閑話 伊吹
要望があったので。
あまり掘り下げてはいませんが……。
慌ただしく去って行く彼。
総額、金貨六百枚以上はする馬車に乗って中央へと去って行く。
「ホント、陣内君らしいな」
「ん? どうしたんですイブキ様?」
「ううん、なんでもない。さぁ、私達は言葉さんを守ろっか」
「了解です、じゃあ早速編成の組み直しを――」
「あ、でも程々にね。明日には街を出るんだから」
「……へぃ」
私はガレオスさんに指示を言った後、去って行った彼の方を見つめ独り呟く。
「ホ~ント、陣内君らしいなぁ……」
彼のことは学校の時から知っていた。
だが、特に仲が良いという訳でもない。話をしたことはあるが、一緒にどこか遊びに行く程では無かった。
お互いに、『ああ、知っている』程度の関係。
彼は暗いと言うより、周りを避けている感じの人。でも話し掛ければ無視をすることなく、ちゃんと返事は返してくる。
悪く言えば地味な人、良く言えば普通の人。
それが彼の印象。
でも、この異世界での彼は違った。
例えるならば、他の勇者のみんなは、フルハイビジョンのテレビ画面に映っている感じなのに、彼だけはブラウン管に映っている様な、そんな違和感。
何となく、この異世界に拒否されている、そして拒否している。
そんな感じの人。
私は自分のことを、勘が良い方だと思っている。
二択問題やジャンケンなどは得意、そして『危険だな~』と思うモノを察する事が出来ていると思う。
この異世界で一番最初に、『危険だな~』と感じたモノは、私を支援すると言っていた貴族の人。
そしてパーティに居た冒険者の人に、貴族に支援されるだけではなく、自分でパーティを作り、自分で生活をして行くのも選択のひとつだと、私はそう助言を受け、私は自分の勘を信じてそれを選択した。
結果、それは正しかったと思う。
言葉さんや葉月さんを見て、特にそう感じる。
そんな私から見て、彼、陣内君には何かを感じた。
一人だけアナログの世界に居るような違和感を纏い、そして一番騒動に巻き込まれ、時には騒動を起こしている彼。
勇者召喚されたみんなの中で、一番最初に問題を起こし、そして巻き込まれたのも彼だった気がする。
奴隷への強姦事件。
噂ではなく、自分の目を信じる私には、それは誤報だと分かった。
特に、彼の隣にいる女の子を見ればすぐに判る。むしろ間違い様がない。
その後、私は彼に助けて貰ったりもした。
そして、私自身も騒動に巻き込まれた。
南のノトスの街では、深淵迷宮から魔石魔物が溢れる騒動に遭遇をした。
本当に飽きさせないというべきか、彼の周りではゴタゴタが多かった。
あと、頻繁に穴にも落ちていた。そして落ちた先で色々と持ち帰ってくる、大切な情報だったり、子竜だったり。
そのうち、全て制覇するのではないだろうか。
彼は色々と本当に凄い。
他の人に比べると、どこか色褪せたような存在なのに、彼は物語の主人公のようだ。
私が軽くあしらわれた椎名君を、彼は倒して来たと言う。
正直、こっそりと嫉妬してしまった。
そして、負けていられないとも。
本当に彼は凄い。
だからきっと、向かった先の中央でも、あり得ないような事をして、そして問題を解決して来るのだろう。
まるで物語の主人公のように――。
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