依頼
物語が動き出します
話が長めなので分割で
ららんさんの店に向かった。
ららんさんは、南ノトス領から中央のアトルガル王国の東側にある【ルリガミンの町】に引越しして来た、時たまエセ関西弁を話すアクセサリー師のエルフの青年だ。
見た目は子供だが、金髪の髪を後ろで縛り、くりっとした緑の瞳は勇ましく、
何処か腹黒い印象を持たせる人であった。
「何か買いに来いって言われてたし、ノトス領脱出でもお世話になったから、顔くらい出しにいくか」
ららんさんのお店は、町の中心から少し外れた場所にある、小さな店であった。
「ららんさん、暇つぶしに来ましたよー」
「うぉい!そこはせめて買い物に来たくらい言おうぜ」
( 思わず本音が漏れた )
だが、ららんさんは気を悪くする事もなく笑顔で対応してくれた。
「まぁ、見てくれよって言っても、説明しないと分かり難い商品ばかりだけどな」
「分かり難い?」
「うん。例えばこの指輪は一見普通の指輪だけど、高い魔法防御力があるのさ」
「お?良さげですね」
「ただ欠点が、ほとんどの魔物が魔法なんか使って来ないこと!」
「確かにある意味欠点だ」
「これを装備してると、魔法使い狙ってますよって誤解されかないね」
「なるほど、対人用装備に近いのか」
「しかも、回復魔法も少しレジストするし」
「それ完全に欠点以外の何者でもない」
――いきなり微妙な装備から紹介きたけど、
この指輪は俺に必要無いよな?
「じんないさんは結構敵が多そうだからね、こう言う装備の存在を知ってた方が良いと思ってね」
「あ、なるほど、ありがとうございます」
――違ったよ、すっごい親切心だったよー
疑ってすまんかったーって、あと俺は敵が多そうに見えるのか、不穏な、
「って感じで軽く恩を感じさせてから本命の商品を薦めるのさ、にしし」
「っう!」
――完全にやられたな、
やっぱり流石はアムさんの知り合いだ、
「それでの、こっちがオススメのなんだけど、槍にどうかなって」
「この赤い布が?」
ハンドタオル位の大きさをした赤い布を俺に見せてきたのだ。
「この布は武器に巻くと、付加魔法効果で武器が硬くなって切れ味も増すんだ」
「分り易く言うと、攻撃力が上がる感じかな?」
「大雑把に言うとそうかな、一度買えば他の武器にも使えるし便利だよ」
「ああ、なるほど」
「あとは、SP量増加させる指輪とかも」
「あ、SP無いので…」
「え?…無いって?」
そこからは、俺は勇者になれなかったゆうしゃであり、ステータスの事などをららんさんに説明をしたのだ。
「は~~~、勇者召喚は聞いていたけど、ハズレっぽいのまで居たとは。ノトスには勇者召喚の事しか話は来てなかったからのう」
「他の領地には話がいってるはずじゃ?召喚時に貴族達来てたし」
「そりゃあ、貴族は知ってるだろうけど、下々にはわざわざ話したりしないだろうね」
「ああぁ、そういう理由か」
「でも、SP無しだとSP消費での回復も無しか」
「SPでの回復?」
「SPを消費して治癒速度を上げるの」
「そんな方法聞いた事ないな」
( あれ?ラティに聞いた事ないよな。そんな方法あるか? )
「ああ、ごめん勘違いさせたね、アクセサリーの効果ね。アクセサリーで治癒能力上昇ってのあってね、結構便利だから薦めようと思ってたんだ」
「なら、ラティ達には使えるのか」
「でもじんないさんには効果無いなら困ったな、折角の新作なのに」
――ららんさん、新作のアクセサリー売りたかったんだろうなぁ、
でも俺には使えないし…そうだ!
「ららんさん、ウチのパーティは回復役居ないから、ラティ用に一個欲しいですね」
「ありあり!って!回復役がいない?あのサリオちゃんは?後衛なんじゃ?」
「彼女はアタッカー専門後衛でね、回復は全くみたいで」
「えっと、ということは回復役は無しなんだ、じんないさんは」
「結構やばい時もあったかも、」
「地下迷宮の浅い層はまだ良いけど、深い所は不安があるのぅ」
少しららんさんが考え込んでから、ニヤリと笑みを浮かべ俺に話しかけてくる。
「じんないさん、もしじんないさんでも回復する付加魔法品あるかもって言ったらどうします」
「そりゃあ勿論欲しいよ、安ければね」
( そう、俺はそこまで金もちじゃないのだ )
「なら丁度良かった、安く済んで回復品が手に入るかも知れない話しがあるやで、にしし」
ここから ららんさんの美味しい話が始まった。
【ルリガミンの町】から東に行った所にある森の中に廃坑があり、その奥に昔は取れたと言われてる鉱石があって、その鉱石が欲しいと。
その鉱石の名前は【生命石】と呼ばれる物で、暗い中でも光るらしく見ればすぐに分かると。それを取ってきて欲しい、それがあれば回復の付加魔法品を作れると。
――でも、どうしてそんな良い物を
他の人が採り尽くしてもおかしくないような気がするけど…
「何でそんな鉱石が今まで取引されてないんだろ?売ってないのですよねソレ」
「理由は簡単よ、だって価値が薄いし、みんなSPで回復出来るからね普通は」
「ごもっとも」
「あとね、其処の洞窟ってオバケ出るんだ…」
「それって結構やばいんじゃ」
――いや、待てよ?
俺には世界樹の木刀があるから問題なく霊体でも戦えるな、
「そうなんだよね~。それも理由の一つで取りに行く人がいなくてのう」
「俺が行きます」
「おおう、マジでか!それなら普通の武器にも効果薄いけど霊体切れるようになる付加魔法品貸しちゃる」
「【生命石】を取ってこれたら作ってくれますか?その付加魔法品」
「OKOK、格安で作ってあげるよ」
――おっしゃ!やった、
これで回復魔法なくても少しは楽になるかも、薬品の節約にもなる、
あと、ららんさんはOKって知ってるのか、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜の、3人で泊まってる部屋で俺はラティ達に今回の事を告げた。
「と、言うわけで、東にある森の廃坑に行く事になりました」
「あの、何やら如何わしい場所に降りて行かれたかと思えば、今度はまた別の怪しげな場所に」
「ん?ラティちゃん如何わしい場所って?」
「行ってないよ降りてないよ!そんな場所に近寄って無いよ!」
( マジで降りてないからね! )
「ぎゃぼう、なんと言う釣れ具合でしょう、見当が付いてしまいましたです」
「いや、ホントになんの事か ねぇ?」
――おかしい、普段だったら『はい、ご主人様』って言うのに、
今日のラティさんは厳しい、心当たりはあるけど‥
「それで運ぶ物もあるし、一応馬車で行く予定ね」
「あの、馬車はどこからお借りするのですか?」
「それはららんさんから借りれる事になってるよ」
「ああ、あの時の逃走に使った馬車ですねです」
サリオの『あの時の逃走』と言う言葉に、ラティが少し俯いたように見えた。
あの時は彼女は薬で眠らされてしまい、それで何も出来ないでいた事に罪悪感を感じている様子であった。
「気にするなラティ」
「あの、」
俺はラティの隣に腰を下ろし、落ち込んでいる彼女の頭を優しく撫でてる。
( ああ、俺も癒されるなこれ )
「あにょう、ジンナイ様。そろそろ明日に備えて眠っときたいのです」
「お、おう、そうだなもう寝ないとだな、」
「はい、ご主人様」
3分ほどラティの頭を撫でていたが、サリオの寝ましょう発言により、俺達は就寝する事にした。
――ああ、そろそろ3人部屋に泊まるのが厳しくなってきたな、色々と、
改めてガレオスさんにあの店を紹介して貰わないと、今度はバレないように…
突然部屋に充満する殺気。
まるで暗殺者が部屋に鮨詰め状態になったような圧迫感が襲ってきたが、俺は考えていた事をすぐに破棄すると、満ちていたものが霧散していった。
その後、何も考えないようにして眠りについたのだった。
読んで頂きありがとうございます