続、色々とあった。
めんどう回です……
早朝から騒がしかった。
昨日の夜、俺は死にかかったロウや言葉の事などで一杯一杯だったが、他の者は他の事で一杯一杯だった者がいたようだ。
それは、勇者八十神が率いる冒険者や兵士たち、そしてユグドラシル教の威光を取り戻そうとする教会勢力だ。
外にいる魔物を狩り尽くした後、何処から聞いたのか、ロウが襲われた事を耳にしたようで、安全の為に夜通しで城下町内の警戒にあたったそうだ。――何処かに潜んでいるかもしれないという魔物を追って。
ただ、実際にロウが襲われたのだから、もしかすると、まだ潜んでいるという危険性もあるので、決して悪いことではない。
特に視界の利かない夜は、不意を突かれれば冒険者といえど危ないだろう。
だから街の住民にとっては、魔王を倒した後も気を抜くことはなく、深夜にもかかわらず、街の為に働き続ける八十神と教会の二つの勢力はとても喜ばれたそうだ。
本当にとても素晴らしい事なのだが――。
「ぐへえ、やっと解放されたよ……」
「なんだぁ? お前は捕まったのかよ」
「あんな馬鹿騒ぎをしてっからだよ、そりゃ見つかるっての」
「あ~、おれもそれに巻き込まれたぜ……」
どうやら八十神は、魔王を倒し勝利の祝杯をあげている冒険者たちを、見つけ次第片っ端から巻き込んだらしい。夜の城下町の警備へと……。
本来であれば、そんな金にもならない仕事をするはずのない冒険者たち、だが勇者に、しかも真の勇者と称えられている八十神から街の警備を要請されて、それを大した理由も無しに断ることは出来なかったようで、陣内組からも何人かが巻き込まれた様子だった。
そして今、その不満が漏れ出ていた。
魔王との戦いを終えて、その勝利の祝杯や、死んでしまった仲間の弔い、様々な理由で飲んでいたはず。だが、突然やってきた八十神の、押し付けるような正義感によってそれらが中断されたうえに、日が明けるまで使わされたのだから。
眠たいのだろうけど、それを拒否するかのように酒を煽っている陣内組のメンツ。
それはまるで、昨晩飲めなかった酒を取り戻すかのような飲み方。
俺はそれを眺めながら、ある事をいま話すのを止めた。
ある事、それは今も部屋で横になっているロウの事。
今日俺は目を覚ました後、真っ先に向かったのはロウが寝ている部屋だった。
もう大丈夫だと聞いてはいたが、一応心配だったので部屋に向かったのだが、俺はそこである光景を目撃してしまったのだ。
それは、ベッドに寝ているロウの手を握るリーシャの姿。
そしてかすかに聞こえて来る会話。
『何であんな無茶をしたのよ……』
『オレは男だから、女を守るのは当然なんだよ』
『何よ、子供なのに……そんなカッコつけて』
『歳なんて関係ねえよ。オレは男なんだ、それにリーシャ姉は親方の娘だし』
『……本当にそれだけ? ねぇ、それだけ?』
『し、しらねえよっ! もう寝るからっ』
『ふふふ、お休みなさい小さな冒険者さん。………………わたしの……』
と、いう会話が聞こえてきたのだ。
どう考えても嫉妬組に通報する案件である。年齢などは関係ない。
と、思っていたのだが、この悪酔いしている連中に、今それを知らせるのは流石に危険だと思えたのだ。
下手をすると、また言葉のお世話になる可能性まである。
だから制裁は、ロウの完治を待ってからとした。
俺は心の中でそう決めて、酒を浴びるように飲む陣内組のメンツから視線を外した。
そして外した視線の先では、何故か不思議な光景が広がっていた。
ラティは俺の横に座っている。
葉月はテーブルを挟んで俺の対面に座っている。――はずなのに、何故か、ラティと葉月ががっつり手四つ状態に見えたのだ。
両方とも間違いなく席に座っている。
立ち上がって前のめりにならないと、手四つ状態にはならないはずなのに、何故かそんな幻影が見えた気がしたのだ。
何となく気にはなるが、今はそれよりももっと気になる事があった――。
「なぁ葉月、葉月って確か言葉について行ったんじゃ?」
「うん? えっとね、言葉さん体調はまだ戻っていないけど、魔法とかで治るって感じじゃなかったの。…………それに私がそばにいると落ち着かないだろうし。あ、三雲さんは付いたままだよ」
「ああ、なるほど……」
――ああ、確かにそうだな、
親とか親しい人じゃないと、そばに居られてもなんか変に気を使ったりするもんな、
俺も見舞いとかで、小山や上杉が居座り続けたら嫌だな、
「まあ三雲がいるなら問題ないか」
「うん、三雲さんはしっかりしているもんね。ホント、言葉さんの味方って感じで……」
スッと目を横に逸らす葉月。
その仕草には、何か含みのがあるように感じた。
「えっと、取り敢えず朝飯喰ったら言葉の見舞いに行きたいから……葉月、申し訳ないけど、ちょっと一緒に来てほしい。……たぶん俺だけだと門前払いをくらいそうだから」
「うん、いいよ陽一君。もしかすると私、明日から忙しくなるかもだし……」
「ん? 忙しくなる? 魔王戦での負傷者とか治すとか?」
「ううん、違うよ。あっ、そっかぁ~陽一君はまだ聞いていないんだ」
「?? 何かあったのか?」
「実はね、魔王が通った跡のことなんだけど――」
語られた葉月の話は、少々驚きな話であり、そして凄まじく面倒そうな話であった。
それは、魔王が通った所が腐敗しているという話であった。
まるで汚染でもされたかのように大地が黒ずみ、生えていた草木が腐るようにして枯れているというのだ。
そして今日朝イチで届いた報告によると、ルリガミンの町に溜めてあった水までも腐っていたそうだ。
具体的な範囲はまだ分からないらしいが、それでもこのまま放っておける問題ではないらしく、浄化の魔法を使える者が総出で浄化に当たるというのだ。
俺は魔法が使えないので詳しい事は分からないが、要は魔法を使ってどうにかするらしい。
そして、その浄化持ちが多数所属している教会は、ここぞとばかりに張り切っているのだと。
「汚染か……。確かにありそうだな、あの魔王なら」
「もしかすると腐っちゃうみたいに広がるから、このままって訳にはいかないみたい。それでその汚染を浄化をする人と、その人達を護衛する人も必要とかで、また人が狩り出されるかもだって」
「マジかよ……」
――面倒くさっ!
あの魔王はなんつう置き土産していきやがったんだ……
本体が倒されたのなら、汚染された部分も浄化されろよ……アレ?
「もしかして……この木刀を……」
「――駄目だよ陽一君」
「へ?」
「うん、駄目だよ陽一君。たぶんそれをやっちゃうと教会の人が押し寄せて来る」
「あっ、確かにありそうだな……それ」
「だから駄目なの、きっとあの人たちは、今度は陽一君を利用しようとしてくるはずだから。だから絶対に駄目」
「ああ、分かった。確かにアレに付き纏わられるのは面倒だな」
葉月に言われて俺は気付かされた。
あの手の連中は面倒だ。
上の方は奴らは、人のことを利用しようとするが、その下の信者などは、上に唆されて善意と使命感でやって来るのだ。
利用しようして来る悪意であれば、ただ突っぱねれば良い。
だが、信仰などによる善意で来る者は、ただ突っぱねるだけでは足りない。
葉月の元にやって来た信者のように、敬虔な信仰によってやって来る者は、いくら追い返しても際限なく湧いてくる。
ある意味、信仰による善意は、この世で最も厄介なモノのひとつかもしれない。
少なくとも、今後の活動に支障をきたすかもしれない。
「私の場合は……ほら、もう変わらないからね。だから私だけでいいの」
「了解した、んじゃ、陣内組から何人か付ける。前みたいな事があるかもだしな、シキと後二人ぐらい居ればいいかな?」
「うん、ありがとう陽一君。それじゃあ行こっか、言葉さんのお見舞いに」
「助かる葉月。ラティ行こう、あと……あれ? サリオは?」
「あの、サリオさんはまだ眠っておりますねぇ。昨日のMPの枯渇が原因かと」
「なるほど……じゃあ、この三人で行くか」
「はい、ご主人様」
イレギュラーの魔王が相手だが、ひとまず魔王との戦いが終わった。
だが、その爪痕はしっかりと残っていた。
汚染された大地だけではなく、それなりの死傷者を出した。
そして今、この中央には勇者たちが集まっている。
もしかすると、これから滞在しなくてはならない一週間は、ただのんびりと過ごせる一週間ではなく、もっと別の……という予感を感じさせたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
感想コメありがとう御座います。本当に励みとなっております。
全てに返事が出来ていませんが、全て読ませて貰っています。