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彼女たちの親友

あ、中央アルトガル編、新章『シンデレラ』の始まりです。

騒がしくドタバタなほのぼの編の開始です。

プロローグなので、ちょっと短めです。

 『むんっ』といった表情で三雲が仁王立ちしている。

 そんな三雲は俺に、言われっぱなしでイイのかと訊ねてきた。

 

 当然答えは、”良くない(ノー)”だ。

 だがしかし、それを通すとなると色々と面倒がある。

 

 まず橘が絶対に折れない。 

 その次に、あの場であれ以上グダグダやっていると、正義馬鹿の勇者八十神まで参戦してくる恐れがある。


 そうなると間違いなく荒れる。

 そしてそれは、きっと良くない影響が周りの冒険者たちに出てくるだろう。

 『勇者の楔』によって……。


 だから俺は――


「三雲、ちょっと聞いてくれ」

「うん? アイツに文句言いに行く気になったの? だったら私も一緒に」


「ちげぇよ、ちょっと話しておきたい事があんだよ――」


 俺は、妙に好戦的な三雲に、『勇者の楔』の件も含めた、橘にあれ以上言えない理由を説明した。

 

 まず橘は己の非を認めない。

 俺のことを毛嫌いしている様子なので、取り敢えず反発が大きい。


 そして、『勇者の楔』。

 勇者たちが多い状況下では、これがどう作用するか判らない。場合によっては勇者たちが割れるまでの事態もあり、自分たちの組や、冒険者たちにも影響が出るかもしれないと説明した。


 それを聞いた三雲は――


「あ~、そんな話があったわね。だから組のメンバーがいつもと違ったのか。なんか呆けた顔していたから、魔王戦の前なのにって思っていたのよ」

「ん? 三雲も気が付いていたんだ」


「そりゃ気付くわよ。アイツ等がいつも以上にガン見してたし……沙織の胸とか……」


 最後の方は小声になっていてよく聞こえなかったが、勇者が大勢集まった時の、いつもとは違う、異様な雰囲気には気が付いていたようだ。


 だが、よく考えてみればそれは当たり前だった。

 楔の効果に惹かれている者は別だが、その効果が及ばない勇者たちからしてみれば、いつもとは明らかに違う眼差しだったのだから。

 

「なるほどね」

「誰だって気付くわよ…………でも、わたしのは……」


 俺は三雲の言葉に納得しつつ、惹かれたであろう冒険者や兵士たちの方へと視線を向けた。


 魔王討伐とは別で、普通の魔物を討伐していた冒険者や兵士たち。

 魔王ユグトレントが倒された事によって、もう魔物が湧き続けるような事態にはなっていない様子だが、まだ残っている魔物がいるようで、今は残党狩りのようなことをしている。


 さっき八十神と霧島が来ていなかったのは、もしかするとあの二人は、いまだに戦っているのか、もしくは指揮でも執っているのかもしれない。

 八十神辺りだと最前線に立ち、霧島の場合は距離を取った位置から、放出系WSでも放っているのだろう。


 と、そう考えた時、俺は大事なことを思い出した。


「ああーー、そうだった。三雲、マジで助かったぜ。お前だよな? 俺をWSで助けてくれたのって」

「ふんっ、やっと思い出したようねアンタ」


 さっきは橘の凄まじい剣幕で流され、俺は三雲に、助けて貰ったお礼を言っていなかった事を思い出したのだ。


「わりぃな、その、礼を言うの遅れて。……しかしよぉ、WSで撃ち抜くって結構無茶な助け方だな、――あ、もちろん感謝してんぞ」

「ふんっ、撃ったWSは速度重視だったから、眉間にでも刺さらない限りは平気よ。それにこれと同じ素材を使っているんでしょ? その着てるのって」


 三雲は自身のまな板ではなく胸当てを指で差し、黒鱗装束にも使われている黒鱗のことを言った。

 

 俺と三雲、それと小山だけに配分された、巨竜の喉元の部分の黒鱗。

 数多のWSを弾き、唯一通ったWSが伊吹の”でえええい”だけという黒鱗。

 その黒鱗を胸当てに使っている三雲だからこそ、黒鱗の強度を信用し、助ける為にWSを当てたのだと言った。


 ある意味、物凄い肝の据わり方だ。

 だがお陰で助かったのも事実。


「ああ、なるほどな。でも、ホントに助かったよ。この黒鱗装束でも橘のアレは耐えられないだろうし、うっかり木刀で防ぐ可能性も……」

「別にアンタを助けたって訳じゃないわよ。……でも、アンタがいなくなると泣く子がいるのよ。だからわたしは……」


 そういって少し遠くを見つめる三雲。

 その視線の先は、俺の後ろにいるラティにではなく、もっと後ろの方へと向かっていた。


 ( 泣く子か…… )


「三雲、お前は優しいな、言葉(ことのは)はイイ親友を持ったよな……あっ!? いや、えっと、葉月の親友とは大違いだなっ! 葉月の親友とは」

「アンタ……」


 俺は自分の失言に気付き狼狽えた。

 それは『泣く子』が誰なのかを俺は知っており、そして自覚していると言ったようなモノなのだから。そしてそれは非常に気まずくて、何ともむず痒くテレ臭いモノ。

 しかも背後からは、何とも言い難い複雑な感情が俺を刺してくる。 


「……はぁ、まあいいわ、深くは追及しないでいてあげる。でも一つ訂正、葉月さんの親友、あれは多分……親友なんかじゃなくて別のナニかよ……」


 『女の勘だけどね』と、意味深に訳の分からないことを言う三雲。

 男にとっての親友と、女性にとっての親友は、もしかすると定義がちょっと違うのかもしれない。


 その辺りの機微は分からんと、諦めるように思考を放棄しようとしたその時。


「むっ!? ご主人様、何か良くない事が起きています!」

「へ? ラティ――ッ、どこだ!? 案内をしてくれ!」

「え? え、何があったの?」


 ラティからの突然の発言。

 振り向いた俺は、彼女の顔を見て事態の緊急性を察した。

 三雲がいるので【心感】のことは言えないが、ラティのその表情は危険を示すモノではなく、何か別のことを示していた。


 そして、すぐに向かうべきだと伝えてきた眼差しに対し、俺は迷わずに案内の指示を出していた。


「はい、こちらです」


 風のように駆け出すラティ。

 俺はすぐにそれを追い、俺を追う形で三雲も走った。


 東門を潜り、距離にして300メートルほど走ると、視界の先に人だかりが見えた。

 その人だかりへと向かっていくラティ。


――なにがあったんだ?

 でも人だかりが出来るぐらいだから何かが、

 あ、もしかして、街中に魔物でも湧いたの――なっ!?



「な、何で……」

「ジンナイ! それにラティちゃんも……。くそ、すまねぇ守れなかった……すまねぇ、本当に申し訳ねえ……」

「ロウっ! ロウ起きてよ! ねえ死なないでよ……。おねがいだから……死なないでよ……ねえロウ…………うう、うああああああああああ――!!」


 リーシャの慟哭だけが木霊す。

 彼女は脇目も触れず、ただただ叫び続けている、腕にロウを抱えたままで。


 右肩からザックリと裂かれているロウ。

 その姿からは、欠片にも生は感じられず、もう流れ出る血すら止まりかけている。


「あ、あああ、ロウ……? おい、ロウ……」


 喉から声が零れる。

 

「すまねえジンナイ。ウチのリーシャを庇って……ロウが、ロウが魔物に殺された」 


読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘、ご質問など頂けましたら嬉しいです。

全てに返事は書けていませんが、全て読ませて頂いています。


あと、誤字脱字も、出来ましたら……

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