ガラガラガラ
すいません、忙しくて投稿の間が空いてしまいました。
再び小説にハマって色々と読み漁っていました;
胸糞な展開にイライラしたり、ヒロインがピンチでイライラしたり。
主人公がウジウジしているのにイライラしたり。
男ならガツンと全員の面倒見ろよ!ヘタレんなよって思ったり。
そして最後に感想コメントに、ガツンと書いてやろうかと思ったけど……
なんとなく止めました。
大騒ぎだった。
待機戦力であったカバさんチームも動き、中央行きの準備が大急ぎで進められていた。
伊吹・三雲組が押さえている宿屋の食堂は、まるでランチタイムのような慌ただしさを見せている。
「マズイですっ、もう夜なんで門が閉まっています」
「なら、オラの出番だな。オラが行って門番と掛け合って来る。アキイシの街でも似たようなことをした事があるんだ」
「あ、オイラもお供しますコヤマ様」
「おっし行くぞ、案内してくれ」
「は、はい! コヤマ様」
供を連れて宿の外へと駆け出して行く鉄壁の勇者小山。
「馬車はイイのが買えたぞ。なんと付加魔法品付きで、馬車の重量を軽減した奴が手に入った。あとは引く馬待ちだな」
「あ~馬なら3頭確保出来た。あと一頭を探し中だ」
「もう宿の前まで回しておこう」
「水と食料は最低限でいいんだよな?」
「ああ、出来るだけ軽くするってハーティさんが指示してたぞ」
( すげぇな…… )
俺は自分の分の支度を終えたあと、感心しつつ目の前の光景を眺めていた。
まるで事前に決めていたかのように、全員がキビキビと動いている。
「あの、凄いですねぇ……」
「だな……」
出発の準備は、なんと一時間も掛かりそうになかった。
ただ時折、『馬鹿が無茶をすんだから急げ』と聞こえてきて、『ああ、そうだな』という言葉と共に、冒険者達が俺の方をチラリと見てくる。
歴代勇者が遺した格言らしいが、どうにも馬鹿にされているような気がしてならない。
俺がそんな事を思っていると、二階へと続いている階段から伊吹がやって来る。
「陣内君、ちょっといい? 言葉さんが行く前に話がしたいって」
「へ? 俺と?」
「うん、だから一人で部屋に来てって」
断る理由などはなく、俺は伊吹に従い二階へと上がる。
言葉が寝ているのは、この宿の中で一番上等と言われている部屋、俺はその部屋へと伊吹の後に付いて行く。
女子が寝ている部屋なので、若干手汗を掻きながら俺は部屋へと入った。
「連れて来たよぉ」
「あ、陣内」
「陽一さん」
部屋に入って来た俺に気が付き、看病していた三雲と、ベッドに横になっている言葉が俺の名前を呼ぶ。
言葉の俺の呼び方に、三雲がギョっとした視線を彼女に向け、何かを言わんと口を開きかけたが、言葉の表情に何かを察し押し黙った。
そして無言で促される形で言葉が口を開く。
「お呼びしてしまって申し訳ないです陽一さん」
「ああ、いや別にいいよ、準備で待っていただけだし。あと……わりぃな一緒に行けなくて。ここを出るまで一緒に居てやりたかったけど」
それは正直な気持ちだった。
言葉には大きな借りがある。それこそ返せないような大きな借りが。だから俺は、今回の言葉救出後も、このエウロスの街を出て安全な場所までは、彼女の護衛役として付いて行きたかった。
しかし俺は、これからすぐに中央へと向かう。
仕方ない事だが、申し訳ない気持ちでいると――。
「はい、事情は唯ちゃんから聞いています。葉月さんも大変なんですよね? だから…………気にせず行って下さい」
「ああ……ありがとう」
言葉からそう言って貰い、心の中にあった澱のようなモノが晴れる。
僅かだが、気が楽になったと言うべきか、そんな感覚。
「陽一さん、私は先に戻っていますから。だから、葉月さんも助けてあげて下さい。女の子にとって結婚とはもっとも大事なモノの一つなんです。決して何かの取引でするようなものでは……」
「わかってるって、じゃあ行って来る」
「はい、陽一さん」
俺は言葉との会話を終えて部屋を出た。
ただ、ただ何となくだが、何か引っ掛かるモノがあったが、今は葉月を助けに行くことに集中をする。
そして一階に降りると、丁度出発への準備が完了していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おおぅ……ファンタジーだ……」
「脚の数が……」
「ああ、超特急で金に糸目を付けないって言っていたからね、だからコレにしたんだよ。ちょっと値は張ったけどね」
ハーティがそういって示す方には、四頭立ての馬車が止まっていた。
今までに四頭立ての馬車を見た事がない訳ではないが、この馬車には驚かされた。正確に言うならば、馬車を引く四頭の馬に。
「このスレイプニール種なら、きっと昼前には中央に着くよ」
「八本脚の馬……」
四本脚ではなく八本脚の馬。前に六本脚の豚は見たことがあるが、それとは違い、どこか神々しいモノを感じる。
普通の馬よりも一回り以上大きい体躯に、艶のある毛並み。
四頭のうち三頭が濃い青毛で、他の3頭よりも僅かに小さい一頭は栗毛だった。
「一頭だけ色が違うのか。栗毛っていうよりもオレンジ色に見えるな」
「ああ、珍しい色らしいな――って、急ぎなんだろ? そろそろ行こうか」
俺はハーティに促され、三雲組と伊吹組が用意してくれた馬車に乗り込む。
速度などを重視したという小さめの馬車は、中に乗るのは四人が精一杯だった。
エルネが先に乗り込み、次に俺が乗り、その次はラティという時。
「ラティさん、貴方は僕と一緒に御者台の方にお願いします。夜道を走るので”アカリ”をお願いしたい」
「あの、それは”アカリ”を作り続けろという事でしょうか?」
「そうです。そして僕は移動補助魔法をこの子たちに掛け続けます」
ハーティの作戦はなかなかの力押しであった。
走破性と耐久力に優れたスレイプニール種に、移動補助魔法をガンガンに掛け続けて走らせ、夜中の暗い道は、ラティの生活魔法”アカリ”で照らし続けるというモノだった。
絶対照明とも呼ばれるサリオが居れば楽だったのかもしれないが、どちらかと言えば得意ではない魔法をラティは使い、高レベルによるMP量で、その辺りは押し切る。
勇者小山が門番に掛け合い、勇者パワーで通過の許可をもぎ取った門を潜り外に出ると、ハーティは馬車の速度を上げて中央へと走らせた。
そして戦闘以外では役立たずな俺は、それを馬車の中で申し訳ない気持ちで眺めていた。
――やべぇ、さっきからまるで役に立ってねぇ……
馬車の手配もしていない、御者役も出来ない魔法も使えない、
あれ? 俺って要らない子?
少々かなり大分結構落ち込みながら、俺は自分の価値を見つめ直してしまう。
そしてあまりの役立たずな自分に、思わず深い溜め息をつく。
「ふう……」
ガラガラガラと、車輪の音だけがする馬車の中。
公爵家の馬車のように、車軸にベヤリングが使われている訳でもないし、スプリングがしっかり完備されてる訳ではない馬車の中は、油断をすると乗り物酔いでもしそうな程に揺れていた。
そんな馬車の中、再び溜め息が出そうになった時、俺の対面に座っていたユニコーンが話し掛けてくる。
「すいません、鬱陶しいので、溜め息は控えて頂けますか?」
「……」
俺は無言にて返事を返す。
「溜め息をつきたいのはコチラです。……貴方の所為でハヅキ様は」
「……エルネさん。もう一度確認をしてもいいですか?」
エルネの態度にイラついた俺は、あえて嫌味くさく丁重な口調で話す。
声音は煽るような棒読みで。
「葉月の状況をもう一度教えてください」
俺は情報の再確認を行った。
最初にエルネから話を聞いた時、彼女は八つ当たりのような感じで話をしていた。
感情の高ぶりから見て、あれは彼女の本心だったとは思う。
俺を騙そうとしている様には見えなかった。
だが気になった。何故、俺を頼ろうとしたのかを。このユニコーンが曖昧なモノに縋るとは思えないのだから。
激しい音を鳴らす車輪。
馬車の中の話し声は、外の二人には届かない状況。
( 何となくで俺の所に来たって言ってたけど…… )
「先程説明した通りです。貴方の無罪を餌に、ハヅキ様は不当な婚姻を飲まされたのです……貴様さえ居なければっ」
最初は普通だったが、最後の方は明らかに憎悪を込めた声音だった。
俺はそんなエルネを観察しつつ、ある確認を進める。
「……で、アンタはそれに反対して外されたんだよな? でも教会に所属するアンタとしては望む形じゃないのか?」
「何を言っておられるのですか貴方は? 勇者ハヅキ様は教会より支援を受けており、すでに教会の者なのです。だからこれ以上は必要ないのです……それなのに婚姻など……今までの苦労が」
エルネはそこまで言うと一旦言葉を切った。
だがすぐに――。
「――ッそれなのにっ、それなのに婚姻などと! そんなモノを認めてしまえば、あの盛りのついた五神樹共が大人しくしているはずがありません! 絶対にハヅキ様に迫り孕ませようとするはずです! あの馬鹿共は解っていないのです、聖女は処女であるべきという世界の真理を――」
益々ヒートアップするエルネ。
歴代勇者達もそれを推していただとか、聖女なら処女妊娠出来るから問題ないなど、色々と無茶苦茶なことも言い出していた。
よく分からない自論を展開しているが、要は処女が大事という事らしい。
話が激しい脱線をしたが、俺は聞くべき事を彼女に訊ねた。
「で、俺に何を求める……いや、俺に何をさせたいんだ?」
「……ハヅキ様を止めて頂きたいだけです。このような婚姻などは結ぶ必要はないのですから。むしろ悪い面しかございません」
「俺にハヅキを思い留ませろと?」
「ええ、そうです。そしてそれを出来るのは貴方だけです、いえ、貴方の責任です」
( 責任か…… )
ユニコーンのエルネが、何を言いたいのか俺は理解した。
エルネは他人の恋愛感情だけを視える【固有能力】を持っている。だからエルネは、俺がそういった感情で葉月を説得するとは思っていないはずだ。
だが彼女は俺に葉月を止めろと言う。
そしてエルネは、『貴方の責任』と言った。
エルネの指す責任とは、葉月の取引のお陰で俺が無罪になったことを指しているのだろう。
エルネは言外に、俺に勇者殺しの保護法違反を受け入れ、そして葉月と教会側での取引が成立しない、取引が無かったことにしろと俺に言っている。
――……確かにそれなら取引は無効になるのか?
いや、さすがにどうなるんだ……今更のような気もするけど、
またユニコーンの独断か?
やはりコイツは危険だと、俺は気持ちを引き締めつつ、いまラティが隣にいない事に不安を感じたのだった。
( 俺も【心感】が欲しい…… )
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども……




