責任とは人に取らせるモノ
あ、ツイッターにラーシルのイメージイラストを載せました。
思ったよりも細身です。
https://twitter.com/2nbZJdWhppmPoy3
溶けるように崩壊する土魔法で作られた高台。
俺はそれを見ながら予定が崩れた事に対し苛立ち、足元の地面を蹴りつける。
踵に重く響く振動がより苛立ちを増す。
このままでは魔王によってこの足元、城壁が破壊されて街が蹂躙される。
この城壁が、巨大な魔王によって破壊されてしまう。そう考えた瞬間――
閃きのような逡巡。
俺は思わず笑みを浮かべてしまう。
いま目の前に、土魔法で作る予定だった壁の代わりがある事に気が付いたのだ。
そう、この城壁を代わりにすれば良い。
この城壁は魔法によって作られた物ではないはず。それならば――
「これを使うぞ……例の作戦は続行だっ!」
「ジンナイ……? 何を言って――って、おいまさか!?」
『お前まさか?』『マジか?』『正気か?』といった表情を見せるレプソルさん。
俺はそんな彼を見ながら考えを口にする。
「ああ、この城壁を文字通り壁として使うぞ。たぶんこの城壁なら溶けるように崩れることはないだろうし」
俺の発言に、誰もが否定的な視線を向けて来る。
正直、それは仕方ないと思う。
死守しなくてはならない城壁を使うというのだから、それは当然な反応だと思っていると。
「あっはっはっは。うん、やっぱ陣内君だね。ホント君らしいよ」
「ふむ、どうやって提案しようかと悩んでいたけど、陣内君が言ってくれて助かったかな? 流石だよ、『俺が責任を取る』って言うようなモノなんだから」
俺の予想とは違う反応を見せるハーティと赤城。
ハーティは心底楽しそうな顔。一方、赤城の方はなんとも言えない表情を浮かべている。だが今は――
「おい赤城、何だよ責任って。魔王を倒す為なんだから仕方ないだろ? 何事も多少の犠牲はあるもんだろうが」
「陣内君。何事も多少の犠牲があると言うのには同意する。だからと言って、『責任』を取らなくても良いというのとは別の問題なんだ。だから助かったよ――君がそれを言ってくれてね」
一瞬何を言っているのか理解出来なかった。
だが昔見た事がある、ある映画を思い出した。
その映画は、お化けを退治するという有名なSFモノの続編で、前作では世界の危機を救ったのだが、その世界救う為の戦いで、大きな都市に被害を出してしまう。
その結果、莫大な請求をされて倒産寸前。
そこから始まる物語だった。
当時それを見た俺は、『正義の味方も大変だな~』と思ったのだが――
――おぃぃいい!?
まさか……まさか、もしかして……
「なぁ赤城、その作戦で城壁が壊れたりしたら……」
「ああ、全部とは言わないが、言い出しっぺの責任だろうな」
『ちくしょー』と思いつつも、ある事にふと気付く。
勇者赤城も、この城壁を使う作戦を思い付いていたのだと。
そして躊躇っていたと。
誰もがもう動き始めていた。
一介の冒険者ではなく、勇者である赤城が理解を示したのだ。城壁を使った作戦を。
そして心なしか、皆が俺と目を合わそうとしない。
――くそぉコイツらっ!
絶対にとばっちりを避けてやがんな?
作戦の有効性を認めつつも、責任からは逃げるつもりだなああああ!
っ!? おいサリオ! お前まで目を反らしてんじゃねえよ!
俺は無言でサリオの顔を掴み、強引に俺と目を合わせるにする。
「ぎゃぼーーー! あたしは関係ないよですよです~」
「喧しいっ! お前は俺と一蓮托生だろうが。なに目を反らしてんだよ」
ギャアギャアと騒ぐ俺とサリオ。
俺は心の中で、この件はギームルに何とか責任を取らせようと考えていた。
ジジイならば何とか出来るだろうと思い、今は目を反らしたこのイカっ腹に、きっついアイアンクローを与えねばと思っていると――
「おう? 何かあったのか? 何か城壁がどうとかこうとか言ってんだけどよぉ」
「ん? 上杉――って、何だよその背負ってんのは」
城壁の上へと登ってきた上杉は、巨大なハンガーのようなモノを背負い、そのハンガーのようなモノに多数の斧を引っ掛けていた。
腕を胸の当たりで組んで仁王立ちしている上杉。
それは一言で言うならば、出来の悪いチンドン屋。
出来るだけ良く言うならば、フィンファンネルを装備したHiニューガ○ダム。
「おう、これか? これは予備の斧だよ。さっきの戦闘で俺の斧がちょっと駄目になっていたからな。流石に研ぎに出している時間は無ぇから、こうして予備の斧を沢山用意したって訳だぜ」
ドヤ顔でそう語る勇者上杉。
『ちょっと弁慶になった気分だぜ』などとアホな事を口にしている。
確かお前らにはアレがあったのでは……と思っているとそこに。
「あ、上杉君もいっぱい用意したんだね」
「伊吹」
「おう、さすがに俺のゴールデンアックス程じゃないからな。全力でWSいったらすぐにイカれそうだからな、背負えるだけ用意したぜ」
城壁の上にやってきた伊吹に対し、身体を軽く捻って背負っている数々の斧を見せる上杉。
それを見た伊吹は、少し不思議そうな顔をしながら、自分も沢山用意したと、【宝箱】から大剣を何本も出して見せた。
「前に椎名君に剣を折られてから、武器は複数用意しないといけない~って思っていたんだけどね、私のWSに耐えれるってあんまりなくて。……どうしたの上杉君? 物凄い『うがぁああ』って感じの顔をしているけど?」
上杉は完全に忘れていた様子だった。
勇者には【宝箱】があるということを。わざわざ背負う必要などないのに、まるで最終決戦仕様のような恰好をヤツはしていたのだった。
閑話休題
改めて作戦の概要を説明された。
目標は魔王の討伐。これが最優先。
その為には橘のWSを当てる。
一応その威力を見せて貰った。
男性の腕と同じぐらいの太さの光る矢が浮かび、それが飛んでいくWS。
弾速は遅く、一度発動させると照準は変えられない。しかもフルチャージには3分掛かるという、使い勝手が非常に悪いWS。
ただ、片手剣などにもネタのようなWSが存在するのだから、弓系WSにもその方向性のモノがあってもおかしくはないのかもしれない。
チャージ無しではスラグショトよりも劣るが、最大まで溜めれば99倍の威力。
それに竜核石の効果が合わされば、計り知れない威力だろう。
魔王の特性によりWSの威力が多少減衰したとしても、圧倒的な威力で押し切れると、そう思わせるモノだった。
不安があるとすれば、それを放つのが橘という事。
何ともいえない不安を感じるが、こればっかり言っても詮無いこととした。
そして――
「いいかお前達!! 次は撤退なんてモノは無い、多少の安全性は捨てるぞ」
魔王へと向かう者にレプソルさんが、厳しく宣言していた。
「手厚い回復魔法は期待するな。回復魔法は勇者様と精鋭だけに絞る、動けない程の負傷をしたら自分の判断で退け」
無茶を言っている。
だが、それほどの事を要求していた。
「誰の犠牲者もなし……では済まないだろう……」
その通りだろう。
もう様子見ではない。魔王を倒す為の戦いを始めるのだから。
「……スマン、悪いけど命懸けの戦いをしてもらう……」
レプソルさんが魔王戦での指揮を執ることとなった。
勇者赤城や三雲組のハーティ、他にも指揮を執れる者もいるが、赤城は作戦の要となる魔法を放つことに集中し、ハーティの方は遠隔組の支援となっていた。
総指揮のガーイルさんは全体の指揮。
魔王だけではなく、城壁に押し寄せてくる魔物の対応などを。
レプソルさんは魔王戦だけに集中と――
「逝くぞ野郎ども!! 身動きの取れない3分間を稼ぐ戦いだ。骨は拾ってやるっ! 」
熱く、熱く吼えるレプソルさん。
そしてそれに対し、応じるように声を上げる冒険者たち。
野郎と言っているのに、何故か伊吹が一番声を張り上げ応じている。
己を鼓舞するように、冒険者たちが吼える。
「ああ、仮に死んだとしても恨みっこ無しだぜ。死んだヤツを讃えながら酒を飲んでやるぜ。なぁ? お前ら」
「応ともよ! 最近なかった反省会でもやろうぜ」
「だな、最近やってなかったな反省会をよ」
死地へと向かう冒険者たちは、いつもと変わらぬ軽口を叩く。
本気とも、冗談とも取れる口調で、緊張を解きほぐすかのように言葉を紡ぐ。
「あ、そうそう。ミミアちゃんは俺が面倒を見るから安心して逝ってくれ」
「――ざけんなっ! 彼女は俺が引き取るっての」
「全くわかってねぇなお前ら……。ヤツがいなくなれば彼女は俺を選ぶだろうが」
「馬鹿かよっ!? どう考えてもオレだろう? 常識的に考えても……」
本気とも、ガチで本気としか取れない口調で言い争う冒険者たち。(主に陣内組)
最初の一人以外、全員がレプソルさんを見ずに言葉を吐き出していた。
「テメェらああああ!! オレは絶対に生きて帰んぞ! あいつを残して死んでたまっか。いいか? オレは絶対に生きてやるっ、――だからお前らもっ」
「当ったり前だ! 終わったら階段行くぞ」
「おお、報酬を全部つぎ込んでやるぜ」
「階段を貸切るか?」
馬鹿みたいに加熱する。
本当に馬鹿みたいに――
「いくぞおおおおおおおお!!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」
こうして、最終ラウンドとなるであろう、魔王との戦いが始まったのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと誤字なども……