魔王速報
お待たせしました。
新章です。
夜に伝えられた、魔王発生の報告から数時間後。
また新たな知らせが届いた。
そしてその数分後に、また追加で知らせが届き続けた。
最初の報告は、東に生えていた神木が魔王化したという事。
そして次に、その魔王へと聖剣の勇者と、鉄壁の勇者が挑んだという情報。
報告によるとどうやら、前の件で迷惑を掛けたとのことで、椎名と小山は会っていたらしい。椎名が小山に謝罪をするという形で。
そして話の流れで、神木から素材を採って小山に渡そうとし、神木がある場所へ向かっていたのだが、その時に魔王発生に居合わせたのだという。
そして二人は魔王と対峙したらしい。
シェルパールだけのやりとりなので、正確な経緯は不明だが、そのような報告が来た。
そしてその後すぐに、追加の情報が飛び込んできた。
それは、鉄壁の勇者小山が瀕死の重体。
しかも、左腕と左脚を失ったとも伝えられた。
そして聖剣の勇者椎名は、現在行方不明。
魔王との交戦後、その姿を誰も見ていないとのこと。
その後、中央からの連絡で、勇者達は全員中央へと向かって欲しいとの連絡が届き、それに合わせて冒険者達の招集も掛かった。
現在魔王は、ゆっくりと西側へと移動しているそうで、それは東から西への移動であり、魔王は中央の城へと近づいているかもしれないと言うのだ。
夜が明けると俺達は、物資を掻き集めてノトスの街を出立した。
陣内組と三雲組、それと伊吹組に上杉といった、ノトスの上位戦力が隊列を組んで中央へと向かった。
中央からの最後の指示は、戦力を一度中央の城へと集め。その後、魔王の動きを視てから具体的な指示を出すとのことであった。
今回の魔王発生は、一年も早いというイレギュラー。
しかも魔力の渦は中央に残ったまま。
現在アルトガルは、情報収集に力を入れているだろうとギームルは言う。
それと今回の魔王発生は、一応予想はしていたが、それでも予想外の出来事であり、事前に用意してあったプランが使えなくなっているのだと、そうギームルが難しそうな顔をして言っていた。
難しそうな顔で――いや、正確には、何かを隠しているような表情で。
そして伝えられてくる情報の中には、魔王の特性についての情報なども上がっていた。
魔王化した神木には、ほとんど魔法が効かず、しかもWSさえも効果が薄いとの報告が来ていた。
俺は最初、その情報に対してそこまで驚くことはなかった。
魔石魔物の中には、魔法や放出系のWSを弾く魔物がいるのだから、それは十分にあり得ると思っていたのだが――その内容は少し違っていた。
魔王と交戦した者からの情報によると、力を無効化されていたとの証言があったそうだ。
神木の魔王は黒い霧のようなモノを纏っており、その霧が魔法や放出系WS、そして近接系WSまでも無効化していたと言うのだ。
出発前に訊いたギームルからの話によると、過去の魔王との戦闘記録には、勇者以外の攻撃は届き辛かったとの記述があり、勇者の使用する強力なWSだけは魔王に届いたとの記述があるそうだ。
そう言った理由もあり、魔王討伐には勇者が絶対に必要らしい。
因みにその情報は、一番最初の時に葉月達は説明を受けており、俺だけはさっさと城を放り出されていたので、それを聞かされていなかった。
俺は馬車に揺られながら、数々の与えられた情報を自分なりに纏めていた。
そして近接WSまでもが届かないという情報に疑問を持ち、問うようにしてそれを口にした。
「近接系のWSまで無効ってどういうことだ? 不思議な力で物理が無効だとか? いや、それだと勇者でも倒せないよな」
すると俺の問いに対し――
「あの、ご主人様。WSの事なのですが……」
「あ~~陽一君ってWSを使えないから知らないのかぁ」
「ジンナイ。WSとぉ魔法はぁあ似たよおなモンだべえ」
馬車に同乗している3人から、一斉に言葉を発せられた。
「へ? え? なに、似たようなモノ?」
俺は馬車の同乗者から、WSについての説明を受けた。
WSとは、言うならば武器を使った攻撃魔法のようなモノであり、SPを消費して、強力な攻撃を放てるというモノ。
一応、SPの消費や動作の固定などは知っていたが、他にも知らない事を教えてもらった。
まずWS発動時、刀身が光っているが、アレは武器に力が宿っているから光るのだという。刀身に力が宿り、その力が強力な威力を発揮しているのだと。
しかも、刀身を力が包んでいるので。WS発動時は、武器に対しての負担も軽減しているのだという。
要は、刃が欠けたりや折れたりといった消耗が減るそうだ。
動作の固定や、発動後の硬直などのマイナス面もあるが、新たにWSの利点を俺は知った。
ラティの説明によると、同じ硬さの武器でも、WS発動時は力を纏っているので、ぶつかり合った場合、WSを発動させていない方の武器は折れたりするらしい。
思い起こしてみると俺は、イワオトコに対し普通に槍を突き立て壊していた。
本来であれば、あれはWSを使って武器を保護すべきだったのだろう。
( いや、俺はWSが使えないか……くそ )
俺がWSに対し、心の中で愚痴を吐いていると、ラティが何かに気が付いたかのように、ある仮説を口にした。
「あの、もしかすると魔王はWSの力……、武器に宿る力を無効化しているのではないでしょうか? だから近接系のWSも効果が薄いのではと」
「あ~~、なるほど――って、それってどういう事?」
WSを使えない俺にはピンと来ない事だが、ラティ曰く、刀身に宿った力が無いのであれば、威力は激減するし、”重ね”も発動出来なくなるだろうと話した。
物理オンリーの俺には、その説明を聞いても、やはり解り辛かった。
ラティが話し終えると、今度は葉月が話し始めた。
それは小山と椎名の事。
「小山君大丈夫かな……重体って聞いたけど」
「うん? 回復魔法があるんだから、普通に治るんじゃないのか?」
「うん、そうなんだけど……何となく嫌な予感がして……」
「嫌な予感……」
――なんだ? また女の勘か?
でも、コレって馬鹿に出来ないんだよな……
特に葉月の勘は、
俺は葉月の言葉に、俺までも嫌な予感を覚えた。
何かを見落としているような、そんな感覚。
「それに椎名君までも行方不明だなんて……」
「確かに。アイツは転移系が使えるはずなんだから、何かあれば戻れるはずだよな。それなのに行方不明か……」
次々と不安材料が出てくる中、俺達は馬車を走らせ続けた。
スレイプニール種のゼロゼロが引く馬車。御者はサリオ。
イレギュラー的な魔王発生という、把握し切れない状況。
きっと誰もが、少なからず不安を感じているだろう。
もしかすると、他の馬車の中ではお互いに鼓舞し合っているかもしれない。
きっと皆は、魔王発生について考えているだろう。
魔王について、これからの戦闘について、その危険性について。もしかすると報酬のことを考えている奴もいるかもしれない。
借金を抱える俺にとっても、それは大事な話。
だけど俺は――
――があああああ!!!
言葉と顔を合わすのが気まずい……
くそっ! どんな顔して会えば、
きっと俺だけだろう。
魔王以外のことで、こんなに不安がっているのは。
移動中の馬車の中では、いつもはラティの尻尾を撫でて、退屈で暇な時間を至福の時間へと変えているのだが、今日はそれが出来なかった。
目の前に葉月とシキが居ようが、本来ならばこっそりと撫でるのに、今日はそれが出来ず馬車に揺られているだけだった。
ラティからの視線を気にしつつ、俺は中央へと向かったのだった。
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新章は、神木の魔王編です




