丸いアイツ
すいませんっ!
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俺達は東門へと向かった。
そして門の上、城壁の武者走りへと上がるとそこには、元から丸い顔をさらに丸くし、これ以上ない程の笑みを浮かべた陣内組照明担当のサリオが立っていた。
「どうですか~ジンナイさま! サリオちゃん超良いお仕事したですよです」
「ああ……確かに凄いな。レプさんがサリオを温存したのはこの為か」
「サリオさん凄いです。まさかここまでの”アカリ”をお作り出来るとは」
「へえ、丸っこいのに凄いですねえ」
無い胸と立派なイカっ腹を張って、『もっと褒めて』とアピールしているサリオ。
少々イラっとはするが、俺達の遥か頭上に浮かぶ”アカリ”は、戦局を安定させるモノがあった。
仮にもし、”アカリ”を普通に使用して戦ったのならば、魔王との戦いで苦労するだろう。
情報によると魔王の近くでは、強化魔法などの効果が普段よりも早く切れるらしい。ならば当然”アカリ”の効果もすぐ切れる。
もしかすると、”アカリ”の効果も下がったかもしれない。
レプソルさんからの指示だとは思うのだが、遥か上空に”アカリ”を設置したのであれば、距離が取れる分、魔王の影響を受けにくくなるはず。
俺は『流石はレプさん』と思い、彼の方に視線を向けると、彼の顔は『当然だ』と語っていた。
そして目の合ったレプソルさんが話し掛けてきた。
「ジンナイ、魔王が少しだが動き始めた。そろそろ此方から仕掛けるべきなんだが……」
「だが?」
「ああ――」
レプソルさんは自身の考えを話し始めた。
現在は膠着状態を脱し、まばらに攻めて来る魔物を一方的に狩っている状態。
しかし魔物が絶えず湧いているのか、魔物が途絶える様子は無い。
そしてこのまま雑魚の魔物を倒し続けていても、魔王が接近してしまえば城壁が破壊されてしまうし、先程の黒い塊を再び放たれる可能性もある。
だから出来ることなら、外へと打って出たいというのだが――
「アレを相手にしないとか……」
「ああ、だから攻めるのを躊躇っているんだ」
一言でいうならば、『そりゃそうだ』である。
どう見ても怪獣。
百歩譲っても怪獣。
そんな相手に挑めというのだから。
某狩りゲーを彷彿させる光景。
しかも周りには、護衛のようにそれなりの数の魔物がひしめいている。
ファファファーン♪っと、高揚感を刺激するBGMと共に、雄叫びを上げながら突っ込める相手ではない。あれはゲームだから出来ること。
「それとな、さすがにこの人数はオレには捌き切れないぞ。指示出来ても50人が限界だ」
「へ? さっき指示してたし、レプさんなら何とかなるんじゃ? 深淵迷宮の時も仕切っていたし」
「ジンナイ、状況と条件が全く違うんだよ。さっきのは防げば良かっただけだ、指示もシンプルで済む。だけど攻めるとなると全く違ってくるんだよ」
「っう、そういうモンなのか」
「早い話が複雑になるんだ――」
再び語り始めるレプソルさん。
レプソルさん曰く、攻めるというのは、守るよりも複雑らしい。
迫ってくる敵を迎え撃つだけの守りとは違い、攻めるというのはしっかりと足並みなどを揃える必要があるのだという。
戦力差が単純に圧倒的なら別だが、ダンジョンとは違うひらけた地上では、その辺りがなかなか難しいのだと。
そう言われて俺は思い当たる。
前に防衛戦で八十神が調子に乗って攻め上がり、魔物の群れを分断して戦局をややっこしくした時の事を。
――ああ、なるほど確かにそうだ、
防衛だけだったら多少は好き勝手やっても何とかなるけど、
攻める時にはそうはいかねえな、
「……なるほど、理解しました」
「ん? 素直に理解するんだ」
「そりゃ……経験が――」
「陣内っ! やっと戻って来たのか、遅いぞ!」
噂をすればなんとやらと言うべきか、頭の中でヤツの事を思い出していると、その本人、勇者八十神が苛立ちを顕にやって来た。そしてその後ろには葉月や言葉達勇者もついて来る。
「なんだよ八十神、ちゃんと王女様は送り届けたんだろうな」
「言われなくとも送ったさ。そして急いで東門に来てみれば……陣内っ! この緊急時にどこで油を売っていたんだ」
( お前が言うんかいっ! )
全力でツッコミを入れたい所だが、何か言ってもどうせ、『あれは宰相に頼まれたんだ』という言い訳が予想出来たので、俺はあえてスルーする。
この男との会話は不毛。
ラティとは別の意味で言葉が要らない相手。
何か言うのであれば、先ほどの様に、要求だけを伝えればいい。
と、思っていたのだが――
「陣内! しっかりと言うんだ、この緊急時に何処で遊んでいたんだ。あの魔王を見ろ、あんなのが来たら大変な事になるんだぞ。それなのにお前は何処に」
「ああああっ!! うるせえ! 侵入した魔物を探すって言ってただろ。あと、すげえ被害が出てた所があったから、そこで救出作業してたんだよ!」
――無理だった。
「魔王が何か撃ってきて、それで建物とか薙ぎ倒されてて」
「っく、そんな適当なことを言って。本当のことを言えっ――まさか、逃げる用意を……」
とんでもない事を口にしつつ、視線を魔王へと向ける八十神。
それはまるで、俺が魔王に怖気づいて、こっそりと隠れて逃げる用意をしていたのではと疑っている。
そんな的外れな予想をする八十神に、俺が言い返そうとした時。
「あのぉ~八十神先輩。ボクもその場に居ました。陣内先輩が言っていることは本当の事ですよ、ボクも一緒にその救助活動に参加していましたから」
「え? そ、そうか……それなら遅れたのも仕方ないか」
「ええ、結構な怪我人が出ていて、何人かは死んでしまった人も……それに」
そういって顔を伏せる霧島。
そして伏せたまま絞り出すような声で。
「小さい女の子までも……」
そう、小さい子の犠牲者までも出ていた。
サリオの”アカリ”が上がった直後、やっとやって来た兵士たちと共に、救助とは違う目的で瓦礫を退かした。
高レベルの俺達がいた為か、作業自体はすぐに終わった。
時には、下敷きになっている遺体を傷つけぬように、霧島がWSで吹き飛ばすなどの手荒なこともしたが。
そして5体の遺体を回収した後、俺達は東門へと向かった。
子供の亡骸に縋り付く、母親の慟哭から逃げるようにして。
だから、見てはならないと思いつつも視線を向けてしまう、八十神と一緒に上へと上がってきた言葉に。
「そうだっ! 言葉さんが居るじゃないか。彼女なら蘇生が出来るかもしれないんだろ? だったらすぐに助けに行ってあげよう」
「お、おいっ、八十神」
「え!?」
俺の視線に気付いた八十神は、すぐに八十神らしいことを言い出した。
その発言は、決して間違ったことではないが、なんの配慮も無い発言。
――くそがあっ!!
お前には周りが見えていねえのかよ、
それに、それをやるってことは……
言葉にとってすげえ負担になるんだぞ、
正しい事なら何も間違いはないと、そう本気で思っているヤツの言葉。
言葉がこの場から抜けるということは、魔王戦での回復役が一人減るということ。
そしてそれは、新たな犠牲者を増やす事へと直結する。
しかも蘇生などを目の当たりにすれば、間違いなく群がってくる奴もいる。
決して気軽に考えて良い問題ではない。
( それだってのにコイツは…… )
これは素晴らしい案だとばかりに、周りに同意を求めようとする八十神。
右手の拳を左の掌に打ち付けながら満面の笑みを浮かべ、チラリチラリと葉月の方へ視線を飛ばしている。
だが、周りにいるのは冒険者達ばかり。
しかもレベル80を超えているノトス屈指の冒険者。
【勇者の楔】効果で、簡単に促されるような奴等ではない。
どこか冷めた目で、勇者八十神を見つめている。
「え? あれ? 皆さんなんで?」
ようやく気付いたのか、八十神は誰からの賛同を得られず、キョロキョロと周りを見回す。
「八十神……お前はホント、上辺しか考えていないんだな」
「は? 上辺ってなんだよ陣内。誰かを助けるってのは当たり前の事だろ。何を馬鹿なことを言っているんだお前は?」
「アホかっ! お前には周りの奴らが見えねえのかよ。お前が言っていることは、周りの奴らを……くそっ、何でこんな当たり前のことを説明しないといけねぇんだよっ!」
「うん? どういう事だよ陣内。何を言って――」
「それなら、僕が説明するよ八十神君」
「……赤城」
俺と八十神の激しい言い合いに、誰もが遠巻きに見ている中、勇者赤城が割って入ってきた。
その後ろには、先ほど伝達に走った蒼月もいる。
「どういう事だい赤城君? その説明って」
「簡単ですよ八十神君。高位の回復役が一人減るんだから、戦う冒険者や兵士たちから少なからず犠牲者が出るってことですよ。そしてそれは戦いを不利にする」
「な、何を――じゃあ見捨てろってのかい? そんなの許されることじゃないだろう。小さい子供までも犠牲になったんだぞ」
「それは仕方ない事だと割り切るべきだ。そうでもしないと誰も守れないし誰も救えない。そんな事も解らずに今まで勇者をやってきたのかい?」
今度は赤城とやり合う八十神。
互いが己の掲げている正論を相手にぶつけている。
だが、立場や状況によって変わる正論などは、決して相手には届かない。
お互いに立っている場所が違う、考え方が違う。
だから相手を折れさせるといった、押し通すような事しか出来ない。
「うるせえっ! ……くそっ、俺だって助けてやりてぇよ。……だけどそれは……ちくしょう……」
二人の言い合いに対し、無性に腹が立ってきた。
八十神は、『助けられる人がいるのだから、それを助けよう』と言っている。
だがそれは上辺だけで、奴からそれを成そうという必死さが感じられなかった。
ただ正しい事だから、それを成すべきだといった感じ。
そこには感情が無い。
赤城はしっかりとその行動の結果を考えている。目の前の事だけではなく、その先もしっかりと見据えている。
だがそこには打算的なモノがある。あの惨状を見ていないからそんな簡単に決断が出来る。
やはりそこには感情が無い。
だからといって、感情だけではどうにもならないが――
「――え!?」
気が付くと俺の右手が握られていた。
そっと優しく、少し前に見た気がする白く細い指。
「私、行って来ます陽一さん」
「言葉……」
「これが正しい事なのかは分からないですけど、行って助けたいって……。だから行って来ます。それですぐに戻って来ます。……MPは凄く消費してしまうかもですけど……でも頑張りますね」
「ああ、助かる言葉。すまない……」
「気にしないで下さい陽一さん。だって……私は……。いえ、何でもないです」
「…………」
「…………」
こうして言葉が向かう事となった。
そしてその時にラティから、あの黒い渦から魔物が湧いていたかもしれないとの発言が飛び出した。
彼女なりに考えてみると、魔物が多くいた位置が、城壁側ではなくあの黒い渦があった方向だったと言うのだ。
確証がある訳でない仮説の段階だが、そのような場所に言葉だけを行かせる訳にはいかず、彼女には護衛を付ける事となった。
護衛に選ばれたのはラムザとドルドレーの二人。
この二人ならば、普通の魔物が相手なら遅れはとらない。
こうして俺達は言葉を送り出した。
ただ何故か、言葉が葉月と目で会話をしていた気がしたが、きっと回復役同士の何かだろう。あまり深くは考えないこととした。
そして――
「で、どうするジンナイ。かなりキツイが行くか?」
「ああ、攻める方法か」
グダグダとやっていたが、一番の問題は残ったままであった。
指揮の問題などどうするべきかと、再び考え始めたその時。
「えっと、そろそろオッサンらの出番ですかい?」
「へ? ガレオスさん――それと貴方は確か」
「また会ったな、黒い英雄」
言葉と入れ替わる形でやって来たのは、伊吹組のガレオスさんと、先ほど出会った軍人顔の強面の男だった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども……