ゼロワン、パージ!
本日二本目。
ひとつ前に、閑話があります。出来ましたら、そちらを先に^^
ハーティの操作する馬車は、深夜なのにあり得ないほど飛ばしていた。
馬を休ませること無く走り続け、夜が明けて辺りが明るくなると、更に速度を上げ始める。
暗い夜道の間は、移動補助系魔法だけだったが、日が昇り周囲が明るくなると、移動速度補助系魔法も追加した様子だった。
速度をグングンと上げる馬車。元の世界の車に近い速度を維持する。
かなり不安を感じる揺れ方、そんな中、俺は別の不安について思考を巡らす。
葉月をどうやって助けるのかについて。
単純に強奪すれば良い訳ではない。
女神の勇者言葉の時とは状況がまるで違う。
言葉の時は、彼女の意思を無視するモノだった。
だが今回は、多少汚いところはあるが、葉月の同意を得ている。
ただ力任せに連れ去れば、教会側だけではなく、葉月本人も納得をしないかもしれないのだ。
力任せではなく、感情に任せて行けばなんとかなるかもしれないが、その手は絶対に使えない。
俺にはラティが居るのだから……。
呆気なく考えが行き詰まる。
救い出せば終わりといった単純なモノではない。
今回は教会側を納得させる必要がある。もしくは説得を。
――説得か……
葉月は俺の為に婚姻の約束を飲まされたんだよな、
それなら、被るはずだった泥を俺が被れば……
ユニコーンが言外に提示した案。
俺が勇者保護法違反を受け入れて罪人となり、それによって聖女の勇者葉月が教会と結んだ約束を成立させない方法。
葉月は俺を無罪にする為に、教会側からの提案を飲んだとエルネが言っていた。
ならば俺が無罪を破棄すれば、葉月は教会側の提案を飲む理由は無くなる。
エルネがそれをハッキリと口にした訳ではないが、間違いなくそれを指しており、だからこそ彼女は、俺のもとへとやって来たのだろう。
俺は対面に座っているエルネをチラリと盗み見る。
険しい表情で窓から外を見つめる侍女のエルネ。俺は彼女を盗み見つつ、彼女が言っていた考察を思い起こす。
――勇者の子供が最終目的か……
あり得ない話――とは言えないな、
実際に言葉はヤバかったし、
葉月が飲んだ要求は婚姻。
それは儀式的なモノと言われているので、結婚の先にあるモノは要求されていないと葉月は言っているらしい。
だがそれは葉月の視点であり、教会側は絶対にその先も要求してくるというのがエルネの見解。
そして大変嫌なことに、俺の見解もエルネと同じで、教会は婚姻の先を要求してくるとの予想。
しかも、その予想が外れている気がしない。
「はぁ、詰んだ……」
「チッ、溜め息は控えて頂きたいとっ」
「エルネ、お前の策に乗ってやるよ、釣られてやるよ」
「……はぁ? なんの事か分かりかねますが、ご協力を感謝しますジンナイサマ」
( ――ッこの野郎が! )
分かり易く白々しい返事を返してくるエルネ。
何か言い返したくなる気持ちが湧くが、何を言っても無駄だと思い今は堪え、俺は保護法のことを考えた。
確実な勝算がある訳では無いが、今更もう一度、”勇者保護法違反”には出来ないだろうと俺は踏んでいる。
ギームルの話では、四公爵家と王家、そして教会側との話し合いの末に俺は無罪となったと言っていた。それは色々な根回しや思惑があって決定したモノ。
楽観的な感じもするが、きっと大丈夫だろうと俺は思う。
だが、この話を蒸し返して上手く揺さぶれば、葉月の決意を止める事が出来るかもしれない。
葉月の決意さえ止めれれば、エルネはその流れを上手く誘導をして、飲まされた婚姻を潰せると。
俺はエルネの考えをそう予測した。
そして葉月が婚姻を承諾した理由は二つだと考える。
ひとつは、今回の婚姻は儀式的なモノであり形だけ。喩えるならば、修道女が神と結婚をするという様なモノであり、法律的にそこまで重いモノではないと。
そしてもう一つは、俺。
純粋な好意からなのか、それとも死刑にされるのが可哀想で、それを救ってやりたいという優しさなのか。
取り敢えず葉月は、俺を助ける為に動いた。
だがこの二つのうちどちらかが無くなれば、葉月は婚姻の要求を突っぱねるはず、少なくとも5人を相手に結婚するなど正気ではない。
一つ目の儀式的な婚姻の方は、俺とエルネの予想では婚姻の先を求められる。
だからきっとそれを嫌がるはず、だが求められるのは婚姻を結んだ後だろうし、それにあの5人が互いに牽制し合うだろう。
そういった意味では、婚姻自体を止める事には使えない。
もう一つの方は、少々ズルいが、俺が保護法違反を受け入れると宣言をして有耶無耶にする。
これならば、葉月を思い留まらせるし、婚姻自体を止める事が出来るかもしれない。
――う~ん、取り敢えず花嫁強奪よりかはマシな案だな、
正直、出たとこ勝負な感じもするけど、何とかなるか、
まずは葉月を……
俺が頭の中で一つの結論を出すと、丁度それに合わせたかのように馬車が停車した。
「陣内君、エルネさん。一度休憩を入れよう」
「はい、分かりました」
「…………はい」
俺達は馬車を止め、スレイプニール達に休憩を与えた。
いくらハーティの補助魔法で強化したといっても、休憩も無しに走り続けるのは無理な様子だった。しかも――。
「陣内君、もう一度確認だ。本当に金に糸目もつけず、超特急で間に合わせるでいいんだね?」
「はい、お願いします。そうしないと……」
――もし間に合わなかったら、
儀式的なモノとはいえ、葉月の婚姻は成立しちまうんだよな、
俺なんかを助ける為に……それならっ、
「……お願いします。絶対に間に合わせてください」
「了解した。それなら予定通りに行くよ、ゼロワンはここで置いて行く」
ハーティは四頭のうち一頭をここに残していくことを決める。
引き馬であるスレイプニール達には、オレンジ色のをゼロゼロと呼び、そして他の三頭をゼロワン・ゼロツー・ゼロスリーと名前を付けており、一番疲労が激しいゼロワンを残していくことにした。
引き馬の数が減れば、その分だけ補助魔法の効果を厚く出来る。
速度が上げ難い夜の間は、速度補助魔法を使っていなかったが、日が昇れば別であり、速度補助魔法も掛けるようになった。
だが流石に、四頭に魔法を掛け続けるのはMPがキツイらしく、途中で置いて行くことを前提で、ゼロワンだけを酷使したのだ。
文字通りの、使い捨てだ。
当然、勿体ないし、手段としては非道。だが俺は、葉月を助ける為にそれを選択した。
「ふう、ちょっと疲れたから横になるね」
「ん、ああ、じゃあ俺が見張りをするよ。ハーティさんは馬車の中で休んでください」
何も出来ずにいた俺に仕事が回ってきた。
ラティのように索敵は出来ないが、周りを見張るぐらいなら出来る。のだが――
「いや、それには及ばないよ。この子を連れて来たから」
「この子? 革袋……って! 毛玉あああああああ!?」
ハーティが何気なく俺に見せた革袋の中には、魔物除けになるチートアイテムである、子竜である白い毛玉が詰まっていた。
( 毛玉の扱いが雑過ぎるっ! )
その後、俺は一応見張りをしつつ、日課をこなしていた。
「あの、それではご主人様が……」
「ああ……でも多分平気だと思う。一度決まったことだから簡単にはひっくり返らないと思うしな」
俺は先ほどの考察をラティに話していた。
そしてエルネが何を狙っているのかなどの予想も伝える。
ラティの方も、外の御者台に座っていたとはいえ、【心感】の効果で感情の揺らぎを察知しており、俺がそれを話したことで納得をした。
ラティの尻尾を撫でながらでのやりとり。
彼女に、俺が嘘や誤魔化しなどしていない事が、尻尾を通して流れる。
尻尾を撫でれば、俺の心の内がラティへと流れるのだから。
言葉だけではない、感情や気持ちも交わす会話方法。
「あの、ご主人様。それとは別のことでお聞きしたい事が一つあるのですが」
「うん? 何を――ッ!?」
突然ラティの尻尾から流れてくる、ゆらりと立ち昇る怒りと嫉妬の感情。
( あ、ヤバい…… )
頭と尻尾を撫でられているラティが、とても良い笑顔で俺に訊ねてくる。
「何故、エウロス公爵家を見張りに行ったご主人様が、あのような場所を歩いていたのでしょうか? それを少々お聞きしたいですねぇ」
( 詰んだ…… )
俺は休憩時間が終わるまで、必死にラティに謝罪を続けたのであった。
読んで頂きありがとう御座います。
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あと誤字脱字も……




