金策だ!
連休中の激務と。
書籍用のが重なって更新遅れました。
申し訳ないです。
次からは、出来るだけ告知します。
多額の借金を背負った俺は、モモちゃんを乳母のナタリアと勇者言葉に任せ、すぐに魔石魔物狩りへと向かった。
約二ヵ月ぶりの深淵迷宮。
ギームルがノトスにやって来てから一部のルールが変わったらしく。一人で深淵迷宮に潜るのは禁止され、3人以上のパーティでないと地下に潜れなくなっていた。
そして魔石魔物狩りの方もルールが変わっており、魔石魔物狩りを行うのであれば、12人以上の冒険者連隊で挑み、設置してよい魔石の数も2個までとなっていた。
俺が、『少し稼ぎ難くなっているな』と感想を呟くと、俺と同じで公爵のアムさんに雇われているレプソルさんが、ルールが変わったその理由を教えてくれた。
レプソルさんも稼ぎが悪くなるという事で、一度アムさんに抗議しに行ったそうだが、その時に同席していたギームルが言い放ったらしい。
”管理と把握”をする為だと。
把握し切れない量の魔石は市場を混乱させ、そして収拾も出来なくなり。
管理の出来ない過剰な供給は、一時的な恩恵があったとしても、その後で必ず破綻すると言うのだ。
俺は、『そんな事はないのでは?』と思ったのだが。
すぐにそれを思い直した。
魔石の過剰供給により、魔石の相場が一気に下がった【ルリガミンの町】の事を思い出したのだ。
町の規模が他と違って小さい【ルリガミンの町】は、魔石魔物狩りの流行で魔石が溢れ、恐ろしい程の値下がりをみせていた。
魔石を他の場所に売りにいくと、通行税のようなモノが掛かり八割ほど持っていかれるので、最終的にはその辺りの最安値で買い叩かれていたのを思い出す。
ただ、詳しい説明を聞かされても、俺の頭ではイマイチ理解出来なかったが、要は食べきれないパンを渡されても、困るという感じのモノらしい。
余り過ぎるパンは、他の誰かに分けたりする。
そうすると、パンを買っていた人がパンを買わなくなる。
そうなると、今までパンを作っていた人のパンが売れなくなる。
今度は、売っていた人がパンを作らなくなる。
パンを作る人が居なくなると、それに関わっていた人に影響が出る。
そしてその影響が拡大する。
厳密に言うと大分違うが。
今まで出来ていた流れが一気に変わり、それによって様々な影響が出る。
だから一気に供給を増やすよりも、その供給を受け止められる需要の下準備が必要なのだと。
そしてその為のルール改正。
管理し切れない程の魔石は発生させず。
冒険者連隊の数で得られる魔石の量が予測出来。
冒険者達をしっかりと組ませる事で、不慮の事故も減る。
ただ稼ぎたいだけの冒険者達には不評かもしれないが、別の視点から俯瞰して見ると、なんとなくだが良いことのように思えた。
少なくとも、【ルリガミンの町】で起きた魔石の大暴落などはないだろう。
そんなこんながあり、俺達の陣内組は、三つの冒険者連隊へと分けて魔石魔物狩りを行った。
そして色々と騒動はあったが、復帰初日をなんとか終えた。
「つ、疲れた……」
「えっと、なんかごめんね、陽一君」
「あの、お疲れ様でしたご主人様」
「ぎゃぼう、物凄い大騒ぎだったのですよです」
ぐったりとする俺達。
聖女の勇者様の知名度は半端なかったのだ。
少々マナー違反とも言えるような見学者たちの群れ。
以前とは違い、睨みを利かせている五神樹が居ない為か、野次馬の数が多かったのだ。
一応、元五神樹のシキはいるのだが、睨みを利かせるという点では、ほとんど役に立っていなかった。
そんな中で俺達は魔石魔物狩りを行い、人の目を気にしながら戦うだけではなく、やたらと話し掛けて来る奴らの対処にも一苦労したのだ。
冒険者連隊ではないと魔石魔物狩りが禁止されている。
ある意味では、以前よりも条件が緩和されているが、やはり魔石魔物狩りに参加出来ない冒険者達が何人も存在した。
図々しい者だと、3人でやってきて、『狩りに参加させてくれないか?』と言う者達や、陣内組に入れて欲しいと言う者。
元から陣内組に入りたいという者は多かったそうだが、聖女の勇者がいるとなるとより、いつも以上に希望者が押し寄せていたのだ。
それと。
【蒼狼】に内包されている【魅了】持ちのラティは、そんな連中からの不躾な視線を浴び、かなり嫌そうにしていた。
そして途中からあまりに酷く、レプさんやスペさん達が野次馬を散らせる一場面もあって、戦闘とは別の部分で疲労したのだった。
「――いや、別に葉月が悪い訳じゃないから……、ただ葉月に釣られてやって来る連中が多かっただけだから……アレ? やっぱ葉月の所為か?」
「ごめん、ごめんね陽一君。でもね……私は一緒にお金を返していきたいから……しばらくの間迷惑を掛けちゃうかもだけど、ごめんね陽一君」
俺に謝罪しつつも上目遣いで俺を見つめる葉月。
彼女のその纏う雰囲気は、何故か強く拒否することは出来ず、俺はそれ以上何か言うことは出来なかった。
そしてそれと同時に、改めて勇者の影響力の強さを感じた。
楔の効果。
勇者の言動が、本人の意思よりも強く反映される世界。
本当に危うい世界。
――やっぱそうだよな……
勇者は……………………危うい、
だとしたら八十神はやっぱり……
ふと頭に過るここ最近の出来事。
俺は再びギームルと話すことを決めた。
奴に訊ねるのが一番良いだろう。
ボッチ・ヒーローになれという意味。
そして、世界樹の木刀の事。
当然、他にも聞いてみたいことはあるが、まずはこの二つを聞くことにした。
正直なところ、ギームルと顔を会わせたくはないが、ヤツは完全な悪人という訳ではない。モモちゃんへの対応を見ればそれは解る。
( 夕食の後に行くか…… )
俺は心の中でこの後の予定を組み、次に今日の感想を吐き出す。
「深淵迷宮、賑やか過ぎんだろ……」
「あの、確かにそうですねぇ」
「あ~、うん……確かにそうかもだね」
「これからもっと増えそうですよです! なんて言ったって、イブキ様やミクモ様まで来るようになったのですからです」
( 人気のテーマパークかよっ! )
今日の深淵迷宮は勇者も多かった。
葉月だけではなく。三雲組と伊吹組もノトスを拠点にするつもりらしく、今ノトスの街には四人の勇者が滞在していることとなった。
しかも、上杉までも戻ってくれば合計で5人。
――あ~~、コレは俺でも分かる、
たぶん今後、ギームルとアムさん辺りが苦労しそうだな……
ギームルはいいけど、アムさんごめん、
閑話休題
公爵家に戻ると、モモちゃんからの一所懸命なおねだりを受け、再び俺はモモちゃんを抱っこし続ける事となった。
その時にモモちゃんの兄、狼人少年のロウの事を思い出し訊ねると、ロウはドミニクさんの従者として、俺が二ヵ月間住んでいたナントーの村へと派遣されたのだという。
一時的ではあるが、ナントーの村への派遣。
今まではインカ男爵がしっかりと保護していると思っていたのだが、その内情は全く違い。ヤツは金の掛かる定期的な魔物狩りなどを、金惜しさに行っていなかったそうだ。
その内容をインカ男爵から聞き出したギームルは、村の不安を払拭すべく、元冒険者のドミニクさんを送り出したらしい。
モモちゃんから兄を離すのはどうかと思ったのだが。
家出していた俺が見つかり、もうすぐ戻って来ると分かっていたので、その判断を下したそうだ。
その後俺は。
モモちゃんを抱っこしたまま風呂と夕食を終え、今日一緒に過ごして懐いたという言葉にモモちゃんを預け、俺はギームルのもとへと向かった。
今回はしっかりと聞いておきたい話の内容。
前回みたいに中断する訳にはいかない。
モモちゃんには後ろ髪を引かれる思いだが――いや、物理的にも後ろ髪を引かれたが、俺はそれをやんわりと断ち切った。
そしてさすがと言うべきか、それともやはりと言うべきなのか。
言葉のクッションはモモちゃんを虜にしており、モモちゃんにあまりぐずられることはなく、俺はその場を後にした。
そして再びギームルと対峙する。
「む、なんじゃ小僧? まさかまた顔をすぐに見せるとは」
「ああ、ちょっと聞きたい事がある」
俺の顔を見て眉間に皺を寄せるギームル。
何かを探るような眼光、明らかに歓迎などはされていない様子。
――ッ!、嫌そうな顔しやがって、
まぁ当たり前か、コイツに好かれる気なんてしないしな、
だけど今は……
「ギームル……さん、ちょっと訊きたい事がある……、その大事なことなんだ」
「ッ貴様!? まさか……」
「ん? なにを勘繰っているのか知らんけど、たぶん違ぇぞ? 俺が訊きたいのは世界樹の木刀の事だ。この木刀のことを詳しく教えて……欲しい」
「……その木刀か」
「ああ、そうだ。この木刀の事は教会から少しは聞いたけど……」
「……ふむ、なるほどな――訊かせてやるか」
意外にも渋ることなく、ギームルはすぐに世界樹の木刀のことを教えてくれた。
ギームルが語ったのは、奴が知っている範囲のことと、奴なりの考察を交えた感想。
まず世界樹の木刀が誕生したのは、1000年以上前の最初の勇者召喚の時代。
倒せない魔王を祓う為に、初代勇者が世界樹を切り倒し作ったと。
その後、中央の城の護りとして保管されていたのだと言う。
その際に、教会側から欲しいとの打診があったそうだが、政治的な理由からそれを断ったらしい。
魔王を祓ったとされる武器を、他の権力に持っていかれるのを嫌がったそうだ。
この辺りは聞いていたし、分かり易く納得の出来る話。
その後、木刀を手に入れることを諦めた教会が、世界樹の木刀は抜け殻であり、すでに価値は無しと触れ回ったそうだ。
この時、武器適正に『木刀』を持つ者が居れば違ったのかもしれないが、木刀の適正者はおらず、しかも木刀にはWSが存在せず、世界樹の木刀には魔王を祓ったという威光しかなかった。
だが、教会がその威光を否定するような宣言をし、そのまま城で保管され続けることとなったそうだ。
そして時が経てば経つほど、世界樹の木刀は忘れさられ。
当然、教会側も今さら欲しいとも言い出せず、今まで使い手が居なかったので、傷一つ付かない強度や、あらゆる魔法を弾き、強固な結界すらも容易く破る能力を知られないまま。
俺に木刀の適正があったので、王女様の一存で渡されたらしい。
もし、この様な価値があると知られていたのなら、貴様にはきっと渡さなかっただろうとギームルが告白をした。
本当に運が良かったという事。
そして、俺が知りたい内容は出て来なかった。
この木刀に触れて眠りに就くことで、初代勇者に会えた事や、ラーシルを出現させた謎については。
夢の件は、まずラティに相談してからと決めていたので、その件はギームルには話さず、俺は次に聞きたいことを訊ねる。
「えっと、確信がある訳じゃねぇけど……俺は八十神の代わりだよな?」
「ほほう、自分で気が付いたのか小僧?」
「ふん、嫌でも気付くっての。確かボッチ・ヒーローとブレイヴカウンターだったか? 要は勇者絡みの面倒をなんかするヤツの事だろ」
「ああ、そうじゃ。その役目を貴様にやってもらう」
ニヤリとした、まるで悪代官のような笑みを見せるギームル。
そしてヤツは言い放つ。
「そうじゃよ、真の勇者ヤソガミ様の代わりを、――貴様にやってもらう」
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