光にぃぃいなれえぇぇぇ――!!
そろそろ130万文字!?
結構書いたな~
ラティの先導で駆けているが、何やら騒がしかった。
駆け抜けた後ろ側から、何故か驚きの声があがっていたのだ。
最初は何の事だか分からなかったのだが、横を走る霧島が俺にそれを教える。
「さすがですねえ陣内先輩、みんな”狼人奴隷と主の恋”を思い出しているんですよ。特にラティさんは目立つから」
「この非常時にどんだけ余裕なんだよ」
前を走るラティは深紅の外套を纏っていなかった。
亜麻色の髪を光るようになびかせながら駆けている。
洗練された野性味と言うべきか、走ることに特化した獣が駆けているような、そんな綺麗さがあった。
後ろについている俺も、つい腰回りと揺れる尻尾へと目が行ってしまう。
この非常時に、少々余裕のあることをしていたのだが、次の瞬間、俺は自分の視野の狭さに鈍器で殴られる気持ちとなった。
「これは酷い、滅茶苦茶だ」
「……」
横を走る霧島が、感想をそう口にした。
――くそっ! 馬鹿か俺は、
火の手とか上がっていなかったから、甘く考えてた、
あれだけの被害が出てたんだから、想定しておくべきだった……
葉月か言葉、どちらかを向かわせるべきだった。
俺は心の中で自分を罵った。
魔物を倒すのが自分の仕事であり、他のことは深く考えていなかった。――だが少しでも考えるべきだった。
今、この惨状を目にして、俺はそう痛感する。
「一体何が通ったらこんな風に……」
「クソッたれ、魔王の攻撃だよ」
「これが魔王の……力……」
普段笑みを絶やさぬ霧島も、この惨状には表情に影がさす。
俺達が走る先には瓦礫が散乱していた。
仮にトラックが暴走したとしてもこうはならない。もっと重く、通常ではあり得ないような力が働いたとしか思えない状況。
喩えるならば、何百トンといった重さの鉄球でも転がしたような惨状。
( くそ、魔王のWSだってのかこれは )
「凄いな……」
「ああ、すげぇヒデェよ、――くそっ」
霧島の呟きに、苛立ち混じりの返答をしたのだが。
「いえ、確かにそうですけど、僕が言ったのは彼女の方です。微塵にも躊躇っていないし、揺らいだ様子もなくて……本当に強い子ですね」
「ああ……ホント強ぇよ」
( 情けねぇ、俺も怯んでいる場合じゃねえな )
ラティを見習い、俺はより強く駆けだす。
視界の隅には、何人もの怪我を負った人達が映る。
だが、俺に出来ることは少ない。
もしかすると、建物の下敷きになっている人もいるかもしれない。
ラティの【心感】を災害救助犬のように使い、埋まっている人を救助すればとも思うが。
( 焦り? 不安? )
ラティから流れ込んで来る感情が、焦燥感に駆られていた。
今は止まるべきではないと、彼女の感情が俺に強くそう告げている。
( 今は覚悟を決めるっ )
そして辿り着く、ラティが察知した不安の下へと。
「これは……つむじ風? いや、渦か?」
「僕も初めて見ます、でもこれは良くないモノだってことは解ります。何だか見ていて吐き気がしてくるような、苛立つような……」
「あの、何と言ったら良いのか分からないのですが。複数の? 良くないモノが渦巻いているような感じです」
俺達の目の前には、視認出来る、幅二メートルほどの黒い渦があった。
つむじ風を黒で色付けしたようなモノ。それが音なく、ただ渦巻いていた。
「これどうしますか先輩? 散らした方が良さそうですけど。魔法とかで吹き飛ばせるのかな?」
「いや、もっといい方法がある」
今までの経験が告げる。
こういったモノには、〝世界樹の木刀〟だと。
「散れッ!」
「――ッご主人様!?」
「え、陣内先輩ッ!」
俺は木刀を構え、渦へと突き進み、その渦の中心に木刀を穿つ。
渦の中心、何もない空間に木刀を突くと、それに反応して弾けるように黒い渦が消し飛んだ。
「わっ!、渦が散った?」
「あの、嫌な気配が完全に消えました」
( やっぱり……か )
初代勇者の仲間から訊いた話。
世界樹の木刀を使って、当時霧であった魔王を払い退けたという逸話。
それを思い出し、俺は木刀で渦を突き払った。
そして狙い通り黒い渦を祓った後、俺はすぐに引き返す。
「ラティ! 埋まっている人を探せるか?」
「はい、探せます」
「陣内先輩……」
「……生きているのだけでいい、時間が惜しい。霧島、例の件を見逃してやるから手伝え。あんなふざけた芝居を作りやがって、何だよ三刺しって」
「あ~~、バレてましたか。はい、手伝いますよ。こんな状況を無視なんて出来ませんしね」
「案内します、こちらですご主人様」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達は大急ぎで救出活動を開始した。
本来であれば東門へと向かうべきだろう。
現在は魔王と交戦中、すぐに東門へと向かい皆と合流し、戦いに参戦するなりやるべき事があるはずだ。
しかし、このまま向かえなかった。
中央の通りでパレードをやっていた為か、これだけの被害にも関わらず、兵士たちといった、救助に来るであろう者たちの姿が見えなかったのだ。
甘いとは思う。
自分のやるべき事をやるべきだと思う。
自分でなくても、街の住人が集まれば救助活動は出来るだろうとも思う。
だが――
「くそっ、これ以上もう無視出来っかよ」
「はい、せめて誰か他の人達が来るまでは」
「……申し訳ないです、僕たちが大通りで王女様の警護なんてしていたから」
霧島が少し的外れなことを吐いていたが、今はそれを突っ込んでいる場合ではなかった。
『あれが警護かよ、単なるパレードだったぞ?』などと責めている時間すら惜しい。
先程までは我慢出来た。今すぐやるべき事が見えていたから。
ラティの焦りから、先ほどの黒い渦は無視出来ないモノだと感じていた、だから道行での惨状を見ても走り続けた。
そして辿り着いた場所には、黒い渦という未知のモノが存在していた。
本来ならば警戒するべき。
迂闊に飛び込んで良いモノではないが、俺は即断して飛び込んだ。
木刀という勝算もあったが、それよりも急ぎたかったのだ。すぐに終わらせて、早く引き返したかった。
冒険者の死は、仕方ないと納得出来るようになった。
だがどうしても、普通の人たちの死は納得が出来ない。ウルフンさんの顔が脳裏にチラつく。
今、目の前に見えている人を助けたかった。
だから、躊躇わずに渦に飛び込み祓ったのだ。
ラティと霧島の協力により、思いの外救出は進んだ。
時には、腕などが倒壊した建物の下から覗いていたりもしたが、ラティが反応を示さない限りは後回しにして動いた。
以前は、気絶した相手など、意識の無い相手は察知出来なかったようだが、今は精度が上がったのか、察知出来るようになっていた。
そして救出した人たちに、霧島が回復魔法を掛けに回っている。
ただ霧島は、回復魔法は得意ではないらしく、深い傷や骨折などの重い症状には効果が薄く、喩えるならば包帯を巻いていく程度のモノだった。
どれだけ時間が経過したのかは不明だが、不意に辺りが陰り始めた。
その陰りに釣られ、上を見上げると――
「六時か……」
「あの、もう日没間近ですねぇ」
状況は刻一刻と不利になっていた。
魔物側はどうなのかは不明だが、こちらは視覚を頼りに戦う。
”アカリ”などで明るさを補えるが、正直なところ厳しい。特に魔法が一切使えない俺には嬉しくない状況。
そしてその陰ってゆく日の光に、街の住人や怪我人たちの不安が広がるのが感じ取れた。
誰だってそう、光が消え、闇が広がっていくのならば、誰もが不安に感じる。しかも今はこの惨状。
誰もが不安から逃げ出すように光を求め、生活魔法”アカリ”を唱えようとした瞬間。
「うお!?」
「あ、あの”アカリ”は……」
「え? この異世界に照明弾? いや、もっと凄いかこれ……」
凄まじい光量の光が全てを覆った。
薄暗さなどは光によって消え去り、昼間までとは言わないが、それに近いほどの明るさとなった。
「太陽……?」
「でも時計の針が無いし」
「なんだあの光は……」
「凄い……」
「四つも、あれって」
誰もがそれを見て感嘆の声を漏らす。
東側、東門の空に出現した四つの巨大な光に、誰もが釘付けとなっていた。
「おい、あの光ってまさか……アイツのか!?」
「あの、多分そうだと思います」
「え? あの四つの光を知っているの?」
「はい、あの光はきっと、サリオさんの生活魔法”アカリ”です」
その時、誰もが小さな太陽のような光を見つめていたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども……それとMMDモデルなども!!