1話 ハズレ勇者(改稿版
「よくぞ来てくださいました【勇者様】!」
絵に描いたような王の間、いかにもイメージ通りの赤い絨毯。
チョット違っているのは王座に座ってるのが女の子。
そして少しワクワクしてる俺。
「私は王女アイリスと申します。二十一名の【勇者様】どうかこの世界をお救いください」
――あれ?
こういう時の定番って、王冠かぶった白髪の王様とかなんじゃ?
いきなり王女様から?
「王と王妃は……勇者召喚の儀式により、その命を触媒として、もうこの世には居りません。なので暫定的に、私がこのアルトガル王国の王位の座に付いています」
十五才ぐらいの女の子。
金髪で碧眼、品を感じる意匠を凝らした白いドレスを着た女の子が、目を赤く腫らしながら気丈に語り始めた。
王女の語りは、その場の雰囲気も相まって、何か心に響くモノがあった。
王女は俺たちに語っていく。
勇者召喚には、王家の血族を触媒として必要とする。
触媒の人数によって、召喚される勇者の人数が増えると。(今回は三人)
残る王家の血族は、王女一人だけであること。
そして、約三年後に【発生】する魔王を倒して欲しいとのだという。
いかにもテンプレな展開。
だがちょっと意外だったのが、今回の召喚が十三回目の勇者召喚だと言うことである。
「――百年周期で魔王が【発生】するのです。その為に、王国では召喚した勇者様を支援する政策が御座います。――どうか……どうかお力をお貸し下さいっ」
「ちょっと待ってくれ!」
最初は誰もが王と王妃が触媒になったという、重い内容の話に呑まれていた。だが同級生の中から、この突然の出来事に黙っていられなくなった奴が現れた。
「そちらの事情は分かりました。でも、いきなり呼び出されても困ります! 出来れば元の世界に帰して貰えないでしょうか?」
――え? 事情わかっちゃうんだ。
ある意味すげぇ理解と懐の広さだなコイツ……
この場で混乱せずに、凄まじい対応力の高さを見せるクラスメイトの八十神春希。
俺はつい、まじまじと眺めてしまう。
そしてその八十神春希は、物怖じせずに王女へと話し続けた。
「あ、でもこの世界が危機なのでしたら、僕で良かったら勇者としてお助けします!」
――すげぇ!
学校でもリーダーシップを発揮する熱い奴だけど、
まさか勇者も引き受けちゃうのかコイツ!
「ですから、他のみんなは元の世界に帰してもらえないでしょうか?」
八十神から交換条件のような提案が出た。
だが王女アイリスは、悲痛な表情で浮かべて返答する。
「申し訳御座いません。私達は元の世界に勇者様をお帰しする方法を持っていないのです。本当に、本当に申し訳ございません」
そしてその後に、その件を尋ねられるのが分かっていたかのように話を続けた。
「ですが過去の言伝えでは、魔王を倒せば元の世界に帰れる門が出現するそうです」
それからのやりとりは、十三回も勇者召喚してるのは伊達じゃなく、こちらの抗議や質問に対し、簡潔に答えていった。
「ゲートは本当に出現するのか?」
a. 言伝えなので真偽は解らない。
「前回の勇者は帰れたのか?」
a. 誰も帰らずにこの世界に残った。
「魔王は凄く強いのか?」
a. Lv120くらいだった (レベル?)
「何故三年後とわかるのか?」
a. 魔力の集まり方の観測と、過去の史料で。
「その根拠は?」
a. 昔の史料で判断した。
「こんな事は横暴だ! 帰せ!」
a. 本当に申し訳御座いません。
「王女様に彼氏は居ますか?」
a. 現在いません
王女は質問される内容をすでに把握しており、淡々とそれに答えていった。
――返答に躊躇いがねぇ!
これ絶対に会話の返答マニュアルみたいなのあるな……
十三回の召喚は伊達じゃないって訳か、
そして次は。
「あのぅ、勇者支援の政策とはどのようなモノなのでしょうか?」
真っ直ぐに、そして楚々とした仕草で一人の女の子が手を上げて質問をした。
――お!? 聞くべき所をしっかりと質問しているな、
さすがは優等生の葉月由香か、
手を上げて質問をした葉月由香は、そのまま言葉を続けた。
「わたし達はここで三年間生活をすることになるんですよね? だから正直不安なもので……」
――おいっ、不安そうなこと言ってるけど、
ちょっとワクワクした顔をしてるよねぇ君?
意外とメンタルスゲェな、
葉月のその質問を、待っていましたっとばかりに、王女の横に控えていた男が口を開き返答してきた。
「その勇者支援政策担当であり、この国の宰相に就いているワタシがご説明を致します」
歳は六十ぐらい、白髪が少し目立つ高圧的そうな男が、勇者支援政策の説明を始めた。
「ワタシの名前はギームルとお呼びください。そして勇者支援の事なのですが……」
「 その政策は平等では無いのです 」
その説明内容とは。
まず勇者二十一名全員に対し、皆平等な装備を渡す事が出来ないという事。
個人個人に適正な装備を渡したいのだという。
それと――
「まず勇者様、ステータスプレートの出し方をご説明させて頂きます」
――お? なんかワクワクして来た。
正直言って、異世界で勇者は高校生の定番の夢だよな、
ちょっと楽しみだな、
「右の手のひらに板が乗ってるようなイメージを意識してみてください」
――へ? そんな簡単に……
でた! 出た出た! 青い半透明な板が出た! マジで出た!
すげえ、すげええ!
俺たち全員が驚きと興奮をしながら、縦三十センチ、横二十センチ程の青い半透明の板を出現させる。
「ステータスのご説明をいたします。まずはレベルの確認と職業欄のご確認を」
俺たちはステータスプレートに目を落とし、再び一斉に驚きと感動を混ぜたような声を上げる。――俺以外が。
――あ、あれ? アレ??
職業欄に【ゆうしゃ】って書いてはあるけど、
あれ、レベルが見当たらないぞ……?
「では次に、STRなどの数値もご確認ください。一般的の平均ではレベル1ですと高くても5ぐらいです」
再び勇者から各々歓喜の声が上がる――俺以外。
「おっしゃ! 平均10は超えてる!」
「あ! あたしなんて【INT】15もある‼」
「……というか、5以下なんてあるのかい?」
「ん、コレって勇者補正なのかな……燃えるわ」
短髪野郎に痛いツインテールの女子、そして七三の男にパッツン気味の前髪女が自慢げに声をあげ、最後に一番背の高い男が大声で吠えだした。
「ヘッ、オレなんて【STR】20いってるぜ! これはオレがトップかなぁ~?」
大袈裟に自分のステータスの数値をアピールし、他の勇者達のステータスプレートを覗き見ようとしている奴がいた。
――うげぇアイツも居るのか、
苦手なんだよなぁ荒木冬吾は、
それよりも!
【STR】とかカッコイイ横文字が無いんですけど俺のステータスプレート!
どうなってんの?
【力のつよさ】4
【すばやさ】 6
【身の固さ】 5
――なんか三つしか項目が無いんですけど!
みんなは七つあるっぽいですけど、しかも英語で!
どうなってるんだ……あれぇ?
俺が自分のステータスプレートに不安を感じていると、横にいる奴が楽しそうに声をあげた。
「ははっ、ボクのステータスはこんな感じかな」
【レベル】1
【STR】17
【DEX】15
【VIT】18
【AGI】12
【INT】15
【MND】17
【CHR】21
「「「「「おおおおおぉぉー‼」」」」」
周りから一斉に驚きと賞賛の声が上がる
――ちくしょう! なんだよっ、
イケメンな上にステータスまでイケメンってか、椎名秋人は。
王の間が熱気を帯びた盛り上がりを見せていく、最初は静かだった家臣や兵士達も、今は声を上げて勇者達を賞賛しだす。
――ん?落ち着いて周りを見てみたら結構人が多いな、
それにやたらと身なりの良い人ばかり……貴族とかか?
俺が周りを見回す中、引き続き宰相のギームルがステータスプレートの説明を続けていく。
「次は得意武器の確認とWSの確認をお願いします。それの見方は――」
宰相のギームルはステータスプレートに指を触れ、まるでタッチパネルのような感じで操作して、ステータスの確認出来る項目を増やす手順を説明してくれた。
俺はそれに恐る恐る従い、自分の得意武器の項目を調べる。
――か、確認が怖い……
お! ある! 槍系と木刀があった!
良かった………………木刀?
「あ、あのぅ……木刀って剣と同じカテゴリーで良いのでしょうか?」
――やべ、思わず聞いちゃった。
今はできるだけ目立ちたくなかったのに、ミスった。
俺は不安なあまり、木刀の事をギームルに尋ねてしまった。そして尋ねられたギームルは、威圧的な一瞥をくれはしたが、一応返は答はしてくれた。
「木刀は木刀ですね、木で出来た物限定となります。金属で出来た物は剣系や大剣系となりますね」
――返答が無慈悲過ぎる!
何でファンタジーの世界に来てまで木刀なんだよ!
絶対におかしいだろう……あと、何か俺には対応が冷たくない?
そんな俺に追い討ちでもかけるかのように、勇者達から喜びと自慢の声が上がる。
「おっしゃ! 剣槍斧杖双剣棍弓七種類も扱えんのか!」
「僕はそれプラス刀がある、勝ちだな」
「お? 俺って大剣ってのあるな、コレって剣とは違うのかなぁ?」
「あたしぃ、武器とか苦手なんですけどぉ、八種類もあっても困るぅ~」
「あれ? ボクは聖剣ってのがある、これって、」
「「「「「「「 おおおおおおおおぉぉ‼ 」」」」」」」
「聖剣持ちが来ましたか! これは素晴らしい、しっかりとチェックをしなくては」
「公爵様! まだですよ、全部終わるまで待ち下さい」
今までにない熱狂的な盛り上がりをみせる王の間。
だが俺は――
――どうしよう、なんか俺だけおかしくない?
得意武器も二種類しかない上に、片方が木刀って……
「次はMPとSPのご確認を。それと使える魔法と先ほども言ったWSの確認もお願い致します勇者様」
――……終わった、それも無い、
MPが無い、魔法も無い、そしてSPも無いしWSも無ぇ……
勇者達が皆、お互いに自分の使える魔法やWSを自慢し合っている。
何故か俺には、その声が遠くに聞こえた。
それはまるで、試合で盛り上がってるスタジアムを、遠く離れた道路から一人立ち竦んで眺めているような感覚。
「――あとは、【固有能力】の……認……や……まだ使え……灰に――」
まだステータスの説明は続いていた。
当然それは聞かないといけない内容なのに、あまりのショックに俺の頭には入って来なかった。
スキルがあ~だこうだと説明している。
きっと大事な説明なのだろう。覚えないといけない内容なのだろう。
最初はワクワクしていた。
そしてドキドキもしていたのだ、異世界で勇者をやれるのだから。
だが――。
「――あ……を使っ……各自の……を……確認……ステ…ッ聞いてますか?」
完全に呆けていた俺は、宰相のギームルに厳しく注意をされてしまう。
しかも何故か、底の見えないような怒を孕ませた瞳で。
「両手で使って輪を作って、それで相手を覗き込むようにして見てください。それが【鑑定】の使い方です」
――へ? 鑑定? 使い方?
相手を覗き込む? まさか……まさか相手のステータスも覗け……る?
気が付くと俺の周りでは、皆が両手の人差し指と親指を使って輪を作っていた。
そして俺を覗き込んでいたのだ。
そのうち何人かは、俺をニヤつきながら眺め、他の数人は気まずそうにしている。
そしてある奴が、俺を指差ししながら大笑いして俺を見ていた。
これでもかと体をくの字にしながら、時に仰け反ったりもしながら笑っていた。
「何だよそのステータス! しょぼい上に、スゲェ意味で別次元行ってんじゃん!」
一番背の高い勇者の男が、顔を歪め嗤いながら言葉を発した。
「お前ハズレ勇者かよ、なんだよ職業【ゆうしゃ】って? ダセェな陣内陽一!」
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】4
【すばやさ】6
【身の固さ】5
【固有能力】加速(未開放)
俺には魔法も武器スキルも無さそうだった。
そして鑑定能力も無い。
何故か俺だけはハードモードだった。
今後の展開で ヒロインの奴隷少女ラティが入ります。
あと、幼女っぽサリオも。
続きを読んで頂けたら幸いです。