さぁ、俺達の戦いはこれからだっ!
ガレオスさんが連れて来たのは、元将軍さんだった。
中央に居たのだから、中央の地理などは把握しており、先程まで侵入していた魔物の討伐と、新たに侵入を試みる魔物を防ぐ指示をしていたそうだ。
そしてそれらを終わらせ東門にやって来てみれば、何故か勇者同士が言い合いをしており、面倒そうなので終わるまで待機していたそうだ。
タイミング良く姿を現したのは、単に出番待ちしていただけだった。
「……ガレオスさん」
「悪ぃな英雄のダンナ。なんか青春っぽいことしてたからよう……まぁ色々とオジさんには眩しくってな。――で、そろそろ本題に入ろうでさ」
のらりくらりと誤魔化すガレオスさん。
だがすぐに切り替えて、この次の予定を話し始めた。
それは魔王との戦い。
現状、奴とは正面から当たるしかない。
突き落とせそうな巨大な渓谷があるとか、沈められる深い湖があるなどといった都合の良い場所はなく、ほぼ平地でのぶつかり合い。
ただ、平地ということなので、ちょっとした高台を作れば全体を見渡せる地形。
指揮を執る側としては、戦局を把握し易いらしい。
そしてその指揮を、軍人顔で強面のガーイル元将軍が執ってくれると言う。
ガーイル将軍はとても眉が薄く、どことなく攻めではなく”待ち”の戦術が得意そうな風貌だか、元将軍だということで兵士側からの信頼もあり、いきなりこの人が指揮をしますと言っても反発が少ないそうだ。
少なくとも、一介の冒険者に指示されるよりかは、兵士側の士気が上がるとガレオスさんは言う。
そして、うっかりと目を覚まされると困るので、強面の男には追加の睡眠系魔法を重ね掛けした。
「では勇者様、全体の指揮は自分が執らせて頂きます」
ガレオスさんからの説明と紹介が終わり、ガーイル元将軍は勇者達と向き合い、自分の立場を宣言した。
「はい、お願いしますガーイルさん。庇って倒れたバウマンさんの為にも……」
八十神の言葉に、真相を知っている者は皆が目を反らした。
この男に本当の事、『バウマンが邪魔だから寝かしました』などと明かすと、絶対に面倒なことになりそうなので、本当のことは教えない事にした。
そして短い挨拶の後、ガーイル元将軍は作戦の概要を語った。
今回一番大事なことは、無理に攻めないという事。
魔王の強さは未知数、強引に攻めると被害が広がる危険性がある。だから最初は様子見で行くと話した。
八十神と上杉はそれに否定的で、一気に攻め切れば良いなどと言ったのだが、言葉が欠けている状態なので、回復が追いつかないかもしれないとの、葉月の発言によりそれは収まった。
特に、魔王に負わされた傷は、回復魔法の効き目が悪いとの言葉が効いている様子だった。
ふと小山のことを思い出す。
怪我の具合を実際に見た訳ではないが、かなり酷かったらしく、それが原因で心が折れたと聞いた。
そしてこの場にはいない。
仕方ない事なのかもしれない。一度は腕と脚を失うような怪我を負ったのだから。
そして、それを負わせた相手と戦わなくてはならないのだから。
ガーイルさんの説明は続く。
魔王には精鋭のみで挑み、他の者は護衛のようにいる魔物の討伐。
基本戦術は、放出系WSで雑魚の魔物を排除。
魔石魔物級の魔物には、近接WS組が当たる。
その際の現場指揮はレプソルさんで、補佐はガレオスさんとなった。
「最後に、これだけは絶対に守って欲しい。退却のラッパが鳴ったら速やかに退いてください。その時は、後衛組は魔法で退却の援護を」
声だけでの伝達では伝わり難いらしく、指示は基本的にラッパの音。
普段馴染がないが、大人数の場合だとこれが基本らしい。
思い起こしてみると、大規模防衛戦もそんな感じだった気がした。
「ラティ、もし俺が聴き漏らしていたら教えてくれ」
「はい、ご主人様。耳には自信がありますのでお任せください」
――ふむ、確かにそうだな、
撫でれば絹をも上回る至高の手触り、食めばほのかに甘い極上の香り、
うん、ラティが自信を持つのは当然だな、当然だっ!
「流石だ、頼んだぞ」
「あ、あのっ、ご主人様、いま別の事を考えていませんでしたか? あの……」
俺の思考でも察したのか、不意を突かれたかのように慌てるラティ。
そして不意打ちでもしようとしているのか、嫉妬組がこっそりとゴッソリ俺の背後へ回った。
偶然だが、結果的にはラティの緊張を解し、仲間の殺気を上げることに成功した。ただ、ラティが緊張などをしていたかは不明だが。
閑話休題
突発的に開催された、俺の命を狙ったダルマさんが転んだ大会。
殺気に満ちた空気の横では――
「全く、結局小山君は駄目だったか……。それに秋音さんも何処かに行って、何でこんな大事な時に。あ、そういえば下元君は?」
苛立ちに満ちた勇者八十神が、ひとり不満を口にしていた。
「荒木君や早乙女さんも……全く勇者としての自覚は無いのか」
「八十神君、そんな味方の士気を下げるような真似は止めてくれるかな?」
この場に居ない勇者達に対し、ただ不満を吐き続ける八十神にウンザリとした表情で赤城が注意をした。
「なっ!? だってここに居ないんだぞ? 何の為に勇者をやっているんだよ。僕達には魔王と戦う使命と義務があるというのに」
「おう、何だそりゃあ? 俺達は召喚されたから勇者やってんだろ? それに、俺はセーラの為に魔王と戦うんだ。なんだよ義務とか使命って」
「そういえばそうだな、自分も彼女の為に戦うだな。そろそろ到着しそうだし」
いかにも八十神らしい、正義背負った反論に、己の思いを言い放つ上杉と蒼月。
すると蒼月が言うように、本当に勇者が二人やって来た。
「ごめん亮二、下元と合流していたからちょっと遅れちゃいました」
「遅れて申し訳ないです。でも侵入した魔物はほぼ倒しました」
十数人の冒険者を引き連れ、勇者柊雪子と、オーラを放ちまくっている勇者下元が姿を見せた。
「これで勇者が11人か……」
( これを多いと思うべきか、それとも少ないと思うべきか…… )
「おお、勇者様が11人も……」
「これはちょっと自慢出来るな」
「コトノハさまも居れば」
「我々がコヤマ様の分まで……」
「勝てる! これだけ居るのだから絶対に勝てるぞっ」
「おれ、この戦いが終わったら……」
揃った勇者達を見つめ、何か神々しいモノを見るような表情を浮かべる冒険者と兵士たち。
俺の視界には、これから決戦だというのに、グダグダと争っているガキ共に見えるのだが、『何か特殊なフィルターでも掛かってんのか?』と思うほど、ウットリとした顔で勇者達を見ている。
そして驚きなのは、そのウットリとした表情を、陣内組の猛者まで浮かべている事。
( はぁ? まさかコイツらまでも? )
その光景に悪寒が走る。
勇者が多く集まった事により、【勇者の楔】の効果が共鳴して強く働いているのではと感じる。
( まさかな…… )
それは無いと思いたい。
だが、レプソルさんやテイシまでもが、惹かれるような表情を見せている。
とても気になる事だが、今はそれよりも。
「お、オッホン。――では勇者様、用意は宜しいでしょうか?」
少々ワザとらしい咳払いの後、総指揮官となったガーイルが戦いを促すように訊ねてきた。
そして開戦される、魔王戦第三ラウンドが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔王へと駆けて行く。
先行する者たちの中には、鈍重なフルプレート系を装備した者はおらず、軽装の冒険者たちが20人ほど距離を取りながら駆けていた。
一度戦ったことのある小山組の冒険者から、魔王の攻撃方法を聞いた。
魔王は、枝や蔦を鞭のようにして振り下ろして来るらしい。
攻撃自体はとても単調で、避けることはさほど難しくはないそうだ、だが攻撃の物量が凄まじいらしく、まるで雨のように攻撃をしてくるのだと言う。
一発二発は回避出来ても、その攻撃が絶えずにずっと続き、回避し続けなくてはならないのだと。
そして一撃がとても重く、まともに喰らえば一発で戦闘不能になってしまうと。
だから此方の取った戦術は――
「いいかー! お互いに距離を取り合うんだぞ。横の仲間を巻き込むような動きはするなよー!」
「おお! わかってらい」
「もっと広がれえ!」
「声を出してお互いの位置を知らせろお!」
「雑魚は後ろの連中に任せろ、俺たちゃあ魔王に集中だ」
ターゲットの分散だった。
魔王が狙う冒険者を多くして、一人にかかる負担を減らす方法を取ったのだ。
当然、横薙ぎの攻撃も想定し、その動作を観測する役目の者も用意した。
もし横薙ぎする動きが見えたら、それ専用のラッパの音を吹く予定だ。
「ミクモ様、タチバナ様、お願いします!」
「弓WSスターレイン!」
「いっけぇWSスターレインッ!」
まるで戦闘開始の合図のように、二人の勇者から範囲系のWSが放たれた。
光の矢が雨のように降り注ぐ。
着弾の土煙と共に、黒い霧が舞い上がり霧散していく。
そしてそれに続くようにして、後方に位置を取った冒険者と兵士たちが放出系WSを一斉に放つ。
魔王の前に陣取っていた魔物たちが一掃される。
「突撃用意ッ!」
後方から聞こえるガーイルの咆哮のような指示。
「――突貫っ!!」
勇者と精鋭の冒険者達約20名が、黒い靄のようなモノを漂わせている魔王に、合図と共に一斉に突撃したのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども宜しければ……