舞台の裏?
僅かな揺らめきのある”アカリ”。
ギームルが作り出したと思われる魔法に照らされた室内。
その室内で、俺とギームルは対峙していた。
「……やっぱりか」
「ふん、貴様が潰したようなモノじゃからな。話してやろう――全てを」
ギームルは呆気ないほど簡単に俺の指摘を認め、そして語り始めた。
俺にも理解出来るよう、分かり易く、宰相のギームルが行ってきた事を。
驚いたことにギームルは、勇者達の支援先を誘導していたらしい。
一番最初の時、貴族達が自由に選んでいると思っていたのだが。実は勇者達を事前に【鑑定】でチェックし、貴族の好みや勇者の特徴などを考慮して、勇者の情報を特定の貴族達に流していたのだという。
そして次に、勇者達が貴族のもとを離れるように仕向けていたと。
ギームルが言うには、伊吹や三雲、そして言葉などは、ギームルが送った工作員により、早い段階で貴族から離れるように画策されていたのだと。
赤城に関しては、ほっておいても離れるだろうと予測しており、他にも多少の誤差はあっても、ほぼ想定内だったと語った。
そのギームルの告白に対し、俺はとても信じられず、何でもイイから論破と否定をしてやろうと思ったのだが……。
『言葉と三雲は、どうやって貴族から離れさせたんだよ』
『簡単じゃ、奴らの嗜好は理解しておるからな――』
巨乳至高主義のエウロス。
まず、言葉と仲が良い三雲をセットにして東に、しかし絶壁な三雲はあまり歓迎されず、その逆の言葉は大歓迎。
そこで三雲に対し、冒険者を装った工作員が離脱を促す。
誘導されそれに従う三雲。
そして劣情的な視線で見られていた言葉は、離脱を親友の三雲に誘われエウロスを去ったそうだ。
俺はここで、『最初に、伊吹を欲しがるだろ!』と指摘したのだが。
『ノトス側に入れるから、弱小なノトスから上手く奪ってしまえば良い』と、東側の貴族達に囁いていたそうだ。
エウロス側からすると。
聖剣使いの椎名を獲得し。(聖剣があるから
言葉は三雲と一緒に最初に支援。(三雲は言葉の為
伊吹は後で、弱いノトスから勧誘という予定。(十分狙える
しかし伊吹までも早々にノトス側から離脱し、その後フリーに。
ギームルの狙いは、公爵家だけに勇者を残し。
他の貴族達には、あまり勇者を預けないような状況を作り上げること。
ただ、大きな予定外だったのが二つあり。
一つは、ノトス公爵家に誘導させた秋音ハルが、何も工作などしていないのにノトスを離れた事。(ノトス公爵家の弱体化が進む事態に
もう一つが、女性勇者を欲しがる貴族達なのに、何故かフユイシ家は、荒くれ者で、とても勇者らしくない荒木を欲した事。
この二つは、ギームルにとって予想を大きく外れるモノで、当初予定していたバランスが多少崩れ、特に、野心家であるフユイシ家から勇者を切り離す事が難しくなったそうだ。
そして八十神。
ギームルはアイツの正義感の塊みたいな所を利用すべく。まず自分の地元であるアキイシ伯爵家に支援させたそうだ。
その後すぐに、自ら八十神のもとへ訪ねて説得し、フリーの勇者へとなってもらったらしい。(この離脱で、勇者を二人取ったアキイシ家への不満も解消
しかし裏では、実家のアキイシ伯爵家から持ち出した例の鎧や盾などを与え、八十神はギームルの手駒に。
単純な八十神は、簡単にギームルにコントロールされ、各地で起きている問題を解決していたそうだ。
確かに言われてみると、そうだったかもしれないと思うことが多数あった。
ボレアスでの防衛戦で人手が取られた後に起きた、ノトスでの防衛戦。
この人手不足の時、確かに八十神はノトスに居た。
北原の暴走時も、八十神は駆け付けていた。
さらに思い起こすと、俺が冤罪で捕まった時も八十神は居た。
そう、宰相だったギームルは、裏で勇者達をコントロールして、貴族達に勇者が利用され過ぎぬようにしていたのだと。
さすがに、20人全員を完全に把握することは無理だったようだが、それでも管理すべき所は管理していた様子。
だがギームルは、俺を救う為に宰相の地位を降りてしまった。
そして八十神が例の北原事件以降、暴走気味に正義の道を征くようになってしまい、要は融通が利かなくなったそうだ。
そして俺を庇ったギームルの声は届かなくなり、その結果、イレギュラー要素に対する小駒を失ったギームルは――
「その役目を俺にやれってことか……いや違うか、もう既にやらされているな。椎名が言葉を誘拐した件とか」
「小僧にしては理解が早いな」
――くそっ! すっげぇムカツク、
アレは手の平の上で踊らされたってのか、
でも、ああ言うのが今後またあっておかしくないのか……
「いいか? 貴族達はこれから本格的に動き始める。最悪、一人か二人なら何とかなるじゃろう。だが、多くの勇者達を巻き込む争いが起きるかもしれんのじゃ」
「…………」
「だから、事が大きくなる前に鎮めなければならない。もし多くの勇者を失い、そして魔王の討伐を失敗すれば、このイセカイが滅ぶやもしれんのだ――」
再び語り始めるギームル。
このジジイは、このイセカイを守る為、多くの勇者が必要だと語る。
その為には、何でも利用してやると。
そうしなければ、娘と孫の想いが無駄になると、俺にそう言い放った。
正直なところ、これは『汚い』といった心境だ。
イセカイを守ると言いながらも、その本音は娘と孫の想いの為。
そして、アイリス王女の為。
いかにも心の琴線に触れるような言い回し。
これが八十神だったら、簡単に肯いていただろう。だが俺は――
「断る――っち、くそ……」
「ほほぅ」
――あの馬鹿みたいに使われて堪っかってのっ、
だけど…………あ~~くそ、この小手は前金みたいなモンかよ
こいつ確信犯だな、こいつは……くっそ!
俺の表情から察したのか、ギームルは薄っすらと笑みを浮かべる。
このジジイは、俺が『断る』ことを分かっていた。
しかしコイツは、条件が合えば俺が動くと読んでいる。
言葉の時のように、葉月の時のような状況ならば俺が動くと。
コイツは俺のことをそう評価しているのだ。
そして、俺のその予想があっていると思わせる、見透かすような笑みを見せつけてくる。
――がああああああっ!
あぁ~腹立つ! コイツ、俺が断れないような話を持ってくんぞ、
くそ、いつか過労死させてやる…………しかし、
「ギームル、なんでこんな正直に話した? 今の話は俺に話さなくても、アンタなら誤魔化せたはずだろ。どうにもそこが胡散臭ぇ」
――マジで何でだ?
今の話は、絶対に洩らしたらマズイ話だよな……
「ふん、分からんのか? 貴様の場合は全部明かした方がよく動くからじゃよ。……それに、あの狼人の娘、ヤツは【蒼狼】持ちじゃろ。下手な隠し事は逆効果じゃからな」
「――っな!? 何故それを、いや、そうか……」
( ギームルはゼピュロス出身か…… )
「ワシは、この世界を守る為ならば何でもする。――それがあの子らの想いに報いることになるのだから」
( だから、その言い方ずりぃよ )
ギームルは俺の目を見てそう言い放ち、自分の想いを俺に突き付けてきた。
俺はギームルに質問があって此処にやって来たのだが、気が付くといつの間にか、俺はギームルに想いを背負わされる形となっていた。
目の前にいるジジイは、本当に嫌なヤツだった。
そして。
俺は何とかギームルに、一泡吹かせられないか考え始めた時――
「お? ここに居たのかジンナイ」
「へ? アムさん?」
突然部屋に入って来たアムさん。
そして俺を見て。
「ジンナイ、中央から報告が来た。魔力の渦がまた大きく歪んだらしい」
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あと、誤字脱字も……




