どう見ても……
投稿!
東側にある正門の上。
広目にとられた武者走りに、勇者と、勇者達が所属している冒険者連隊の精鋭が待機していた。
ただ葉月と言葉は後衛なので、後方への配置でこの場にはおらず。現在いるのは、伊吹、上杉、三雲、蒼月の四人だけだった。
残りの勇者達は、こことは別の場所へと配置されているらしい。
本来であれば、この場には俺達陣内組は入れないのだが、どうやらギームルが話を付けたようで。見張りの兵士からは、あまり良くない視線を貰うが、この場に留まることを許された。
俺はこの場にいるメンツを確認した後、自分のパーティメンバーのステータスプレートを確認する。
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ (非童貞)
【力のつよさ】98
【すばやさ】102
【身の固さ】 96
【EX】『武器強化(中)赤布』『魔防(強)髪飾り』
【固有能力】【加速】
【パーティ】ラティ99 サリオ110
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】99
【SP】522/522
【MP】359/367
【STR】 341
【DEX】 381
【VIT】 307+8
【AGI】 499+13
【INT】 300
【MND】 328
【CHR】 411+8
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】『見えそうで見えない(強)』『回復(弱)リング』『防御補助(特)』
【パーティ】陣内陽一 サリオ110
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス
名前 サリオ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】110
【SP】309/309
【MP】754/758
【STR】237
【DEX】281
【VIT】228
【AGI】291+5
【INT】489
【MND】432
【CHR】336
【固有能力】【鑑定】【天魔】【魔泉】【弱気】【火魔】【幼女】【理解】
【魔法】雷系 風系 火系 土系 闇系
【EX】『見えそうで見えない(強)』
【パーティ】陣内陽一 ラティ99
――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺はステータスプレートから顔を上げ、遠目に見える魔王へと視線を向ける。
とても神木だったとは思えない、おぞましい姿。
表面は炭のような漆黒。
正面にはワニのような大顎が一つと、その左右に小さな顎が二つ。
樹がどう歪んだらこうなるのだろうと思える姿。
樹だった頃の名残があるとすれば、根っこのように見える脚ぐらい。
どう見ても怪獣。百歩譲ったとしても怪獣。
魔王ユグトレントは、見る者に恐怖を植え付けるかのように迫っていた。
「おいおい、どうすんだよアレ……フザケ過ぎだろ」
「大聖堂よりもデカいんじゃないか?」
「的がデカいけど、魔法もWSを弾かれるんだよな?」
「燃やして……どうにかなる相手じゃなさそうだ……くそっ!」
「アレと戦えってのかよ、冗談だろ……」
城壁の上にいる者達が、弱音とも、もしくは愚痴とも取れるような事を吐く。
レベル120が、魔王討伐時の目安と聞いていた。
だが目の前に見える魔王は、レベルがどうこうで、どうにかなるような相手にはとても見えない。
歴代勇者達は、本当にあんなのを相手にしていたのかと疑いたくなる。
そして今の自分達は、そのレベル以下。
アレに立ち向かい、そして心が折れた小山の気持ちが解る。
俺だけでなく、魔王を目撃した者達に動揺が広がり始めている。
城壁の武者走りにいる者たちが、魔王の姿に呑まれ始めている。その吞まれ始めている者は、他の冒険者連隊だけでなく陣内組までも。
「参ったな……魔王だけじゃなくて、魔物までも凄い数だな。もしかして、今も湧き続けているのか?」
レプソルさんは、魔王だけではなく、その足元にいる魔物にも目を向けていた。
目視なので、正確な数はわからないが、それでも万に近い数の魔物がいるように見えた。
「どうすんだこれ……」
誰かが、『もう駄目だ』と言えば、一気に瓦解してしまいそうな空気。
だから俺は――
「レプさん、俺が行方をくらませている間、何をやっていたと思います?」
「はぁ? ジンナイ、何を突然言い出して……」
俺は胸を張り、出来るだけ周りに声が通るように意識して宣言する。
「俺さあ、ずっと木こりやってたんだ」
「え? 木こり……?」
「だからさ、樹を切り倒すのには慣れてんだ。だから切り倒してやるよ。――魔王ユグトレントをさ!」
「っぶは!? ――馬鹿だっ! 馬鹿がいんぞここに」
俺の宣言に、思わず噴き出したといった様子のレプソルさん。
余程ツボだったのか、目尻には涙まで浮かべている。
「あ~~~、ホント馬鹿だわ。木こりだからアレが切れるって? 馬鹿過ぎる…………だけどよ、それが出来ちまうかもしれないって思っちまったオレも大馬鹿だな」
先程までの不安の色を濃く見せていた表情は消え、いつもの余裕を感じさせる顔に戻るレプソルさん。
「おっし、やるぞ野郎ども! たかが樹に呑まれている場合じゃあねえ。オレ達はオレ達の仕事をすんぞ! ノトスには待っている奴だって居んだ。絶対に勝って戻るぞ」
レプソルさんの鼓舞するような激を飛ばすと――
「よっしゃああ! 死亡フラグ頂きました! だけど安心しろレプソル。ミミアちゃんは俺が面倒を見てやる。ふふり」
「っざっけんな! その役目はおれだろうが。てめえは黙って階段にでも冒険してろクズがっ」
「お~~い、真面目にやろうぜ? それにミミアは俺の嫁だろ?」
「なに抜かしてんだ! 俺の嫁だろ」
まさに一致団結。
陣内組のメンツはレプソルさんの激に応じ、呑まれかけていた雰囲気を打ち消していた。
そしてそれが伝染し始める。
元々がノリの良い冒険者達。
こういった雰囲気はすぐに広まっていった。そして――
「おうさっ! そうだよな、オレも国でセーラが待ってんだ。大車輪が咲いたような笑顔の嫁が待ってんだ。それに子供だって……絶対に生きて勝って戻んぞ!」
何か頭が悪そうな間違いをしているが、勇者である上杉が声を上げたことにより、この雰囲気の広がりがより加速した。
そしてそれに伊吹までも、『私も叩き切る』と声をあげて宣言すると、完全に空気は変わっていた。
お通夜じみた空気は消え失せ、今は誰もが魔王を倒せるとかしか思っていない様子。
これが【勇者の楔】の効果なのか、逆にちょっと不安になる程の盛り上がりを見せていると――
「さすがは勇者! なんという心強さ、なんという素晴らしいお言葉。これならばもう魔王は討伐したも同然ですな。本当に心強い」
( あ、アイツはあの時の強面野郎 )
勇者達の宣言により、場の空気が温まったのを見計らったかのように、城で今回の件を説明していた強面の男が姿を現した。
機能性などは、一切考慮されていないとしか思えない、見た目重視の白い鎧。
本当にそれを被るのか? と、訊ねてしまいたくなる程に派手な兜を脇に抱えて、40代ぐらいの強面の男が歩いてきた。
「お初にお目にかかります勇者様。私の名前はバウマン。今回の魔王討伐の総指揮を執らせて頂きます」
自己主張が強く見える太い眉をキリッとさせ、バウマンと名乗った強面の男は、勇者伊吹の前に立った。
そして、気のせいだとは思いたいのだが、気持ち視線が胸元に泳いでいるように見える。
横にいるラティも、僅かながら眉を顰めている。
――あ~~、ひょっとして、
コイツってまさか東側出身か?
今の宰相とツーカーっぽそうだったし……
俺がそんな感想を浮かべている間にも、伊吹へと熱い視線を向けたまま、強面の男は熱弁を続けていた。
『勇者様の為に道を切り開く』『つゆ払いはお任せを』『貴方の為に』『私の常勝無敗の指揮をご覧に』などと、自分に酔いながらベラベラと喋った後――
「全軍前進ッ!!」
強面の男は、右手を芝居がかった仕草で振り下ろし、横に控えている伝達係に合図を送った。
そしてその合図を確認した伝達係の男は、磨き抜かれて輝いているラッパを吹き鳴らし、下に控えていた兵士と冒険者達に合図を送った。
そう、突撃にしか見えない前進の合図を。
東の正門が開かれ、兵士と冒険者達が突き進んでいく。
「マジか……」
思わず声が漏れてしまう。
それ程までに無謀な突撃に見えたのだ。
作り掛けの堀があるとはいえ、とてもそれだけでは防ぎ切れるようには見えない。大きく横に回られれば、簡単に側面を取られる危険性までもある。
地上からの視点では見え方が違うのかもしれないが、城壁の上から俯瞰して見る限りでは、不安しか感じない光景。
目算だが、魔王までの距離は約500メートル。
作り掛けの堀までは300メートル程。
魔王よりも、魔物達の方が先行している状況。
そしてそれを迎え撃つ兵士と冒険者達。
こうして、大規模魔王討伐戦の火蓋が切られたのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです^^
あと、誤字脱字なども……




