ノトスでエイ!
遅れてすいません;
色々とめんどう回です。
とうとうツンデレ枠の登場です
俺が向かった部屋には、ノトス公爵のアムさんと、その公爵補佐をしている元宰相のギームル、そして凄腕付加魔法品職人のららんさんが待っていた。
そこそこ質の良さそうなソファーに腰を下ろし、俺はその三人と対峙する。
ただ、対峙すると言っても争う訳ではない。
現在の状況。そう、現在の状況を一方的に責められていた。
「……ジンナイ、何で二人も勇者がこの屋敷に来たのかな?」
「そうじゃぞ小僧。何故二人も此処に来たんじゃ? 聖女の勇者様の方は成り行きで今だけだろうが。女神の勇者様の方は、貴様に言われて此処に来たと言っておるぞ」
「……はい?」
俺がモモちゃんと風呂に入っている間に、状況が進んでいたのだ。
何故そうなったのか、葉月は俺が風呂に入っている間に、ノトス公爵家にお世話になるとアムさんに伝えたそうだ。
しかも言葉の方は、既にノトス公爵家に身を寄せているのだと言う。
俺はアムさんにそれを告げられ、これは俺の所為なのかと自問する。
――むう……
……うむ、やはり俺の所為じゃないな、
あの二人が勝手に来ただけだ。うん、俺は悪くないっ!
「俺は悪くないっ」
「小僧……貴様なにを言っておるか。――それに、その腹に抱えておるのはなんじゃ!」
俺はギームルに指摘されて自分の胸元を見ると、そこにはお風呂上がりでホコホコとなって、心地良さげに眠っているモモちゃんが居た。
風呂をあがったあと、俺はモモちゃんを寝かし付けてこの部屋に来るつもりであったが、モモちゃんは俺から離れることを嫌がった。
眠気でうつらうつらと船を漕いでいるのに、必死にイヤイヤと小さい手を伸ばして俺を求めていたのだ。
赤ちゃんは寝るのがお仕事、しかしモモちゃんはそれを放棄しようとしていたのだ。ならば――
「モモちゃんが安心して眠る為に抱っこしているんだが?」
「貴様……本当に何を言っておるんじゃ……」
理解出来ないとばかりに頭を横に振るギームル。そのギームルをフォローするように、今度はアムさんが話し始めた。
「ジンナイ、まずは勇者コトノハ様のことなんだが。彼女は、お前に言われて此処に来たと言っているんだが、心当たりはあるか?」
「俺に言われて……?」
( へ? なんだそりゃ。 俺が言葉を? )
「ああ、なんでも『連れて帰る』って言われたとか」
「連れて帰る……?」
「エウロスの街で言われたって……」
「――ッ!?」
( 言った……それっぽいこと言った )
「小僧……、どうやら心当たりがあるようじゃな」
俺の反応から察したのか、ギームルは俺を責めるような口調でそう言って来た。
「い、いや。あれはそういう意味じゃなくて……」
「ふん、言質なんぞ取られおって青二才が」
――いやいやいやっ、
あれは椎名から助ける為であって、
ノトスに連れて帰るってことじゃ……あっ!
俺は再び思い出す。
『陽一さん、私は先に戻っていますから――』と言葉が言った言葉を。
( あの時の台詞はそういう意味かぁ―― )
思わず頭を抱えてしまう。そんな俺を見ながら、アムさんは何か思い出したかのように口を開いた。
「ああ、エウロスと言えば。勇者コトノハ様を囲おうとしていた嫡男が処刑されたぞ。罪状は勇者保護法違反でな。三日前にエウロス公爵家から貝殻と玉経由でそう報告がきた」
「へ?」
「セコい尻尾切りをしおって、東の狸が……」
( 嫡男って、足を切り飛ばされた障害物の男か? )
「勇者の誘拐の件で、他所から突っ込まれる前に自分たちの方でさっさと処理をしたという事じゃ。生かしておくリスクを考えると、陰で生かしておる可能性はないじゃろう」
『もし生かしてあるのであれば、脅迫材料に使えるのに』と残念がるギームル。
「それとジンナイ。中央からも貝殻と玉経由で抗議が来たぞ」
「……教会か?」
「ああ、色々とやらかしたらしいな。どういうつもりだって言ってきたよ」
「この小僧が……やっと統治の目処がついてきたというのに。いいか小僧、勇者を抱えるというのは、それなりの資金と責務が発生するのだ。しかも名声の高い女性の勇者を二人となると、無用なやっかみなどもあるのだぞ」
『厄介ごとを』と、言った表情を見せるギームル。
横にいるららんさんは、あまりフォローするつもりはないのか、この話の流れを傍観している。
そしてアムさんは――
「と、言うことなんだジンナイ。もちろんノトスとしては勇者様が二人も来てくれることは嬉しい。だけど色々と難しくてな……」
政治的なことで、簡単には受け入れることは出来ないというアムさん。
俺も色々とこの異世界を周り、アムさんが言わんとしていることは理解出来た。確かに簡単なことではないのだろうと。
そう思っていると――
「全く調子に乗りおって小僧が。これからノトスはもっと忙しくなるんじゃ、これ以上の厄介ごとは――」
グチグチと言い続けるギームル。
それはまるで、全て俺が悪いかのような言い様。
「……しさせてやる……」
「これだから貴様は――ん? なんじゃ、何か言ったか小僧?」
「うっせぇジジイ! てめぇを過労死させてやるって言ってんだよ! 元宰相だろう、勇者の二人ぐらい面倒を見ろっ! 何とかしろよ!」
「っな!? 貴様、そんな簡単な問題ではないのだぞ!? 勇者二人を――」
「っ知るか!」
「このぉ小僧がっ!」
俺とギームルは睨み合う。
さすがは元宰相、海千山千と言うべきか、ギームルは決して怯む様子などは一切なく、むしろ俺の方が押され呑まれそうになってくる。が――
「ふぇ、ふぅぅう……」
「あっ」
「ぬぅ?」
「ああ……」
「ありゃりゃ」
『キュィィィィン』とチャージ音でも聞こえてきそうな溜めの後、俺の胸元で寝ていたモモちゃんが泣き声をあげる。
「あふぁーーー! あぶぁあ! ぶぅうう、あふぁー!」
「ああ、ごめんごめんモモちゃん! うるさかったよね? 驚いたよね? ごめんね気持ち良く寝ていたのに」
俺はよしよしとモモちゃんを撫でてやった。
このモモちゃんの泣き声介入により、俺とギームルの言い合いは一時中断となった。
因みに、モモちゃんを泣き止ませた決め手は、ギームルの”いないいないばあっ!”だった。
閑話休題
その後、この場は一時中断という形でお開きとなった。
最終的にららんさんが間に入り、今回の件は俺だけの所為ではないと言い、取り敢えず様子見となったのだ。
色々と訊きたいことが数多くあったのだが、熱くなってまともに話せない状態。
仕切り直す意味も込めて、俺は部屋から退出しようとした。
「ちょっと待て小僧……」
「なんだよギームル。今は取り敢えず様子見じゃなかっ――え?」
呼び止めたギームルから、二つの物を投げて寄越された。
その投げて寄越された黒色のモノは、よく見たことがあるモノ。
「これって小手だよな、しかも……」
「実家から持ってきた物じゃ。前の小手はあの子を助ける時に駄目になったはずじゃからな。――それが本物じゃ、前のヤツよりも使えるはずだ。……ワシはたった今増えた余計な仕事があるから忙しい。さっさと出ていけ小僧」
ギームルから投げて寄越されたのは、結界の小手であった。
前のよりも黒い色をした小手。
( 実家って確かアキイシ伯爵家か…… )
アキイシ伯爵家には、歴代勇者達が作り上げた装備品が多数眠っていた。
今使っている槍もそうだが、中々の逸品ばかりだったはず。その中から持ってきたと言う事は、この結界の小手はそれなりのモノであろう。
俺は出て行けと言われたので、礼は言わずにそれを貰って部屋を出た。
( くそ、なんだよ…… )
部屋を出た後は、ららんさんに言われて黒鱗装束を彼に渡した。
結界の小手同様、王女様を救出する際に、黒鱗装束に掛かっていた補助効果が消えたので、ららんさんはそれを掛け直すと言ってくれたのだ。
しかも、その料金は――
「ぎーむるさんから貰っておるからのう、補助効果の張り直し代金は」
「は? ギームルが」
黒鱗装束の状態をチェックしているららんさん。彼はポツリとそんな事を言い出した、少し悪戯めいた顔をして。
「詳しく聞いた訳やないんやけど、助けてやったんやろ? お姫さんを」
「ああ、確かに助けたけど……」
「口に出してそれを言った訳やないけど、たぶんそういうこっちゃ」
俺はそれ以上は何も聞けずにいた。
聞いてしまうと自分の器が小さいというべきか、ギームルに負けたような気分になってしまうから。
( っち、なんだよ )
俺がモヤモヤしたようなモノを抱えていると、ららんさんが完全に悪戯めいた顔をして――
「にしし、なんやか痛いツンデレみたいやのぅ」
「どこに需要があんだよ……そのツンデレ」
俺はツンデレ枠がアイツかよと戦慄しつつ、黒鱗装束の補修をららんさんにお願いした。
その後も、モモちゃんは俺の胸元をキープし続けた。
夕食の時も離れず、俺はモモちゃんに果物をペースト状にすり下ろした離乳食を食べさせてあげる。
その時にふと思い出し、何となく俺はサリオに訊ねた。昼間、モモちゃんに聞かせていた物語の事を。
あれを聞いて育てば、モモちゃんが悪い奴に騙されることはなくなるだろうと思いながら。
そして戻ってきた返答は――
「ほぇ? ああ、あれですね。あれは今ノトスで流行っているお芝居ですよです」
「…………は?」
「だからお芝居です。最近ららんちゃんに連れて行って貰ったのですよです。新人の脚本家さんが創ったお芝居で、確か……シマキーリだったかな? です」
「あのクソ後輩があああ!!」
( 俺と同じで名前を逆にしただけじゃねえか! )
「――ん? おい……芝居ってことは、まさか……」
「ほへ? もちろん毎日やっていますよです」
――おぃぃいいい!
あのふざけた話を劇でやっているってのかっ!
てか……人気の芝居ってことはもう……
荒れる気持ちが大きかったが、それはモモちゃんに癒され、そのまま夕食を続けた。ただ途中何故か、ラティと葉月がモモちゃんを羨ましそうに見ていた気がしたが、それを突っ込むと荒れそうな気がしたのでスルーをした。
夕食の後、公爵家に身を寄せている言葉に会いに行ったのだが、まだ体調が良くないのか眠ってしまったらしく、言葉に付いている侍女にそう言われて俺は引き返した。
そして久々の自分の部屋へと戻ると、俺はすぐにベッドへと向かう。
特に疲れた訳ではないが、色々と知り得た情報を整理する為に、一度落ち着きたかったのだ。
俺はベッドに腰を下ろし一息つく。
当然、モモちゃんを抱っこしたままで。
「……ららんさんの話はマジなのかなぁ」
呟きとともに思い起こす、夕食の時にららんさんが話してくれた内容を。
サリオの馬鹿な話とは別で、ららんさんは最近のノトス状況を教えてくれた。
具体的に言うと、ギームル無双のことを。
アムさんに雇われ、ノトスの街へやって来たギームルは、すぐにその辣腕を振るったらしい。
俗に言うピンハネする連中は容赦なく切り。
恐ろしい速度でノトスを掌握してしまったらしい。
ららんさん曰く、裏で情報収集などをしている手駒が何人もいるだろうとのこと。
そしてギームルは、【並思】という【固有能力】を持っているらしく、今もそれをフル稼働させてノトスを回していると。
俺はその話を思い出しながらモモちゃんとベッドに横になった。
食事を終えてうつらうつらしているモモちゃん、俺は彼女を潰さないようにお腹に抱えながら撫でてやった。
モモちゃんの頭を撫でていると、心が凪いでいき、俺はアムさん達に迷惑をかけていたことを思い出す。
無罪になったとはいえ、危うく勇者保護法違反になりかけていた俺を待っていてくれたのだから。
葉月と言葉の件でゴタゴタしてしまい、しっかりとその事を言えずにいた事を、いまさらながら俺は思い出した。
「あ~~~、馬鹿だ俺……。何やってんだか――ん!?」
反省の独り言を呟いた時、不思議な気配を感じた。
ラティなのに、ラティらしくない感じのする不自然な気配。
言うならば、『無邪気の塊』のような気配が部屋へと近づいて来たのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ感想や批判など頂けましたら、幸いです。
あと誤字脱字も……




