洞窟
よろしくお願いします
次の日俺達は東の廃坑に向かった。
ららんさんに用意してもらった馬車に乗り込み、東へと走らせる。
廃坑があると言われている森までは、約1日かかると教えてもらっていた。
「ジンナイ様、今日は馬車で野宿です?」
「ああ、その予定かな。取り敢えず行ける所まで行こうか」
「夜営ですと、見張りが必要ですね」
前回の防衛戦の遠征で俺達は夜営の手順は学んでいた。
日が落ちる前に食事の用意をし、そして見張りを立てて夜を明かすのだ。
見張りには、【索敵】を持っているラティが一番適任だが、彼女には馬車を走らせている時に【索敵】を使ってもらいたいので、今回は俺が見張りをする事にした。
俺が夜に見張りを行い、昼のうちは馬車で眠る予定で行く事にする。
この予定にした時に、ラティが申し訳無さそうにしていたが、昼は頼むと説得して納得して貰った。
因みに、サリオは当てにならないので、見張り役からは外しておいた。
だが、意外にもサリオは馬車の御者を出来るらしく、今回の馬車旅での御者はサリオが担当となった。
昔の鉱山だった時の名残か、東に向かう道が残っていたので迷う事なく進む。ラティが【索敵】で警戒しながら馬車を進めたお陰で、魔物に遭遇する事なく順調に進めた。
それから日が沈み始め、少し早めに夕食を取る事にする。
この夕食も、ららんさんが用意してくれていた物で、簡単な調理で出来る物を用意してくれていた。
夕食を済ませ、ラティとサリオには早めに寝てもらう。
日が昇ったらすぐに出発をする為だ。こうすれば明日早いうちに廃坑に辿り着けて、鉱石探しに時間を取れるのだ。
食後の軽く雑談を交わした後に、2人は馬車に戻り床に就く。
俺はそれを見送りながら、1人寂しく見張り役をこなす。
ラティが唱えてくれた生活魔法”アカリ”の光を眺めながら、周囲を警戒する。
一応見晴らしの良い場所に馬車を止め、俺でも近寄る魔物が気付けるようにしておいた。
そして暫くすると、俺に近寄る物音がした。
ただ、何となくだが予想をしていた。その物音の正体を。
「ラティ、寝ないと明日辛いぞ?」
「あの、少しご主人様とお話をしたくて」
ラティなら物音立てずに近寄れただろうが、俺を驚かせない為に足音立てながら俺に近寄って来ていたのだ。
「何かあったの?」
「あの、南ノトスの時はご迷惑をお掛けしました」
「それはもういいよ、何とか生きて帰ってこれたんだし」
「あの、そうなのですが、どうしても申し訳なくて」
ラティはいまだに、眠らされてしまっていた事を気にしていた。
だが、俺がいくら何を言っても、きっと気が晴れないモノがあるのだろう。
それは、何かしらで償いが出来ない限り、心にある罪悪感のようなモノが拭えないのである。責任感があるラティらしいのだが。
――どうしよう、
俺がいくら許しても多分、気に病んだままだよな…あ!
「ラティ」
「はい?何でしょうご主人様」
「ラティがどうしても気にしてるのならさ、頭撫でさせて」
「あの、普段から撫でているような…」
「うん、だから念入りに撫でさせて」
「あの…はい、分りました。どうぞお願いします」
ラティは俺の横に腰を下ろし、そっと頭をこちらに寄せた。
そして俺は、これでもかっと言う程念入りにラティの頭を撫で回した。
途中でラティが「あの、あの!」など、必死に何か言っていた気がしたが、今回は聞こえないフリをして小一時間ほど撫で回したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日。
俺達は廃坑がある森に辿り着いた。
森の中にも廃坑へと続くと思われる道は残ったままであった。
森に入るまでは、俺は寝ていたが森からは俺も起きて警戒したまま森を馬車で進む事にしたのだ。
ラティにして貰っていた膝枕を惜しみつつ俺は周りを眺める。
ラティのように【索敵】などは持っていないが、森の中には魔物の気配を感じることはなく、目的の廃坑に辿り着く。
廃坑の入り口は、一見するとただの洞窟。
だが、横に積まれた鉱山だった時の名残なのか、不自然な土山のような物があり、辛うじて鉱山であったことが窺えた。
トロッコでも使っていたのか、線路のようなモノが入り口から奥へと続いている。
――あ、トロッコとかあるんだな、
でも、鉄道的なモノ見たことないな、
俺がそんな事を考えていると、ラティが何かを察知したのか、俺達に警戒を促してくる。
「何か来ます!」
「何も見えないけど」
「ぎゃぼ?ですね、何もいないです」
俺とサリオには全く感じられないが、ラティだけは何かを睨もうとしている。
そして――
「壁から来ます!」
「――っな!?」
廃坑の壁から白いシーツでも被ったような、半透明なモノが姿を現した。
それはまるで子供が悪ふざけでオバケの仮装でもしている様な姿であった。
「先行します!」
「任せた」
ラティはいつも通り、壁を足場にして駆け上がるようにして、そのオバケに切り込んでいった。だが――
「む、効きが悪い?」
「ありゃ?ラティちゃんの剣ちょっとすり抜けたです?」
今回の廃坑では幽霊が出ると言うので、ららんさんは、対霊体用効果のある付加魔法品を貸してくれたが、どうやら効果はイマイチのように感じられた。
「サリオ!魔法でいけるか?」
「はいな!」
サリオは返事と共に、火の玉の魔法を放つが。
「ぎゃぼー!なんか全く効果ないですよです!」
「くっ、聖系とかじゃないと効かないとかか?」
「あたし聖系使えないです…」
サリオがいきなりの戦力外であった。
彼女には、この廃坑では生活魔法”アカリ”位しか仕事が無くなっていたが。
「サリオさん、もう一度お願いします!」
「はいぃ!火系魔法――」
ラティはサリオに魔法を要求していた。
最初は何故?と思ったが、その理由はすぐに判明する。
「―ッハァ!」
サリオの魔法で作られた火の玉が、幽霊を貫くと、一時的だが幽霊に穴が開くのだ。それは短い時間ではあるが、幽霊はその間動きが鈍り、その隙を突いてラティが幽霊を細切れにしていく。
「ほへ~、細切れにされると復活出来ないんですねです」
「ああ、これなら楽だな」
それからの戦闘は楽であった。
幽霊の接近はラティが察知し、その幽霊にサリオが魔法を放ち、穴が開いて動きが鈍った幽霊を俺とラティが倒して行くのだ。
ラティは剣で細切れに、俺は木刀の一撃で屠っていく。
特に木刀が凄かったのだ。
木刀で突き付けられた幽霊は、弾けるように四散していったのだ。
木刀相手には、幽霊は一切の抵抗も出来ずに消えていった。
その楽な戦闘に俺はどこか油断していたのかも知れない。油断していると足元をすくわれる、それを体現するかのように。
「あ…」
「ご主人様!」
「ほへ?―ッジンナイ様!」
俺は4体の幽霊相手に、調子に乗って大立ち回りを演じていると。
突然足場が崩落したのだ。
俺は足元に広がる暗い闇の空間に、呆気なく落ちて行ったのだった。
読んで頂きありがとうございます
今日中には続きあげる予定です




