咲き誇れ!
色々あって遅れました~
魔王が重そうに沈む。
何が起きたのかはすぐに理解出来た。
【捕縛】【重縛】持ちの鉄壁の勇者小山が、魔王を捉え押さえているのだと。
やられた盾役の3人では押さえられなかったが、それを小山は一人で成しているのだと分かった。
何故小山はそれを成せたのかは分からない。
だが、今の小山なら、それを成せると思えた。出来るだろうと思えた。
「うああああああああああああん!! 怖くなんかないぞお!!」
「おし、良くやった小山! そのまま押さえてくれ。シキ、小山に補助系を頼む」
「りょぅがいしてらじゃでさぁ」
一気に状況が動いた。
失敗だと思っていた作戦が、小山の参戦により成功したのだ。
小山がいなければ、全員でゴリ押しのプランCを発動させるところだった。
これで魔王は押さえた、あとは後ろ脚の一本でも破壊出来れば完璧。
身動きが完全に取れない状態に持ち込み、橘がWSを放てば終わりなのだが――
「――ご主人様ッ!!」
「ああ、判っている」
魔王の攻撃が小山に集まり始めていた。
ヤツは、自身を押さえ込んでいるのが小山だと判っているのか、穿つような攻撃を小山に向かって放っていた。
3本の蔦のようなモノが頭上より襲ってくる。
蔦と言っても、その横幅は直径50センチ程、まともに喰らえばグッシャリと押し潰される。だが今の小山は避けることは出来ない。
ならば――
「っだっらあああ!!」
俺は全力で穿つような攻撃を横に反らした。
あまりの重さに、打ち返すのは厳しかったが、なんとか小山は守れた。
そして。
「大剣WS”パラスラ”!」
「斧WS”フルブレぇええ”!」
伊吹と上杉も颯爽と駆けつけ、魔王の穿ち潰すような攻撃を、WSを放って迎撃した。
「あ~~、剣がまた割れちゃった。これで3本目だぁ」
「ちっ、俺の方も駄目になった。なんかグラグラしてんぞコレ」
今の攻撃で武器が駄目になったのか、新しい武器を【宝箱】から取り出す二人。
あまり良い物ではないのか、声音に焦りと苛立ちが感じられた。
「小山を死守すんぞ!」
「おう、漢を魅せられたからな。それを汲んでやるのも漢の役目ってもんだぜ」
「う~ん、私の場合は女の子だしなぁ~」
「――ッ! 来るぞっ!!」
再び襲いかかってくる魔王の穿ち。
全部集中している訳では無いが、明らかに魔王の攻撃が小山に集まっていた。
そして3人だけでは守り切れず、他の冒険者たちも駆けつけて来る。のだが――
――マズイ、
守る為に人が集まると、それだけ攻撃が集まるっ、
でもだからって減らすと守り切れねぇぞ――あ!?
反らし切れなかった攻撃が、小山の左腕を潰した。
「がああああああああ!! うぐぅっ」
「小山! すまんっ!」
「もっとしっかりと守れええ!」
「もっと援護来てくれええ」
悪循環となっていた。
守る為に人が集中し、その人が集中する事によって、より魔王の攻撃が集中しだしたのだ。
涙を流しながら食い縛っている小山。
本当に根性のみで耐えている。
「小山、耐えてくれ!」
「くう、こんな連発じゃSPも持たないよ」
「おう、これぐらい野球部時代の素振りに比べれ――っが!」
「あれ? 司って素振りサボっていたよね。それよりも小山が……」
もう一発でも攻撃が抜ければアウト。
小山は魔王を押さえるのに必死で、攻撃を避けることなどは出来ない。
避けることが前提の魔王戦で、攻撃を防ぎ続けるというのは、SP的にも、体力的にも、武器の消耗的にも厳しかった。
レプソルさんまでもフォローに回った。
効果がすぐ切れるにもかかわらず、補助系魔法をばら撒いている。
中にはレプソルさんの近くに寄って、補助系魔法を掛けて貰っている者もいる。
――ちい、二進も三進もいかねえ!
守りを厚くすれば攻撃が集まるし、
だからといって薄くすれば抜けられ……ん? え、まさか!?
「レプさんっ! 避けろおおおおおお!!」
気付いたのは必然だった。
攻撃を防ごうと上を見ていたのだから。
いつもとは違う軌道。
確実に違和感を感じる軌道だった。
こっちに向かってくるのではなく、何か手を伸ばし切るかのような動き。
いつもの振り下ろしならば、根元の部分がもっと早く下がるはず。
だがそれは違っていた。
それはまるで、遠くへと手を伸ばすような軌道。
レプソルさんのいる位置は射程範囲外。
本来なら届かない位置、と俺たちが勝手に判断した距離。
重く響く振動。遠目には一瞬、レプソルさんが叩き潰されたように見えた。
レプソルさんはMPが枯渇していたのか、彼はマテリアルコンバートの最中であり、今の攻撃には反応出来ていなかった。
俺の声で初めて気づいた様子だった。
だが、補助魔法を受けに行こうとしていた精鋭組の一人は違い、俺が声を掛ける前に動いていた。
ゆっくりと蔦のような黒い枝が持ち上がる。
その下には、一人の冒険者が倒れていた。そしてその横には、尻もちをついた状態のレプソルさんがいた。
寸前のところでレプソルさんは救われていた。
しかし、助けに入った冒険者、陣内組のガルダンが身代わりとなっていた。
「お、おいガルダン! 何でオレを助けてんだよ! なんで……」
レプソルさんの悲痛な声が木霊す。
だが、追撃の振り下ろしが再び向かう気配を見せる。
振り下ろしによる攻撃の射程が、まだ伸びることが分かったのだ。援護として動いていた後衛役などが一斉に距離を取る。
「お前は、お前が何でオレを助け――」
「うるせええええっ! てめえが死んだらミミアちゃんが泣くだろうがっ! 早く下がりやがれ、死にてえのか! 早く行きやがれ」
切実な雄叫びがあがる。
そしてそれを無慈悲に、何の感慨も感じないといった、魔王からの振り下ろしが放たれた。
助けに向かいたい。
だが距離があり過ぎる。それにここを離れれば小山が危ない。
『誰か頼む』と願うしかない。
下元が向かおうとしている様子だが、纏っている雷炎が弱弱しく見える。とても全力が出せるようには見えず、完全に充電切れの状態。
射程が伸びるかもしれないという危険性を想定していなかった訳ではない。だが上手くいったところだったから、つい油断してしまっていた。
トドメとなる振り下ろしがガルダンを叩き潰す――その時。
「咲き誇れ守護聖剣ディフェンダー! ファランクス!」
白く光る六角形の板が、無数に舞うように出現した。
それは桜の花が舞い散るように漂い、そのうちの一つが振り下ろしを弾いた。
弾け割れて消えていく六角形の板。
「何が……」
瀕死で動けないガルダンを仕留めようとしているのか、次々と振り下ろしが放たれるが、それらを全て、光る六角形の板が弾いていた。
一瞬、葉月の障壁魔法かと思った。
しかし、その六角形の光る板には見覚えがあった。
葉月の作り出す障壁とは違うモノ、だが見た事がある、俺はそれを叩いた記憶もある。そしてそれを叩き割った記憶もある。
「まさか、この結界って……」
あの結界は強力だった。
少なくとも、俺の放つ槍では貫けなかった。
あれを貫くことが出来たのは、結界殺しの世界樹の木刀のおかげ。
「すまない皆、遅れてしまった」
「椎名……?」
「え? 椎名君?」
「おおう? 確か行方不明だって」
椎名秋人は、左手に持った剣を高々と掲げて立っていた。
意匠を凝らした刀身と柄。
あれは間違いなく結界を発生させていた剣。
「いくよ、咲き誇れ守護聖剣ディフェンダー! ファランクス改!」
舞い散るように漂っていた六角形の結界が、膨れ上がるようにして倍に増えた。
そしてそれは、身動きの取れないガルダンとレプソルさんを守るように覆った
「みんな、反撃だ!」
勇者椎名秋人が、魔王戦に参戦したのだった。
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