登城
すいません、最近激務だった為に更新が遅れました;
あと、レッドライジングブックスさんのHPで、勇ハモの小話が載っているそうです。
イセカイのお米についてのお話です。
http://www.redrisingbooks.net/blank-7
女の子は。
『”ぽやぽや”としていて”ふわふわ”としているモノ』、と思っている時期が俺にもありました。
――なんか怖いぃぃいい!?
あれ? これって葉月だよね?
女の子の良いところを集めたような子だよね?
「――と、いう訳なんだけど。どうしたらいいかなぁ陽一君?」
「え、えっと……教会さんが来たんだっけ?」
「ううん、ちょっと違うかな。ちゃんと私の話を訊いていたのかなぁ?」
――なんかヤバいヤクイ怖いっ!
はっ!? ラティ、ラティ助けてくれ! って!?
おぃぃぃいい! なんで露骨に目を逸らしてんだよおお!
葉月は突然やってきた。
ラティの【心感】のおかげで、近づいているのは分かっていたのだが、なんと葉月は、ノックと同時に扉を開けて入って来たのだ。
鍵が掛かっていたはずの扉を開けて。
そして部屋に入ってきた葉月は、俺にいきなり相談をしてきた。
その内容は、教会の信者がやって来て、教会に戻ってきて欲しいと懇願されたという事。
やってきた信者が言うのには、これは個人の意思で動いている事であって、教会の意向ではないらしい。
要は、仮に責める事があっても、教会は咎めず自分を責めろということ。
葉月は、しっかりと教会に話を付けている。
一応、所属している体でだが、基本的には一切縛られない形。
仮にもし教会側から、聖女の勇者葉月に何かを要求してくるのであれば、それは契約違反となる。
だからこれはちょっとズルいやり方。
教会の意思を伝えつつも、教会の意向ではないというやり方。
信者が勝手に動いただけというモノ。
もしかすると、神木が魔王化した事により、教会側もその対応に追われているのかもしれない。そして、聖女の勇者である葉月を頼ろうと――いう話であり、その相談だったはずなのだが。何故か。
「うん、陽一君の顔を見たら何か解決しちゃった。もう教会には戻らないって決めたんだもんね、私は」
「えっと……うん、解決して何よりデス」
とても良い笑顔で微笑む葉月。
普通の高校生であれば、十人中十人が見惚れるであろう微笑み。
それなのに何故か――
――なんか怖ぃぃぃい!?
異様なプレッシャーを感じるんだけど!?
なにこれ? 何かの【固有能力】とか?
「あ、それとね。お城の方からも連絡が来たよ。明日の12時に来て欲しいって」
「12時? 昼飯を食べながらとか?」
「うん、昼食を取りながらだって。勇者だけじゃなくて、アライアンスのリーダーの人達にも来て欲しいって」
「あ、そっちは聴いた」
( ……指定された時間にズレがあるな )
息苦しいプレッシャーを放ちながら、俺に連絡事項を伝えてくる葉月。
しかし次の瞬間、俺は真のプレッシャーというモノを知る。
「それじゃあ陽一君、私からの連絡はこれで終わりなんだけど。――なんでラティちゃんと二人っきりなのかなぁ? ラティちゃんは別の部屋だよね?」
「ふっぐぅ!?」
俺はこの時、人は耐え切れないプレッシャーに晒されると、その重圧で呼吸が止まるという事を体験する。
比喩ではなく、本当に一瞬息が出来なくなった。
「ねぇ、なんでかなぁ~?」
「い、いや、えっとラティに相談していたんだよ。前からよく相談に乗ってもらっていたんだよ。ほ、ほら、同じパーティだし? 同じ仲間だし? ラティだし? 別におかしい事じゃないだろ」
「ふ~~ん、だったらサリオちゃんは? なんでサリオちゃんはいないのかなぁ? 同じ仲間だよね?」
「さ、サリオは……寝た! 寝ているから来れないんだよ! うん、寝ているから仕方ないんだよ」
ジリジリと重くなる重圧。
それはまるで、上位魔石魔物と対峙しているような感覚。
「そっかぁ、寝ているんだ」
「ああ、サリオって小さいからすぐ寝ちゃうみたいなんだ」
(22歳だけどな )
俺は嘘は言っていないと、胸を張ってそう言って目だけは反らす。
すると――
「ふ~ん、寝ているんだぁ。寝かされたじゃなくて」
全てを見透かすような笑みを浮かべ、含みのある発言をする葉月。
そして何故かその発言に、隣のラティが露骨に目を反らす。それは本当に露骨に、物凄く不自然な仕草で部屋の隅の方へと視線を向けた。
「あれ? どうしたのかなぁラティちゃん。なんか家で飼っていた猫みたいに部屋の隅を凝視しちゃって。――ほんとう、どうしたのかなぁ~?」
「あの……いえ、何でもありません」
葉月は一切責めていないはずなのに、何故か叱られているように見えるラティ。
そして――
「じゃあ相談も終わったし、そろそろ遅いから部屋に戻ろうかな。……一緒に戻ろっかラティちゃん」
「……はい」
まるで、『一緒にトイレに行こう』のような軽さ。
それとは対照的の重さ。
ラティは葉月と一緒に部屋を出て行った。連行されて行くような雰囲気で。
そして俺はそれを、ただ見送ることしか出来なかった。
閑話休題
次の日、俺達は午後一時に城へと訪れた。
登城したアライアンスのリーダー達は、城の中にある広い部屋へと案内され、そこには強面の偉そうな男が待っており、今回のことについての説明を始めた。
因みに中に入れたのは、陣内組からは俺とレプソルさんだった。
強面の男は語った、魔王について。
現在移動している魔王は、このまま行くと五日後には【ルリガミンの町】へと到着してしまうという事。
そして中央周辺では、小規模ながら魔物移動が観測されているという事。
それはまるで魔王に応じるように。
ただ規模が小さいので、防衛戦になる程ではないらしいが。
そして次に、連絡の取れた勇者達が三日以内には集まるという事を知らされた。
現在連絡の取れない勇者は二人。魔王との交戦後、行方不明となった椎名と、レフト伯爵と共に消息が掴めなくなった綾杉。
何となく嫌な予感がするのだが、ワガママ勇者の加藤は北にいるらしい。
それと西側に居た八十神と橘と霧島は、今日の早朝に到着して、現在別室で食事をしながら説明を受けているとの事。
因みに冒険者側には、水の一杯すら出ていない。
その後、グダグダとした話が続いた。
『冒険者は我々の指揮下に入ってもらう』『勇者様の為に命を懸けよ』『これは聖戦なのだ』『勇者様を……』等々と。
要は、お前達は中央の指揮に従って勇者をフォローしろというモノであった。
正直、こういった事にはそれほど詳しくない。
大規模防衛戦として考えると、中央の指揮下に入るのは当たり前。
だが、腑に落ちない部分があった。
それは、”勇者の為”というところ。
魔王討伐が目的なのに、何故か『勇者様の為に散ってこい』と『ちょっと捨て石になってこい』と、そう聞こえるようだったのだ。
”大の虫を生かして小の虫を殺す”
一度は聞いたことのある言葉だが、実際にそれを突き付けられてみると、とても承服できない言葉だった。
護りたい誰かの為に身体を張るのは構わない。
ラティの為ならば、上位魔石魔物との一対一だろうが、魔物の群れが相手でも構わない。
だがこれは違う。
まるで勇者の為に捨て石になれと言っていた。
勇者の楔の効果なのか、他の奴らはそれ対して違和感を感じないのかもしれないが、俺は――
「アホか、俺達に死んでこいってのかよ」
気が付くと俺はそれを口にしていた。
ザワリとする室内。
視界の端には、しょうがねえなといった顔をするレプソルさん。
知り合いのアライアンスからも、レプソルさんと同じような気配を感じるが、他の冒険者達からは非難じみた視線を貰う。
そして説明を行っていた強面の男は。
「ふん、貴様かハズレの者よ。お前のことは宰相から訊いている。こちらに従えないのであれば出て行くがよい”裏切り者”よ」
まるで見せしめのように、”裏切り者”と言い放つ強面の男。
この場で反論する者は、『勇者に従えない者』『世界の為に戦えぬ者』『己の命が惜しい裏切り者』と、言外に示しているよう。
勇者と共に戦うのが、至上の誉れとしているこの世界。
普通の冒険者達ならば、きっとこれは受け入れがたい事なのだろう。だが――
「ああ、分かったよ。じゃあ出ていってやるよ。あ、言っとくけど、出て行けって言ったのはそっちだからな。アンタが出て行けって言ったから俺は出て行くんだからな。下手に責任とか罰とか押し付けんなよ」
「な!? き、貴様ッ ――ああ良いだろう。ここから出て行け裏切り者!」
俺は言質を取ってからその場を後にした。
少々カッとなったところはあったが、捨て石のように使われかねない状況。
とてもではないが、素直に従える状況ではなかった。
そして確証がある訳ではないが、何となく察した。
現在の宰相はエウロス出身。
二カ月前のことを考えると、東側のヤツにとって俺の印象は良くないのだろう。
もしかすると、これは俺が誘導されたのかもしれない。
当然、考え過ぎなのかもしれないが。
そして冷静に考えてみると、これは陣内組も巻き込む事になったのだが。
「――了解した。ならばうちの陣内組は引かせて貰おう」
「なに!?」
俺に続き、陣内組のレプソルさんまで出て行くと言い出した。
俺だけを追放するつもりだったのか、僅かだが狼狽えを見せる強面の男。
「お、お前達は高レベル者だろう! 勇者様と共に戦える栄誉を捨てると言うのか!? 報酬や名誉をいらんと言うのか!」
その後、強面の男はレプソルさんに考え直すように言い続けていた、だがレプソルさんはそれを振り切って、俺と共に部屋を後にしたのだった。
こうして陣内組は、報酬を一切貰えぬ状態となり、正規での魔王討伐戦に参加することは出来なくなったのだった。
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