照明で暁な巫女な幼女
ちょっと短め~
その光景は、一言で言うと異様だった。
見方によっては、孫を連れたちょっと厳しそうなお爺ちゃんに見えるかもしれないが、この二人の中身を知っている俺としては、とても異様な光景だった。
しかもサリオの方は、目の前のメロンソーダフロートっぽいモノをガツガツ食べている。
「おいギームル、何か用か?」
「ふん、貴様に用があって来た訳じゃない。ここの者たちに支払う報酬の件で顔を出しただけじゃ」
そう、ギームルは陣内組に、今回の魔王討伐戦の報酬を自分が支払うと言っていた。
中央から報酬が出ないことを見越し、事前に払う事を約束していたらしい。
だからここにギームルが訪れることは、決して不自然ではないのだが――。
「おい、それだったら俺に、『何処をほっつき歩いてた』なんて言うんじゃねえよ」
「口の減らん小僧が」
「大体、なんでお前とサリオが並んで座ってんだよ。何か不自然過ぎて気味が悪い」
「この小僧が、貴様がおらんからワシが対応してやったのだろうが。貴様はこのハーフエルフの娘の価値がわからんのか」
「……は?」
ギームルは、出来の悪い生徒に無理矢理モノを教えるような、そんな圧をかけながら俺に説明し始めた。
まず、先ほどの貴族に、サリオはスカウトされていたのだという。
そのスカウトされた理由は、昨日初めて見せた超強大な”アカリ”だ。
質の良い光と揺らがない安定した光量、そして超広範囲でありながらも効果時間までもが長い。
それはまさに、日が昇っている時間が伸びるようなモノらしく、田畑での仕事や、明かりが必須である作業の時間が伸ばせるのだという。
他にもあの”アカリ”には、色々と使い道があるらしい。
俺はそれを言われて思い出す。昔、社会の授業で、安定した光を得られるようになったから、夜でも仕事が継続出来るようになって、物の生産力などが上がったという話を。
「あの者は、多少の無茶をしてでも確保するつもりだったのだぞ? その娘を」
「で、それを脅して止めたって訳か?」
「ふんっ、あの程度が脅しなモノか」
( いや、すげえ慌てて逃げていってたんだけど…… )
どんな風に追い返したのか気にはなるが、今はそれよりも。
「サリオ、食い物で釣られたりすんじゃねえぞ」
「ぎゃぼー! ジンナイ様、失礼ですよです! 乙女を馬鹿にしているのかです! 食べ物で釣られるなんて三流の女ですよです」
「……その目の前にあるモンは、お前が自分の金で注文したモンなんだろうな?」
「そ、そうですよ、です……」
露骨に目を反らすイカっ腹。
その仕草から、メロンソーダフロートのような飲み物は、誰かの奢りだと察した。
そして証拠隠滅でも計るかのように、急いで残りを流し込んでいる。
「ったく、コイツは……ってそれよりも、リーシャとテイシに話をしないと」
「あや? お二人になにか用です?」
「ああ、さっき城に行ったんだがな、それで――」
「――おい小僧っ! 貴様、何故城に行った? もしや……アイリスに」
「はぁ? なに言ってんだ……あ、でも下元が――」
「詳しく聞かせろ」
らしくないほど熱くなっているジジイに気圧され、俺はアイリス王女が下元を呼び出した件を話した。
そしてそれを聞いたジジイは、訝しんだ顔をした後、『そうか』と一言だけ零した。
その後俺は、ジジイに誰もいない壁際へと呼ばれた。
そこで俺だけに聞こえるように、先程のサリオの件の続きを話してきた。
サリオの価値が高い理由には、もう少し続きがあったのだ。
それは、サリオが奴隷という立場である事。
仮に好待遇で引き抜かれたとしても、それは餌であり、一度奴隷の主になってしまえば、後は命令し放題である。
しかもサリオはハーフエルフ、体面を気にする貴族が、忌避する存在であるハーフエルフを、本当に好待遇で迎える訳が無い。
早い話が、サリオをコキ使えるのだ。
そしてさらにギームルは、あの貴族には良くない噂があるとも追加した。
「――要は、上手い話には裏があるってヤツか?」
「ふむ、ちと違うが、まあそんなものだ」
「しかし、サリオは俺の奴隷だろ? それなのに俺を無視してサリオを連れていける訳がないんだろ?」
「余程の馬鹿でなければ……まぁ無茶はせんだろうが……」
「馬鹿が無茶をするか……」
「その可能性もあるという事だ。……それにあの娘は――いや、止めておこう。ワシはこれから用事が出来た」
含みのある言い残しをして、ギームルは宿を出て行った。
ギームルの向かった先は何処か判らないが、たぶん、王女さまの為に動き始めたと思えた。そう、孫娘の為に……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後。
俺はリーシャとテイシに事情を話し、二人には言葉の元へと向かってもらった。
二人が城に入れる許可を取れるかなどの不安はあったが、その辺りは葉月と三雲が手を回してくれていた。
どうやら、俺で無ければ問題ではないらしく、他の者ならば、勇者の一声で容易く通ったのだった。
俺はあの鼠顔の男に、かなり嫌われている様子だ。
なので俺は、言葉に会うのは諦めた。
下手にごねると、中に入れる許可を得た、リーシャとテイシに影響が出ると思ったからだ。
言葉は現在、まだ城の外に出せない状態かもしれない、ならば二人の護衛はどうしても欲しい。
こうして俺は、リーシャとテイシを城に送り、その後、言葉の評判を聞きに街を回った。
ハーティだけに任すのではなくで、自分でも調べておきたいと思ったのだ。
そしてそのついでに、サリオの話も聞いて回った。
ギームルに指摘され、改めて考えてみれば、アレはとんでもない事だったのだと気付かされた。
あの時は、『魔王との戦いが楽になる』としか考えていなかった。
だが冷静に考えてみれば、アレはなかなかの規格外だった。
中央やノトスの街などといった、大きな都市を全部フォロー出来る程ではないが、他の街なら全てを照らす事が可能かもしれない。
それに”アカリ”だけにMPを回せば、中央の街でも全て照らせるかもしれない。
あのギームルと赤城が忠告してくる程なのだから。
俺はその日から、サリオ一人での外出を禁止した。
ラティのように、弱体魔法などを完全に防ぐすべがある訳では無い。
昔、ハーティがラティの首輪を魔法で解除したように、サリオの首輪も外される可能性もある。
それを出来る者が何人もいるとは思えないが、用心するに越したことはない。
こうして俺は、その後二日間ほど情報集めをしていた。
言葉の事やサリオの事、他には、勇者の評判なども聞いて回った。
そして三日目の昼飯時、ある意外なヤツがやって来た。
それは――
「にしし、ギームルさんからの依頼でやって来たでぇ~」
「へ? ららんさん?」
「ららん様」
「ああっ!? ららんちゃん!」
中央アルトガルに遥々やって来たのは、嗤う彫金師ららんさんだった。
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