教会の楯
テンションが激上がり中!
ニヤニヤですよー!!
俺の行動を先読みしていたかのように、五神樹のイエロがいた。
痛々しい黄色い鎧に身を包み、明らかにヤル気を見せている。
「ジンナイぃ、降りてこぉい。アホなブラッグスとは違うぞボクはぁ」
待ち伏せしていたイエロは、葉月ではなく俺に声を掛けてきた。
どうやら奴は、聖女の勇者を引き留めに来たのではなく、別の用事で待っていた様子だった。五神樹らしくない行動だが、何となく俺は納得が出来た。
「そうだよな……お前が一番ヤバそうだったもんな。で、何の用だ盾」
「っち、誰が盾だ。この野郎は本当にぃ腹が立つヤツだねぇ」
俺は馬車から降りて奴と対峙する。
因みにラティからの目配せで、他に伏兵などが潜んでいる様子はないと伝えられている。
――ん? 一人で来たのか?
てっきり闇討ちかと思ったのに、目的が読めない……
一体なんの用で来たんだコイツ?
「アンタにぃ文句がぁ言いたくてぇ来たんだよぉ。ボクの計画を邪魔ぁしてくれちゃってさ、ホント腹立つよ。見せつけるように狼人の娘まではべらせてさぁ」
「侍らせるってアホか、ラティはそういうんじゃねえよ。――ぶん殴んぞクソ盾野郎がっ」
「いいねぇそれ~。ホント、こっちも殴ってやりたいよぉクソ槍野郎がっ!」
イエロは眉間にシワを寄せて、『潰れたトマトみてーにしてくれんゾ?』など言い出しそうな顔でビキビキッさせている。
「アンタの所為でぇ、フラムのおっさんがぁ失脚したから予定がクルちゃったんだよねぇ。全部上手くイケばぁ、獣人ハーレムの予定だったのにさぁ~」
ビキビキッ面から一変、今度は下衆顔でとんでもない事を言いつつ、不愉快な視線を後ろにいるラティへと飛ばすイエロ。
奴は清々しいほどの私怨で此処へ来ていた。
「もう一度聞くぞクソ盾野郎。なんの用で来た?」
「はぁい? だからぁ~、ムカつくから文句を言いに来ただけさぁ~。折角ぅボクがフラムのおっさんに言って、あの儀式をやってもらったのにぃ」
「えっ、あれってイエロさんが……」
イエロはとんでもない事を暴露する。
この発言には、俺の後ろにいる葉月の方が強く反応を示した。
「あの儀式はねぇ~、よく分からないけど前からあるヤツなんだ~。階段を降りると部屋があってね、昔お手伝いで行ったことがあるんだよ……見届け役用のノゾキ穴で覗いたりもしたなぁ~」
「――ッ!」
「てめぇ……」
「彼は下衆だねぇ」
葉月が息を呑み、俺は苛立ち、ハーティは率直な感想を口にする。
イエロはムカつくから文句を言いに来たと言っているが、これは完全にコチラを煽りに来ていた。
――真意は分かんねえけど……
コイツは俺に喧嘩を売りに来てんな、
それにさっきからコイツは――
「そうか、ムカついたからか……俺も今ムカついてんだ! ラティを穢れた目で見てんじゃねえ! ラティが汚れる」
「ホント腹立つなぁ、あんな極上の耳と尻尾を……ムカつくよ、ボクの方は全ておあずけになったってのにぃ」
確かにラティの耳と尻尾が至高にて極上なのは認める。だが――
「……お前はただの盾だ。そして俺はただの矛だ」
「いいねぇ~それ、ただの盾と矛……」
「陽一君?」
「おいおい陣内君、まさか……」
「イエロ……」
俺とイエロはガンを飛ばし合う。
正直虫唾が走るが、いま奴と俺は目と目で語り合う。
「獲物を使うと流石にマズイ。素手でいいな?」
「ああ、いいねぇ。クソムカつくその顔を殴ってやるよ」
「ムカついたからやりあった、それでいいな?」
「ああ、それでいいよぉ。あとで文句とか言うの無しだよぉ?」
ラティへと視線を向けると、今だ周囲には伏兵などは無しとの合図と、イエロは嘘を吐いていないとの合図も来る。
奴は本当にムカついたから、純粋に喧嘩を売りに来た様子。葉月をクソみたいな儀式に嵌めようとし、今はラティを下卑た目で視姦するイエロ。
俺が喧嘩を買う理由は十分であった。むしろ買わない理由が無かった。
「ッしぃ!」
「甘いよ!」
俺は【加速】を使用した咽輪をかます。今までに防がれた事のない攻撃、だが奴はそれに反応し、左腕を盾にしてそれを防いだ。
「はっ、合図も無しにいきなり来るなんて、ホントぉ卑怯なヤツだねぇ」
「喧しいっ、ゴングなら心の中で鳴ってんだよ!」
俺とイエロの殴り合いが始まったが、奴はしっかりと鎧を着こんでおり、体への打撃は効果が限りなく薄そうであった。
関節技や投げ技が使えれば良いのだろうが、そんな技術は俺にはなく、ただ相手の顔面に向かって振りかぶるのみ。
「残念ん~。正面からの単純な攻撃なんてラクショーですぅ」
「コイツがぁ」
イエロは盾役の為か、攻撃に対しての対処が巧かった。
【固有能力】の恩恵なのか、それとも元からの実力なのか、奴はパーリングで俺の攻撃をいなしていた。
――ちぃ、地味に巧い、
槍とか木刀じゃない素手だと、流石にいつも通りとはいかないか、
こうなりゃ強引にっ
「っらああ!」
「だから甘いよっと♪ はい、捕まえたっとぉ」
再び喉輪を強引に狙ったが、呆気なくそれは防がれた。しかも俺が逆に右腕を掴まれる。
「――っな!? 身体が重く?」
「ははは、【重縛】だよ。捕まえた相手の自重を増す効果さ。さあ反撃いくよぉ」
「ぐうっ」
俺の右腕と、イエロの左腕が繋がれた状態。
しかも身体は重く、今度は俺が防戦一方へと押し込まれる。
「しぶといなぁ、早く殴られろよぉ」
「チィッ!」
イエロは攻撃職でない為か、防御は巧いのだが攻撃はてんで駄目だった。
片腕が捕まれた状態ではあるが、こちらも相手の攻撃をいなし防ぐ。
互いに攻め切れない状況。
苦し紛れのローキックなども放ってはいるが、脚を守るレギンスは厚く、やはりこれも有効打にはならない。
無理に膝裏などの間接を狙おうとすれば、逆にバランスを崩し攻め込まれる。
そう、攻め込まれる。
( ……やってみるか )
俺は咄嗟に浮かんだプランを実行する。
アゴを引いて歯を食いしばり、襲い来る衝撃へと備えた。
「――ッグ!」
「アッハハー! どんどん行くぅ――ごふっ!? っがあ!!」
イエロはしっかりと罠にハマってくれた。
俺はワザと殴られながら隙を突いて喉輪をかまし、そのままイエロを地面へと叩き付け、鎧の隙間をついて脚の付け根を踏み抜いた。
「くっそぉお――ジンナっぐ、あっが!? があ!」
倒した後は逆に俺が左腕を掴み、ガード出来ないようにしてから、無言でイエロの顔を踏みつける。
俺はイエロが抵抗しなくなるまで奴の顔を蹴り続け、十発ほど蹴った辺りで抵抗がなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
口内に鉄くさい味が広がる中、俺は足元に横たわるイエロを見下ろす。
門から出たすぐの場所なので、何人か野次馬が集まってきているが、ハーティとシキがそれを散らしている。
「……イエロ、後でグチグチ文句言ってくんなよな。教会に泣きつくとか」
「いてぇ……、ふん、言わないよぉ。それに教会からは離れるつもりだしね。フラムのおっさんが失脚したんだし、もう教会には居られないかな」
「…………」
「あ~~あぁ、獣人のハーレム用意してくれるって言うから頑張ったのにぃさ。アンタの所為でぇ台無しだよぉ、クソがぁ……」
「その頑張る方向がクソ過ぎたんだよ。下衆が」
「あぁ~痛いなぁ、加減無しにやってくれちゃって。もう行ってくれ、これはただの殴り合いだろ? 終わったんだからさっさと行けよクソ槍野郎が」
俺は、『言われなくても行くさ、クソ盾野郎が』と返し、その場を後にした。
戻った馬車の中は、若干腫物を扱うような空気だったが、俺達は予定通りノトスへと向かった。
心の中では、ユニコーンも来るんじゃないかと思っていた。
先程のイエロも、実はエルネの差し金ではと勘繰ったのだが、奴は純粋な私怨でこの場に来ていた。
教会がしっかりと監視しているのか、それとも他の理由なのか分からないが、ユニコーンが姿を見せない事に僅かな懸念を残し、俺達は馬車を走らせたのだった。
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