ダンジョンで立ち話
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三馬鹿は、ノトスの警備兵へと突き出された。
罪状は、ノトス公爵が雇っている冒険者の暗殺、誘拐、脅迫、色々と。
要は、公爵家への敵対行動として捕まった。レプソルさん曰く、十年単位の重労働の刑だろうと。
奴隷の首輪と同じようなモノを着け、それで罪人を縛る形となり、レベル30超えの冒険者といえど、そういったアイテムで縛られてしまえばどうしようもないらしい。
正直、アホな奴らだったと思う。
しかし前回とは違い。誰かに命令をされて動いたのではなく、自分達の利益の為に動いたのだから、一切の同情はなかった。
ただ、葉月だけは何か言いたげであったが、最終的には飲み込んだ様子だった。
それと、あまりにもレプソルさん達の動きが手馴れている感じがしたので、それを訊ねてみると、既に何回か同じような事があったらしい。
どうやらノトスの街が活性化した為か、【ルリガミンの町】から流れて来る冒険者達が増えているのだという。
そしてその中には、北側からの間者のような冒険者達も交ざっており、俺が行方をくらましている間。俺がノトスに戻っていないかなど、陣内組にちょっかいを出す諜報員のような仕事をしている者がいたらしい。
そして判別が出来次第、上手いことそれらを排除していたのだという。
ただ、さすがに今回のような馬鹿は初めてらしい。
「なるほどね……、ある意味陣内組は、『胡散臭い奴ホイホイ♪』になっていたのか」
レプソルさんからその話を聞いて、俺はそんな感想を口にした。
「ああ、どうやら偽の情報を流しているらしくてな。陣内組がノトス公爵から距離を取りたがっているってな。なんでも魔石を巻き上げられているとかで」
「なるほど……」
( ギームルの仕業か…… )
何か確証がある訳でないが、ヤツの仕業だろうと俺の勘が告げていた。
奴にはどれだけの手駒がいるのか、そしてギームルの仕事の速さと怖さには、背中がうっすらと寒くなるモノがあった。
そしてふと思う。そこまで出来るヤツが何故、いままで俺を無事でいさせたのかが気になった。
この異世界に来たばかりの時の俺ならば、もっと何かが出来たのではと。
冒険者ギルドへの入会の妨害や、北原絡みの強姦の冤罪などはあったが。ギームルならば、もっと俺を追い込む何かが出来たのではと。
( くそ、解んねぇ…… )
「しかしジンナイ。お前達って昔は回復役の後衛を無しで、地下迷宮に潜っていたなんて……よくやっていけたな?」
「ああ……ほら、ラティが居たから結構なんとかなったんです」
「それが迅盾か。ああ確かに、被弾無しが前提なら回復役は要らないか――って、無茶だろう……」
「それが中央の地下迷宮はここよりも狭いから、壁や天井がもっと使えて、本気で凄かったんだよ」
「なるほど……なって、思わず納得しちまったよ」
レプソルさんはそう言ってラティの方へと視線を向け、俺もそれに釣られる形で視線の先を追った。
その視線の先では、陣内組の女性陣と三雲組の女性陣、そして伊吹組の女性陣がティータイムを満喫していた。特にサリオは、茶菓子を相手に無双状態である。
俺はそれを眺め、約一年前のあの日々を思い出していた。
そして心の奥底の方に、クッと来るモノを感じる。
現在、俺達陣内組は休憩中。
そして何故か、他の冒険者連隊までもウチに合わせて休憩をし始めたのだ。
深淵迷宮特有の、高速道路のトンネルのような直線通路。
そこに俺達は互いに距離を取り、間隔を空けて魔石魔物狩りを行っていたのだが、何故か休憩時間になると一斉に集まったのだ。
冒険者ならば、誰もが憧れや敬意を払う女性勇者達。
それが集まっているのだから、野郎陣も遠巻きながらも集まり、葉月達を中心に、謎の幾何学模様のような人だかりが出来上がっていた。
そしてその葉月の隣に、心底居心地が悪そうに座っているラティ。
目立つのはあまり得意ではない彼女は、席を外そうとしているのだが。何故か葉月に捕まってしまい、上手いこと逃げ出せずオロオロと。
( はは、ちょっと困っているラティ可愛いな )
「懐かしいなぁ。前も地下迷宮でこんな事があったよな」
「ガレオスさん」
「あ、ども。――ガレオスさんは昔からジンナイのことを知っているんでしたね」
俺達の会話に、熟練冒険者のガレオスさんが参加してきた。そして、俺の地下迷宮時代の話をレプソルさんに語り始める。
ある日ふらっとやって来て、地下迷宮のルールも知らず無茶をして。誰もが忌避する狼人とハーフエルフを連れ回し地下迷宮に潜る異端。
俺のことをそう語り。次に――
「オレが直接ダンナと会ったのはよぅ。聖女の勇者ハヅキ様と同行している時だったんだ。それでな――」
俺としては、何ともムズかゆい感じなのだが。ガレオスさんからの俺の評価が気になり、話を遮ることはせずにそのまま聞き入った。
「いきなりやって来てな、イワオトコの魔石魔物にぶん殴られて谷底まで落ちていったんだよ。あん時は絶対に死んだと思ったんだがなぁ~」
「……それで生きていたのか?」
「いま目の前にいるだろ! 俺!」
「でな、一応救出ってことになって、ラティ嬢ちゃんについて行ったら」
「行ったら?」
「丁度、魔石魔物を倒してんだよ。しかもソロでだぞ? いや~あれは驚いたなあ」
「……ジンナイ。お前ってそんな前から魔石魔物とソロでやりあってたのか?」
「望んでやってた訳じゃねぇよ。本気で死ぬかと思ったんだぞ」
そして、一通りガレオスさんから話を聞いたレプソルさんは、何か疑問を感じたようで、ガレオスさんに訊ねた。
「ふと思ったんだが、何でジンナイの評価が低いんだ? さっき、ジンナイのことを知っている三人組がいたんだが、奴らからはとても……」
「あ~~~、そりゃ最初の印象が悪かったのと。地下迷宮と深淵迷宮の違いかな」
レプソルさんの質問に、ガレオスさんが自分の考察を語った。
早い話が、地下迷宮だと狩りをする場所が部屋だったり、または狭い通路の為、他の冒険者達に見られることが少ないそうだ。
だから、俺のことをしっかりと見ている連中が少ないのだと。
ガレオスさんがそう説明していると、そこに。
「あとは、WSが使えないからだろうね」
「あ、ハーティさん」
「よう、ハーティのダンナ」
「三雲組のリーダーさんも、ジンナイのことを?」
今度はハーティまでもやって来た。
「彼って、WSが使えないだろ? だから最初、魔石魔物狩りに参加した時なんて、何も出来ずに立っているだけでね。魔石魔物狩りを見学に来ていた連中には、ただの役立たずに映っただろうね」
「あ~~、そういやそうか。放出系WS重視でいくのなら、ジンナイは邪魔でしかないな」
「あ~~ぁ、そういやそうだったなぁダンナは。ホント、WSが使えないなんて驚きだぜ。そんでもってもっと驚くのは、それが無くてもやっていけるってことだがなぁ」
「うるせぇ……」
ふと気が付くと、俺の周りにも人が集まっていた。
一年前のあの時とは違い、俺の周りにも人が居るようになっていた。しかも、各冒険者連隊のリーダー格が。
そしてリーダー格が集まっているのだから、他のメンツは何かあるのかと皆が視線を向けていたが。申し訳ない事に、話している内容はただの雑談。
何とも居心地が悪くなり、つい助けを求めるように辺りを見回したのだが。目があったラティには、スッと視線を反らされた。
どうやら彼女は、俺のことを助けてくれる様子は無かった。
閑話休題
その後、休憩を終えた俺達は、再び魔石魔物狩りを開始する。
そして昨日と同じで、俺達の冒険者連隊だけには、異様な程に魔石魔物が湧いていた。
他の冒険者達の稼ぎが一人金貨1.5枚程度。
だが俺達は、金貨3枚に届く程の稼ぎであった。
そして魔石魔物狩りが終わり、帰路へと就いた時。
「ジンナイ、ちょっと寄って行かないか。奴らが連行された詰め所に」
「奴らって……今日の三馬鹿か? ああ、そっか……」
公爵家屋敷へと帰ろうとした俺に、レプソルさんがそう訊ねてきた。
俺としては、あんな奴らのことはどうでも良いと思ったのだが。もしかすると北からの刺客の可能性もある。
さすがに馬鹿過ぎるので、無いとは思うのだが――
「一応警戒しておくに越したことはないか」
「そういう事だ。昼は魔石魔物狩りの予定があったけど、もう帰るだけだし」
「じゃあちょっと寄って行きますかレプソルさん」
こうして俺達は、真っ直ぐ帰るのではなく、寄り道をすることとなった。
魔石の売却は葉月とサリオに任せ、俺とラティ、そして道案内のレプソルさんとで向かった。
普段は歩かない道を通り、二階建ての飾り気のないシンプルな建物へ向かう。
入り口には門番が二人立っていたが、レプソルさんが声を掛けると、簡単に中へと入れた。
そして建物の中に入ると。
「――おい! 最後の一人がいないぞ!?」
「ちゃんと鍵は掛けておいたぞ! まさか窓からか?」
「アホかっ、窓には鉄格子があんだろうが」
「ちっ、索敵持ちは何処行った!? いないなら誰か呼んで来いっ」
「いいから探せ! 取り逃がしたとなると上から何言われるか分からんぞ!」
「やべぇ、あのじいさんはマジでヤバいぞ……」
「入り口からは出て――あっ、これは陣内組の方々。すいません、捕らえた者が逃げ出したらしく」
一発で何があったのか判るシチュエーション。
どうやら捕らえた三馬鹿のウチの一人が、部屋を脱走した様子だった。
しかも、誰もそれを見てはいないようで、何時逃げ出したのかも分からないようだ。
「ちっ、逃げられたのか……」
「……いや、おかしいな。そんな出来るヤツには見えなかったんだが」
「あの、ご主人様。まだこの中に潜んでいます」
「へ? マジか!?」
「えっ?」
ラティの言葉に、俺と警備兵らしき男が反応する。
そしてラティの案内により、逃げ出した男が潜んでいるという部屋へと向かった。
「ここ……ですか?」
「はい、この中に潜んでいます」
「でもココって。その逃げたヤツが放り込まれていた部屋でして……」
あの三馬鹿共は、取り調べの為に別々の部屋に入れられていたらしい。
そして最後に、グスターへと尋問を行おうと部屋に入ったのだが、その部屋の中にはグスターは居なかったそうだ。
しっかりと鍵を掛けていたにも関わらず、グスターは消えていたと。
「はい、姿隠しでもしているのかと思います」
「あっ!」
ラティはそう言って、自身の持つ見破りのアクセサリーを見せる。
指輪に付いている青い石が、赤い色へと変わっており、周囲で誰かが姿隠しの魔法か何かを使用している事を示していた。
その事に気が付き、警備兵の男がすぐに踏み込んだ。
扉を勢いよく開けて中へと入り、キョロキョロと辺りを見回す。
「くっ、どこだ!? 姿を現せ」
「あの、たぶん、あちらです」
ラティがスッと部屋の隅を指差す。
すると――
「くっそぉぉ瞬迅が! 邪魔をしやがってぇ!!」
突然姿を現し、ラティへと掴み掛るべく手を伸ばすグスター。
それを見てラティは、半歩後ろに下がるようにして道を空ける。――俺へ。
「っらあああ!」
「――ぐっが!?」
ラティが空けた道を俺は、まるで高機動ドムのホバー走行のような摺り足で踏み込み、下から突き上げるようにして喉輪を喰らわし、間髪入れず床へと叩き付ける。そして――
「ぬんっ」
「がああああああ!? 足が、足があ!?」
俺は叩き付けた後、グスターの脚の付け根を、全体重を乗せて踏み抜いた。
もう逃亡など出来ぬよう、いつも通り機動力を奪う。
そしてそれを見ていたレプソルさんは。
「あ~~、そういやジンナイには、【脚刈り】なんて二つ名もあったな」
こうして再び、呆気なく三馬鹿の騒動は終わりを告げた。
その後、俺達も尋問に立ち会い。三馬鹿達から情報を引き出した。
ただ、この三馬鹿達は。
やはり北からの刺客などではなく、ただ中央から流れてきた普通の冒険者達であった。
一応何でも良いからと、北のことを知らないかと問い詰めると。
【ルリガミンの町】で、ボレアスの名を名乗る赤毛の青年を見たことがあると吐いた。
しかし、そのボレアスを名乗る男はどう見ても若造であったらしく。グスターはそいつが名を騙っているだけだと判断し、無視をしたと話した。
そして尋問が終わった後。
冒険者グスターは、逃亡を企てたという事により、十二年の強制重労働刑へとなった。
因みに他の二人は、十年間の強制重労働の刑であった。
公爵家に逆らうというのは、かなり恐ろしい事のようだった。
↑お菓子相手に無双していた子




