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眼科に連れて行こう

すいません、かなり間が空いてしまいました。

最近発売されていた小説などを読んでいました。

そう、ガールズサイドの勉強をしておりました!

 今までにない大規模戦闘だった。

 組の方針により、あまり大規模な防衛戦には参加していなかった。

 だから大規模戦の経験はあまり無いが、それでもこの戦いの規模は大きいと感じた。


 

 魔王戦でのわたしの役目は、魔王を守るように湧く魔物の排除。

 そして開戦の合図のようにWS(ウエポンスキル)を放ち、群がるようにいた魔物を蹴散らした。

 

 ただ、同時にWSを放った隣の女の方が、わたしのWSよりも威力が高かった事が少々気にくわなかったが、魔王よりも前に出ていた魔物の大半が消し飛んだ。

 そして魔物が消し飛んで空いたスペースに、攻撃力と回避力の高さで選ばれた精鋭組が駆けていく。


 どう見ても怪獣のような魔王から、立て掛けてあった大木が倒れて来るような攻撃が繰り出される。

 

 その速度は、ゆっくりではないが、決して速いようには見えない。

 魔王へと向かった精鋭組は、回避力の高さで選ばれただけのことはあり、全員がそれを回避してのけた。


 そして魔王が漂わせている黒い靄へと入っていく精鋭組。

 黒い靄の中なので、あの男の姿が目立たなくなる。

 個人的にはどうでもよい男だが、わたしの親友が気にしている男。

 本当にどうにも理解出来ない。


 ちょっと趣味が悪すぎるとも思う。――だが、その趣味の悪いのがもう一人いるから驚く。

 何故、彼女までと傾げてしまう。

 あの時、あの場での、あの発言。

 アレがあったからわたしの親友は――と、余計な思考が湧き出たが、今は戦いに切り替える。


 十階建てのビルよりも遥かに大きい魔王と戦う勇者と冒険者たち。

 誰もが刃に光を纏わらせ、雄々しく魔王へと斬りかかっていく。その光は、黒い靄の中でも確認出来る。


 約一名を除いて。



 【固有能力】、【遠目】を駆使して魔物の動きを探り、堀を登って来る魔物を排除しつつ、前線で戦っている精鋭組の動きを確認する。


 紫紺の雷炎を纏い、縦横無尽に駆け巡る者。

 巨大な斧を振り回し、勢いそのままに暴れ回る者。

 身体に見合わぬ大剣を扱い、誰より剣を振るう者。

 攻撃を一切避けず、正面から攻撃を受け続ける者。

 大地を激走し、攻撃を避け損ねそうな奴をフォローする者。


 そしてその精鋭組を援護する為に前に出た囮組。

 武器を盾に打ち当てて魔王を挑発する者。

 ベタに『おしりペンペン』をする馬鹿。

 どこかで見たことがある、少し奇抜なスポーツのような動きをする奴。

 

 見方によっては、かなり巫山戯ているような光景。

 だが間違いなく命懸け。

 少なくとも、あの怪獣のような魔王から落ちてくる攻撃は、まともにもらえば即死してしまう危険性がある。

 

 それに魔物は、堀を登って来る奴らだけではなく、横へと迂回してくる奴もいた。

 それが雑魚の魔物なら良いのだが、迂回して来る魔物にはイワオトコやハリゼオイが混ざっている。

 

 長距離からの放出系WSでは仕留め辛い。魔法などはほぼ弾かれる。

 横に逸れた魔物を倒す為、伊吹組のガレオスさん達が動く。

 そのガレオスさん達とは逆の方向に、陣内組のスペシオールさん達が向かう。


 正面はわたし達、弓使い(遠隔組)

 左右は近接主体の冒険者たちが広がっていく。


 そしてふと気が付く、こことは別の、もっと離れた場所にいる魔物たちが中央へと向かっていることに。


 アレをどうにかしないと焦り伝えたが、総指揮官のガーイルからの返答は、『城の者に任せろ』だった。

 

 全てに手を出そうとすると、すべきことが疎かになってしまう。

 だから、『任せる所は任せ、やるべき事、与えられた仕事を全うすべき』だと言う。

 中央に残っている戦力には既に伝えているらしい、魔物の侵入を防げと。そしてその配置の指示も済んでいると。


 ならばわたしもやるべき事をやる。

 堀から這い上がってくる魔物を討つことを。


 囮組はしっかりと射線を確保してくれている。

 遠隔組の邪魔にならないように、わたし達の目の前を開けてくれている。

 少し前に出て、わたしは魔物を狙撃する。

 

 よく見てみると、野球部の蒼月が、遠隔組(こちら)からでは狙い難い、精鋭組に当たってしまいそうな位置の魔物を排除してくれていた。


 視野が広いと言うべきか、それとも気が回ると言うべきか、彼は上手いこと精鋭組のフォローしていた。

 そして――


「雪子おお! 足場をくれぇええ!」


 突然その蒼月が大声をあげた。

 離れている後方にまでしっかりと届く声。

 すると――


「――なない、なない雪で出来し白い花の道。氷系魔法”アイスバァン”!」


 その魔法名を聞いて、わたしは『はぁ?』と思ってしまう。

 【氷系魔法アイスバァン】は、足元に氷の板を作り出して動きを阻害する魔法。

 要は地味な妨害系魔法。もう少し踏み込んだ(辛口な)言い方をするならば、使い物にならない魔法だ。


 だが、そこに現れたのは氷の道。

 しかも上手いこと調整でもして作り出したのか、滑ること無くその氷の道を駆けて行く蒼月。

 

 わたしはそれを見て理解する。

 勇者柊雪子は、妨害系の魔法を調整して滑らないようにして、味方の足場として使っているのだと。

 発想が少しぶっ飛んでいる気もするが、とても有効な利用方法。

 魔王の足元に群がる形となっていた冒険者たちが、立体的な位置取りを出来るようになっていた。

 

 魔王の胴体へとWSを放つ勇者と冒険者たち。

 戦闘の流れは、当初予想していたよりも上手くいっている。

 

 堀を登ってくる魔物も、思ったよりも多くない。

 体が重そうなイワオトコなどは登ってこれるはずがない。比較的に軽量級の魔物だけが這い上がってくる。


 それをわたしはWSで狙い撃っているのだが――


「弓系WS”スピショット”!」


 元から速度に優れたWSが、より凄まじい速度で放たれている。

 光の針が突き刺さり、黒い霧となって霧散していく魔物。

 わたしの放つ【スピショット】とは別格の速度と威力。

 

 そして『ふふん』と言った一瞥をわたしに飛ばす女。

 正直、まだあの時のことを根に持っているのかと疑う。

 貴女は、わたしよりも役に立っているわよ的な態度を見せてくる。


 ほんの僅か、本当に少しだけだがイラっとする。

 わたしは視線を外し、手元に出現させたステータスプレートに目を落とす。

 


ステータス


名前 三雲 唯

【職業】勇者

【レベル】107

【SP】297/576

【MP】378/412

【STR】 331

【DEX】 404

【VIT】 309

【AGI】 366

【INT】 348

【MND】 385

【CHR】 380

【固有能力】【宝箱】【鑑定】【体術】【俎板】【遠目】【狙目】【気強】【火魔】【鷹目】【弓技】

【魔法】 水系 土系 雷系 風系 聖系

【EX】『絶対見えない』『SP回復(大)』『防御補助(大)』 

【パーティ】オーバーアライアンス


 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 ステータスを確認し、視線を上げて勇者橘を見つめる。

 今は戦闘中、さすがに両手を使って【鑑定】することは出来ない。

 だがつい最近彼女を【鑑定】した時、彼女のレベルは89だった。


 少なくともわたしよりもレベルは低い。 

 だがそれにも関わらず、竜核石(アイテム)一つでこうも差がつくのは腹立たしい。

 そしてそれを、まるで自分の力のように見せているのがより腹立たしい。


 彼女を視界に入れぬように、わたしは前線へと目を向ける。

 ギャアギャアと騒ぐように戦っている精鋭組。これだから脳筋共はと思ってしまう。

 光を纏わせた刃を振るい暴れ回っている。そんな中に、一人だけ黒い靄に同化しそうな黒い男が、ただひたすらに槍を振るっていた。

 

 竜核石(アイテム)どころかWS(ウエポンスキル)すら無い男。

 

 差がつくとか以前の問題。

 比較にもならない、張り合う水準ではない、必須のモノを持ち得ていない男。

 それなのに、一番ヤツが削っているのではと、そう錯覚してしまうほどの凄みがあり、しかもしっかりと同じ場所を斬り付け、魔王の昆虫のような脚を切断しようとしている。


 一瞬だが、不覚にも見惚れるように感心してしまう。

 だが次の瞬間、何をトチ狂ったのかと思うほど、一心不乱に木刀を振り回し始めた。

 

 誰もがそれを見て呆気に取られたが――すぐに気が付く。

 精鋭組がどれだけ動き回ろうと微塵も晴れなかった黒い靄が、木刀によって振り払われているという事に。


 とても不思議な光景。

 木刀が巨大な団扇か、それとも消しゴムでこすったかのように、黒い靄が晴れて消えていく。


 それが良い事なのか悪い事なのか正確に判断が出来る訳ではないが、きっと良いことなのだろうと思えた。

 そしてそれが正しかったと示すように、WSの光がさっきよりも強くなっていた。

 試しにその晴れている部分にWSを試し撃ちしてみると、体感だが、威力が極端に落ちている感じがしなかった。 


 より暴れ回る精鋭組。

 WSの威力だけではなく、動きまでも目に見えて変わっていた。

 ほぼ全員が生き生きとしている。これはもう、このまま押し切れるのでは? と思い始めた時。


 伊吹さんの大剣が砕けるように折れた。

 そしてそれを狙いすましたかのように振り下ろされる攻撃。


 一瞬危ないと思ったが、すぐにフォローに入る勇者たち。

 どういう状況なのかは分からないが、伊吹さんが前線から退いてくる。


 これはどうするのだろうと、そう思い指揮の方へ目を向けると、そこではガーイル(指揮)と3人の男たちが何かを言い争っていた。


 3人の男たちがしきりに魔王を指差し、自分たちが魔王を倒すと吠えている。


 そして――

 一番熱く吠えていた赤い男が――潰された。


 戦況が変わり一時撤退となった時、彼等が動いたのだ。

 先頭を駆けていた赤い男は、振り下ろされる鉄槌のような一撃をまともに浴び、大地へと叩き付けられた。

 叩き付けられた反動からか僅かに弾む身体、だが次の瞬間には、滝のように降り注ぐ打ち付けにより、一瞬にして赤い肉塊へと変わっていた。


 何かしようなどは思い浮かばない。

 どう見ても即死、助けようなどは一切思い浮かばない。

 仮にもし、アレを助けに行く者がいるとすれば、自殺志願者か気が触れた馬鹿ぐらい。もしくは、悪い意味で飛びぬけた馬鹿。


 そしてそれが居た。

 何を思って動いたのか理解しがたいが、勇者八十神が飛び込んだのだ。

 

 彼は攻撃を一度も避けていない。

 普通とは違う鎧を装備しているのは知っていたが、それでも、その行動は無謀だと思えた。そして無謀だった。


 心底情けない悲鳴をあげる彼。

 だが悲鳴をあげているということは、まだ生きているという事。

 しかしわたしは無理だと迷わず判断する。

 

 助けることなど出来ないと。

 これは無理だと。絶対に無理だと。どう考えても無理だと、そう思ったその時。


「援護おおおおっ!!」


 心と体全身に響くような雄叫び。

 そしてヤツが、親友の想い人が駆け出した。


 それはまさに刹那の三連撃。


 目を疑うかのような動き。

 まるで雑なアニメのコマ送りのような速さ。

 

 そして彼に突き動かされるようにみんなが駆け出す。

 そして呆気ないほど簡単に八十神を救ってしまった。

 

 一瞬、本当に一瞬だが、『かぁ~』っと胸が熱くなる。

 キュンとした訳では無い、だが、火が点いたような不思議な感覚。

 わたしはすぐにハーティさんの顔を見つめリセットする。


 これは何かの間違いだと。

 だって、何を血迷ったのか、あの犯罪者染みた目が――えてしまった。


 絶対におかしい。

 これは何かの間違いだ。



 そして、やはり先程のは間違いだと確信が出来た。

 魔王ユグトレントが、土魔法で出来た高台を溶かすように崩壊させた後、誰もがその光景に驚き絶望の色を見せる中、親友の想い人だけは自身の足元を、己が立っている城壁を見ながら嗤った。


 とても邪悪な目つき。

 もし手元にスマホがあったのなら、間違いなく110に掛けたくなるような顔。


 何か絶対にヤバい事を考えている。

 そして、あんな邪悪な笑みを見せているヤツを想う親友を、この異世界(イセカイ)にあるかどうか不明だが――



「うん、沙織を眼科に連れていかないと。あの子、絶対に視力が落ちているわ」



読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


あと誤字脱字なども……教えて頂けましたら。

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