表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/690

エース・イン・ザ・ホール3

おれ、ペンタブ買うよ!(たぶん……

 花びらのように舞う結界は、魔王からの振り下ろしを次々と弾いていった。

 防ぐのではなく弾く(・・)結界。


 六角形の結界は、振り下ろしが触れると弾けるように割れていった。

 結界は割れてしまうので、当然すぐに消えてしまうのだが、弾けるようにして割れている為か、その弾ける勢いで振り下ろしを弾いていた。


 どこぞの戦車の装甲に、そのような防御方法があるとは聞いた事があるが、椎名はそれを、守護聖剣の結界で行っている様子だった。


 ( マジかよ、チート過ぎんだろ )


 俺は遠くからそれをマジマジと観察してしまう。

 本来であれば、魔王の攻撃を魔法などの結界で防ぐのは困難。

 単純に防ごうとしても、魔法を溶かすかのようにして破壊してしまうはず。だが椎名の結界は、自ら弾けることでそれを回避していた。

 

 気が付くとレプソルさんが立ち上がっており、椎名に頭を下げた後、倒れているガルダンを背負って下がって行くのが遠目にも見えた。


 きっと後方にガルダンを連れて行って、葉月にでも回復魔法を掛けて貰うのだろう。

 ただ、魔王にやられた怪我なので、回復には間違いなく手間取る。

 出来ることなら木刀を使って、回復を阻害するモノを取り除きたいが、流石に今は向かえない。


 今はむしろ小山の方を助けてやりたい。


 眉を八の字にして顔を歪め、脂汗を流しながら踏ん張っている小山。

 左腕は再び潰され、辛うじてくっ付いている状態。ダラリと力なく垂れ下がっており、いま左腕が行っているのは、小山を激痛で苦しめている事だけ。


 一刻も早く回復魔法を掛けてやりたいが、回避力が低い回復役(ヒーラー)は前に出ていない。

 この酷い怪我を治すのであれば、ここまで回復役を連れてくる必要がある。

 

 しかも、葉月クラスの使い手が。



「小山すまん、キツイだろうけど踏ん張ってくれ」

「あぁ任せてくれ陽一君。これぐらい平気へっちゃらさ……オラは王女さまに頼まれたんだ、女の子に頼られてたんだか――ぐぅっ」


 一ミリも余裕を感じさせない表情で、絞り出すような声で返事をする小山。

 俺のことは『陽一』と呼ぶなと言ってはあるが、今だけはそれを許してやる。


 苦痛に歪めた表情、痛々しく垂れ下がる左腕。肩を押し付けるようにして右手に持った盾を魔王へと絡ませ、必死に魔王を【重縛】で押さえ込んでいる。


 俺もイエロとの戦闘で一度、ヤツの【重縛】を喰らった事があるが、アレは確かに動けなくなる。

 魔王とはいえ、その巨体ゆえに動き辛くなっているはず。

 

 何とか、何とか小山を楽にさせてやりたいところなのだが。


「くそっ、回復魔法を掛けてやれたら……」


 弱音のような言葉が口から零れた――その時。


「いま行きますっ!」

「へ?」


 遠くからかすかに聴こえた声。

 必死に振り絞ったような健気な印象のある声。


 そして最近よく聴くようになった声だった。


「今そっちに行く、後しばらくの間なんとか耐えて欲しい」


 俺達にそう伝えてくる勇者椎名。

 だが俺の意識は、その隣に立っている女性に目がいった。


「こ、言葉……、ああ、そうか戻ってきたのか」


「言葉様」

「おう、言葉も戻って来たのかよ!」 

「やった、言葉ちゃんが戻って来たんだ」 

 

 犠牲者の蘇生に向かっていた言葉(ことのは)

 その彼女が、蘇生を終えたのか戻って来てくれた。


「いま言葉さんを守りながらそっちに向かうから」

「は? 守りながらって」


 椎名は聖剣の結界を維持したままで、こちらへ向かって歩き始めていた。

 剣の位置で固定されているのか、椎名が動くと舞っているような結界までも動いた。

 

 舞うようにしてドーム状に広がる六角形の結界。

 その結界に守られながら、椎名と言葉(ことのは)、それと護衛についていた二人がやって来る。


 魔王は椎名を危険とでも判断したのか、振り下ろしによる攻撃を一部集中させた。

 無数の黒い蔦のようなモノが椎名へと降り注ぐ。

 だが椎名は、それに慌てることなく結界だけで対応した。

 舞い散るように漂う結界が、意思でもあるかのようにスッと動き、振り下ろしによる攻撃を次々と弾いていく。

 

 ( すっげぇ……あ、そうか! )


 椎名には未来()を見通す【固有能力】がある。

 そしてそれがあるのならば、魔王の振り下ろしなどはいくらでも見切れるだろう。

 あとは振り下ろしが来る場所に、六角形の結界を向かわせれば良いだけ。


「おいおい、椎名のヤツ、魔王との相性が最高じゃねえかよ」

「ほわぁ、椎名君凄いなぁ……」

「おう、なんだよあの野郎。出番待ちでもしてたんじゃねえのか?」

「司、さすがにそれは無いだろう……」


「上杉、何を馬鹿なこと言っ――ッマズイ! 何か変なのしてんぞ!」


 単なる振り下ろしでは通用しないと思ったのか、魔王ユグトレントは新しい事を始めた。

 4本の蔦を絡ませるようにして、通常よりも太い蔦のような枝を作りあげていた。

 遠くて太さなどは正確には分からないが、他の攻撃よりも明らかに危険。もしかすると、舞うように漂う結界では押し切られるかもしれない。


「椎名ああ! 避けろおお!! 言葉(ことのは)も逃げろおおおお!」


 俺は叫ぶようにして警告した。

 それだけその攻撃方法には、何か嫌な予感がしたのだ。

 例えば、当たる直前に束ねている状態を解きほぐせば、通常よりも広範囲を攻撃することが可能となる。


 これは大きく避けないと、とても躱し切れないと思ったのだが――


「唸れ剛聖剣グラントン! 片手剣 WS(ウエポンスキル)”グラットン”!」


 椎名は迎え撃つ為に飛び上がり、右手に持った刀身が黒い剣を横に振りぬいた。

 黒色の光を放ち、轟音を鳴らし放たれたWSは、椎名たちに襲いかかっていた束ねた状態の振り下ろしを、呆気ないほど簡単に弾いた。

 

「はぁ? マジかよ!?」

「ええええ!? 今の片手剣だよね!?」


 俺と伊吹は声をあげてしまう。


 片手剣から放たれたとは思えない程の重い一撃。

 それを放った椎名は、何気ない涼しげな顔をしてこちらにやって来た。

    

「待たせたね。さあ言葉(ことのは)さん、小山君を助けてあげて」 

「は、はい。小山さん左手を見せてください、いま回復魔法を掛けます」 

「あ、俺が木刀で小山の傷口を払う」


「はい、お願いします陽一さん」 

「…………陽一さんか……」

 


 こうして小山と椎名の参戦により、状況が完全にこちらの流れとなった。

 魔王を押さえている小山を椎名が一人で守り、精鋭組は魔王の脚破壊へと動いた。


 椎名と一緒にやって来た言葉(ことのは)は、回復魔法だけではなく、補助系の魔法も小山に掛け続けた。


 小山を守る為に集まっていた冒険者が散り、魔王の攻撃が再び分散する。

 多少は小山への攻撃が続いてはいるが、これは椎名が全て防ぎ続ける。

 そして――


「おっらぁああ! 両手斧WS”凶攻突覇(きょうこうとっぱ)大落昇(だいらくしょう)”!」


 光を放たない単なる攻撃を繰り返す上杉。


 ( 出来ない癖によくやるぜコイツは…… )


 魔王の後ろ脚へと、精鋭組の猛攻撃が始まっていた。


 流れは完全にこちらに来ている。

 ならば確実にイートゥ・スラッグ(トドメ)を当てる為にと、後ろ脚の破壊へと作戦は動いていた。


 そして魔王以外の魔物の数でも減ったのか、後方に下がっていた者も近くにやってきていた。ただ、流石に魔王の攻撃範囲内には入らなかった。


 この辺りは指揮を執っているレプソルさんや、総指揮のガーイルさんが注意を飛ばしているのかもしれない。

 その中には、回復担当として下がっていた葉月の姿も見えた。

 一応ちらっと確認した程度だが、近くに八十神の姿は無かった。


 火力自慢の者が次々と脚に攻撃を加えていく。

 だが次々と武器が砕けてしまい、何人かは武器を失い後方へと退く者が出ていた。

 俺は木刀を振りながら、出来る限りWSが威力を発揮できるようにフォローする。

 時折、木刀で魔王を叩いてはみたが、流石に都合良く砕けてくれるなどはなかった。


「むう~、これが最後の一本かも」

「――っな!? 伊吹、お前そんなに壊したのかよ!?」


「うん、ちょっとでも安いのだと簡単に壊れちゃうの」 

「マジかよ……」


 流れとしては問題無いのだが、これ以上長引くとマズそうだった。


 椎名の張っている結界も、ヤツはSPを消費して結界を張っているのだと言っていた。

 まだSPに余裕はあるそうだが、それでもいつかは枯渇する。

 そしてそれは作戦の破綻へと直結する。


――くそっ、

 魔王の特性が厄介過ぎるな、

 誰か他に……ああっ! 八十神でもいいから火力が欲しいっ



 焦りと苛立ちがジワリジワリと這い寄ってくる。

 今は安定しているが、これ以上長引くとマズイ。だからと言って、すぐに急げるモノではない。


 再びプランCが頭に過った、その時――


「いっけえええええ! WS”葬乱(ほうむらん)”!」


 素人目にも、それはとても腰の入ったスイングに見えた。

 真っ赤に燃えるような光を纏った戦斧。

 なんと上杉が、この土壇場で新WSを編み出したのだった。


 亀裂どころではなく、大きく抉れた魔王の後ろ脚。

 幅3メートル近い脚が、ほぼ半分以上切り裂かれていた。


 あまりの衝撃に、魔王の巨体が僅かではあるが揺らぐ。

 そして次の瞬間、上杉を脅威と判定したのか、魔王は上杉を払うように後ろ脚を動かした。


 本来であれば避けられる。

 だが上杉は、自身でも予想外なWSを放った後だった。

 そしてそれは意外と硬直時間が長いのか、上杉は避けることが出来ずまともに喰らい吹き飛ばされた。

 

「ぐへっ!?」


「司!!」

「上杉!」

「上杉君!?」


 潰れたカエルのような、少し間抜けな呻き声をあげる上杉。

 だが吹き飛ばされた距離は洒落にならず、約10メートル以上は飛ばされ、上杉はそのままグッタリと動かなくなった。


 それを見た蒼月が即座に駆け出し、上杉が追撃の振り下ろしに晒されぬよう奴を回収する。


「わりい、このまま司を連れて退く」

「分かった! こっちは任せろ」

「気を付けて蒼月君」

「僕も援護します。それに一度魔法を充電しないとでして……」


 上杉を背負い走り去っていく蒼月。

 それを守るかのように並走する下元。


 あと一息という所での戦力ダウン。

 あと少し、あと少しなのだがそれが足りない。

 伊吹に無理をさせて、ラストの大剣を失わせるのも怖い。


 ( くそっ…… )


 心の中で悪態をついてしまう。

 伊吹以外、陣内組のスペシオールさんやテイシに頼るしかないのかもしれない。

 

 そう思い始めた時、俺はある視線に気付く。

 魔王の攻撃を避けつつ、魔王の気を引こうと攻撃を続けているラティからの眼差し。


 ( ああ、そっか…… )


 俺は木刀を腰に差し、背負っていた槍を構えた。

 

 ( 少しは良いところを見せないとな…… )


 俺は一気に駆け出し、そして強く踏み込む。


 ( 惚れた相手の前では! )

 

 渾身の横薙ぎ。

 この無骨な槍以外では、きっと耐え切れないであろう一撃。

 

 その放たれた一閃が、深々と魔王の後ろ脚へと食い込む。

 あと僅かを残し、無骨な槍が途中で止まる。だが――


「木こりとしての意地を見せるぜ! ぶち破れ、ファランクス!!」


 俺は亀裂へと腕を強引に捻じ込み、そして結界の小手を発動させた。


 聴きなれた結界の小手の発動音。

 そして次の瞬間、重い音を響かせ、魔王の後ろ脚が砕けるように切断されたのだった。


読んで頂きありがとう御座います。


少々お知らせを。

勇ハモの改稿作業や、MMD動画などの作業を行おうと思っており、その作業量から、感想コメントの返信を全て出来なく……本当に申し訳ないです。

ただ、誤字のご指摘や、質問やお答えしなくてはならない感想コメなどには返信致します。

全てにお返し出来なくなるかもで、本当に申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ