バンジィィィイ
やっと終わりました……
誰か『を』の正しい使い方を教えてください;
大暴れしていたら、なんか解決していた。
ブチ切れて突っ込み、吼えて、メンチ切って、そんで暴れただけ。
五神樹の二人が、途中で俺に襲い掛かって来たが動きも甘く、持っている獲物も、武器適性が無いであろう木刀。
木こり時代に斧を握ったことがあるから解るのだが、適性の無い武器を持つと何故か異様に下手になるのだ。
巧く扱えないなどの次元ではなく、まるで呪いでも掛かったかのように動きが鈍くなり、素手の方がマシだと感じる程に酷くなる。
だから俺は、襲って来た二人を簡単に撃退出来た。
最小の動作で薙ぐようにした二連突きを放ち、相手の木刀を打ち返した。
ただ予想外だったのは、相手の木刀が、まるで火薬でも詰めているかのように弾けたこと。文字通りの木っ端微塵。
襲って来た二人は驚愕の表情を見せ、そして俺は、それを上回る驚きの表情を見せていたと思う。
ラティからの声が無かったら、少しやばかったかもしれない。
集中を取り戻した俺は、すぐに行動に移り、残りの奴らの木刀も砕いた。
確信があった訳ではないが、きっと砕けると思えたのだ。
その後に、夢で見たような気がする人が現れて、ファンタジーをして色々あったら、騒動が収束に向かっていた。
エルネがしゃしゃり出てきて、俺のことを神の使いだとか代理人だとか言い出し、木刀を失った五神樹は、神子の資格が無いので、聖女と神子の婚姻は成立しないから中止だとか言い張り。
その後、『その木刀を持つ、禍々しい黒い奴は神子なんじゃ?』と言う声には、『彼は神の代理人なので、神子ではない』と主張し、外野からの声を否定していた。
取り敢えずは、婚姻の儀式は中止が決まった。
正確に言うと、続行が出来なくなっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
立場のありそうな人達が、コレをどうするのか話し合っている。
昔テレビで見た、グダグダになっている国会中継のような状態。議長席に押し寄せる政治家のように、招待客からも何人か言いに来ている。
一応収束はしているが、イマイチ収集がつかない状態。俺はそれを眺めながら、他に何か危険が無いか辺りを観察する。
――刺客とか潜んでねぇだろうな、
いや、居たらラティが真っ先に反応するか、――ん?
ふと見渡した視線の先、大聖堂の祭壇奥。
地下へと降りる階段が目に付いた。
「階段……」
――そういやあのオッサン、6人でヤレとか言ってたけど、
下ってそんなに広いのか? しかも五日間って……
俺は何となくだが疑問を感じた。
食事や風呂などはどうするのだろうかと。一種のシェルターのようになっているのか、それとも想像もつかないような作りになっているのか。
( あ…… )
そんな疑問を浮かべながら階段を観察していると、ラティにさり気なく、だが露骨に視界を遮られた。
スッと俺の前に立ち、何故かその場で不動なラティさん。
そして彼女の瞳は、何かを訴えるようなジト目。
当然俺は何か言える訳もなく、誤魔化すように視線を逸らした。
( さ、逆らえない…… )
俺とラティが、高度な心理戦を繰り広げていると――
「――ですから、このまま聖女様はワタシがお連れ致しますっ」
少々強い語気でそう語るのは、クソ女のユニコーン。
どうやら彼女は、招待客と教会のお偉いさんに対して、葉月の今後の予定について話している様子だった。
「今後、このような事が起きぬよう、再びワタシが聖女様にお付きします。宜しいですね? 大司祭フラム様」
「ぬう、だがな……」
「聖女様が離れてしまっても良いのですか?」
場の流れを掌握しつつあるユニコーン。
彼女は上の立場であろう男を、容赦なく追い詰めていた。
――っち、あのクソ女がっ、
なんか美味しいところだけ持っていきやがって、
結局アイツの思惑通りの流れかよ……
「――では宜しいですね? さあ聖女様、このような場から離れましょう。ワタシが再び貴方様にお仕えしますので」
エルネは大聖堂内の流れを掴み、大袈裟に言うならば人心掌握というべきか、誰にも反論を許さぬ空気を作り上げ、芝居がかった仕草で葉月の前へと進んだ。
大司祭と呼ばれた男どころか、五神樹たちまでも沈黙している。
正直なところ、個人的には気にくわないが、俺がここで何か言えば変に拗れる可能性があるので、仕方なしに黙っていると――
「エルネさん、私は貴方と一緒には行きません」
「……え?」
心底意外そうな表情を浮かべるエルネ。先程まであった余裕さは消し飛び、完全に固まっている。
「私は怒っているの。ただ、私を助ける為に動いてくれた事は理解しています」
「そ、そうですっ、ワタシは聖女様の為に、このような危険を冒してでも貴方を助ける為に」
「でも、その為に陣内君を犠牲にするつもりだったよね?」
「あ!? い、いえそのようなつもりは……なく……」
誰もが何も言えぬ空気の中、聖女の勇者葉月だけが否をいう。
ある意味、最大の賛同者であるはずの葉月からの拒絶に、エルネは完全に狼狽えていた。
「誤魔化されないよ、エルネさん。貴方さっき言ってたよね『保護法違反を』って。あれって陣内君にだよね? 私を助ける為に彼を犠牲……罪人にしようとしたんだよね?」
「あ、あれは……いえ、彼が言い出した事で――」
「――っ嘘を言わないで! 仮にそうだとしても、それは貴方が唆したとかでしょう? 私は騙されないからね、エルネさん」
まさに聖女の怒り。
そうとしか表現の出来ない光景。
そして断罪が下された。
「彼が、陣内君がラーシル様だっけ? 神様の使いっていうのなら、私は彼について行きます。そして貴方にはもうついて来て欲しくありません。私、本気で怒っているんだからね」
「そ、そんな……ワタシの聖女様が……」
膝から崩れ落ちるユニコーン。
葉月の拒絶が余程効いたのか、先程よりも呆然としている。そして――
「行こう陣内君。もうここに居たくないの」
「へ? ちょ、まった葉月!?」
葉月は俺の手を取ると、強引にグイグイと引っ張ってそのまま外へと歩きだした。
彼女の突然の行動にざわつく周囲、例えるならば、学校で一番人気のある女子に、強引に手を取られて教室から退出するような状況。
たぶん男子であれば、誰もが夢見がちに妄想したことがあるようなシチュエーション。
嫉妬が混じった羨望の視線をもらい、優越感のようなモノを感じながら女の子に手を引かれる。――だが実際にその状況になってみると。
――うえええ!?
なんかすっげぇ気マズイんですけどぉ! みんなガン見してんだけど!
なんかこれって……いや、それよりも今は、
「葉月、さっき言ってた俺についていくってなんだよ。確かに助けには来たつもりだけど……」
「陣内君、今は私に合わせて。取り敢えずここから逃げたいの」
「……ああ、分かった。取り敢えず話は後だな」
俺と葉月は小声でやりとりをし、どさくさに紛れて大聖堂を後にした。
エルネが最初に流れを作ってくれたお陰か、誰もそれを止める者はおらず、俺達は呆気ないほど簡単にその場を離れる事が出来たのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハーティと合流後、俺達はひとまず宿へと泊まった。
先日のエウロスの件と同様、下手に街の外に出ると、教会側が強引な手段を取ってくる可能性があるので、俺達は人の目がある街中に滞在する事にしたのだ。
ハーティさん曰く、獲物が逃げようとすると、短絡的な判断で追ってくるが、逆に獲物が留まっている間は、意外と冷静になれるのだと言う。
それに、エウロスからアルトガルへと酷使したゼロゼロと、移動補助系魔法を唱え続けたハーティの疲労が酷く、今日中の出発は困難であった。
特にゼロゼロの状態はあまり良くなく、もしこのまま走らせれば、パージしてきた他のスレイプニール同様、過度の疲労で潰れてしまうだろうと。
俺達を此処まで運んで来た他の三頭は、補助魔法の効果消失と、魔法による過度のブーストの影響で駄目になっているだろうと、そうハーティに教えられた。
スポーツなど激しい運動のあと、ストレッチやマッサージなどをしてクールダウンするのと同じで、過度なブーストと酷使した後は、それを和らげる補助魔法を使わないといけないらしい。
当然そんな余裕は無かったので、パージされた三頭は、ガチでパージされていたのだ。
そして、この宿屋に泊まっている間に、教会側から何かしらの接触があるだろうと全員が考えていた。
無理矢理どうにかするのではなく、何かしらの交渉を持ちかけてくるだろうと。
仮に悪意を持って近づいて来たとしても、ラティが居れば事前にそれを察知出来る。
取り敢えず現状は、ハーティとゼロゼロの回復待ち。そして、教会側からの接触待ちとなった。
因みに泊まる部屋は、俺とハーティが同じ部屋。そしてラティと葉月が一緒の部屋になったのだが、何故かラティが珍しい事に、とても縋るような目で俺を見ていた。
しかし、流石にこのメンツで、『俺とラティは同じ部屋で』などと言える訳もなく、ラティは葉月と同じ部屋に。
ラティから怯えるような感情が流れて来たのだが、どう考えても、ラティが怯えるというのは想像が出来ず、俺は気のせいだと思う事にした。
そしてその日の夜。
教会側から、ひとりの男がやって来たのだった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご指摘、ご質問などお待ちしております。
あと、誤字脱字なども……
もしかしたら、3月10日まで更新が遅れるかもです。




