機となった。
ラティとサリオの装備だけではなく、俺の黒鱗装束までも補修となったのだ。
木刀で護られていたとはいえ、全て防げていた訳ではないので、僅かではあるが歪みが発生していたらしい。
俺は魔法に対し極端に弱い。
他の者ならば、問題のない魔法だったとしても、俺にとっては致命傷となる場合がある。
しかもここは南ではなく中央、闇討ちがそうそうあるとは思わないが、無防備なので外に出るのは控えることにした。
その結果、今日は時間が空いたので、いつもの日課をちょっと早めにこなす。
「ラティ、あの鼠顔の男をどう思う?」
「んっ……あの、そうですねぇ、端的に申しますと、欲に忠実な方だと思います」
「機会があればそれに乗るタイプか?」
「はい。あの時の、短い間でしたが――」
ラティは俺の質問に答え、鼠顔の男の印象を語った。
現在の宰相は感情の起伏が激しく、特に、俺が言葉を庇った時には、激しく燃えるような醜い感情を見せていたのだという。
俺はそれを聞いて、あの宰相が俺を嫌う理由が判った気がした。
そしてそれならば、俺を過剰に城へと入れたがらない理由の一つとして納得が出来た。
その後も、日課をこなしながら、集めた情報を確認し合うように話し合った。
ここ二日で集めた情報の中には、八十神と教会の事もあった。
あの魔王との戦いは、城壁の外ということで、一般の市民には全く見えていなかったらしい。
見えていたのは、最後のイートゥ・スラッグぐらい。
なので、魔王との戦いの後も、休むことなく街を視て回っていた八十神の評判は、実際の働きとは異なり、異様な程に高くなっていた。
魔王から逃げた立場にもかかわらず、市民からの評価は高いという形。
そして教会の方も、八十神と同じで評価が高いという状態。
正直気に食わないが、市民からしてみれば、他の者の活躍などは見られなかったのだから仕方ないだろう。
その場で戦っていた、冒険者や兵士たちとは違うのだから。
そして言葉の件。
これは意外にも終息し始めていたのだ。より正確に言うならば、三雲組や伊吹組、それと赤城の勇者同盟によって、上書きされる形で終息に向かっていたのだ。
『女神の勇者様は、本当に蘇生が出来る』という噂話に、『女神の勇者様は、己の身を削って蘇生している』という噂話を追加して。
いつ協力したのか、赤城たちも協力していたのだ。
これにより、最初に広まった話題を上手く消火していた。
特に、”己の身を削って”の部分は具体的には明かさず、あたかも大事なモノが失われるように誤解させていた。
それは命だったり寿命だったり、時には声や視力などの五感を削っているとまでも噂されていた。
本当はMPを消費するだけのはずだが、この意図して流された噂によって、蘇生魔法は女神の勇者の身を削るモノという認識となった。
MPが枯渇している時は、髪の色が一部変わってしまうほど疲弊したのだから、全てが嘘という訳ではないだろう。
この摺り込まれた認識により、言葉に蘇生を頼むという行為は、彼女の命を奪う行為となる。それ故に、安易に蘇生を頼みに来る者はいなくなると思えた。
少なくとも、それを願いに来る者は、間違いなく非難されるだろうから。
もしかすると、言葉の魔法によって蘇生した者たちは、今頃周りから非難されているかもしれない、だが彼等は言葉を守る為だと割り切ったのだろう。
全てを守り切ることは出来ない。
だから守る対象をしっかりと選択するという決断。
いかにもハーティと赤城らしい選択だと思えた。
「あ、そう言えばラティ、超巨大”アカリ”を作ったのがサリオだってのは全く知られていないモンなんだな」
「~~んっ、んぅ…………あの、確かにそうでしたねぇ。小さな太陽を作りし者や、暁の等は言われておりましたが、具体的な名前は出ていませんでしたねぇ」
そう、超巨大”アカリ”の評判も凄まじかった。
特に”アカリ”が昇った東側に居た人達からの評判は、魔王と戦った勇者たち並みに高かったのだ。
中には、生きる希望を得られたなどの声までもあった。
あと祝勝会の件は、まだ市民の方には伝えられておらず、通達があったのは貴族側だけのようだった。
これはららんさん曰く、中央の城下町ではそれほど被害者は多くなかった様子だが、中央よりも東にあるルリガミンの町は、魔王によって半壊しているらしく、被害者の方も、百人を優に超えており、それが落ち着くまでの配慮だろうと。
正直、何でそこまで把握しているのかと思ったのだが、これはギームルからの報告と分析だとか。
こうして、大体の事を確認し合い、もう話すことが無くなってきたので、次は――。
と、思っていたのだが。
「……あの、誰か下に来られたようです。多分テイシさんとリーシャさんかと」
「ぐうう、何でこのタイミングで――って!? テイシとリーシャ!?」
【心感】で察知したのか、ラティが俺にそう報告してきた。
正直、何故このタイミングなのだと嘆きたいが、この二人が来たという事は、言葉の身に何かあったのかもしれない。
当然、ただ単に一度戻って来たという可能性もあるが。
俺は後ろ髪どころか、身体全体が引かれる思いの中、自分の部屋を出たのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご指摘、ご質問など頂けましたら嬉しいです。
現在全てに返事が出来ていませんが、全て読ませて貰っています^^
あと、誤字脱字も頂けました幸いです。