報告いろいろ
もう色々とあり過ぎた。
俺は宿のベッドに腰を下ろし、日課をこなしながら魔王戦後の出来事を思い返した。
まずは言葉。
彼女は王女さまから手配された、王族専用の馬車で城へと運ばれていった。
運ぶ際に、言葉への負担がないかと心配したが、ベアリングやショックアブソーバーなどが完備された馬車だったので、振動などによる負担は少なそうだった。
ただ、ロウの方は城で手当てを受けるなどは出来ず、現在は俺たちと同じ宿で寝かされている。
最初は、差があるこの対応に食って掛かろうかと思ったが、それで時間を取ってしまってはマズイと思い、今回は言葉の為に折れる事とした。
そして多少の不安はあるが、言葉には三雲と葉月が付いていったので、下手な事にはならないだろうとした。
他にはサリオからの報告で、最初に寝かした駄目な指揮官が、あれから目を覚ましたと聞いた。
だが、その起きた時に寝ぼけて、『あ~良く寝た』と言ってしまったらしく、勇者様を庇って倒れたという美談が破綻し、恐怖のあまりに気絶してしまったことに、すり替わってしまったそうだ。
そのすり替わった経緯は、最初に捏造した美談が崩れたので、赤城が再び事実を捻じ曲げ、『指揮官の立場を考えて、あの時はあのような嘘を吐いた』と証言したそうだ。
勇者が言ったことなのだから、誰もそれを疑わず、最終的に、駄目な方の強面は城へと連行されてしまったらしい。
少々気の毒な気がするが、あれがいると色々と面倒そうなので仕方ないとした。
そしてサリオからの報告はまだ続いた。
それは教会側の動き。
教会側は、今回の魔王戦では大した成果を上げておらず、その挽回の為、残った魔物の狩りに全力を尽くしたそうだ。
今回の魔王戦は、大規模防衛戦と同じで観測係や見届け役がいたらしく、それの目に止まるように、露骨にいかにも的な戦いをしていたとサリオが言った。
要は、芝居じみて目立つようなことをしていたらしい。
そしてその時に、同じ残党狩りをしている勇者八十神とぶつかったのだという。
ただ、サリオからの話だけでは、その詳しい内容は分からなかったのだが、後から顔を出しに来た勇者霧島の話を聞いて、八十神が教会側とぶつかった真相を知った。
なんと八十神は、教会が葉月に対しやらかした例の婚姻騒動を、その場にいたある人物から教えてもらったらしい。
そしてそれに対し腹を立てた八十神が、グダグダと戦っている教会側にぶつかっていったのだという。
本当にしょうもない事をしている。
魔王戦は終わったのだが、まだ場外乱闘じみた事は続いている様子だ。
そして、そのある人物は、間違いなく煽ることが目的で、正義馬鹿の八十神に、葉月の件をリークしたのだろう。
そこに生まれる騒動を求めて。そして、それを芸の肥やしにする為に。
霧島が帰った後、まるで入れ違うかのように勇者椎名がやってきた。
その椎名がやってきた理由は、驚きなことに”謝罪”だった。
椎名は魔王の発生に遭遇し、その場で戦闘となった。
その戦闘時、魔王の攻撃によって気を失い、気が付いた時には身動きが取れない程の負傷をしており、やっと動けるようになった時にはもう魔王戦が始まっていたというのだ。
魔王にやられた影響なのか、傷の治りが遅くなっていた事と、魔法までも使えなくなっていたのが、ヤツの遅れた原因らしい。
魔法さえ唱えられれば、転移系の魔法でエウロスへと戻れたそうだが、それが出来たのは、日が落ちる直前のことだったと。
そして転移系の魔法が使えるようになり、エウロスに飛んで魔王戦のことを知り、短い準備をした後に、中央へと飛んだのだと椎名は語った。
ただ何故か、『中央』へとの部分を話す時、椎名は露骨に目線を反らし、何処か切なそうな表情をしていたのが気になった。
椎名は遅れた理由を話し、そして謝罪した後、他の勇者たちにも謝りに行くと言って去っていった。
最後に、『陣内君、すまなかった……』と、何か別の事に対し謝っているように感じる、そんな一言を言ってから。
椎名が帰った後も、様々な報告がやってきた。
今回の魔王討伐に参加した者は、滞在費などを中央が負担するので、あと一週間はこのまま滞在して欲しいとの通達や、魔王ユグトレントは倒したが、元の世界に戻る門のような物は確認されていない等の、様々な報告がやって来ていた。
他には、後日、戦闘時の聞き取り調査をしたいなどの要請もあった。
これによって俺たち陣内組は、最低でもあと一週間は中央に滞在することとなった。
少し長い気もするが、言葉の体調のことを考えると、それも悪くはないと思えた。
現在どれだけ衰弱しているかは判らないが、すぐに馬車での長時間の移動という訳にはいかないだろうから。
そして。
言葉のことを思い出すと、先ほどの、三雲とのやり取りが頭に浮かんできていた。
言葉の想い、そして覚悟……。
そして、そしてその引き金とも、切っ掛けとも思える葉月の――。
「――そうでしたか。ご主人様はそれをお聞きになったのですねぇ」
「ああ、聞いたってか、三雲から間接的にだけどな」
日課である完全完璧撫で梳き中の俺に、撫でられているラティがそう訊ねてきた。
梳くように撫でている尻尾を通して、俺の気持ちや思考がラティへと流れている。だから俺が口にしていなくとも、いま考えている事がラティへと伝わってた。
当然、それをラティに隠すつもりは一切無い。
「……あれって、あの時の女子会みたいな時のだよな?」
「はい、そうです」
「そっか……」
( だからあの時、いきなり買い物に付き合ってなんて言い出したのか…… )
あの時の、大人しいはずの彼女らしくない行動は、葉月によって煽られた結果だったのかもしれない。
そしてその葉月も――。
「――ッ!」
――止めだ、止めっ!
なんかこれ以上考えるとドツボにハマりそうだ、
今はもっと大事な事を確認しないと、
「ラティ、もう一度確認だ。アレは北原だったんだな?」
「はい、あの感情の色はあの方のモノでした。光を覆い塗り潰すような黒い感情……ええ、間違えようがありません」
「そうか……」
正直、ラティに確認しなくとも、確信のようなモノを持っていた。
そして、何故、魔王の中に北原の意思のようなモノが存在していたのかという疑問。
俺が逃亡生活中に、村娘であるリナから聞いた話。
死んだ人の意識が、湧いた魔物に宿る事があるという噂話。
そしてその魔物には、普段何も映していない白目とは違い、人と同じ黒目があるという話。
――あったよな、
最初は無かったのに……、
あの瞬間、俺を間違いなく睨んでいたよな…………、
「……北原が魔王になったって事なのか、それとも魔王が北原だったのか?」
「あの、どうなのでしょうねぇ……」
「う~~ん、わからん。――それに北の件も気になるな」
「あの、確か、人の精神が宿っているという、ダンジョン最奥にある魔石の事ですねぇ?」
「ああ、その所為でロウが一度死んだんだ。それにもしかすると、今後もっと被害者が出続けるかもしれないんだ」
「東側のようにですか……確かにそうなりますねぇ」
――そうだよっ!
やべえぞコレ! 中央だけじゃねぇ、北に住んでいるヤツも……
よく考えたらトンデモねぇ事態じゃねえかよ!
「よし、明日は言葉の見舞いのついでにその事を報告しよう」
「はい、それが宜しいかと」
明日の予定が決まった。
これは予測であり、ただの仮説だが、もし俺の予想が正しければ、近いうちに北側はとんでもない事になる。
また――ウルフンさんのような犠牲者が出るかもしれないのだ。
決して傍観などは出来ない。
今すぐ向かってどうにかなる問題ではないが、これを報告しておけば、早期対処などで被害が減るだろう。
そう、犠牲者がきっと減るだろう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、俺はラティと今後について話し合った。
明日の予定などを色々と。そして――
「えっと、ラティさん。今日はどの様にしますか? お部屋に戻りますか? それともこのまま……」
俺は意を決してそれを切り出した。
今日は何回も死にそうな時があった。自分一人だけでは間違いなく死んでいただろう、いま生きていられるのは、仲間たちのフォローがあったから。
だから今、色々と昂ってしまっている。のだが――
「あの、それでは――ッ!? ……わたしは部屋に戻りますねぇ。それに少々用事が出来ましたので。ではくれぐれも部屋から出ませんように、ご主人様」
「へ? 部屋を……でるな? あれ、行っちゃいますか……」
ラティは俺にそう告げると、すっと部屋を後にした。
そして数分後、下の階が何やら騒がしい気がした。だが特に危険などがありそうな感じではなかったので、俺は色々と頑張って眠りに就いた。
ただ、その騒がしい中に、葉月の声が聴こえた気がしたが、きっと幻聴だろう。
それに今は、色々と会い難いのだった。
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あと誤字脱字なども……