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突撃、ぱらっぱー精鋭部隊

遅れてすいません。

魔王戦を書くために、ちょっと取材に行っていました。

思ったよりも時間がかかってしまい申し訳ないです。

 俺達は横一列となって魔王(ユグトレント)へと駆ける。

 

 本来であれば、魔物を足止めする用の巨大な堀があるのだが、魔王が前に移動していて、丁度その堀を越えようとしているところだったのだ。

 6本の巨大な脚を使い、重そうな巨体を支え歩んでいる。


「おい、チャンスだ!! ヤツの後ろ足がハマってんぞ」


 隣の冒険者がそう声をあげた。

 俺はその言葉を確認するかのように、魔王の足元へと目を向ける。

 

 ( お! マジだ )


 ユグトレントはなんと立ち往生していた。

 巨体を支える脚は6本、そのうちの後ろ脚2本が堀に足を取られる形で、しっかりと地面を踏みしめていなかったのだ。


 何とか4本足だけで踏ん張っている体勢、時間を掛ければ立て直せるだろうが、今は上手く前に進めない様子だった。

 もし強く押せるのであれば、後ろへと転倒を狙えるかもしれない。 

 

 そして一度転倒してしまえば、簡単には起き上がれないだろうと思えた。

 魔物の足止め用の巨大な堀が、上手いこと魔王にも影響が出ていたのだ。


「おし!ラティ押し切るぞ!」

「はい、ご主人様」


「チャンスだ!」

「魔王って言っても所詮はただの木だ」

「我らには勇者さまが居る、恐れずに行くぞぉおお続けええええ」

「全力でいけええ!」

「やってやろうじゃねえか!」


 誰もがそれに気づき、雄叫びを上げながら駆ける速度を上げる。

 俺も負けずにと魔王へと駆け、そしてヤツが纏うように漂わせている黒い靄の中へと踏み込んだ。

 すると突然、身体が重くなる違和感を覚えた。


 纏わりつくように重く感じる空気。

 黒い靄の為か、視界も少し悪くなる。

 そして僅かだが、装備品(・・・)までもが重くなっていた。


「む、まさかこれって……」

「あの、そのようです。普段よりも緩くなって少々心許ないです」


 ラティがそう言って示すのは、彼女が装備してる深紅色の鎧。

 その鎧は、ららんさんが傑作だと言った特注品。装備者のMPを吸って、様々な補助効果を発揮する逸品。

 その効果のひとつに、鎧が装備者にしっかりと張り付くというモノがある。

  

 鎧を脱ぐ時は苦労するらしいが、戦闘中にズレたりしないので、とても重宝するとラティが言っていた。

 

 それが今、俺の目から見ても普段とは違い、明らかに緩んで見えた。

 

――ちぃ、間違いねえ、

 この靄の中だと付加魔法品アクセサリーの効果が下がってんな、

 俺の黒鱗装束も重くなってんし、



「ラティ注意しろ、この靄の中だと付加魔法品アクセサリーの効果が下がってんぞ」

「はい、ご主人様もお気をつけて」


 事前にある程度は聞いていた。魔王の周囲では、魔法による強化などの効果が薄くなるとの報告は聞いていた。

 しかしそれは、付加魔法品アクセサリーにまで及んでいた。

 

 普段よりも少し重く感じる黒鱗装束。

 その重さの感覚から、付加効果が完全に消えた程では無さそうだった。

 だが、いつもの様に付加魔法品アクセサリーに頼るのは危険だと感じられた。

 

 そして眼前には――


「うっ、でけぇな……」


 思わず少し弱気な声が漏れてしまう。

 距離にして30メートルまで近づいた魔王は、黒い靄による雰囲気も相まってか、より巨大に見えた。


 率直な感想としては、『デカすぎだろ』だ。

 昔、家族との旅行で海外に行った時に見た、某凱旋門を思い出す。

 車で近寄るまでは、そこまで大きな建造物という感じはしないのだが、間近まで近寄ってみるとその巨大さに圧倒された感覚。


 近づくと視界には収まり切らず、見上げないと上が見えない何とも言えない圧迫感。

 しかも、黒い靄が漂っている為か、上の方への視界が悪くなっており――


「げっ!? きた!」

「ご主人様横にっ!」


 見上げたその先から、黒い靄に紛れて太い棒状のモノが振ってきた。

 俺は咄嗟に横へと回避する。


 ――ゴッ!――


 重く鈍い音を立て、さっきまで俺が居た場所が抉られる。 

 遥か頭上より振り下ろされた太い棒状のモノは、鞭のようにしなり攻撃をしてきたのだ。

 

 並みの冒険者ならばまず即死するであろう一撃。

 熟練の冒険者であっても、しっかりとした装備で身を固めていなければ危ないだろう。そしてしかも――


「うおっ! 結構怖ぇなコレ」

「情報の通りですねぇ、本当に手数が多いです」


 即死級の攻撃が、絶える事なく降り注いで来ていたのだ。

 視界の隅には、回避に専念している冒険者たちが映る。


――あぶねえ、

 これ初見で突っ込んでいたら、普通にやられていたかもだぞ、

 くそ、何だよこの攻撃の手数は…………だけどイケるか、



 先行する精鋭組は、攻撃力だけでなく回避力も高い者で固めた。【固有能力】で【直感】などの、相手の攻撃をしっかりと避けれそうな者で。

 

 そして攻める者の数を調整し、攻撃がひとりに集中せず、分散するようにした。

 だから肝心の回避が出来ない者は、高い攻撃力を持つ者であっても外した。


 ある一人の例外を除いては。


「僕には、僕にはこんな攻撃は通じないっ!」


 ( あの馬鹿、少しは避けろよ…… )


 チート装備に身を包んだ勇者八十神だけは、振り下ろされる鞭のような攻撃を、不壊の盾(ベルダンディの盾)と、衝撃過去飛ばしの鎧(ウルドの鎧)で防ぎながら駆けていた。


「ったく、アイツはゴリ押しかよ」

「あの、ご主人様。もう攻撃に慣れられたのですねぇ」


「ん?、そりゃまぁバレバレの攻撃だしな――って、あぶね」


 正直、魔王の攻撃は初見はビビった。

 だがすぐに慣れて、今はもう会話をしながら回避する余裕があった。

 遥か頭上からの攻撃は、なかなかの威圧感はあったのだが、それだけ離れた場所からの攻撃なのだから、見て(・・)さえいれば回避は余裕であった。


 黒い靄で多少は見え難いが、サリオの作った巨大な”アカリ”のお陰で、魔王の攻撃はしっかりと確認が出来たのだ。


 そして俺以外にも――


「ヘイヘイヘーイ! もう余裕で避けれるぜ」

「おい、多少は反れるから、もっとしっかりと避けろよ」

「さすがにこれを紙一重で避ける馬鹿はいないだろ?」


 何人もの冒険者たちが、魔王の攻撃に慣れてきていた。

 中には余裕の感じられる回避行動をとっている者もいる。

 

 特に伊吹などは、完全に見切ったかのように動き――


「両手剣WS(ウエポンスキル)”でぇぇぇい”!」


 一番最初に魔王へと攻撃を叩きこんでいた。

 

「続け続けぇえ!」

「我らがイブキさまに続けええ!!」

「いけいけええ!」


 冒険者たちも魔王の蜘蛛のような脚へと斬りかかる。

 直径5メートルは超える太さがある魔王の脚。前に出ているぶん攻撃し易そうな為か、誰もが殺到し武器を振り下ろす。


 黒い靄の中で、何時もよりも鈍く感じるWS(ウエポンスキル)の光が目に入る。

 

「くううう、堅ぃいい」

「駄目だ、いつもの威力が出ない」

「一撃重視のWSを使っていけよぉ!」

「マジかよ、俺のレイグラまで通用しねぇ……」

「くそっ、堅ぇ」


 冒険者の誰もが不満を口にするように声を上げていた。


 伊吹のWSも、本来であれば切断とまではいかなくとも、それに近い結果は出せるはず。

 だが魔王の太く蜘蛛のような足は、伊吹のWSを耐えきっていた。ただ、もっと正確に言うならば、WSに本来の力を発揮させていなかった。


「むううう、物凄くやり辛いよぉ」


 WSが本来の力を発揮出来ない為か、伊吹にしては珍しく不満を口にしていた。

 俺はその不満を聞き流しながら、木こり時代に培ったモノを叩きこむ。


 刃先はブレずに真っ直ぐに。

 無駄に力む事無く研ぎ澄ませ。

 体重を乗せるのではなく、体重を散らさぬよう中心に集め。

 軌道は広げず、絞るような軌道を意識して。


 俺は槍に(・・)よる至高の木こりスイングを行った。

 

 ガツっと食い込む穂先。

 その刃の食い込みは、約10センチ近く。


 他の冒険者たちのWSは3~4センチ程度。

 破壊力という点ではWSよりも劣るが、一点を切り裂くという点では、俺の横薙ぎの方が優れていた。

 

 ただ、20センチ以上抉っている伊吹のWS(でぇぇぇい)には負けるが。


「わ! 陣内君凄い!?」

「いや、普通に伊吹の方が削ってんだが……」

「おう、やるな陣内。俺も負けずにWS(ウエポンスキル)”フルスイング”!」


 最初よりも、かなり余裕のある会話が出来る。

 俺達、精鋭組が魔王へと辿り着くと同時に、第二陣が囮として出ていたのだ。

 

 囮として出たのは迅盾役や回避力がある者たち。

 攻撃力は低いが回避に特化した者たちが、囮として魔王に近づいたのだ。

 攻撃などは一切考えず、魔王の気を引くように動き、精鋭組に向かう攻撃が少しでも減るように立ち回る。


 そして現在魔王は、足元に冒険者(精鋭組)が約20人。

 それとは別で攻撃が届くであろう位置に、約30人程()がうろついている状態。


 こちらの作戦通り、魔王は攻撃を分散させていた。

 魔王の攻撃(振り下ろし)は、慣れてしまえば簡単に回避出来る単調なモノ。さすがに少人数だとキツイが、50人を超える人数で対処すれば十分であった。


 攻撃に晒される回数が減った精鋭組は、より攻撃を強める。

 

「行きますっ! WS(ウエポンスキル)”ファスブレ”! ”ウィズイン”!」


 【天翔】で空へと駆け上がり、魔王の前脚ではなく、魔王の胴体へとWS一人連撃で”重ね”を叩き込むラティ。

 彼女の放つ短剣による突きが、魔王の表面をしっかりと抉り爆ぜさせた。


「おお、すっげえ!? おい、オレらも重ねを狙うぞ!」

「おっしゃ、俺が〆をやるからお前が先に撃て」

「ざけんな、俺の方が強ぇの撃てんだから、お前が先に撃て」


 ゴチャゴチャとやり合う者たち。

 さすがに”重ね”は普段から一緒にやっていないと出来るモノではなく、今回のような混合だと、なかなか上手くはいかない様子。

 WSが碌な威力を発揮出来ない事による不満からか、少しでも強い攻撃を放ちたいという欲のようなモノが見え始めていた。


 僅かに乱れる足並み。

 このままでは良くない流れになるかと思った時――


「雪子おお! 足場をくれぇええ!」


 突然大声をあげる蒼月。

 流石は元野球部と言うべきか、その声量は凄まじく、遥か後方に控えている柊雪子(彼女)に届いたらしく。


「うお!?」

「氷の道……?」

「何だこれは!?」


 突如俺達の目の前に、白く光る氷で出来た道が出現したのだ。

 少し傾斜はキツイが、走り易いスロープ状となっており、そのまま駆けて行けば、魔王の胴体への攻撃が容易となっていた。


「っらあああああああ!! WS(ウエポンスキル)”ヘリオン”!」 


 足並みが乱れ始めた精鋭たちに、出来ない事は無理にしないで『こうやれ』とばかりに、氷で出来た道を駆け上がり魔王の胴体を斬り付けた蒼月。


 ”重ね”ではないので、ラティのWSほど威力が出た訳ではないが、それでもしっかりと十字の斬撃の痕が刻まれていた。


 次々と出現する氷の道。

 他の精鋭たちも駆け上がり、魔王の胴体へと斬りかかる。

 当然魔王からの攻撃により、氷で作られた道は破壊されていくが、それでも次々と氷で作られた道が出現し、精鋭たちの攻撃を援護していく。


 魔王の前脚に攻撃する者が減り、十分なスペースが出来た事で、俺は周りを気にすることなく槍を振り回した。


 そして魔王の攻撃を注意しつつ横薙ぎをしていると、ふとある事に気付く。

 それは腰回りだけが軽いという事。


 纏わり付くような黒い靄により、体全体が重く感じるのだが、何故か腰回りだけは軽く、逆に違和感を感じてそこに目を向けると、そこには――


 ( へ? 靄が晴れてる? )


 何故か俺の腰回りだけは黒い靄が覆っていなかった。

 そしてよく観察してみると、木刀の周りは黒い靄が晴れていたのだ。


――へ? ……あ、あああああああああ!!

 そうか! そうだよ、そうなんだよ、そうだったよっ!

 この木刀は世界樹だった…………それなら、



 俺は槍から木刀へと持ち替えて、黒い靄を払うように木刀を振った。

 

 ( よし、いけるっ )


 力を込めて木刀を振るうと、まるで巨大な団扇で扇いだかのように靄が晴れた。

 纏わりつくように漂っていた黒い靄が、木刀によって簡単に取り除かれたのだ。

 

 正直なところ、木刀にはすぐに気が付くべきだった。

 だが大規模戦ということで、思っていた以上に気負っていたのかもしれない


「これなら……」


 

 魔王との戦闘は劇的に変化した。

 世界樹の木刀のお陰で、不完全だった攻撃が通るようになったのだ。

 ただ、さすがに完全とまではいかず、3~4割までに抑えられていたWSが、本来の威力の7割程までに戻った程度。


 しかしその差は大きく、確実に魔王を刻んでいった。

 しかも、木刀で黒い靄を払うことにより、動きも格段と楽になる。

 俺は攻撃でなく、まるで応援でもしているかのように木刀を振るった。


 戦場を駆け巡り、黒い靄をただひたすら払う。

 ずっと走り続けるので、それなりの苦労があったのだが、俺の専属として、元五神樹(ごしんき)のシキが、支援系の魔法を俺に掛け続けてくれた。


 後衛役のシキだが、彼は根っからの後衛という訳ではないようで、魔王の射程に入っても十分に立ち回ることが出来た。


 そして現在。

 俺が黒い靄を払い。(サイリュウムを振るかの如く)

 精鋭組が魔王を削り。(チマチマと)

 囮組は魔王の攻撃を引き受け。(カバディのように)

 後方に引いた部隊が雑魚の魔物を排除し。(遠隔と放出系で)

 攻撃を受けて傷を負った者はすぐに退いて。(時には引き摺られ)

 退いた分は予備の戦力を即投入し。(わんこそばのように)


 完全に流れが出来ていた。

 決定打となるモノはないが、確実に良い方向へと行っていた。


 誰もがこのまま魔王を削り切れると確信していた。

 どこかで崩れなければ。

 綻びさえ無ければと。


 誰もがそう思った思い始めていたであろう――その時。


 ――ガギンッ!!――


 それは突然訪れた。

 まるで綻び、破綻を示すかのように。


 勇者伊吹の両手剣が、彼女の放つWSに耐え切れず砕け折れたのだった。

 

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。


あと誤字脱字なども。

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