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届かな……

遅れてすいません(毎回謝っている気が……

どうしても一纏めにしたくて、遅くなりました。


前回までのあらすじ。

葉月がやばい、陣内が怒る。


そして雪が降る季節……


 婚姻からの先は要求されない。


 葉月(はづき)は教会からそう聞いていると、侍女のエルネは言っていた。

 正直、葉月の判断は甘いと思う。

 いや、彼女らしくない気がする。迂闊すぎる。


 少しぐらい予測が出来なかったのかと思った。



 だが、結果はこれだった。教会は先を要求してきた。

 しかしこれは、予測が出来る方がおかしいかもしれない。

 

 まさか婚姻の儀式に、()を盛り込んでくるなど。

 しかも、五人を相手にしろなどあり得ない要求を。




 ( 頭がおかしいんじゃねぇのか!? )


 俺の素直な感想だった。

 元の世界では、結婚式の後に祝福される中、紐で空き缶をくくり付けたオープンカーでどっか行くなどの、『ホントかよ』と思うようなのは聞いた事はあるが、これは無い。


 ヤル(・・)のが含まれるなど。



 しかし――。


「さぁ、神木の木刀に選ばれし神子たる五神樹ごしんきよ、聖女様を聖なる閨へと案内するのだ」


 司祭らしき男が声を掛ける、葉月から少し離れた位置に立っている五神樹達に、彼女を階段の下(聖なる閨)へとエスコートするように促す。


 ( ここでも階段なのかよっ! )



 俺の中では、こんなあり得ない婚姻の儀式なのだから、参列者側から非難の声が吹き荒れると思ったのだが――。


「は……?」


 予想と遥かに違う状況に、俺は間抜けな声を漏らした。

 司祭らしき男の宣言に、参列者から多少の驚きの声は漏れていたが、否定的な声は上がらず、むしろ肯定的であった。特に左側の教会関係者は。


 そしてエスコートするように言われた五神樹ごしんき達は。

 赤い野郎は、少し毒づきながらもやる気を見せて。

 青い野郎は、『仕方ないですね』とヤレヤレ的な態度で。

 黄色の野郎は、終始ニコニコと笑みを浮かべて。

 黒い野郎は、明らかに苛立ちを見せつつも拒否はせず。


 紫の野郎だけが、驚くほど狼狽え――。


「閨てっぇえ? いあいあオラぁ、そんだが事は無理っしょ」 


 ただ一人だけ、否定的な発言をする(シキ)


 しかし、そのシキに。


「ふん、ならば神子シキ様は、聖なる閨での見届け役をやっていてください。本来であれば、高位の神官が見届け役をするのですが。今回は五神樹の5人が互いにそれを行う予定でしたし」

「な、みとどけぇ……役? ましゃかぁ!?」


 吐き出すようにして言葉を紡ぐシキ。

 頭をかぶり振るようにしている。



 吐き気がする。

 シキの狼狽えを見て、見届け役の意味が解ってしまった。


 あまりにも異常な状況。

 腐っているとしか言えないその考え。

 一切の肯定をしたくない。


 そんな歪に澱んだ空気の中、聖女の勇者葉月由香(はづきゆか)の顔は。

 『泣きそうな顔』の表現では生温い。

 『怯えている』では全く足りない。

 『絶望をしている』余裕すらないその姿。

 

 ただ言える事は、女の子に絶対にさせてはならない表情だった。

 

 次の瞬間。

 そんな(表情)をしていた葉月が、驚きに目を見開いている。

 突然目の前に降り立った俺の姿を見て。


「ざけんなこのクソ野郎共がっ!!」


 俺は葉月を庇う様にして前に立ち、そして吼えた。


「なんだ貴様は――っがあ!?」

「こっち来んなクズがっ!」


 俺は葉月の(表情)を見て感情が突き動かされ、心に従い駆け出していた。


 変装用に羽織っていたローブを脱ぎ捨て、中央の通路を【加速】を使って駆け抜け、参列者用の席の背もたれを足場にして飛び上がり、道を阻むように立っていた五神樹を飛び越え、一人怯えている葉月の前に荒々しく降り立っていた。


 そして、そんな俺を咎めようとやって来た司祭の胸ぐらを掴み上げ、薙ぎ払うようにして五神樹ごしんき達へとぶつけていた。


「こ、この無礼者が! 貴様何者だ!」

「ジンナイ……てめぇ何しに来やがった」

「……ジンナイ、やはり来たのか」

「あぁ~りゃりゃ、こんな場所にまで邪魔しにぃ来ちゃってえもぅ」

「この薄汚い黒が……」

「じんないぃ」


 投げ払われた司祭らしき男だけではなく、当然、五神樹ごしんき達も俺に気付き、各々が悪態をつく。

 

 俺は正面の奴等を見据えつつも、背後に庇う葉月に目を向ける。

 チラリと確認した葉月は、先程のような顔はしておらず、今は驚きの表情で、口元をあわあわとしていた。


 何かを言おうとしているが、声がしっかりと出ずに失敗しているような様子。

 ただ、先程のような本当に酷い表情では無いので、俺はホッと胸を撫で下ろす。そして横を見れば、当然のようにラティが立っており、俺から見て右側、教会関係者側の方の通路を牽制していた。



 感情が理性を上回り、俺は咄嗟に飛び出していた。

 しかしそこに、理性が上回っている奴が、叫ぶように声を上げる。


「何をやっているんですか貴方は! 折角の計画が台無しではないですか。あれほど勝手に動かぬようにお伝えしたと言うのに……」


 俺がさっきまで立っていた場所、そこから侍女のエルネが叫ぶように文句を言っていた。しかも、まだ言い足りないのか、奴の言葉はまだ止まらなかった。


「貴方はワタシの合図を待って、そして保護法違反を受け入れるって言えばいいんですよ! これでは予定が全て狂ってしまう!」

「うるせえクソ女!!」


――ざけんなよっ!

 お前も葉月と同じ女だろうがっ、なのになんで……

 なんで怯えきった葉月を見て平気でいられんだよ、

 一人の女の子が、大勢の大人にヤレって迫られてんだぞっ!

 それを、『合図』を待てだぁ? アホかっ、

 ……おい、まさか……まさか、こんな集団強姦じみたモンが始まろうってのに、襲われる側が助けを求めるまで”待ってろ”てのか? おいエルネ! 


  

「――ッふざけんなよクソ女がっ!!」

「な!? この男はっ」


 俺は当たり散らすように吼え、眼前のクソ共を深く強く睨む。

 

 ( もう決めた…… )


 暴走していた感情を抑える。

 そして鎮まる感情を押し退け、白熱化したような理性が鎌首をもたげる。

 感情の熱を引き継いだ燃えるような理性が、情けなくもエルネに頼ろうとしていた俺の腹をくくらせる。


――グダグダ考えるのは後だ、

 今は……



「かかって来い強姦魔共。神子だかなんだか知らねぇが、俺の目の前でそんな真似はさせねえ!!」


 俺はウダウダ考える事を止めて、まずは目の前の障害を排除する事にした。 



 

  ――――――――――――――――――――――――


 

 教会側の目的は何となく分かっていた。

 だから線引きをしたつもりだった。

 婚姻の先は(・・)嫌だと拒否をした。


 教会側は、そしてそれを了承してくれた。はずだった――。

 

 この婚姻は儀式みたいなモノ、何か書類に署名をするようなことも無い。

 これによって何か束縛するような事も無い。

 ちょっとしたお祭りのようなモノ、神と結婚をする振りのようなモノ。


 だけど、『教会に箔が付く』と、そんな俗っぽい事を言っていた。

 そんな見栄が欲しいと、素直に言っていた。

 

 そしてこの提案に了承をしてくれるのなら、彼の無罪に協力しようと囁かれた。

 私はそれに肯いてしまった、深く考えようとせず、彼女と張り合う為に、どう頑張ってもあの子には――てないから。


 だから、自分に出来ることをやってみた。

 そしてその結果が――。


『大聖堂の地下、聖なる御神樹の閨にて、神子たる五神樹と五日間過ごして頂きます』 


 息が止まる。思考が止まる。心が止まりそうになる。

 大司祭のフラムさんが、何を言っているのか理解してしまう。

 分かりたくないのに、分かってしまう。


 酷いだまし討ちだ。


 心が絶対に嫌だと悲鳴をあげている。

 さっきまで普通に見えていた人達が、まるで顔の見えない怖い人達に見える。

 目が合わせられない、比較的に親しい五神樹ごしんきの人達も怖い。


 目線をどこに向けたら良いのか分からなくなる。

 どこに目を向けても怖い。

 幼子となって、何処か知らない国に放り出されたような心細さ。言葉すら通じないと思えてくるような底なしの不安感。


 吸った息と吐いた息が喉の奥でぶつかる。

 拒否の言葉を言わないといけないのに、言葉を吐くことさえ怖い。


 ”心と体が”怯えることに精一杯。

 逃げ出すことも、拒否をすることも、抗うことも出来ない。

 怖くて怖くて仕方がない。


 どうしたら良いのか分からないその時――。


「かかって来い強姦魔共が! 神子だかなんだか知らねぇが、俺の目の前でそんな真似はさせねえ!!」


 彼が来てくれた。

 彼が来てしまった。

 彼が来てもどうしようもないのに。

  

 陣内陽一(じんないよういち)君が、怖い人たちを飛び越えて、立ち竦む私の傍に来てくれた。


 暗い灰色に見える世界で、ただ一人だけ色が付いているように見える。

 彼が一番黒い色をしているのに。


 陣内君が視界に入ると、忘れていた呼吸の仕方を思い出す。

 全色盲のようだった視界に色が付く。


 しかし、ホッとすると同時に、期待してはいけないと思い直す。

 この婚姻は自分がした約束、私はそれを了承したのだ。もしそれを反故すれば、目の前の彼が大変なことになってしまう。


 だからと言って、望まぬ相手と肌を合わせるのは絶対に嫌だ。

 ただ約束通り、婚姻だけを済ませれば良いのだ。エッチなことは無しにして貰って終わらせればいい。


 だから言わないといけないのに――。


「強姦魔だと!? この不届き者がっ! これは神聖なる儀式なるぞ。そのような欲にまみれた行為ではない」

「うるせえっジジイ!! 同意も無しに集団で迫っておいて神聖もクソもあるか! まさかお前等は、沈黙は同意の証とか、そんな巫山戯たことを抜かすんじゃねえだろうな?」


「――っこ、この餓鬼が。神木より作られた木刀、”神木の木刀”に選ばれた神子たちを愚弄する気か! 神に逆らう行為なるぞ!」


 

 私を置いてヒートアップする彼等。

 頭に血が上っているのか、儀式の流れなどは完全に飛んでいる。


「ジンナイ、お前はドコまでオレの邪魔をすれば……」

「そこから消えろジンナイ!」

 

 五神樹ごしんきの中でも短気な二人、セキさんとブラッグスさんが陣内君に喰って掛かる。


「喧しいっ、この集団強姦魔共が! 何が選ばれし神子だっ」

「てめぇ……」

「ぶっ殺す」


 剣呑な雰囲気。

 だけど何処か、らしいと言うべきか、何故か安心出来る不思議な感じ。

 そう、彼らしい空気。


 どうしようもないはず。このままでは絶対に教会側が納得しない。

 これは簡単な問題ではない、教会側の体面などもあるはずで、個人だけではどうしよもない。

 王族や貴族達とは違う権力を振りかざし、教会はきっと彼を追い詰めていくだろう。教会に身を置いていたからこそ、それが分かる。


 ( それなのに……何で…… )


 何故か、何故か何とかなる気がしてしまう。

 そんな訳はないはずなのに……。


 ( 期待……? )



 縋ってはいけない感情がチクリと刺さる。

 期待などはしてはいけない、この騒動は私の所為。浅はかな選択が引き起こしてしまったもの。


 教会側の意図を甘く見ていた自分の落ち度。

 もっとよく考えて、下らない対抗意識など持たなければ、もっと違ったはず。


 陣内君を庇った彼女、言葉(ことのは)さんに、つまらない対抗意識など持たなければ、こんな事にはならなかった。


 そして今は、しびれを切らしたセキさんとブラッグスさんが、同時に陣内君に襲い掛かる。正面と側面からの攻撃、神木の木刀を使って陣内君を強襲する。


「危ないっ!?」


 思わず声が出てしまったのだが、目の前では全く予想外の事が起きていた。


「っしゃあ!」

「な、なんだとぉ!?」

「俺の木刀がっ!?」


 襲い掛かった二人よりも遥かに速く動いた陣内君。

 驚くほど素早く振り抜かれた彼の木刀は、セキさん達の木刀を突くように振り払われ、なんと彼等の木刀を打ち砕いていた。


 木刀は折れるなどではなく、木っ端微塵に砕け散っていたのだ。


「何だと!? その木刀は、東にある神木より年単位で削り出して作り上げた物だぞ!? 鋼ですら容易には傷を付けられぬはずなのに……」


 砕け散った木刀に、大司祭のフラムや五神樹ごしんきの人達が驚愕する。そして砕いた陣内君までも驚き呆けている。


「ご主人様!」

「――ッ! ああ、すまない」


 呆けていた陣内君に、ラティちゃんが声を掛けて集中力を戻らせる。

 そして今度は陣内君から仕掛け、残りの五神樹ごしんき達の木刀を砕く。最初の二本と同じように、残りの3本の木刀が砕け散った。




 大聖堂に居る全ての人が息を呑む。

 神聖視されていた5本の木刀が全て砕け散り、それを成した者が一本の木刀を突き出すように掲げていた。


 木刀を掲げた彼、陣内君は五神樹ごしんき達を圧倒していた。

 セキさんとブラッグスさんの木刀を砕いた後、盾役のイエロさん、遠隔のアオウさんは碌に抵抗は出来ず砕かれ、そして最後に魔法を担当していたシキさんは、無抵抗で木刀を差し出し砕かれた。

 

 まるで自ら砕けたように見える、5本の木刀。

 五神樹ごしんきの人達が、神子である証とも言える神木の木刀。


 それが、一本の木刀によって全て砕かれた。

 

 建前とはいえ、これの意味がわからない者はいない。

 神子たちは、この木刀に選ばれたから神子とされているのだから……。


「な、神木の木刀が……なんと言う事だ」

「神子の証が」

「これでは儀式が……」

「何故、鉄よりも硬いと言われている神木が」

「これは……」


 状況を少しづつ理解し始めたのか、参列者からそんな声があがり始めた。

 そんな中でも、油断なく威圧し続ける陣内君。

 

「く、くそっ……何で魂の入っていない木刀なんかに」

「世界樹の木刀……」


 陣内君の木刀を睨み付けるセキさんとブラッグスさん。

 彼等のその表情を見て、私はふと思い出す。

 約二カ月前の北原君が起こした誘拐事件の後、陣内君が置いて行った世界樹の木刀を見つめていた彼等のことを。


 ( 彼等はあの時、確か…… )


「ん? なんだお前等?」

「調子に乗りやがって、その木刀のお陰だろうが」

「そうだ、その木刀が――」

 

「――なんだお前等。今度は木刀の所為か? まさか木刀の差だとか言うつもりか? なんならこの木刀を使ってみるか?」


「っぐ」 

「ッ……」

「知っているのか……」

「あ~あ、嫌なぁ奴だなぁ」

「…………」


 そう、彼等はすでに確かめていた。自分達があの木刀を持てない事を。

 二カ月前のあの時、陣内君が置いて行った木刀を、彼等は持ち去ろうとしていた。そしてほとんど持ち上げる事が出来ず、持ち去ることを諦めたのだ。


 そんな木刀を突き付け、五神樹ごしんきを威圧し続ける陣内君。

 気付くと空気が変わっていた。教会側はともかく、招待客の方はこの場の流れを注視している。


「これで終わりか? それなら葉月を――へ?」

「な、これは……?」

「おい、これって……」

「幻影……?」

「おおおおお……」


 突き出すように掲げる木刀の上に、半透明ながらも光を放つ一人の女性が出現したのだ。

 とても神秘的な、腰まである緩いウェーブがかったエメラルド色の髪。

 ゆったりとした白い服を纏い、慈愛に満ちた表情。


 ( え? 誰? 何となく似ているような……彼女に…… )


 某勇者に似ている女性は、ふわっと微笑み、そして姿を消す。

 それを目撃した者は皆、目を見開き本当に驚きの表情を浮かべている。五神樹ごしんきや大司祭のフラムさんも、そして彼、陣内君までも。


 ( え? なんで呼び出した陣内君が一番驚いているの? ねぇなんで今の女の人は言葉さんに似ているの? おかしいなぁ、なんかムカムカしてきちゃう…… )



 謎の女性の突然の出現と消失に、誰もが言葉を発する事の出来ない雰囲気の中、知っている女性の声が響いた。


「ああ、今のはラーシル様、女神ラーシル様が姿をお見せになられました。きっとラーシル様は、この婚姻をお認めにはなられていないのでしょう。だからこそ、その者を使いに――」


 まるで扇動するように、いや扇動するつもりで彼女は声高らかに言っているのだろう。この流れを利用する為に。

 

 そしてその企みは、きっと上手くいくだろう。

 もうそういう空気に変わっていた。五神樹ごしんきの彼等を神子としていた神木の木刀は砕け、その木刀を砕いた者が周りに奇跡を示した(見せた)のだから。



 もとを正せば、取引のような約束ごと。

 そして表向きは、聖女と神子のお祭りのような婚姻の儀式。

 それ故に、神子が神子でなければ成立しなくなるモノ。教会としての体面を保つ為には、このまま婚姻の儀式を行うであろう。


 だが、ユグドラシル教であるがゆえに、今、目の前で起きた出来事は無視が出来ない。もし強引に事を進めれば、ユグドラシル教としての根本の部分が揺らぐ。


 教会の者だけであれば、都合の良いように解釈を捻じ曲げて押し進められたかもしれない。だが今は、教会の支援者達である招待客がいる。



 絶対に無理だと思っていた。

 だってこれは、一人の人間が騒いでどうにかなるモノではないと思っていた。

 仮にこの場を逃げ出したとしても、その後でどうしても困ってしまう。色んな人に迷惑をかけてしまう。


 だから諦めていた。そう、諦める(・・・)つもりだった。



 元はと言えば、これは私の女の意地だった。

 大好きな人を守りたい庇いたい、そしてそれを成せば女の誇りになる。


 ( 誇りに縋りたかった…… )


 彼を庇い、そして守り切った言葉(ことのは)さん。

 彼女に対する、情けない対抗意識。

 彼女の献身的な想いと行動は、きっと陣内君の心に強く残り続ける。


 浅ましくも羨ましいと思ってしまっていた。

 

 ( だってあの子(・・・)には――てないから…… )


 だから私も、自分に出来ることをしてみた。

 

 どこか躊躇っているあの子の背中を押してあげた。

 パジャマパーティー(夜の尋問)みたいなことをして、あの子、ラティちゃんを焚き付けるような事を言った。


 勝てない(・・・・)、あの子に。



 そして陣内君を守る為に、私は取引のような婚姻の提案を呑んだ。

 紙や書類などにも残らない、お祭りのような婚姻。

 魔王を倒せば、その後は元の世界に戻るのだから、全く問題がない形だけの婚姻。


 そう私は、(陣内君)あの子(ラティちゃん)の為に、行動してあげた(・・・)のだ。――違う。


 ( 私は逃げただけ! 彼とあの子の間には入れないから逃げただけだ )


 心の奥底では理解していた。

 ラティちゃんに負けたくないから、体よく身を引いただけ。

 女として負けたくない、身を引いたフリをして自分のプライドを守っただけ。そんな情けない動機。


 

 だってこの想いは叶わない。

 彼を見ていたからこそ、解ってしまう。


 だからこの婚姻(約束)に逃げたのかもしれない。

 

 そしてそんな逃げた行動が、今回のだまし討ちのような騒動になってしまった。

 しかも、彼を巻き込んでしまった。

 下手をすれば、もっと大事になっていたかもしれない。

  

 だけど彼は私を助けてくれた。

 

 ( ああ、ラティちゃんが言っていた、『期待』の意味が解った…… )

 

 どうしようもない状況だった、怖くて固まってしまった。

 五神樹ごしんきの人達とエッチなことをするのは絶対に嫌だ。でも身が竦んでしまっていた。

 

 でも、陣内君が来た時に、『期待』をしてしまった。

 彼が来たからって、どうしようもないはずなのに。それなのに彼は、『期待以上』の結果を出してしまった。


 ( 本当にラティちゃんの言う通りだ…… )


 彼には期待をしてしまう。


 ( 諦めるつもりだったのに……もう無理だ )


 

 この想いは叶わない。

 この想いは報われない。

 この想いに彼は応じてくれない。


 彼とあの子を見ていれば分かる。

 陣内君は、ラティちゃんに一途だろう。

 ラティちゃんもそうだ。


 きっと私には振り向いてくれない。だけど、だけど――。



 私は、彼に『届かなくても恋をする』



読んで頂きありがとう御座います。

次回は、ちょっと陣内視点を入れます。


ご指摘や感想など頂けましたら、嬉しいです。

あと、誤字脱字なども……


この話のプロットは楽だったけど、いざ書こうとなると凄い大変だった。

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