孫娘命
がんがりました!
コイツだった。
このジジイが根回しをしていたのだ。
このジジイは、城で起きた強面との衝突の件を予測しており、事前に忠告していたのだ。
俺を除く陣内組のメンツへと。
俺が中央の方針とぶつかる事を予測し、報酬はギームルが支払うと前もって約束していたのだ。
だから慌てることなく留まるようにと。
俺だけにそれを知らせなかった理由は。
それを知らせると逆に、予測が出来ない事をやらかすだろうと予測したからだそうだ。
ちょっとショックだったのは、サリオも事前に知らされていた事。
あのサリオが騒がないのはおかしいと思っていたのだ。報酬が無くなったと聞いたのに、すんなりとそれを受け入れていたのだから。
そしてちょっと救いがあったのは、ラティには濁して伝えてあったという事。
ラティには具体的には伝えず、平気だとだけ伝えていたらしい。
当然、【心感】持ちの彼女からしてみれば、その言葉に嘘がないことが分かっていたので、深く追求することはしなかったそうだ。
まるで、それを見越していたかのように。
その結果、最終的にはギームルの思惑通りとなった。
陣内組は中央の指揮下に入ることなく中央と共に、今代の魔王と戦う事が出来るようになったのだから。
完全に俺が一人踊らされた形となったが、現在の状況は悪いモノではなかった。
ただ、不満があるとすれば――
「おいジジイ! なんで俺だけは報酬が無いんだよ。他のヤツらは報酬がアンタから出るんだよな? なんで俺だけ無しなんだよ!」
ジジイは、他のメンバーには報酬を出すと言うのだが、俺だけには出さないと言い出したのだ。
確かに報酬については、俺は何も約束などしてはいないが、金貨100枚を超える借金持ちとしてはキツイ話。
「他のヤツ等には払うんだよな?」
「ふん、貴様とはそのような約束は結んでおらん。大体、何故ワシが払わんといけないのだ。貴様が勝手に楯突いてきたんだろうが」
――があああああああッ!
やっぱこのジジイはムカツク!
クソッ! でも言い返せねえ……
貸し切りにしている宿屋の食堂の片隅で、俺は射殺す思いでギームルを睨む。
だが対面に腰を下ろすギームルは、俺の視線など歯牙にもかけぬといった様子。
本当に腹立つジジイ。
「――で、アンタは王女様が心配で来たんだろうけど……戦えないよな?」
「ふん、これだから小僧は。戦えるさ、貴様とは違った形でな」
――へいへい、
どうせ、政治的なヤツで戦うってんだろ?
どうせ俺は『物理で殴れ』だよ、
ギームルの言う『戦える』とは、戦闘のことではなく裏方としての戦い。
今回は地下迷宮のような局地的な場所ではなく、もっと広い場所での戦闘。
『広い場所』とは、単に物理的な空間という意味だけではなく、政治的な意味合いも含めた『広さ』。
認めたくはないが、そういった意味の元ではギームルは最強かもしれない。
感情的にはとても嫌だが、俺達陣内組に、元宰相のギームルが裏方として就いたのだった。
そしてギームルがやってきた日も、葉月は城から帰って来なかった。
昨日から城に泊まったまま。
一瞬、『また教会が動いているのでは?』と思ったのだが。
その予想は外れた。
戻って来ない理由は、葉月の親友である橘が彼女を引き留めているからだった。
昨日に続き赤城が、俺達がいる宿にやって来てそれを教えてくれたのだ。
そしてそれ以外にも、現在集まって来ている勇者達のことも教えてくれた。
まだ到着していない勇者は、椎名、荒木、早乙女、加藤、下元、綾杉、蒼月、柊の八人。
椎名と綾杉以外には、既に連絡が届いているはずなので、明日か明後日には到着するだろうとのこと。
赤城はそれらを俺に伝え終えると、表情を少し暗くして他のことを話し始めた。
「陣内君。もしかすると……いや、多分小山君はもう駄目かもしれない」
「……どういうことだ? 確か昨日、お前から治ったって聞いたけど。――まさか傷が治り切っていなかったとか!?」
「いや違う。傷は治った……けど、心が折れた」
「っあ……」
赤城に言われ、俺はその可能性がある事に気が付く。
実際に何があったのかは分からないが。少なくとも、手足を失うような目に遭って来たのだ。
自分に置き換えて考えてみればすぐに想像が出来る。
手足を失い、治癒がままならぬまま何日も過ごし、馬車に揺られて中央へと運ばれる。これはかなりキツイ。
「小山君は……特別凄いって奴じゃない。学校では普通だった。部活などを励むタイプでもないし、学業に専念する方ではなかった。……本当に普通の」
「ああ、そうだな」
そう、小山清十郎は普通の奴だった。
横文字で言うならば『モブ』、漢字で書くならば『一般生徒』。
この異世界に召喚されて、『オッス! オラ小山! いっちょやってみっか!』といった感じではっちゃけてはいたが、元は普通の奴。
そんな奴が、事故などではなく、魔王に襲われ手足を失ったのだ。
傷が治ったとしても、心の方は別だろう。
赤城の言うように、心が折れてもおかしくない。
そして小山は盾役。
戦うのであれば、再び最前線に出て魔王と対峙しなくてはならない。
ロングレンジではなくショートレンジで。
心が折れたヤツが立って挑める場所ではない。
「だから彼は……」
「分かった。……仕方ないか」
赤城が明確に言った訳では無いが、小山はもう駄目だと言っているのだろう。
少なくとも魔王戦には参加出来ないと。
盾役が減るのはキツいが、魔王は50メートルを超えると言われている巨体。盾役で押さえられる相手ではないだろう。
だから今は――
「赤城。それで……小山から何か情報は?」
「駄目だった……今の彼は話せる状態ではなかったよ」
――だからか、
だから折れたって判断したのか、
その後、赤城は少ない情報交換を終えた後、城へと戻っていった。
そしてその直後、ギームルからも同じ話を聞いた。
ギームルが持つ情報網から、鉄壁の勇者コヤマ様は、現在部屋に籠もってしまったとの情報を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギームルが来てから次の日。
魔王の発生が正式に公表された。そして中央に住む住民への避難勧告の発令。
赤城とギームルからは、蒼月と柊の到着が知らされた。
その次の日。
魔王の移動速度が上がったという知らせがきた。
勇者の方は、新たに到着したなどの情報はなかった。
そして、ルリガミンの町が半壊したとの知らせが届くと同時に、中央周辺で、魔物大移動が発生したと報告が上がった。
まるで中央を囲むような流れの、魔物大移動。
それにより、中央、城下町の住人達の避難が困難となったのだった。
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