よくある3人達
ち、近いうち……
近いうちに~~
ラティの言葉により、その場の空気が固まった。
彼女に睨まれた三人は、最初は驚きの表情で固まっていたが、なんとか取り繕うような笑みを貼り付け、たどたどしい言葉を紡いだ。
「よ、よう瞬迅、久しぶりだな……えっと、まさかここでまた会えるとは」
「だなっ、おう、そうだよな」
「あ、ああ」
――おい、まさかコイツら、
陣内組に俺達が居ることを知らなかったのか?
ん~? どういう事だ?
何とも言えぬ気まずい雰囲気。
陣内組の連中は、訝しむ視線で三人を観察している。ラティとサリオの二人は、敵意を顕にして三人を睨み続け。俺は、この三人がここに来た理由を考えていた。
そしてその何とも言えぬ空気を、もっとも空気を読めそうな人物が動かす。
「ねぇ陽一君。これってどういう事かなぁ? あの人達と何かあったみたいだけど、みんな詳しい説明を待っているみたいだよ?」
「あ、ああ……そっか、葉月は知らないのか」
「うん、ちょっと説明が欲しいかな。何があったのか教えて欲しい」
葉月にそう言われ、俺は昔何があったのか彼女に話した。
中央にある【ルリガミンの町】で、町中の冒険者から追われた出来事を。
俺が話をしている間、聖女の勇者である葉月がそれを聞きたい言ったこともあり、陣内組の連中や、三人組までもが邪魔をせずに待っていた。
「はぁ、聞いてはいたけど、そんな大事だったんだ……」
「ああ、町中の冒険者から追われたからな」
「ジンナイ……お前、前も防衛戦で向かった先の村でも追われてたよな」
「あ~~、あったですねです。あの時はジンナイ様に言われて、待ち伏せをしていた人達を焼いちゃったですよです」
「ああ、あったな。そんなことも」
――懐かしいなぁ、
露骨に怪しかったから、サリオにやれって言ったな、
確か二人焼いたっけかな? 一応生きてたよな?
「陽一君!? サリオちゃんに何をさせているのっ」
「いや、だって普通焼くだろ? なんか待ち伏せしていそうだったんだし。あ、一応火力は抑えろって指示はしたぞ」
「ぎゃぼーー!? そんなの言われていないよです! 普通に薙ぎ払っちゃったですよです」
若干話が色々と脱線したが、間にミズチさんとスペシオールさんが入る事で収束し、3人組をどうするのかに話が戻った。
そして当然俺は――
「アホか、こんな奴らを陣内組に入れられっかよ。ってか、叩き出せ!」
「おい! ハズレ野郎! なんでテメェがそんな事を決めれんだよ。俺達はこの冒険者連隊に入りに来たんだよ。邪魔すんな」
「そうだそうだ、大体お前らの所為でオレらがどんだけ苦労したと思ってんだよ」
「そこの瞬迅に落とされた手首を繋げんのに、どんだけ金が掛かったと思ってんだ?金貨三十枚以上掛かったんだぞ、ふざけんなっ!」
俺の言葉に喰ってかかる3人組。そろそろ〆てやろうかと考えていると。
「ふ~ん、そんな大変だったんだぁ。ちょっと訊いてみたいかも、最近【ルリガミンの町】に行っていないし」
「へ? 葉月?」
「「「はい、是非聞いて下さい聖女の勇者様!」」」
葉月の言葉を、まるで自分達の援護射撃のようにとらえ、喜々として語り始める三人組。
奴らは、自分たちの名前を葉月に名乗り、三人で争うようにして彼女に話し続けた。
俺と同じぐらいの背の高さの男がグスター。
コイツは、地下迷宮での魔石魔物狩りの苦労話を、大袈裟な身振り手振りを交えて熱く語った。
浅い層でもハリゼオイが湧くようになり、以前のような楽な戦闘は出来なくなり、何人もの盾役の冒険者達が死んでいったと彼は話した。
俺よりも背の高い男がロンフォー。
この男は、魔石の買い取り価格の暴落を、悔しそうに愚痴っていた。
以前は高値で取引されていた巨大な魔石だが、今はかなり安い値段で買い叩かれたらしい。
しかも、【ルリガミンの町】を乗っ取ったボレアス側の新ルールなのか、地下迷宮で獲れた魔石は、全て強制的に【ルリガミンの町】で買い取られることになったようだ。
彼が言うには、ほとんど働き蟻のように地下迷宮へと潜ったと。
そして最後、俺よりも背が低い男がサルター。
ヤツは、切り落とされた手首の治癒に掛かった金額の不満をぶちまけていた。
俺達を襲った奴らの何人かは、ラティによって手首を切り落とされていた。
当然、手首を治すべく回復屋へと駆け寄ったそうだが、何人もの怪我人が殺到した為に、回復屋のMPが足りなくなる事態へと陥ったそうだ。
そしてそんな時、回復屋の連中はなんと、金を多く払ったヤツから先に回復魔法を掛けると言い出したそうだ。
以前、ラティが大怪我した時も、俺の足元をみて相場の十倍近い値段を吹っ掛けてきたが、この時はどうやら、まさかの競売形式だったらしい。
そしてこの三人は、多額な借金をしてでも治療を最優先として、金貨三十枚を払って手首を繋げて貰ったそうだ。
「わぁ、大変だったんだぁ。それでやっと借金を返し終えて、そのまま【ルリガミンの町】に居るよりも、噂で稼げると聞いたノトスの街に来たと?」
「はい、そうなんです聖女の勇者様」
「ノトスは魔石の相場が安定していると聞いて」
「しかも、ハリゼオイみたいな凶悪な魔石魔物も湧かないと聞いて……」
だからなんとか冒険者連隊に入れて欲しいと言う三人組。
俺はその話を聞いて、やはり――
「ふざけんなボケ! 誰が入れるかっ。頭湧いてんのか!?」
「だからテメェは黙ってろハズレ野郎が!」
「いいか? 俺らはこっちの人に入れてくれって言ってんだ」
「これだからハズレ野郎は。なんでオマエの許可がいるんだよっ、先にこの冒険者連隊に入っているからって調子に乗んなよ」
――へ? え?
おい、まさかコイツら……
「おい、三馬鹿。お前達、俺の名前知っているか?」
「はぁ? だからハズレ野郎だろうが、何を今さら……」
「おいおい、まさか必殺だって言うつもりか? ちょっと強ぇからって調子に乗んなよ」
「大体、WSを一つも使えない奴が必殺だなんて二つ名もらって、恥ずかしくないのかよオマエは?」
三馬鹿のその言葉に、訝しむように見ていた陣内組の視線が、とても可哀想な人達を見る哀れみの視線へと変わった。
そしてその変わった空気を察したのか、三馬鹿達は周りを見回す。
「なぁアンタ達、ちょっと訊いてイイか?」
「お、おう、何でも訊いてくれ。貴方がここのリーダーなんだろ?」
話し掛けて来たレプソルさんに対し、かしこまった態度で身を低くして対応するグスター。
「アンタ達って、孤高の独り最前線とか聞いたことないのか?」
「ボッチ・ラインって確か、一人で魔物の群れを退けて、どっかの村を守ったってヤツか? 確か東の方だと聞いたな」
「あ~~、それ最近も聞いたことがあるな。確か中央からちょっと南にいった所にある村も、そう呼ばれたヤツに守られただとか……」
「あの、それでそのボッチ・ラインってのがどうしたんですか――あ!? まさかそれが貴方だとか?」
目を輝かせ、『すげぇ、この冒険者連隊に入れたらスゲェじゃん! 聖女様まで居るし』などと言う三馬鹿。
まるで、これから稼ぎ放題だといった様子。
「……アンタらさぁ、ジンナイって名前を知らないのか?」
「あ~~、あれ? 確か、そこのハズレ野郎が似たような名前だったか……?」
「…………じんない」
「まさか……この冒険者連隊の名前は確か――」
ハッと気づき、恐る恐ると俺の方を見る三馬鹿。
やっている事はもうほとんどコント。もしくはお芝居のような展開。
「ぎゃぼ~!? めっさお芝居みたいな事をやっているよです。めっさお芝居みたいですよです! しかも、ジンナイ様が孤高の独り最前線だってことも知らないみたいです」
三馬鹿達は、陣内組から呆れられたような哀れみの視線を受け、自分達が何をしでかしたのかようやく理解した様子で、狼狽えながら辺りを見回す。
「く、くそ。なんだよ!」
「だから最初に言ったろ、誰がお前らを入れるかっての。さっさとどっか行け」
俺は手を振って『シッシ』とやったのだが。
「ま、待ってくれ。俺達は稼がないとマズイんだ。実はまだ完全に返し終わってなくて……、その利子って奴が大分残っていて……」
「返さないとヤバい相手なんだよ、頼む!」
「そ、そうなんだよ! だから頼む。昔のよしみで、あの時の事は水に流して……」
「――アホかっ! 『水に流して』だあ? その言葉を加害者側が言うんじゃねえよ。サリオ! 塩を撒け塩をっ。塩が無かったら炎でもイイ、炎を撒いてやれ」
「ぎゃぼー! ジンナイ様がまた無茶を言っているよです。もうコンガリはイヤなのですよです」
俺とサリオがぎゃあぎゃあやっていると、まだ諦め切れないのか、三馬鹿どもが食い下がってきた。
「おい、加害者って言うんなら瞬迅もそうだろ! 俺達の手を切り落としたんだぞ」
「そうだそうだ! アレさえ無ければオレ達が借金まみれになることなんて……」
「こっちなんて、いまだに手に痺れが残ってんだぞ。どうしてくれんだよっ!」
「うるせえ!! どっか行け三馬鹿。それともまた狩られてぇのか?」
俺が三馬鹿に罵声を吐くと、奴らは怯んだのか目標を別の方へと移した。
「な、なぁアンタ達。こんな奴の陣内組なんて冒険者連隊は止めて、俺達と組まないか? このハズレ野郎を北に引き渡すんだよ。そうすりゃ北の公爵様からたんまりと報酬が出るらしいぜ?」
「そうそう! そうすりゃ、そこの狼人とハーフエルフのチビも手に入るぜ? コイツらなら使ってやってもイイし、売っても良しだ」
「どうだい? アンタ等とこっちが組めば――え!? お、おい、なんだよその目は……、悪い話じゃねえだろ?」
哀れな奴らだと見ていた陣内組の視線が、奴らがアホな提案を切り出した辺りで、棘のある厳しいモノへと変わっていた。
「……お前達、ココは南であって北じゃない。そしてそのジンナイは、ノトス公爵に雇われている冒険者だ。これの意味が解るか? お前達は今、ノトス公爵家に喧嘩を売ったんだよ」
淡々と語るレプソルさん。
そして、『やれ』と言い放ち、陣内組のメンツが一斉に動いた。
レプソルさんは束縛系の魔法を唱え、陣内組は総出で取り押さえに掛かり、何の抵抗も出来ずに三馬鹿達は捕縛された。
そして砦の常駐している兵士へと、速やかに突き出す。
俺の出番はなく、この三馬鹿騒動は約3分足らずで終わりを告げたのだった。
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宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字の方も……




