ちょっと日にちが過ぎました
前編的な感じです。
あ、彼の名前は「ジュノー」です。
世の中には、”一目惚れ”というモノがある。
最初はそんなモノは幻想だと思っていた。
いくらなんでも、一目で誰かを好きになるなんてあり得ないと。あったとしても、『少し良いな』程度だと思っていた。
だが――
「ぎゃぼーー! 感激ですよです~」
「ん? 一応、観に行くだけだからな? 別に凄く興味があるとかじゃねえからな」
「あの、サリオさん。あまり道で騒ぐと危ないですよ」
ボクの視線の先では、3人組が騒がしく歩いていた。――いや、騒がしいのは二人だけ。目つきの悪い男が、はしゃぐ小さい子の顔面を鷲掴みにしている。
いくら相手がハーフエルフとはいえ、まさに悪魔の所業である。
( やっぱり奴は悪だ…… )
ボクは目つきの悪い男を睨み、次にその男の隣にいる、儚げで可憐としか言いようのない娘へと目を向ける。
紅の外套に身を包み、僅かに亜麻色の髪を見せる狼人の少女。
ボクは彼女に、”一目惚れ”をしていた。
そして今、ボクは彼女を救ってみせる。
ボクが得た、ボクの力で――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彼女と初めて出会ったのは、ノトスの街から出て少し南に行った場所にある砦の中。
深淵迷宮と呼ばれる所を囲う砦。その中で軽食などを扱っている店に商品を届けに行った時、ボクは彼女に出会った。
彼女を目にしたは偶然であり、だが必然でもあった。
目を引く紅の外套。その外套のフードを取った時、枷から解放されて流れるようにして零れる亜麻色の髪。そして僅かに幼さが残るも凛として整った容姿から、ボクは目が離せなくなった。
まさに釘付け。
ボクはそのまま亜麻色の髪の少女を見つめ続けた。
儚く寂しげな表情。
何処か不安に押し潰されそうな表情を浮かべ、彼女はある方向を見ていた。
ボクはそれが気になり、その視線の先を追うとそこには、聖女の勇者の名で有名なハヅキ様が居た。
何故そのような表情を浮かべるのか分からない。
だが次の瞬間、耳にした言葉でその浮かない表情の理由が分かった気がした。
「ラティ、今日も君はオレと同じ冒険者連隊だ。スペシオールと組んで重ねを頼む」
「はい……」
不満げに答える少女。
そう彼女は、冒険者達に使われる奴隷だった。
喉元に見える、赤色の首輪が彼女を縛っている。
きっと彼女は、嫌なのに無理矢理戦闘を強要されているのだろう。
そうで無ければ不自然だ。あんな可憐な少女が、並みの冒険者では逃げ出すような深淵迷宮へと行くのだから。
中にいる魔物は、町の外をうろつく魔物とは別格の強さと聞いている。
冒険者とは、真面目な仕事に就けない荒くれ者が堕ちる職業。
魔王を討伐する勇者様は違うが、他の冒険者達は碌なのがいない。態度は横柄であり、自分が卸している軽食などの代金を踏み倒す輩もいる。
そして今も、少し離れた場所で目つきの悪い若造が、何やら偉そうに指示を小声で出している。
「マジかよ!? ラムザの野郎……俺のブレッシングブローが必要そうだな」
「ああ、奴には再び制裁が必要だ」
「例のリナって娘と一緒に歩いているのを目撃した。奴は間違いなく黒だ。デカいのが好きだなんてのはフェイクだったんだよ」
「よし、今日の仕事が終わったら、陣内組と伊吹組、それと我が三雲組と合同で裏切り者に追い込みを掛けよう」
「ああ賛成だ! 出来ればついでにあのロン毛にも制裁を。――くそっ、兎人の彼女を作りやがって……許せんっ! 奴には定期的に制裁を与えなくては」
「うう、ミミアちゃん……何であんなロン毛なんかと……」
「制裁内容は休憩の時に決めよう。俺はちょっとハーティさんに話を通してくる。詳しい話は後で」
「ああ、分かったジンナイ」
「ふっ、貴様も制裁対象だとは気付かずに愚かな」
「ああ、ヤツは裏切り者だ」
「アイツはもう忘れているようだな、自分のステプレの事を」
「全くだ、瞬迅に手を出して無事で済むと思うなよ」
「あ、聞いたか? アイツってヤル時は手を縛られているらしいぞ? 多分、赤首輪が理由だと思うけど……」
「それで夜のカポエラとか訳わからんこと言っていたのか……。足技だけの格闘技だっけか?」
「何だろうと関係ないっ、ヤツにも制裁を! あ、瞬迅に話を通しておこう。前にそれで酷い目にあったからよ」
バタバタと散って行く冒険者達。詳しい内容は分からないが、碌でもない話だという事は分かった。
誰かを陥れ、そして陥れようとした者も陥れられる。
裏切りの連鎖しかないように思える世界。やはり冒険者はクソだ。
魔物から人を守るという面もあるが、それは兵士達に任せれば良い話。
本当に嫌になってくる。
ふと見れば、先程の冒険者に話し掛けられ、亜麻色の少女の表情がまた一段と暗くなる。
一体どんな指示を出されているのか、ボクの心が軋むように痛む。
何故ボクは彼女を助けられないのだろうか。
力が欲しい。
誰かを救える力が欲しい。――彼女を救い出せる力が欲しいっ。
そしてある日、自分には既に”力”がある事を知った。
あるお芝居を観に行った時にそれを知った。その力とは”正義”。
真の勇者と呼ばれている、勇者ヤソガミ様を題材にしたお芝居。
そのお芝居では、正義は正しく、正義は何よりも優先されて、正義が正義。そして悪は間違いであり、悪は排除されるべきであり、悪は悪と教えてくれた。
そう、正義ならば悪を打ち滅ぼせる。
ただ、一応気を付けなくてはならない事があった。それは、個人的な正義を持ってはならないという事。
大衆の意を汲まぬ正義は独裁でありエゴ。――それは悪。
だから間違わぬようにしないといけない。
「だから間違わない。ボクがこれからすることは正しい!」
ボクは腹をくくり、目つきの悪い男へと近づく。
しっかりとヤツに言ってやる、『彼女を奴隷から解放しろと』。彼女を無理矢理戦わせるような真似は許さないのだ。
いや、許してはならないのだ。
無理矢理などは悪であり、正義の名のもとに正さなければならないのだ。
( そう、ボクが正しい。だから…… )
だからきっと、みんなボクの味方になってくれるはずだ。
悪を断罪するボクを。そしてボクは彼女を解放してみせる。
そしてそして――彼女を。
ボクは覚悟を決めて、目つきの悪いヤツの目の前に征き言い放つ。
「あ、おいお前っ――」
「あの、ご主人様に何か御用でしょうか?」
ヤツを断罪しようとするボクの前に、何故か亜麻色の少女が立ち塞がった。
↑今回あまり出番無かった人。
↑騒いでいた3人組(装備はちょっと違いますが
色彩が、かなり変わってしまっています。(直ったかな?
読んで頂きありがとう御座います。
これから後編?解決編?へと繋がります。
感想など、感想などお待ちしております~。
勇ハモの書籍がご予約など出来るようになったそうです。
是非、宜しければ。
イラストもそうですが、書籍用は大幅加筆修正などしてありますので、よりこの勇ハモの物語が楽しめるようになっております。
本当にイラストが素晴らしい!
桑島様、感謝です;




