緊急魔王速報
小話です!
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状況はマズい事になっていた。
まず、他の領地への避難が困難となった事。
普通であれば問題はないのだが、今は魔物大移動が邪魔をしていた。
冒険者などであれば、自分の身は自分で守れるが、それが一般市民だと話が違ってくる。
運が悪いと、魔物の群れに飲まれる事もある。
ギームル曰く、避難勧告が遅すぎだと。
どんな意図があったのかは不明だが、避難勧告が遅すぎたという。
そして次にマズイのが、残りの勇者が到着しない事。
特にボレアス公爵家には、一番最初に連絡が行き、そしてすぐに返答があったにも関わらず、三人の勇者達はまだ到着していないのだ。
そして――
「おい! ルリガミンの町が半壊ってどういう事だよ」
「煩い! ワシだってさっき知ったばかりじゃ。……どうやら夜のうちに移動速度が上がっていたらしい」
現在の時刻は朝の9時。
新たに観測して送られて来た情報によれば、魔王は、14時から15時には中央へとやってくるらしい。
そしてルリガミンの町が半壊というのも、しっかりとそれを確認したのではなく、進行ルートからの予測だと。
魔王到着時刻が、予測よりもほぼ一日早まった感じ。
しかも、それを事前に察知するのが遅れてしまっていたというのだ。
もっと致命的な事を言うならば、この情報をもっとも早く届けに来たのはギームルの情報網。
なんと中央は、ギームルからの報告でそれを知ったのだと。
この件についてギームルの考察によると。
周辺の魔物大移動に気を取られて、本命である魔王の監視が甘くなったのではと。そして――
「莫迦者がっ! やはりあの者では駄目だ。こんな後手ばかり踏みよって……しかし何故魔物大移動まで。今まで城の周囲では起こった事など無かったというのに……」
中央の対応に対し、苛立ちを顕にして辛辣な言葉を吐き続けるギームル。
そして今まで無かったという、中央付近での魔物大移動というイレギュラーに対し疑問を感じている様子。
「何故じゃ、今までこんな事は一度も……何があったというのだ」
「ギームルさんっ! 今はそれよりも動こう。取り敢えずは他の冒険者連隊の状態が知りたい。それを確認してから陣内組も動く」
陣内組が事前に決めていた事。
それはフォローだった。
どういった形で全体が動いたとしても、基本的にフォローをする動きと決めていたのだ。
手柄欲しさの一番槍などは、ただ冒険者連隊を危険に晒すだけ。
レプさんとギームル、いかにも手堅そうな二人が選んだ方針だった。
俺は、次の行動について話し合う二人を見ながら、ある事について考えていた。
それはギームルの先程の発言。
今まで中央付近では、魔物大移動が起きていなかったという事を。
――いやいや、まさか……ねぇ?
まさかとは思うけど、木刀が関係しているとかないよね?
ずっと中央にあった木刀が、今まで無かったからとか……
何か確証がある訳でないが。
そんな気がしたのだ。
この木刀が、いままでこの地域で魔物大移動が起きないように抑えていたのではと。そんな気がしてならなかった。
ただの偶然だと思いたい。
そう思った時に、ふと白い毛玉の事を思い出す。
魔物の湧きなどを抑える事が出来る存在。
白い毛玉が居るのだから、もしかして世界樹の木刀は……
――いやいやいやいやっ、違うよね?
きっと違うよね? 偶然だよね? ただの偶然だよね!
仮にそうだとしても、それは俺の所為じゃないよね? ね!
「あの、ご主人様?」
「あっ、ラティ」
「どうしたのですか? 何か物凄く悩んでいる……というよりも、何かを必死に否定しているようにお見えしたのですが」
「――っ気のせいだ! って、あれ? レプさんとジジイは?」
気が付くと、さっきまで話し合っていた二人が消えていた。
これから魔王が来るのだから、迅速な対応をしないといけないはずなのに。
「あの、お二人でしたら既に行かれました。レプソル様は冒険者側の方に。ギームル様の方は城へと」
「へ? マジか。なら俺は――」
「――あの、ご主人様。陣内組はこのまま待機だそうです。それと、いつでも動けるようにとレプソル様からのご指示です」
「……はい」
俺が言い訳じみた葛藤をしている間に、二人は迅速に動いていた。
そして指示に従い待機していると、暫くしてからレプソルさんが戻ってきた。
他の冒険者連隊は、中央から事前に出されていた指示で動くらしく、各冒険者連隊は与えられた持ち場へと向かうそうだ。
勇者が所属する冒険者連隊は、魔王を討伐すべく東側へ。
それとは別の冒険者連隊は、城の兵士達と共に、中央に迫っている魔物の討伐に出るそうだ。
ただ、城壁の外に打って出るのか、それとも城壁の上から対応するのかは、いまだに決まっていないらしく、現在は中央からの指示待ちらしい。
たった一日早まっただけで、全ての対応が後手となっている印象。
素人目から見ても、お粗末だと感じるモノだった。
そしてギームルが戻って来ると、先程の評価をより下方修正した。
と、いうよりも、本気で酷いモノだった。
「魔物大移動に気を取られて、魔王を足止めする堀が……未完成らしい」
「はぁ? おいおいマジかよ」
「うむぅ、堀を作ろうにも今から掘ったのでは間に合わんので、土系魔法で掘ろうとしたらしいのだが。……その人手が周囲の魔物討伐に取られていたそうじゃ」
「アホかッ!」
中央は慣れていなかった。
魔物大移動に対する対応に。
魔物大移動に対するノウハウはほぼなく、何が最優先なのか解っていなかった。目の前にある危機を最優先とし、最優先でやるべき事を後回しにしていた。
これにはギームルも、『莫迦過ぎて気付かなかった』との事だった。
いくら何でも、それは真っ先に作っていただろうと思っていたようだ。
実際、一番最初は巨大な堀を作るべく動いていたそうだ。だが、魔物大移動が観測されると、人員をそっちに割いてしまっていたのだという。
「おいおい、じゃあひょっとしてただの平地で魔物の群れとやり合えって事か? 北にあった塹壕? 堀? みたいなのは無しって事か?」
「ジンナイ、未完成のならあるらしい。ただ、魔王を足止めするのには……深さと大きさが足りないらしい」
「マジか……」
その後。
俺達3人は話し合い、陣内組は東側に待機する事にした。
魔王が来るのだから、もっとも激戦区と予想される場所。
そして勇者達も集まっている場所なので、色々やり易いと判断したのだ。一部の勇者とはもめるかもしれないが、味方となる勇者の方が多いから。
そして戦闘の指揮はレプソルさんに一任し、ギームルは後方にて待機。あと――
「リーシャとロウは避難所に行っていてくれ。ドミニクさんは避難所の護衛をお願いします」
「ええぇ~~」
「何だよ! 俺にも下がれってのかよ。後方支援はどうすんだよ」
「ああ、了解したぞジンナイ。避難所の護衛に就こう。相手は霊体タイプだな? この対霊体用の武器の出番か」
「お願いしますドミニクさん」
今回の魔王襲来により、中央は避難所を何ヶ所か設けた。
城壁の中とはいえ、どんなイレギュラーがあるか分からない。
不自然な言い回しだが、予測が出来るイレギュラー要素があった。それは霊体タイプの魔物。
東側から魔王が来るのだから、それに釣られて霊体タイプの魔物が来てもおかしくない。むしろ来る危険性の方が高い。
そしてそうなると、街を守る城壁の意味が薄くなる。
ギームル曰く、多少は魔除けのような効果は張り巡らされているそうだが、それは完全ではないらしい。
だから――
「ロウ、お前は避難をするんじゃない。お前もドミニクさんと一緒に守るんだよ、避難して来た人達を」
「ジンナイ……ああ、ああ分かったよ! 俺がしっかりと守ってやるさ」
最初は少し不貞腐れ気味だったロウだが、俺の追加の指示に対し強い意志を見せ、隣にいるリーシャにチラリと視線を向けた。
そしてその遥か後方では、嫉妬組の面々が、親指で喉元を横にかっ切るハンドサインを見せるのだった。
閑話休題
それから数時間後、頭上にあった日が陰り始めた頃。
俺達は城壁の上、元の世界でいうところの武者走りに立っていた。
「ジンナイ、アレじゃないか? 遠くに黒く見えるやつ」
「え? あ、アレは……」
「あれが魔王……」
「ぎゃぼーー!? なんかおっきい口が付いているよですよです!」
レプソルさんが指で示す先、まだ距離がかなりあるが、魔王ユグトレントの姿が見えてきた。
遠目なので大きさはハッキリとは分からないが、それでも巨体だという事は分かった。
そしてその姿は、もし街角でバッタリと出会ったのなら、『あの、もしかしてゴ○ラに出演していませんでしたか?』と、そう訊ねてしまいそうな姿。
どう見ても、植物系の怪獣のような姿であった。
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