決戦! お城の正門前
俺は自覚している事がある。
それは、ポンコツなステータスの所為か、それとも狼人を連れている為なのか、もしかすると他に理由があるのかもしれないが……。
「と、止まれ! 貴様を城へと入れる事は許可出来ないっ」
何故か権力側から警戒される事が多いのだ。
特に中央の城では、一度もすんなりと行った事がない。
確かに王族が住まう場所なのだから、しっかりとした警戒心を持つのは良いことなのだが……。
――なんか対応がおかしいんだよな、
なんつうか、『不審者が来た』みたいな感じで警戒されてんだけど、
ちゃんと正面から来てるってのに……
前宰相の時もそうだったが、何故か城側から嫌われている気がした。作戦の説明の呼び出しの時も、指揮を執ると言っていた強面の男と言い争いをした記憶がある。
そして予想通りというべきか、俺は門番によって止められていた。
前回の呼び出しの時は、同行していたレプソルさん達が対応をしてくれて中に入れた、なので今回は――。
「あの、彼は私の連れなんです。言葉さんのお見舞いに来ました」
「あ、貴女様は、聖女の勇者さま!?」
俺の後ろから姿を見せた葉月に、目がこぼれ落ちそうなほど見開く門番の男。
思い起こせば、一年前も葉月に頼った記憶がある。
そしてこれならば、何の問題もなく城に入れると思ったのだが。
「も、申し訳ありません……、そ、その……そこの者は中に入れてはならないと通達が御座いまして……あの、えっと……」
門番の男は、しどろもどろになりながらも、俺を城へと入れる訳にはいかないと口にした。
その発言から察するに、どうやら上からの指示らしい。
( なんでだ? 前回は入れたのに…… )
「あ、もしかして宰相の人からの指示ですか?」
「ん? 宰相ってギームルの後釜か? 葉月」
「うん、陽一君も一度会っているよ。ほら、あのパレード? っぽいのをしている時、…………その人から言葉さんを庇ったよね? ねえ陽一君?」
「えっと、アレは庇ったって言うか……って、それよりも、あの鼠顔の男が今の宰相だったのか?」
俺の発言に、門番である男が顔を顰めた気がしたが、今はそれよりもあの男が宰相であるという事に驚いた。
あれはどう見ても、ただのエロジジイ。
風格も無ければオーラも感じない。年齢だけで上の役に就いたという印象。
少なくともギームルには、少々腹立たしいが風格とオーラがあった。
初見であれが宰相だと見抜くのは困難。
そして俺は、その宰相に突っかかっていった気がする。
「だから入れるなってか……」
「陽一君?」
あの男が宰相ならば、俺を城に入れるなという指示を出したのも頷けた。
短い時間のやり取りだったが、度量の狭さから、己だけの損得やプライドだけで指示を出しそうな男だと思えた。
そして――
「それなら尚更通してもらおうか。言葉が心配過ぎる」
「ご主人様……」
「陽一君」
恋愛的とか、そういった感情ではない。
これは単純に言葉のことを心配しての行動。
ギームルの話では、現在の宰相は東出身だったはず。奴らにとって言葉は超ストライクのはずだ。
勇者相手に馬鹿なことはしないと思うが、その馬鹿なことを東の連中はしようとしたことがある。
とてもではないが、ここで帰るという選択肢は無い。
もう多少は強引にでも押し通ろうかと思った――その瞬間。
「ほう? ここの者は、先日の魔王戦で先陣を切り、そして武功を立てた者を排斥するというのですか?」
「へ? 赤城? それに上杉と蒼月まで」
妙にかたっ苦しい口調でやって来たのは勇者赤城だった。
そしてその後ろには、上杉と蒼月。蒼月に付き添う形で女勇者の柊も居た。
赤城達の登場に、門番の男はよりかしこまる。
「彼は常に最前線でその力を揮い、今回の魔王討伐での立役者とも言えるのだが? もし彼を認めないというのであれば、此度の戦での功労者などは、本当にほんの一握りになるのだが?」
「あ、がぁ、ええっと、えっと、ですが……ですが宰相さまからのご指示でして……私の一存では、えっと……それにその者は、無断で魔王討伐に参加したと言われておりまして……」
「おう、なに言ってんだコイツは? 宰相ってのはそんなに偉いのかよ」
「司? たぶんだけどかなり偉いよ? ……でも、この判断はおかしいなぁ」
確かに門番の男のいうとおり、俺たち陣内組は勝手に参戦した立場だ。
報酬の方も、中央から出るのではなくギームルから支払われる事になっている。
だから、この門番の言っている事は間違いでないのだが――。
「おうおう、俺たちと戦ったコイツを蔑ろにするつもりかぁ?」
「ひぃっ!」
「上杉君、そうやって脅すもんじゃないよ。それに脅すならもうちょっと――」
気が付くと後ろに人垣が出来ていた。
さすがに城の正門の前なので、露骨に寄ってくる気配はないが、それでもほとんどの通行人が足を止めてこちらを見ていた。
( あ、そっか…… )
勇者たちは俺にとって、普通の同級生であり知り合いでもある。
だが俺にとって大したことが無くとも、異世界人である彼等は違う。一人だけならまだしも、今ここに勇者が5人も集まっているのだ。
特に聖女の勇者である葉月は、人気と知名度がズバ抜けて高い。
ある意味、彼女だけでも十分だというのに――
「あ、陣内サン。それにみんなも? ああ、皆さんも王女さまに呼ばれたのですね? 僕の所にも朝イチで使者が来たんですよ」
追い打ちをかけるかのようにやって来たのは、主人公野郎である勇者下元。
そして下元がやって来ると、注がれていた視線の熱量がグッと増した気がした。
当然、【心感】持ちのラティもそれに気付き、探るように辺りを見回す。
「やあ下元君、僕らがここに来たのは別の理由だよ。それでちょっと足止めを喰らってしまってね。そこの彼に」
「え……? えっ!? そ、それは……その――」
まるで告げ口でもするかのように赤城が言うと、門番の男は可哀想なぐらい狼狽え始めた。
そしてその後は、泣きそうな顔をしながら通って下さいと懇願し始めた。
本来であれば、それは決して叛いてはならない命令だったはず。
だが勇者の存在というべきか、それとも楔の効果だったのか、門番の男は宰相の命令に叛くこととなった。
俺としては、無事に城へと向かえるのだから良かったのだが、何ともうすら寒いモノを感じた。
【勇者の楔】の効果が、前よりも遥かに強くなっていると感じたのだ。
まるで全てを従わせかねないと思える程に……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
正門から城までは少し距離がある、それは権威を見せつけるかのような道。
綺麗に整った石畳、手入れが行き届いている芝生と植木。
そんな道を歩いていると、俺の横に赤城がやって来て突然話し掛けてきた。
「そう言えば陣内君、昨夜の事は知っているかい?」
「あん? 昨夜って……魔王を倒したあとの事だよな? ロウ……ウチのヤツが言葉に救ってもらった事か? あとは……」
咄嗟に浮かんだのはそれだった。
そして次に浮かんだのは、八十神や教会側が夜通しで警備に当たったという話。
俺はあまり深く考えずに返答していた。
「あとは確か……八十神と教会の連中が街を回っていたって奴か?」
「うん、それだよ。実はね、あれから街の中で百体以上の魔物を倒したとの報告があったそうだよ」
「はああああああ!? おいマジかよ! そんなに魔物が入り込んで――っいや、まさか魔物が街中に湧いたのか? おいそれってやべぇぞ!」
――くそ、マジかよ、
あ、だからラティは昨日の夜、俺の部屋から出て行ったのか?
俺は咄嗟にラティの方を見た。
だが彼女は、俺の顔を見て首を横へと振る。
( あれ? 違った? )
「ふう、変な早とちりしないで欲しい。倒したとの報告だよ」
「へ? だからそれだけの数の魔物がいたって事だろ?」
「ふむ、意外と鈍いんだね陣内君は。いや、ちょっと違うか、こういったズルさには疎いのかな?」
「だから何だよっ!いいからもったいぶらずに言えよ」
俺は苛立ち、険のある声音でそう言った。
「そう怒るなよ。まぁアレだよ、要は嘘の報告さ。もう手柄を上げられる獲物がいないから、教会側は魔物を倒したって虚偽の報告をしたみたいなんだ。中には魔物を倒した証拠として、普通に魔石を持ってくる者もいたそうだよ」
「はぁ? 魔石って……あれってダンジョンでしか落とさないだろ?」
赤城の話は、教会側の不正の事だった。
魔王戦での失態を挽回する為に、教会の連中は残党狩りのようなことをしていた。
だが、同じように残党狩りをしている八十神がいたおかげで、その残党狩りでの成果がイマイチ上がらず、それならば水増しをと思ったらしい。
夜ならば暗い上に、街全体ならば監視役の目が届かない場所が出てくる。
外のように開けた場所ではない、建物が陰になってしっかりと監視出来ないのだ。
だからやりたい放題、虚偽の報告をしたそうだが――如何せん数が多すぎたみたいだ。
八十神や教会とは別で、赤城は勇者同盟で街を見ていたそうだ。
そして、どう考えても百体の魔物がいたとは思えず、ドライゼンを使って情報を集めたそうだ。
そしてその報告の為に、赤城は城に来たのだという。
「こんな虚偽の報告で教会の株が上がっても面白くないからね。その辺りはしっかりと公正にして欲しいんだよ。これからの為にも……」
公正にと、俺にそう語る赤城。
だがその瞳には、強い野心のようなモノが宿っており、これは公明正大といったモノでは無さそうだった。
その後、俺たちは三つに分かれた。
下元は呼ばれた王女の元に。
何故王女に呼ばれたのかは、呼び出された下元も知らない様子。
赤城は例の件を報告する為に、その担当がいる場所へと向かった。
その赤城についていく3人の勇者たち。
これは予想だが、赤城は自分の報告に重さを持たせる為に、勇者である上杉たちを連れてきたのだろうと思えた。
いかにも赤城らしいやり口だから。
そして俺は、葉月の案内で、現在静養中の言葉が居る部屋へと向かったのだった。
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