樹の「名は。」
勇ハモが発売しましたよー!
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やって来た勇者赤城は、俺達に魔王のことを伝えたいと言ってきた。
彼等はすでに一戦交えたらしく、その戦闘で分かったことを知らせたいのだという。
伊吹組や三雲組には使いを出しており、皆がそろってから話すと言った。
後に――
「陣内君。話が終わったら君だけに話したいことがある。あとで時間をくれないか?」
「ジンナイ、頼む」
「うん? ああ……分かった」
( これが本命か…… )
神妙な表情でそう言ってくる赤城に対し、俺はある予測をした。
皆に話すと伝えに来るのであれば、誰か使いを出せば良い。
もしくは、赤城か他の誰かが来るはず。
だが俺の場所には、赤城とドライゼンがやってきた。
ドライゼンは、赤城の勇者同盟の別働隊のリーダーを務めていると訊いている。
その二人が来るのだから、余程の理由なのだろうと。
( 警戒が必要か……? )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
約一時間後、俺達は赤城が用意した部屋へと揃った。
陣内組からは、俺とラティとレプソルさん。
三雲組からは、三雲と言葉とハーティ。
伊吹組からは、伊吹とガレオスさん。
フリーとして、葉月と上杉。
そして勇者同盟からは、赤城とドライゼン。
召喚された勇者の三分の一が集まるなか、赤城が魔王との戦闘で得た情報を話し始めた。
魔王の名は【ユグトレント】。
ちょっとした高層マンションほどの大きさで、高さは50メートル以上。
赤城の説明によると外見は、まるで怪獣映画から抜け出してきたような姿らしい。
そしてその魔王は、黒い霧のようなモノを撒き散らしており、その黒い霧が、魔法や放出系WSなどの効果を減衰させていたと語った。
補助として掛けてあった強化魔法なども、その霧の中では普段よりもかなり短い時間で切れてしまい。放出系WSは、明らかに威力が減衰してしまい、ほとんど効果がなかったらしい。
高い貫通力を誇るスラグショトでも、本当に僅かな傷しか付けられなかったそうだ。
それと厄介なことに、魔王の周辺では魔物がよく湧き、それが魔王に付き従う兵士のように動いており、その辺りも苦戦させられたと。
魔王と戦うには、護衛のようにいる魔物も相手にしないといけないと赤城は語った。
そして最終的には、勇者同盟だけではどうにもならず、赤城の勇者同盟は中央へと退いたのだという。
その話を訊いた上杉は、何故、勇者同盟だけで戦ったのかと訊ねた。
それに対し赤城は、偶然遭遇したのだと答えた。
デカい何かが見えて、近寄ってみると怪獣のようなモノが動いており、【鑑定】をしてみても、黒い霧に邪魔をされて【鑑定】が出来ず。
様子を見るつもりで遠隔攻撃を仕掛けた際に、多少霧が散って【鑑定】が出来たので、魔王だと知ったのだと言う。
そして話を終えた赤城は、あの魔王と戦うのには、勇者達がバラバラに動くのではなく、皆が協力する必要があると言った。
ただ戦うのではなく、皆が協力し合う必要があると。間違っても、貴族に促されて戦ってはいけないと。
そう言って彼はその場を締めた。
その後、各自で短い会話を行ったあと、解散となった。
勇者達が自分が泊まっている宿へと戻るなか、俺はそのまま赤城の部屋へと向かった。
葉月とレプソルさんは帰し、俺はラティと一緒に部屋へと入る。
「赤城、話しておきたい事ってなんだ」
「陣内君……僕は君だけって言ったつもりだったけど?」
俺の隣にいるラティを見て、少し不満そうな顔でそう言ってくる赤城。
そして赤城の隣には、表情を抑えたドライゼンが立っている。
「赤城、いいか? 呼び出しイコール罠なんだよ。罠があるって分かっているのに、一人でノコノコ来るかよ」
「……はぁ、君はどんな道を歩んで来たんだか。まぁ確かに間違ってはいないか。前に町中の人から追われていたし、北原君の件も……」
「詳しく知っているのか?」
「ああ、大体は把握しているよ。ドライゼンがいるからね」
――なるほど、
確かにヤツの情報収集力にはお世話になったな、
主に階段でっ!
「君と北原君の間には、隣の彼女のことで不和が生じていたね」
「ハッ、アイツが一方的に絡んで来ただけだ」
「そうみたいだね。そういえば君を暗殺しようともしたね、地下迷宮で」
「ああ、だから俺は自分が間違っているとは思っちゃいねえよ。アイツは野放しに出来ない――」
「――だから殺したんだね?」
淡々と話す赤城。
その声音は、肯定とも否定とも取れない中立さを感じさせる。
「陣内君、僕は君の行動を否定するつもりは無いよ。まぁ倫理的にいうならば、きっと咎めないといけないのだろうけど。――倫理とはいつも個人ではなく、その他大勢だからね。だから僕は何も言わないよ。僕もそれなりに見て来たからね」
「ッ!? ……でも、肯定はしないと」
「勿論」
腹の探り合いのようなやりとり。
俺は首のコリをほぐすような仕草をして、チラリとラティの方へ目を向けた。
( ……敵意や悪意は無しか )
赤城の意図が全く読めなかった。
俺を呼び出した理由の一つとして、北原を殺した事に対し、何か言ってくると思っていたのだが、少々違う様子だった。
ラティの【心感】だけでは、相手の感情の動きが読めるだけ。俺が赤城の意図を読み切れずにいるなか、赤城が俺に問いかけてきた。
「陣内、前に東の防衛戦の時に言ったことを覚えているかい?」
「東の……? あ! 下元は? あと加藤も! 確かアイツ等って勇者同盟が引き取ったよな?」
「ああ、彼なら独り立ちしたよ。――加藤さんの方はいつの間にか居なくなっていたよ……勇者同盟の食料を大量に盗んだ後にね」
「加藤……」
「陣内君、話を戻すよ。東で僕が言ったこと……君の力を貸して欲しい」
「魔王との戦いか? そりゃもちろん協力するが」
「いや、そっちじゃなくて――」
「アカギ様、俺の方から話します。いや、話させて下さい。これは自分の事でもありますので」
「ドライゼン?」
赤城の言葉を遮るようにして、ドライゼンが声をあげた。
先程とは違い、強い覚悟を感じさせる顔を見せ、ヤツが――
「フユイシ伯爵家を潰すのを手伝って欲しい。勿論この戦いが終わった後にだけど、ボレアスへ一緒に来てほしい。」
「は? へ? 北って、ボレアス……今はフユイシ家が支配している場所だよな?」
「そうだ。……そのフユイシ家からボレアス家を取り戻す」
「取り戻すって……へ? 何を言って……?」
俺は咄嗟にラティの方を見てしまった。
さり気なくではなく、露骨にラティの方を見て、ドライゼンが嘘を言っていないか確認をしてしまう。
見つめた先のラティの表情は、ドライゼンは嘘を吐いていないと示していた。
俺はラティからドライゼンの方へ目を向ける。
「ジンナイ。俺はボレアス家の者だ。正確には妾の子だけどな」
「はあああああ!?」
俺は再び、これでもかというほど露骨に、ラティの方を見てしまった。
そしてそのラティの表情は、先程と一緒で、ドライゼンは嘘を吐いていないと示していたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
超色々とあった。
魔王のことだけではなく、北のことまで出て来た。
ちょっと前に、馬鹿なことをやってノトスを追放された三馬鹿を思い出す。
アイツ等が言ったボレアス公爵とは、赤毛の冒険者ドライゼンのことだった。
ステータスプレートに刻まれた名も、ボレアス・ドライゼンとなっていた。
ただ、まだしっかりと認められていないからなのか、職業の欄は冒険者のままだったが、北へと向かいボレアスで認められたならば、公爵へと変わるだろうと言っていた。
そしてそれを手伝って欲しいとドライゼンは言っていた。
何を手伝って欲しいかなどは分かり切っている。
俺に出来ることと言えば戦闘だけ。
ドライゼンは一緒に戦って欲しいと言っているのだ。
悪く言うならば、戦いに巻き込まれる。
だが上手くいけば、ボレアスから狙われる可能性が無くなるということ。
即決の出来る問題ではないので、取り敢えず返答は待ってもらった。
これは選ばなくてはならない問題だ。
――くっ、これはどうしたらイイんだ、
北に行くのは危険だし、危ないし、ヤクイし
もしかすると罠だっていう可能性だって……
「んっ……」
――魔王だけでも厄介だってのに、
何で問題が増えてんだよっ!
ああ、そういや、言葉のことだって……
「んぅ……んん、ふぅ……」
――ああ、考えが纏まらねぇ、
でも、選ばないと……
「あ、あの……」
――いやいや、まずは魔王のことだ、
話を訊いた限りじゃ、かなりの強敵なようだし、
しかも黒い霧も厄介そうだし、その対策も……
「あのっ、あの、そろそろ――ッんん!?」
「ん? ラティ、もうちょっと撫でさせてくれ。もう少しで考えが纏まりそうなんだ」
「あの、でもご主人様、纏まりそうな気が全くしないのですが? それと、誰か部屋に近づいて来ていますっ!」
ラティの必死な訴えにより、俺は完全完璧頭撫でを中断した。
そして中断した直後、何と表現したら良いのか、不満、不機嫌、怒り、苛立ち、『どういう事かなぁ?』という雰囲気を纏った葉月が部屋にやって来たのだった。
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あと、誤字脱字なども。




